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0 0   2002年アメリカ中間選挙
  共和党の勝利と民主党の課題
新田紀子 (アメリカ研究センター主任研究員)

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米国時間11月5日に行われた中間選挙は、2001年のブッシュ政権発足後そして9.11以降初めての国政レベルの選挙であり、テロとの闘い、イラク、経済の低迷といった課題を抱えるブッシュ大統領に対する信任投票、そして勢力が拮抗する民主・共和両党の勢力の行方という観点から注目された。

その結果、共和党は選挙前に予想された下院(全435議席改選)での多数党の地位を守ったばかりではなく議席数を増やし、良くて現状維持とみられていた上院(全100議席中34議席改選)においては昨年6月以来の多数党の地位を奪回するなど、中間選挙では大統領の党が議席を減らす傾向を覆して「歴史的な」勝利を収めた。一方民主党は、米経済の先行き不安や年金・医療問題など、有利に闘いうる状況を活かせず、ホワイトハウスだけではなく、議会での優位も失うことになった。共和党の予想以上の勝利は、米国はもちろん海外においてもブッシュ政権の対外政策との関連でも注目されている。

本稿では、米国の報道等を基に、今回の選挙の結果とその要因と意味、また今後の政局(政策、対議会関係、次回大統領選挙)を取り上げる。共和党の増勢が連邦議会だけではなく州議会にまで現れていること、他方民主党が求心力を示せなかったことは、さらなる共和党の伸長を意味するものなのか、2000年の選挙で明らかになった「二つのアメリカ」、「50対50のアメリカ」という状況は変わったのかについても考えてみたい。

既に11月中旬からいわゆるレイムダック会期(今回の選挙結果を反映した新議会開会の明年1月の前までの間に、選挙前の陣容で行われる会期)が始まるとともに、明年の議会の各院各党の指導部や委員長の交代に向けた動きが進んでいる。

なお、今回の選挙では、調査機関の技術的な問題により、出口調査が少なくとも現時点で公表されていないので、通常の選挙の分析が困難になっている。

1.選挙の結果:共和党の「歴史的」勝利

共和党は、連邦から州レベルまでほぼ全選挙で当初の予想以上の成果を得られた。同党は、中間選挙で大統領の党が上下両院の議席を減らす傾向を覆し、2001年5月以来、約1年半振りに大統領、議会の上下両院を占める党として返り咲いた。1つの政党が大統領、議会を占めた最近の例は、民主党の場合はクリントン政権当時の93年から95年であるが、共和党の場合は、昨年の4ヶ月間を除くと、レーガン政権期においても81から87年に上院で多数を占めただけであり、アイゼンハワー政権期の50年代前半の2年間にまで遡らざるをえない。下院ではそれ以来、94年中間選挙まで多数党になったことがない。しかも、96、98、2000年の議会選挙で3回連続議席を減らしてきた。共和党にとり歴史的経験と言える。下院選挙における両党それぞれの総得票数を見ても、共和党が53%と94年中間選挙以来最高の率となっている。投票率も、大統領選挙ではないため高くはないが、初期の段階で発表された数字では39.3%と低下傾向を僅かながら止めた。

36州で選挙が行われた州知事選挙では、選挙前、共和党27州、民主党21州、その他2州という勢力分野であった。改選州は、共和党23州、民主党11州、その他2州と共和党が倍以上と多く、また任期制限規定による現職不出馬やさらに景気低迷による州財政の悪化などにより、決して有利な状況ではなかった。選挙後、共和党は非改選を併せて26州となり、90年代半ば以降ほぼ30州を維持してきた状況を考えると減りはしたが、改選州の多さとの関係では1州減で強さを示した。これまで共和党の州知事であったイリノイ、ミシガン、ペンシルヴァニア州といったいわゆる産業地帯の重要州を失ったが、民主党の牙城である、ジョージア(現職民主党知事は、次期大統領選挙の副大統領候補の1人として取りざたされていた)、ハワイ、メリーランド、マサチューセッツ州を新たに獲得し、さらに全米的に注目された、大統領の弟ブッシュ・フロリダ州知事、大統領の地元テキサス州現職共和党知事のいずれもが当初苦戦と言われながら余裕の再選を果たした。

さらに、共和党の伸張が州議会レベルでも続いていることは、いわば草の根レベルでの支持基盤の増大として注目される。州議会は、一院制で議員の党派を示さない(nonpartisan legislature、投票用紙に候補者の政党は書かれていない)ネブラスカ州を除き各州二院制であるが、今回の選挙では、やはり大統領の党としては異例の伸張を示した。すなわち全州議会の議席総数7,000強中6,000強の議席が改選になったが、中間選挙では大統領の党が議席を減らすという傾向を打ち破り、約200議席増加させた。その結果、49州中、民主党が上下両院双方で多数党を占める州議会が16州となり選挙前に比べて−2州、共和党は21州となり+4州、各院の多数党が異なる州が12州(−2州)となり、90年代半ば以降に始まった州議会レベルでの共和党の勢いが続いていることが示された。

州知事選挙の結果を割り引いて考えても、上下両院、州議会で過去の傾向を覆し、また景気の低迷や企業の不正会計問題などがありながら、共和党が勢力を拡大しえたことの意味は無視できない。

2.拮抗する両党の勢力と「二つのアメリカ」

しかしながら、「tsunami(津波)」と称された40年振りに共和党が両院で多数党となった94年のような選挙とは違うという見方も多い。確かに、結果として上下両院における議席の勢力分野は大差ではない(未定もあるが、上院で3ないし4議席、下院で20数議席差、党議拘束はそれほど強固ではない)。これは敗北した民主党側の見方だけではない。例えば、選挙専門家のチャーリー・クック氏は、「津波」と形容される選挙の場合には、接戦の選挙の全てに勝利するだけではなく、相当不利な状況にある闘いも覆して勝利するような結果が得られた選挙であるとして、今回の選挙はそれとは異なると述べている。そして、下院については、全米で約42,500票がさらに投票されていれば民主党が多数党になっていたと指摘(Charlie Cook, “Off to the Races”, NationalJournal.com, Nov. 12, 2002)し、上院においては、15万票が民主党に入れられていれば、民主党多数の地位を維持できたとの指摘もある(www.msnbc.com/news/832464.asp)。投票率も、有権者全体ではなく、共和党支持者の投票率が高まった結果と指摘されている。これは選挙直前のCNN/USA Today/ギャラップ調査(www.gallup.com/poll/releases/pr021107.asp?Version=p)から、予想投票率として共和党43%、民主党36%、無党派26%という数字が示されている。

こうしてみると、2000年大統領選挙での歴史的な「引き分け」、上院における50対50の拮抗、下院における議席の僅少差、州議会における共和党の伸張による拮抗という勢力分野が、より大きな視点でみた場合には、継続していると言えよう。

さらに、2000年の選挙における拮抗状況は同時に、両党の支持層の明確な違いから「二つのアメリカ」が存在するのではないかと指摘されたが、今回もそうした状況が見られる。

選挙直前の上記世論調査(10月31日〜11月3日、ギャラップ調査)から、両党支持の差にどのような違いが見られるか。第1に、地域では南北の差があり、北東部と西部は民主党、南部と中西部が共和党支持である。選挙結果を見ても、南部における共和党の勢力伸長は、ジョージア州では、上院選挙で現職民主党を破ったことに加え、南北戦争後の南部諸州の再統合期以来という州知事も獲得するなど進んでいる。南部11州中、州知事は7対4、上院議員は13対8(未定ルイジアナ州1)と優位にある。第2に、都市と地方の違いでは、都市部で民主党、郊外と地方で共和党が優位である。第3に人種では、白人は共和党(20%差)、非白人は民主党(8割強)、第4に所得では、4段階の所得階層で見た場合、高所得層は共和党支持が多く、中間所得層は両党が拮抗、低所得層は民主党支持である。第5に学歴で見ると、高校以下と大卒より上で民主党が上回っているが、大卒ないし一部大学教育を受けた者の中では共和党が上回っている。第6に性差であるが、男性は共和党、女性は民主党支持が多いが、より差が大きいのは既婚女性と未婚女性の間であり、後者は民主党支持層の最強グループの1つとされる。第7に年齢では、35歳以上は共和党、34歳以下では民主党となっている。

また経済状況に対する認識については、共和党支持層と民主党支持層に違いがあり、前者の中では現状を良いと見る人が70%、悪いと見る人が25%であるが、後者の中では、27%対69%と完全に逆転しており、同じ国の状況を語っているのかどうか疑問に思われるほどの違いである(www.gallup.com/poll/releases/pr021107.asp?Version=p)。これは、「投票の選択に際し何が最も重要なイシューか」との問にも現れており、共和党支持層の81%はテロ(対イラク戦は別項目)と答えているが、民主党支持層は19%であり、逆に年金と教育については、民主党支持層がテロほどの差はないが多くなっている。

そしてこうした違いの中で、共和党支持層の投票率の方が高かったのである。ただ共和党が大統領以外のレベルで、90年代半ば以降民主党を追い上げてきた結果の拮抗であり、共和党側に勢いがあることも事実であろう。

3.共和党の勝因と民主党の敗因

今回の選挙は、単純化すべきではないが、直接間接に9.11の影響が大きい。9.11への対応振りから高い支持を得た大統領の存在と大統領による選挙活動(自党候補者応援と)への積極的な参加、それに加えて、9.11前からと言われる共和党陣営の周到・綿密な選挙戦略の効果、そして対する民主党の戦略とメッセージの欠如が共和党勝利を導いた。

まず”It’s the Terror, Stupid(問題なのはテロだ)”(David Brooks, www.msnbc.com/news/833093.asp?Ocb=-415118218)であり、それは経済問題がありながらも、テロや戦争を懸念とする有権者が多く、またブッシュ大統領のテロとの闘いへの取り組みに対する支持の表明である。「投票を決定する際に最も重要なイシューは何か」との問いでは、世論調査によって、経済・国内問題とテロ・対外問題が逆転しており、どちらがより重要なのかは不明なところがあるが、テロ問題を最重要とする人々の間では共和党支持が圧倒的である(他方、イラクとの戦争を重要とする人の間では、民主党支持が多い結果が出ている)。イラクとの戦争について、世論は「単独行動主義」には否定的であり、国連の承認を条件とする者が多いが、選挙後の調査(www.gallup.com/poll/releases/pr021112.asp?Version=p)で59%がイラク侵攻を支持している。ブッシュ政権が選挙前に議会から武力行使容認決議を勝ち取り、世論が武力行使の前提条件としていた国連安全保障理事会決議の成立に向けて努力を重ねるという手続きを重ねたこと、テロ対策の進捗としては、直前にCIAの無人偵察機によるイエメンでの9.11容疑者攻撃の成功なども政権にとりテロ対策の進捗としてプラスの状況として指摘する向きもある。

さらに、中間選挙に臨む大統領としては異例の高い支持率(60%以上)という政治的資産をリスクをおそれずに使い、選挙終盤に多くの共和党候補応援の大遊説を行った効果、そして大統領の「巧みな」政策主導権の確保などが指摘されている。逆に言えば、共和党に対抗しうるメッセージや代替策を打ち出せず、同党支持者の熱意を盛り上げることができなかった民主党の敗北ということが共通に指摘されている。

ブッシュ大統領の応援が功を奏したことについては、世論調査で、「今日選挙が行われるとしたら、あなたの選挙区ではどちらの党の候補者に投票しますか」の問に対し、選挙直前(10月31日〜11月3日)に、投票する可能性の高い有権者(likely voters)の間で共和党と答える人が民主党と答える人を逆転しているが、選挙直前、ちょうど大統領が選挙遊説を開始した頃と一致していると指摘している(www.gallup.com/poll/releases/pr021104.asp?Version=p)。また、同じ世論調査で、「候補者に対する投票はブッシュ大統領への支持、あるいは不支持のメッセージの表明か、それとも大統領に関するメッセージではない」かとの問いに対しては、35%、18%、45%となっているが、これを、前回98年のクリントン大統領下の中間選挙時には、同じ問いに対し23%、23%、52%となっており、当時はクリントン大統領の倫理問題が取り上げられていた時であるが、ブッシュ大統領への支持表明とする有権者が多いことがわかる。リベラルから中道寄りの識者の中に、ブッシュ大統領のリーダーシップについて、レーガン大統領の初期と同じく、過小評価されているのではないかとの声が聞かれるのが興味深い。

またブッシュや共和党陣営が選挙について2001年春頃から周到な計画を練っていたことも報じられている。メッセージ、政策においては「両党間の違いを曖昧にする戦術」、候補者選び(イデオロギーにこだわらず経験・能力やイメージを重視)、民主党の労組にならってのビジネス界(米国商業会議所、ビジネス−産業政治活動委員会、全米卸売り業者協会、ビジネス・ラウンドテーブル、製薬会社)や保守派グループ(全米ライフル委員会、統合高齢者協会)を巻き込んだ投票促進活動、などの組織的な勝利であることが指摘されている。そしてその立て役者として、カール・ローヴ大統領上席顧問や下院のディレイ共和党院内幹事など戦略家の存在が指摘されている。ローヴ上席顧問は、当初より、「国家安全保障、国土安全保障、経済安全保障」という共和党のテーマを設定し、それを維持することに努力した。候補者選定についても、必ずしも保守派のイデオローグにこだわらず、初期の段階で「勝てる」候補者を擁立し党候補者の一本化をはかった(カリフォルニア州知事選挙の共和党予備選挙では、ローヴ顧問の選択である穏健なリアドン前ロサンゼルス市長が保守派のビル・サイモン候補に負けており、全てが成功した訳ではない。もっとも保守派の候補者を退けた例については、保守派の共和党支持者の反発を予想する向きもある)。選挙前5日間で15州17カ所の大統領による電撃遊説のアイディアもローヴ顧問によるものと言われている。選挙資金集めにも大統領やチェイニー副大統領を動員し、共和党の各選挙対策委員会が集めた資金は5億2700万ドルであり、民主党の3億4300万ドルを大きく上回っている。ディレイ院内幹事は、幾つかの重要なレースは、投票前72時間が重要として、73台のバス、245のヴァンをレンタルし、選挙区に8,000人のボランティアを送り込んだと報じられている。また2003米会計年度(2002年10月〜03年9月)予算法案がほとんど成立していなかったが、選挙後に引き延ばすことによって、現職の候補者に苦しい投票行動を回避させたともいう。

一方、民主党は、ブッシュ政権のテロ対策への批判を得策とせず、経済や年金問題、高齢者医療保険の処方薬問題などを取り上げたが、反対にとどまり、有効な対抗策を提示するに至らなかったと批判されている。テロとの闘いを支持しつつブッシュ政権の大規模減税策への反対をもっと明確にすべきであったとの声もある。国土安全保障省の設立に関する議論の中で、民主党側が同省公務員の権利の保護を主張し対立していたことについて、一部の共和党候補に、民主党は安全保障に熱心ではないと批判されたりした。また、アフリカ系の有権者はこれまでと同様9割が民主党に投票したが、同党が選挙登録の促進などの資金提供に熱心でなく、投票所に赴かなかった有権者が多かったとの指摘があり、他方、一部の選挙では、マイノリティの有権者は民主党候補に投票したが、白人穏健派の票が得られなかったこと、逆に保守派の白人有権者の投票率が増加し、敗北した例も挙げられている。これらは、メリーランド州知事選挙でのロバート・ケネディ元司法長官の娘であるケネディ・タウンゼント副知事やサウスカロライナやジョージア州の現職知事の落選にもみられる。この点で、人口増加率の高い、郊外に住む白人の既婚者で子供を持つ有権者が共和党候補に票を投じているとの分析が出され、民主党にとり問題という意識とともに論じられている。

4.選挙後の政局

(1) ブッシュ政権と議会共和党

ブッシュ大統領は、選挙結果自らに語らせよとして勝利に浮かれることを戒め、ローヴ上席顧問も、米国政治の変化は漸進的であり変化の度合いを過度に強調すべきではないと語ったが、同顧問もユタ大学での講演では米国は共和党寄りに傾いていると発言した旨報じられており、ブッシュ政権や共和党の喜びは明らかである。ホワイトハウスはこの選挙によってブッシュ大統領が2000年の選挙で得られなかった「国民からの幅広い負託(mandate)」を得たと主張している(Dana Milbank &b Mike Allen, Washington Post, Nov. 7, 2002)。そしてローヴ上席顧問の目標は、共和党の多数党体制が少なくとも10年は続くものにすることだと報じられている。

しかし、大統領の党と同じ党が多数を占める議会の関係は、大統領にとり決して保証されたものではない。まず政策推進ができない場合に議会の責任にできない。また、議会共和党が大統領や議会指導部の支持でまとまるとは限らない。ロット上院共和党院内総務が選挙直後に、後期妊娠中絶禁止法案を可決させ、大統領に送付すると発言してホワイトハウスを懸念させた。すなわち、大統領は本件を支持しているが、クリントン大統領が軍隊における同性愛者の権利擁護を打ち出した時と同じく、自党のイデオローグの囚人と見られることを望んでいないという。さらにビジネス界や草の根の保守派グループは選挙の貢献に対する報酬を議会あるいはホワイトハウスに求めてくると予想される。イラク政策など対外問題について、共和党の中心である保守派や強硬派が勢いづく可能性もあるが、2004年の再選を考えるブッシュにとり、より大胆な保守派や議会共和党の存在が障害になることも十分あり得る。

ブッシュ大統領は、選挙後11月7日に行われた記者会見で、米国を「より良く思いやりのある場所」にするべく超党派での協力を呼びかけた後、国土安全保障省設置法案への支持を求めている。有権者から負託を受けたと思うかとの質問には、もしあるとすれば、「物事を成し遂げること」であるとして、以下、予算法案、高齢者に対する処方薬の給付を挙げた。別の箇所では、国民を守ることと、職を探せることが優先課題であるとも述べている。

共和党の議会指導部は、下院において、ハスタート下院議長は変わらず、アーミー院内総務が引退したため、ディレイ院内幹事が院内総務に選出され、その後任には、ブラント下院議員が選出された。今まで裏舞台で影響力を行使してきた、下院で最も影響力のある議員とされるディレイ院内議員のナンバー2ポスト就任は注目される。保守派の原動力の一人であり、ビジネス界とも密接な連携を結び、共和党支持基の盤形成を担っている。

上院では、ロット共和党院内総務は変わらず、新しく選出されたマコンネル院内幹事(夫人はエレイン・チャオ現労働長官)の体制である。重要なことは共和党が多数党となり全委員長職をとることである。外交委員会では、ヘルムズ議員が引退したため、ルーガー外交委員長が誕生し、軍事委員会では、民主党のレヴィンから共和党のウォーナー委員長に替わる予定である。

(2)民主党:メッセージとメッセンジャーを求めて

民主党内では、当然ながら選挙の敗北について責任論争がおきており、議会民主党指導部や党全国委員長はリベラル派からも中道派からも批判されている。2000年の選挙と同じく、勝てる選挙と見られていただけに結果はショックであったようだ。

メッセージについては、前述の通り、共和党に対抗しうる、また民主党支持者を活性化させるような問題の解決策やアイディアの提示が求められている。

上下両院の民主党トップであるダシュル上院院内総務、ゲップハート下院院内総務の責任を求める声も多かったが、前者はとどまり、ゲップハート院内総務は敗北の責任ではなく大統領選挙出馬を念頭に、次期院内総務に立候補しなかった。そして同院内総務の後任をめぐり、党内の路線をめぐるリベラル派と中道派の違いが現れた。すなわちリベラル派のペローシ下院議員が女性として初めての院内総務職を目指して立候補したのに対し、中道派のフロスト民主党議員総会会長が一端は立候補をしたものの取り下げ、その後、アフリカ系で若手、中道派のフォード下院議員が挑戦し、結局ペローシ議員が圧倒的な大差をつけて当選するという経緯があった。ペローシ議員はプラグマティックな側面も持つとも言われるが、政策的にはリベラルであり、民主党建て直しの観点から懸念する声が聞かれた。中道穏健派の議員は、ホイヤー下院議員をナンバー2の職である院内幹事候補として擁立し当選させた。ゲップハート議員、ボニア議員(ミシガン州知事選挙の予備選挙で敗退)の2名が下院民主党指導部から去ったことになる。

具体的なメッセージについては、シンクタンクにその役割を期待する声もあるが、保守系シンクタンクのように、民主党の求めているものを提示できるところは少ないとの声も聞かれる。84年の大統領選挙でモンデール元副大統領がレーガン大統領に大敗を喫した後、民主党はホワイトハウスを奪回すべくさまざまな活動を開始し、その1つが民主党指導者会議(DLC)といった中道の組織の設立となり、DLCは「第三の道」というクリントン大統領候補の主張の支えとなった。もっとも当時はまだ下院が民主党多数であり、上院も86年選挙で奪回しているので、今回民主党はより重い課題を背負うことになる。また前述の通り、本来民主党が力を発揮すべき、郊外の白人層の支持に共和党寄りの傾向が見られるとの指摘には、同党として十分注意する必要があろう。

おわりに

議会ではレイムダック会期が開催されている。上院では、11月下旬にミズーリ州の特別選挙で選出された共和党のタレント候補が就任するまで民主党多数の議会が続く。これはミネソタ州で選挙活動中に飛行機事故で亡くなったウェルストン上院議委員の後任として、来年に新しい共和党議員が就任するまでの暫定議員を同州知事が任命し、その議員が無所属を表明したからである。まだ13本中2本しか成立していない歳出法案は引き続き暫定を組み、来年1月以降の審議会で審議を行う模様である。ブッシュ大統領が成立を強く求めていた国土安全保障省設立法案は、11月13日に下院で、19日に上院で可決された。ブッシュ大統領が指名した判事の指名承認審議も、上院司法委員会でまず2名が承認された。

一方、すでに2004年大統領選挙に向けた動きが始まっている。ブッシュ大統領が再選を視野に置くのはもちろん、民主党側にも見られる。中間選挙に敗北し名乗り上げがしやすくなったとの状況もあり、順不同で、ゴア前副大統領、リーバーマン上院議員/前民主党副大統領候補(ゴア前副大統領が出馬しない場合と述べている)、エドワーズ上院議員、ジョン・ケリー上院議員、ダシュル上院院内総務、ゲップハート前下院院内総務などが取りざたされている。今のところ飛び抜けた候補者はいない。

ブッシュ政権や共和党には勢いがあるが、保守派との関係に考慮が必要であり、テロとの闘いに加え、イラクとの闘い、米国経済などの重要問題の対応がハードルになっている。また、今回の勝利を読み込みすぎるべきではないと慎重さを求める声がある。しかし、ブッシュ政権や共和党は、92年のブッシュ(父)政権の敗北(湾岸戦争勝利による高い支持率からの凋落や経済問題への対応の批判)や94年中間選挙における勝利の過大評価などの経験から教訓を得ている。闘争的なディレイ次期院内総務も「よりやさしく、穏やかな(kinder, gentler)」になるのではないかと予想する向きもある。

2000年選挙で明確になった二党の拮抗状態が続くのかどうか、政局の動向が注目される。

(2002年11月20日記)



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