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「欧州憲法条約と批准の行方 −フランスの否決とその影響−」


2005年5月29日、欧州憲法条約の批准の是非を問うフランスの国民投票が行われ、フランス国民は否決を選択した。世論調査では批准反対の声が高まっていたので、予測できない事態ではなかったが、賛成45.13%、反対54.87%というのは予想以上の票差であったと言える。何故フランス国民は反対を選んだのであろうか。

■何故「Non」を選んだのか

反対の理由は非常に複合的であり、ひとつの理由で説明するのは難しいが、主な理由として3つほど挙げられると思われる。ひとつは憲法条約が自由主義的であるとの印象を与えたことにより、EU域内の自由化が進み、域内の労働力の自由化が進めば国内の失業問題や福祉政策にも影響が出るといった懸念が持たれたことが挙げられる。第2には、フランスは元来国家主権に対する強いこだわりを持つ国でもあり、さらに政治統合が進むことに対して、これ以上のブリュッセルへの権限委譲を望まない主権擁護派が反対に回ったことがある。

第3は、これが案外重要なファクターになったのではないかと思われるが、憲法条約自体に対する無関心、もしくは今回否決してもむしろフランスに有利な形で再交渉ができるという思惑などにより、国内政治における反シラク票、反ラファラン票が比較的容易に反対票に流れたということが挙げられる。いずれにしても今回のフランスの批准への賛否をめぐる議論は、従来の左派や右派といった対抗軸とは全く違う文脈で意見が分かれており、今回の投票の結果は国内政治の再編に繋がりうる契機も含んでいる。

■批准プロセスの今後

欧州憲法条約はEU加盟国のすべて、25カ国の批准がなければ発効しないことになっている。フランスの国民投票が批准を否決してしまったことで、憲法条約の批准プロセスは今後どうなるのであろうか。当初の予定では、2006年の11月に25カ国が批准書を寄託し、その後に発効ということになっていたが、今回のフランスの否決により、このスケジュールの実現は限りなく難しくなったと思われる。

但し、今回のフランスの否決によって、欧州憲法条約そのものが挫折したと結論付けるのは早計であろう。議長国ルクセンブルクのユンケル首相や欧州委員会のバローゾ委員長も、他の加盟国に対し引き続き粛々と批准手続を進めるよう呼びかけている。マーストリヒト条約批准の際のデンマークや、ニース条約の際のアイルランドのように、今回のような例は程度の差こそあれ初めてのことではない。いずれも時期をおいて再投票を行い、発効にこぎつけている。

■2つの選択肢

では具体的に今後どのような措置が取りうるのかであるが、理論的に2つの手段がある。ひとつは、必要であれば憲法条約の条文解釈などについての合意文書や付帯決議などを取り、憲法条約の条文には手を加えずに、時期をおいてフランスで再投票を行う、というものである。もうひとつは、条文自体にも若干の修正を施して、批准プロセスのやり直しを行う、というものである。実際には、既に現時点で9カ国が批准を済ませており、今から条文を変えるというのは事実上不可能に近いと思われる。したがって前者の方法をもとに、6月に開かれる欧州理事会において、フランスの再投票を前提とした何らかの善後策が導かれるものと考えられる。

その一方で、フランスが憲法条約を否決する最初の国になったということは、これから批准手続を行う国にとっては否決する際の政治コストが下がったという影響を持つ。今後、さしあたり国民投票が予定されているオランダや、欧州懐疑派が強いとされるイギリスやチェコなどで否決が続けば、批准プロセス自体の大幅な見直しを迫られる可能性も依然残っている。

今回の否決はシラク政権にとっては大きな痛手であった。さしあたりシラク大統領は内閣改造を行い、事態の収拾を図っているが、政治的に統合されたヨーロッパの構築はフランスの外交政策の主要な軸のひとつであり、今後も粘り強く再投票と批准プロセスの修復に向けた交渉を行っていくであろう。

※本稿は、2005年5月31日放送、NHK衛星第1放送「Newswatch」における筆者へのインタビューの収録内容に、筆者が若干の加筆を行ったものである。
(2005年5月31日記)
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