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北朝鮮による核実験の目的


 2006年10月9日、北朝鮮は遂に核実験を行った。韓国地質資源研究院の地震観測結果から実験時刻は10時35分、場所は7月5日にテポドン2号を発射した舞水端里がある咸鏡北道花台郡と推定されている。米国の高官によると、実験の20分前に北朝鮮は中国に実験予定について通達しており、中国が日米韓に知らせたという。実験後、北朝鮮の朝鮮中央放送は核実験の成功を伝えるため、以下のように発表した。

 「全国全人民が社会主義強盛大国の建設で大きく飛躍していこうと満ち溢れた時期に、我々の科学研究部門では主体95年(2006年) 10月 9日に地下核実験を安全に成功裏に行った。科学的計画と綿密な計算によって行われた今度の核実験は、放射能漏れのような危険が全くなかったことが確認された。核実験は、100パーセント、我々の知恵と技術に基づいて行われたものとして、強力な自衛的国防力を切望してきた我が軍隊と人民に大いなる励ましと喜びを抱かせてくれた歴史的な出来事である。核実験は、朝鮮半島と周辺地域の平和と安定を守ることに貢献するであろう。」(インターネット版『朝鮮新報』http://www.korea-np.co.jp/news/ViewArticle.aspx?ArticleID=23618 を翻訳)

 北朝鮮はなぜ核実験を行ったのか。実験に先立つ2005年2月10日に北朝鮮は核兵器の保有を宣言している。今まで、核保有を明らかにした国家はすべて核実験も行っている。そのため、核保有宣言をした時から、北朝鮮がいずれ核実験をすることは予想できた。核保有を目指す国家が、核保有を宣言するだけではなく、核実験によって実物を披露するのは、核兵器の性能を試す以外にも相手の行動を抑止する効果が期待できるからである。

 核兵器に限らず、兵器には相手の行動を抑止する効果がある。機関銃を持った人間に対して、素手で攻撃を仕掛ける人はまずいない。勝てる見込みがないし、勝っても自分が大きな被害を受けることが予想されるからである。機関銃を持っていれば、素手の人は攻撃してこないであろう。しかし、もし機関銃を隠していればどうか。相手は勝てると勘違いして攻撃してくるかも知れない。だから、攻撃されたくなければ、機関銃を持っていることを公言したほうが合理的なのである。核実験の効果とは、この機関銃を持っていることを公言するのと同じである。ただ、実物も見せずに「持っている」というだけでは、虚言と思われることもある。核兵器の保有を明言するだけでなく、実物も披露することで、自分を攻撃しようとする相手の意図を挫かせる効果はさらに期待できる。もちろん、北朝鮮にとって、自分を攻撃しようとする相手とは米国のことである。

 米国は北朝鮮よりも多くの核兵器を持っているので、怖がらずに北朝鮮を攻撃できるのではないかと思うかも知れない。だが、それは核兵器という大量破壊兵器の恐ろしさを忘れている。核兵器は一発でも数十万の人命を奪うことができる。米国が北朝鮮を攻撃すれば、北朝鮮は報復として核攻撃してくるかも知れない。それを防げなければ、一発でも数十万、場合によっては数百万の市民の命が失われることになりかねない。いくら米国でも、数十万の市民の命と引き換えに、北朝鮮を滅ぼすことは割に合わないはずである。

 北朝鮮は米本土に届くミサイルを持っていないので、米国が北朝鮮を攻撃しても、北朝鮮が核兵器によって報復攻撃することは不可能だと思う向きもあろう。確かにその通りで、今の段階では北朝鮮が米本土に核による報復攻撃を加えることは難しいと思われる。その意味では、北朝鮮はまだ米国の攻撃を抑止できないのである。ただ、留意すべきは、北朝鮮が報復攻撃するのは米国だけとは限らないことである。日本や韓国も報復攻撃の対象となる可能性は十分にある。米国は、日本や韓国の市民数十万の命と引き換えに、北朝鮮を攻撃するであろうか。やはり、それは難しいであろうと思われる。核の報復対象である日本や韓国には米国人も多数居住している。また、経済的に米国と関係が深い日本や韓国が核攻撃されたとなると、米国にも多大な被害を与える。米国にとって、北朝鮮を攻撃するのは苦渋の選択となるであろう。

 北朝鮮の核開発について、経済支援を相手国から引き出すための「瀬戸際外交」だと評する向きがある。もちろん、全くその要素がなかったとはいわない。だが、それは北朝鮮の核開発の真の狙いではない。「瀬戸際外交」ならば、実際にミサイルを発射したり、核実験したりしない。ミサイルも核兵器も開発には多額の費用を要するものである。「瀬戸際外交」によって得られるかどうか分からない経済支援のために、多額の費用を出すことは、北朝鮮にとって割に合わない選択であろう。すでに述べたように、北朝鮮が核開発するのは、米国に北朝鮮を攻撃する意図を挫かせるためである。米国と北朝鮮の間に信頼関係が構築されない限り、北朝鮮はいくら他国から経済支援をもらっても核開発を止められなかったはずである。だから、北朝鮮にとって、日本や韓国、中国等から経済支援を受けるのは望ましいことであるが、核兵器と引き換えにできるものではない。

 では、米国と北朝鮮がお互いの信頼関係を構築すれば、北朝鮮が核兵器を放棄できるであろうか。核開発の途中であれば、その可能性は残されていた。実際に、敵対国との関係が改善されたことで、スイスやリビアが開発中の段階で核を放棄したことがある。しかし、核兵器を保有した北朝鮮は、米国との信頼関係がなくとも、米国から攻撃される心配が和らぐ。だから、核兵器を放棄してまで、米国との信頼関係を構築する必要もないであろう。実際に、核保有宣言や核実験を発表した後に核兵器を放棄した実例は、世界でも存在しない。もちろん、経済制裁によって、核保有国が核兵器を放棄したこともない。インドやパキスタンが核実験と核保有を発表した後に、各国から経済制裁が加えられたが、インドもパキスタンも核兵器を放棄しなかった。今まで、完成した核兵器を放棄した実例は、南アフリカだけである。その南アフリカは核保有や核実験を発表したことがなかった。南アフリカが核兵器を保有していたことを発表したのは、放棄した後のことであった。だから、北朝鮮が将来に核兵器を放棄する可能性については論じるのは困難である。今までの事例を参考にすれば、まず考えにくいとしかいえないのである。

 この北朝鮮の核実験が周辺諸国に対して与える影響は大きい。北朝鮮の核兵器は、その存在だけで、他国に対して恐怖を与える。北朝鮮は、米国に北朝鮮を攻撃する意図を挫かせるため、日本や韓国の市民を人質にとったのと同様だからである。特に、米国との関係がこじれ、米国の核の傘が弱まっていると対外的に思われている韓国は深刻である。もし、韓国が北朝鮮の核に対抗したければ、米国の核の傘を取り戻すか、自ら核開発しなければならないであろう。さらに、北朝鮮の核開発は、世界の核拡散にも大きな影響を与える可能性がある。北朝鮮と同様に米国と対立するイランも、北朝鮮と同じ道を辿る可能性が高まるであろう。イランが核保有すれば、さらに周辺国に影響を与える。世界は、核拡散の連鎖を真剣に危惧しなければならないであろう。

(2006年10月10日記)
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