日本国際問題研究所 English
JIIAとは フォーラム コラム 用語解説 研究報告・提言 軍縮センター CSCAP PECC
HOME
検索
トピックス
アジア・太平洋
中国・朝鮮半島
アメリカ
欧州
ロシア・CIS
中東・アフリカ
安全保障
紛争予防・平和構築
国連・国際機構
「国際問題」最新号
毎月15日発行
配本サービス
    創立50周年記念
    『国際問題』
     記念撰集

スタッフ紹介
海外フェロー紹介
その他記事・資料
出   版
図書資料室
(データベース)
「研究会紹介」
各機関へのリンク
情報公開
個人情報保護方針
アクセス
(所在地/地図)
サイトマップ
ご意見・ご感想
メールマガジン
コラム 戻るトップページ
 
NATOの将来像とその論点の軸 〜ブカレスト首脳会議から創設60周年に向けて〜


2008年4月、ルーマニアの首都ブカレストでNATOの首脳会議が開かれた。NATOはいまや欧州地域の集団防衛機構という当初の役割を大きく超えて、冷戦時代のNATOとは当然大きく異なるというだけでなく、冷戦終結後の1990年代のNATOとも大きく異なりつつある。NATOは2009年に創設60周年を迎えるが、現在は新たな将来像をめぐって模索の段階にある。

近年のNATOの変化は、国際安全保障の脅威の質の変化によるものである。テロリズムなどの非伝統的脅威が国際安全保障の主要な脅威として浮上したことにより、安全保障の脅威が地理的近接性と関係なく起こりうるようになり、伝統的な領域防衛という概念は再検討を余儀なくされつつある。また、今日の平和維持活動は、民生の安定や復興支援といった非軍事的部門の協力が不可欠である。このような国際安全保障の脅威の質的な変化が、NATOにも大きな変容を迫っている背景となっている。NATOはあくまでも加盟国の集合体であり、NATOの将来を決めるのは26の加盟国である。本稿ではこうしたNATOの将来像をめぐる論点とその軸について、概括的ながら整理を試みたい。

■ NATOの地理的概念 〜「グローバルNATO」?〜

NATOの将来像をめぐる議論の軸の1つは、NATOのメンバーシップやNATOの作戦範囲をどこまで広げるかという、NATOの地理的範囲に関する考え方である。ブカレスト首脳会議おいて、アフガニスタンやミサイル防衛問題と並ぶ主要な議題の一つは、NATOの拡大問題であった。ブカレスト首脳会議でクロアチアとアルバニアの加盟招請が正式に決まり、早ければ2009年に加盟することとなる。マケドニアの加盟は国名問題でギリシアが反対して見送られたが、国名問題が片付き次第、加盟招請がなされることになった。一方、ウクライナとグルジアの加盟候補国入りは、加盟国の間で意見が分かれ、加盟候補国としての実質的な加盟準備入りを意味するMAP(メンバーシップ行動計画)への両国の参加は見送られた。一方、今回の共同宣言の中には「(両国は)将来加盟国となるべき(will become member)」という文言が盛り込まれ、いずれ将来的には加盟国となることを認めつつ、さしあたり加盟準備に向けての具体的な手順には入らないという、玉虫色の決着となった。

NATOの東方拡大については加盟国の間で賛成する国と消極的な国に分かれるが、こうしたNATOの拡大に対する見方の相違は、NATOの展開範囲に対する考え方の相違と関連している。「グローバルNATO」という考え方が存在する。この考え方を最も積極的に進めるのがアメリカであるが、端的に言えば、国際安全保障の主たる脅威がテロなどの非伝統的脅威となり、地理的な近い遠いに関わらず脅威が存在しうるという情勢に鑑みて、NATOも地域の概念を超えてグローバルな対応のできる機構になるべきであるという考え方である。近年NATOが「コンタクト諸国」として日本を含む4カ国(オーストラリア、日本、韓国、ニュージーランド)を挙げ、こうした価値観を共有する域外諸国との連携を強めようとしていることは、この文脈から理解することができる。他方、フランスやドイツなどの欧州諸国では、NATOはあくまでもまず地域機構であるべきという考え方が根強い。NATOが世界の安全保障に貢献し、必要な場合には域外展開を行うことには賛成だが、NATOはあくまでも欧州大西洋地域(特に欧州地域)の安全保障のための機構というのが創設以来の一義的な役割であり、NATOがその本来の役割を閑却して際限なくグローバルに展開するようなことがあっては困る、という意見は欧州諸国に根強い。

■ NATOの任務 〜「包括的アプローチ」とNATO〜

NATOの将来像をめぐる議論のもう1つの軸は、NATOの任務の内容をどのように考えるかということである。創設以来NATOは基本的に軍事同盟であり、冷戦後も軍事作戦を通じて欧州内外の安全保障に貢献してきた。しかし現在、ほとんどの作戦が軍事作戦と非軍事作戦の両方を組み合わせた対応を必要とするようになっている。このことはNATOがまさに現在アフガニスタンで直面していることであり、現地の治安維持や安定化は、民生の安定や社会資本の整備、経済の復興支援、人材育成といった非軍事的な施策と併行して進めることが不可欠となっている。

このような状況を踏まえ、軍事と非軍事の両方を組み合わせた包括的な取り組みを進める考え方を「包括的アプローチ(comprehensive approach)」といい、NATOでも2006年のリガ首脳会議でも取り上げられたが、実際にNATOが軍事作戦を超えて民生支援や経済復興などの非軍事的分野にどの程度踏み込むかについては、加盟国の間でも大きな考えの隔たりがある。NATOも非軍事的領域に作戦の幅を広げるべきという考え方と、非軍事的領域は他の機関に任せて、NATOは基本的に軍事作戦を担う機構であればよいという考え方の間で意見が分かれている。このことは、NATOが他の機関との関係をどのように考えるかと密接に関わってくる。今日の作戦が軍事的対応と非軍事的対応を両輪で進めることを必要とする以上、NATOにとって国連やEU、世界銀行あるいはNGOなどの他の機関との連携はいまや不可欠である。それら他の機関との関係をどう捉え、その中でNATO自身がどこまでの役割を担うかが、NATOの今後における焦点のひとつとなるであろう。

■ NATOの変化

ここに提示した議論の軸の2つはいずれも、異なる2つの方向を巡って議論しているというよりは、世界の安全保障環境の変化に適応する際に求められる1つの方向性に対し、積極的に変わるべきなのか、加盟国の負担能力を考えながら漸進的に変わるべきなのか、という考え方の相違と見ることができる。それはNATOをグローバルな脅威に対処するための一種の国際公共財の提供主体と考えるか、NATOをあくまでも一義的には加盟国の安全保障ための機構と考えるかとも関連している。いずれにしても忘れてはならないのは、NATOはあくまでも加盟国の集合体であって、そのリソースは加盟国に負っており、加盟国の負担能力には限りがあるという点である。
NATOは来年の2009年に創設60周年を迎えるが、次回のNATO首脳会議はフランスとドイツの共同開催で、ライン河畔のストラスブール(仏)とその対岸のケール(独)で行われる。この首脳会談の際か、その翌年の2010年の首脳会議のあたりでこれらの議論には一定の流れが見えてくるものと思われる。
(2008年6月9日記)
▲ページの先頭へ
戻るトップページ