国際開発学会全国大会−所感

2003年11月29・30日の2日間、第14回国際開発学会全国大会が、名古屋の日本福祉大学で開催された。当研究所の渡邉松男研究員が参加し、「ODAによるインフラ整備」と題する報告を行った。

国際開発学会の概要

国際開発学会は、1990年に大来佐武郎先生を実行委員長とする設立総会が開催されて以来、今年14年目の会員総数は1200余名にのぼる。本学会はそのテーマとして、国際開発・国際協力・国際貢献という領域をカバーすることから、大学研究者、民間企業、ODA実施機関、研究機関、国際機関、官公庁など多様なバックグランドの学会員で構成されている。

これを反映し、①学際的あるいは異分野交流型アプローチ、②理論と政策と実践とが融合したアプローチ、③問題設定型・問題発見型・問題解決型アプローチを特徴としている。また、会員の関心分野も、経済開発、ガバナンス、環境、教育、衛生など多岐にわたる。

第14回国際開発学会全国大会

今回の全国大会は、社会開発と福祉の問題が共通論題として議論された。これは、21世紀における「人間の安全保障」を実現するためには、労働市場の拡大や福祉行政の強化だけでなく、地域社会の活性化、家庭の充実、福祉に対する多元的な規範を包含する社会開発が不可欠であるとの認識を基としている。その上で、多元的な社会の実現を可能にする制度・システム、基盤のあり方について、活発な議論が行われた

分科会では、経済開発、環境、インフラストラクチュア、初等教育、東アジア経済と貿易、厚生と開発、人的開発と能力形成、参加型開発、ローカルガバナンス、保健、ODAの諸問題、NGO、日本の地域開発など幅広いテーマについて、それぞれの専門分野からの研究報告がなされた。

渡邉はインフラストラクチュアに関する分科会において、日本のODAによるインフラ整備と、タイの東部臨海地域における自動車産業への直接投資と同産業の集積との歴史的相関関係の分析を報告した。これに続き他の分科会において、同国の自動車産業の能力形成に関する詳細な分析が報告され、報告間の有機的な連関があった。

所感

本学会は、従来、開発経済学領域の研究が大部分を占めていたが、近年、社会学、文化人類学からのアプローチによる研究が大きな位置を占めるようになってきている。現在学会が直面する課題の一つに、これらの多様な学問領域の間で、共通の議論ができる「場」を確立することが挙げられる。例えば、参加型開発及び人的開発・能力形成をテーマとする分科会において、「エンパワーメント」の概念をめぐり、神学論争に過ぎないとの指摘も一部の参加者から出された。当該分野の実証研究事例が待たれる。 (了)

(2003年12月4日記)



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