このInclusive growthが注目されてきた背景には、3つの状況の変化が考えられる。1つは、特にアジア地域においては、これまでの貧困削減の政策が功を奏して、貧困層の割合は逓減し、その上に位置する低所得者層や中所得者層の占める割合がマジョリティーとなってきたことである。2つ目は、近年において所得格差が拡大した国が多く見受けられるように、成長によって拡大した所得が、必ずしも平等に分配されているわけではないことが、明らかになってきたことである。そして、最後に、今回の金融危機を発端とした経済不況によって、中小企業や低中所得者を含む多くの社会的弱者といわれる人達が危機に巻き込まれ、社会的、経済的に甚大な被害をもたらしたことである。
これらの現状を深く認識した上で、より多くの人達に広く平等に成長の過程に参加してもらえるようにしよう、危機に打たれ強い社会経済基盤を構築していこう、という趣旨で唱えられたのがこのInclusive growthである。Inclusive growthの具体的な政策対応の主な項目としては、以下のものが挙げられる。教育や職業訓練などを通した個々人の能力の開拓、雇用の創出と柔軟な雇用制度の確立、中小企業支援、貧困対策、女性・子供・高齢者のエンパワーメント、機会の平等を高めるようなインフラと法の整備ならびにガバナンス、経済危機に対応できるような社会的セーフティーネットの確立、などである。
Inclusive growthは経済の自由化に即した概念であるため、これらの施策は市場メカニズムに基づいたものでなければならない。単に社会的弱者への再配分を求めるのではなく、平等な立場での競争の機会を与え、個人のインセンティブがうまく働くような政策対応を練る必要がある。2010年に日本が議長国となるAPECでは、このInclusive growthの趣旨に合致した成長戦略が策定され、様々な実行可能な具体的プログラムが提示されることになっている。
(2010年6月21日記)

