コラム/レポート

〔研究レポート〕転換期を迎えたトルコの対アフリカ外交
—ソマリア、スーダン、リビアの事例から—

2020-09-18
柿﨑正樹(テンプル大学ジャパンキャンパス上級准教授)
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「中東・アフリカ」研究会 第2号
「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。なお、各研究会は、「研究レポート」とは別途、研究テーマ全般についてとりまとめた「研究報告書」を公表する予定です。

はじめに

トルコは2005年にアフリカ連合のオブザーバー国となったのを皮切りに、人道支援、開発援助、トルコ企業のアフリカ進出支援などを通じてアフリカへの関与を拡大してきた。こうした外交努力によってアフリカにおけるトルコのプレゼンスは急速に高まったことは確かであるが、2019年になると、中東の域内対立がトルコのアフリカ外交に暗い影を落とし始めるようになった。本報告では、これまでトルコが重視してきたソマリア、スーダン、およびリビアについて、トルコが直面している課題について検討する。

(1)ソマリアに波及する中東域内対立

トルコの対アフリカ外交でいち早く注目されたのはソマリア進出である。深刻な飢饉に襲われたソマリアに対し、トルコは2011年に人道支援を開始するとともに、内戦で荒廃したソマリアの復興支援にも着手した。域外主要国がソマリア支援に二の足を踏む中で、トルコのエルドアン首相(当時)は2011年にいち早くソマリアを訪問し支援を表明した。ソマリア支援は新興国としてのトルコの威信を高め、中東・アフリカ地域における影響力を確保するための外交戦略であった1

ソマリア暫定政府による統治が終了した2012年になると、トルコの政治的関与が強まった。トルコは新たに成立したソマリア連邦政府とソマリアからの独立を求めるソマリランドとの仲介に乗り出し、2013年にはそれぞれの政府の大統領が和平に向けた協議継続を確認するアンカラ・コミュニケに署名するなどの一定の成果を上げた2。2017年にはソマリアの首都モガディシュにトルコの軍事訓練基地が完成し、トルコ軍がソマリア軍兵士の訓練を開始した。モガディシュに大規模な訓練施設を設けることで、トルコは長期的にソマリアの国造りに関与する意思を明示した。さらに2020年1月になると、エルドアン大統領は「ソマリア政府から共同石油開発の要請があった」として、ソマリア沖に眠る石油開発に取り組む姿勢を示した3

ソマリアへのトルコの進出は必ずしも順調に進んでいるわけではない。ソマリアとソマリランドとの協議においてトルコは「公正な仲介者」として関与してきたが、ソマリランドからみればトルコはソマリア連邦政府の支援国であり、トルコの「仲介」を「介入」とみなす向きもある。トルコ政府は2019年にも仲介役を引き受けることに意欲を示していたが、今年6月のソマリアとソマリランドとの首脳会談はトルコではなく隣国ジブチで行われ、仲介したのは2019年にノーベル平和賞を受賞したエチオピアのアビィ・アハメド・アリ首相だった4。また、トルコのソマリア関与が深まったことにより、トルコがスンナ派過激派組織アル・シャバーブによるテロの標的とされるようになった。2020年1月にはトルコ軍基地で入隊志願者を装った人物が自爆テロを起こしたことからもわかるように、トルコ軍のソマリア駐留には高いリスクがつきまとっている。

トルコでは、アル・シャバーブによるトルコの施設を狙ったテロの背後には、トルコと対立するUAEがいるとの認識が広まっている。トルコ外務省は4月30日に出した声明で、UAEはアル・シャバーブを支援し、東アフリカの不安定化を引き起こしていると批判した5。このように、トルコとカタル、そしてそれに対するUAE、サウジアラビア、エジプトとの中東域内における対立構図はソマリアにも反映され、これらの国々はソマリランドやプントランドに接近しトルコ、カタルに対抗しようとする動きを強めている6

(2)スーダン

トルコのスーダン政策は、2019年の政変でバシール大統領が失脚したことで見直しを迫られている。トルコは、南スーダンの分離独立によって石油収入の多くを失ったスーダンが海外からの投資呼び込みを図った2011年頃からスーダンへの進出を強化した7。トルコとスーダンは2013年に経済協力強化で合意すると、安全保障分野でも関係を深めてきた。2015年には両国は紅海上で合同軍事演習を実施し、2017年には防衛産業協力協定が締結された。さらに両国は、リビア内戦をめぐっても、カタルとともにムスリム同胞団の影響が強い国民救済政府8および現在の国民合意(GNA)政府を支持するなど共同歩調をとってきた。

トルコの国家元首として初めてエルドアン大統領がスーダンを訪問したのは2017年12月のことである。エルドアン大統領とバシール大統領との会談では貿易や投資などに関する数々の協定が結ばれた。より注目を集めたのは、スアキン島のトルコへの貸与が合意されたことである。トルコ政府は紅海に浮かぶこの島を観光地として開発し、メッカ巡礼の経由地にすると説明しているが、将来的にはトルコがスアキン島を海軍施設として使用するのではないかとの懸念がつきまとっている9

エルドアン大統領はこれまでバシール大統領と親密な関係を築いてきたが、バシール大統領が失脚したことでトルコのスーダン政策は新たな局面を迎えた。トルコはクーデター当初、スーダン情勢について目立った関与は避けていた。バシール大統領を支えてきたトルコは、戦略の練り直しを余儀なくされていたと思われる。ただしそれでもエルドアン大統領はバシール大統領を退陣させたクーデターに不満を隠さなかった10。2016年には自らがクーデターの標的になったこともあり、エルドアン大統領はスーダンの政変に強い拒否反応を示したのである。また、トルコの一部メディアは、「スーダンのクーデターはエジプトやUAE、サウジアラビアによって画策され、その本当の標的はトルコだった」と論じ11、こうした国々はスーダン暫定政権に対してトルコへのスアキン島の租借を中止するよう迫っていると伝えた12

現在のところ、トルコはスーダンに対する支援を続ける姿勢を示している。クーデター後のスーダンでは政権を握った軍部と民主化を求めるデモ隊とが対立したため、欧米諸国やアフリカ連合が調停に乗り出し、7月になると軍部とデモ隊側は「権力分有」で合意した。2019年8月にはスーダン国軍と反体制派の権力分有に関する署名式が首都ハルツームで行われたが、これにはトルコ外相も出席した13。スーダンの暫定政権との関係を悪化させるよりも、トルコとして関与を続けることでバシール後のスーダンにおいても影響力を保持しようとアンカラは考えている。ただしサウジアラビアとUAEは経済支援などを通じスーダン新体制に急速に接近しており、スーダンにおけるトルコの立場は弱まっている14

(3)リビア

最後にトルコのリビア政策について検討する。リビアでは国連の仲介を経て2016年にはトリポリで国民合意(GNA)政府が発足したが、元国軍将校のハリーファ・ハフタル将軍が率いる軍事組織「リビア国民軍(LNA)」はGNA政府を認めず、リビア東部を実効支配してきた。そしてハフタル将軍は2019年春にはトリポリへの進軍を開始し、GNA側との武力衝突が激化した。

リビアの内戦をめぐっては諸外国がそれぞれの思惑で介入を続けている。トルコはムバラク失脚後のエジプトでムスリム同胞団を通じて影響力拡大を図ったものの、2013年のクーデターでモルシ―政権は崩壊し、トルコの戦略は水泡に帰した。しかしエジプトの隣国リビアでは2012年にムスリム同胞団が公正建設党を設立しており、トルコはリビアへの介入を強化した。これに対してリビアでのムスリム同胞団の台頭に懸念を抱くエジプトやサウジアラビアがLNAを支援したため、リビアにおいてもトルコ対サウジ・UAE・エジプトの対立構図が成立した。

トルコのリビア介入には経済的要因もある。トルコのゼネコン企業は1970年代からリビアに進出しており、リビア国内に多くのプロジェクトを抱えていた。トルコ企業が受注したものの内戦によって中断されたままのプロジェクト案件は160億ドルに上るとみられている15。さらにトルコは内戦終結後の復興事業を見越して、すでにGNA政府から様々な事業計画を取り付けている。

トルコのリビア政策が大きく変わったのは2019年末のことである。トルコはLNAに対して軍事的劣勢に立たされていたGNA政府と武器供与や軍事訓練などに関する軍事協定を結んだ。2020年になると、この合意に基づきトルコは国産無人戦闘機バイラクタルや地対空ホークミサイルなどをリビアに投入し、トルコ軍の支援要員を派遣した16。さらにシリア内戦でトルコ側について戦った傭兵をリビアに派兵した。こうしたトルコの支援により、GNA政府はトリポリ周辺からのLNAの駆逐に成功した。

トルコとGNA政府は軍事協定と同時に地中海における海域設定に関する覚書も締結した。東地中海では天然資源をめぐる周辺国の動きが激しくなっているが、ギリシャ、エジプト、キプロスなどはトルコとトルコだけが承認する北キプロスを排除する形でパイプライン計画を推し進めてきた。そこでトルコはリビアとの間に排他的経済水域(EEZ)を新たに設定した。この合意によれば、トルコとリビアのEEZは東地中海で接することになり、ギリシャなどが進めるパイプラインの障害となる。当然ギリシャなどはこのEEZ設定を認めておらず対立が強まっている。

GNA政府がLNAに対して軍事的に追い込まれたことは、東地中海での資源競争で不利な立場にあったトルコにとって形勢を逆転させるチャンスだった。つまり、トルコは軍事支援の見返りとしてGNA政府に海洋境界設定を受け入れさせたといえる。GNA政府関係者は、AP通信に対し、GNAのサラージュ暫定首相は1年以上にわたりトルコから海洋境界設定に応じるよう圧力をかけられておりその都度拒否していたが、最終的に「いやいやながら」覚書に署名したと明らかにしている17。サラージュ暫定首相本人は、暫定政府には領土領海に関する国際的取り決めに署名する権限がないと考えていたようである。

リビアでは8月にGNA政府とLNAが支持する東部の代表議会が停戦で合意し、来年3月にも大統領選と議会選を実施するよう呼びかけている。しかしGNA内部でのサラージ暫定首相の基盤は盤石ではない上に、8月にはトリポリやミスラタで反政府抗議デモが広がった18。また、トルコに対しGNA政府は妥協しすぎだとの不満も高まっており、今後の情勢によってはトルコ政府とGNA政府の関係も不安定化する可能性がある。

おわりに

トルコはカタル危機やムスリム同胞団との関係をめぐりUAE、サウジアラビア、エジプトと対立してきた。そして近年ではこの対立軸が東アフリカや北アフリカにも色濃く反映されるようになっている。トルコは特にソマリア、スーダン、リビアに政治的経済的資源を投入し関係強化を進めてきたが、UAEなど反トルコの国々が連携してアフリカ諸国への接近を強めたことで、トルコの対アフリカ政策はあらたな局面を迎えている。また、UAEおよびバーレーンと国交正常化で合意したイスラエルもトルコと対立しており、今後より積極的にイスラエルがUAEなどと対トルコで協力することになれば、トルコのアフリカ外交における更なる阻害要因となるだろう。


(2020年9月17日)


1 Richard Lough, "INSIGHT-Turkey Tries Out Soft Power in Somalia," Reuters, June 3, 2012.
2 "Somalia and Somaliland Sign 'Ankara Communique'," Anadolu Agency, April 13, 2013.
3 "Erdogan Says Somalia Has Invited Turkey to Explore for Oil in its Seas-NTV," Reuters, January 20, 2020.
4 Harun Maruf, "Somali, Somaliland Leaders Resume Talks in Djibouti," Voice of America, June 15, 2020.
5 "Turkey Calls on UAE to Stop Supporting Illegal Actors, Funding Terrorists," Daily Sabah, May 1, 2020.
6 Brian M. Perkins, "UAE Expands its Influence in the Horn of Africa," Terrorism Monitor, volume XVIII, issue 12, 2020.
7 Ece Göksedef, "Sudan'da Darbe: Türkiye, Ömer El Beşir'in Devrildiği Ülkeye Ne Kadar Yatırım Yaptı?" BBC TÜRKÇE, April 17, 2019.
8 国民救済政府は2014年のリビア議会選挙後に発足した代表議会を認めなった政治勢力が2014年9月にトリポリで立ち上げた政府で、イスラム系政党などの支持を受けていた。2016年4月に解散した。
9 Theodore Karasik and Giorgio Cafiero, "Turkey's Move into the Red Sea Unsettles Egypt," Middle East Institute, January 17, 2018, https://www.mei.edu/publications/turkeys-move-red-sea-unsettles-egypt
10 "President Erdoğan Calls for Sudan to Restore Peace, Democracy," Daily Sabah, April 1, 2019.
11 例えば、İsmail Numan Telci, "Devrim kKrşıtı Güçler Sudan'da 'Mısır Senaryosu' Peşinde," Anadolu Ajansı, June 11, 2019.
12 Merve Şebnem Oruç, "Who is Disturbed by Turkey's Presence on Sudan's Suakin Island?" Daily Sabah, May 10, 2019.
13 Ahmet Furkan Mercan, "Turkey's Support to Sudan Will Continue to Grow: FM," Anadolu Agency, August 17, 2019.
14 Jean-Baptiste Gallopin, "The Great Game of the UAE and Saudi Arabia in Sudan," Project on Middle East Political Science, June 16, 2020, https://pomeps.org/the-great-game-of-the-uae-and-saudi-arabia-in-sudan
15 "New deal Bears More Projects for Turkish Firms in Libya, Investments, Exports to Follow," Daily Sabah, August 14, 2020.
16 Can Kasapoglu, "Turkey's Air Defense System Deployments to Libya," The Centre for Economics and Foreign Policy Studies (EDAM), January 17, 2020, https://edam.org.tr/en/turkeys-air-defense-system-deployments-to-libya/
17 Samy Magdy, "Joining the Conflict in Libya, Turkey Sees Economic Gains," Associated Press, June 30, 2020.
18 Fehim, Tastekin, "What is Turkey's Role in Tripoli Political Tremor?," Al-Monitor, September 3, 2020.