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オバマ大統領の中東演説


2009年6月4日、オバマ米国大統領はエジプトのカイロ大学において、イスラーム世界のムスリム(イスラーム教徒)に向けた約1時間の演説を行った。この演説は以前より、「歴史的演説」になるであろうと注目されてきたものである。オバマ演説の主論点は、米国とイスラームとの対立関係を否定し、両者間の新たな協力関係の構築を目指す政権の基本方針を示すことであったといえよう。イスラームは米国の一部であると語ったオバマに対して、イスラーム世界のムスリム達は、おおむね好意的に受け止めている。例えば、イスラームの最高学府の一つであるアズハル機構タンターウィー総長は、オバマ演説は誠実な平和への呼びかけだと賞賛し、イスラームはそれに積極的に答えるであろうと述べている。また、エジプト内閣府が演説直後に行った世論調査によれば、77%が米国とイスラーム世界の関係は好転するだろうと答えており、良好な関係構築への期待感がうかがえる。

オバマはこの演説において、アフガニスタン・パキスタン安定化、イラク撤兵問題、イスラーム過激派への取り組み、中東和平の促進、イラン核開発問題、イスラーム世界の民主化、宗教の自由・女性の権利の保障、経済・開発問題などの広範な問題群に関する米国の基本政策について述べている。その内容を概観すると、オバマ自身や閣僚らが政権発足以来しばしば表明してきた見解を改めて示したものといえ、オバマ政権の中東政策を総論的に知る上で非常に興味深い。また、ブッシュ前政権からの大幅な転換・変更を明示したという点で、米国の中東政策の「歴史的」転換点となる可能性も指摘できよう。しかし、その具体的内容や実現方法など詳細については、必ずしも明らかにはされていない。多くの現地メディアが述べるように、オバマ政権が今後実際に取る行動から、この演説の意義を検討する必要がある。

今回の演説をもっとも注意深く見守っていた国の一つはイスラエルであろう。本演説の内容はイスラエルに事前通告されなかったといわれ、ブッシュ前政権期に見られた緊密な両国関係の変容がうかがえる。演説中の中東和平関連箇所においても、ネタニヤフ政権が二国家共存による解決策に消極的な姿勢を示しているにもかかわらず、二国家共存のみが中東和平達成の方策であるとオバマは明言している。同時に、入植地建設の凍結もはっきりとイスラエルに求めている。

これに対して、6月14日、ネタニヤフはテルアビブ近郊のバール・イラン大学での演説において、パレスチナ国家が非武装となり、イスラエルの安全が保障されるならばとの条件付きで、二国共存を認める旨の発言をした。これをイスラエルによる一定の「妥協」と見るか否かについて、意見は分かれている。この非武装パレスチナ国家構想に対して、パレスチナ自治政府は、これまでの和平努力を台無しにし、和平プロセスを麻痺させるものとして批判している。一方、米国はネタニヤフ演説を歓迎する旨の発表をしている。なお、ネタニヤフは本演説において、エルサレム東西分割の拒否、パレスチナ難民帰還権の否定、既存の入植地での住宅建設続行などの重要争点に対する強硬姿勢を明示している。この硬軟を併せ持った内容に、ネタニヤフ政権のしたたかな交渉戦略の一端を見出すことも可能であろう。

いずれにせよ、ネタニヤフ演説における非武装パレスチナ国家構想がどこまでの真実味をもって発表されたのかは今後の推移を見守る必要があるが、ネタニヤフ政権が条件付ながら「妥協」を示した背景には、オバマ演説の影響を指摘できよう。ハーレツ紙によれば、6月4日のオバマ演説と同月8日のオバマ・ネタニヤフ電話会談を受けて、14日のネタニヤフ演説の内容が書き換えられたという。オバマはこれまでにも二国共存の受け入れをイスラエルに求めてきたが、6月4日の演説においてそれが改めて明言されたことで、イスラエルは米国との対立を回避するために一定の「妥協」を決断したと考えられる。今後、中東和平を含め、中東地域において何らかの政治的変化が見られる場合、6月4日のオバマ演説に立ち返ってみると、このように興味深い示唆が得られるかもしれない。
(2009年6月15日記)
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