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中国の「平和的台頭」
  (中国語:和平崛起、英語:peaceful rise)


国際社会における中国の役割と姿勢を提示した、胡錦涛政権の政治構想。中国は経済発展を行って国民の「小康」(まずまずの暮らし)を確保することを最大目標と位置づけている。しかしながら、経済発展によって国力が増大し、海外で中国脅威論が高まれば、チャイナ・バッシングを招き中国の経済発展は阻害される。そのためこの構想は、経済発展には安定した周辺環境が必要で、諸外国との協調は不可欠とする。そして中国は既存の国際秩序に積極的に参加し責任ある大国として国際問題の解決に尽力しているが、これは中国の利益にも国際社会の利益にもかなっており、中国は台頭しても国際秩序の脅威にはならない、と主張する。北朝鮮問題をめぐる六者協議開催への取り組みは、その最たる事例として位置づけられる。

この概念の提唱者は、最近まで中共中央党校の常務副校長であった鄭必堅である。鄭は2002年に米国でさまざまな対中認識に接し、新しい構想を示して中国の正確な姿を世界に知らしめる必要があると考えた。胡錦涛(元・中央党校校長)の合意の下、鄭は2003年初めに全国の有識者を集めて大掛かりな研究グループを立ち上げ、11月のボアオ・アジア・フォーラムの場で初めて「平和的台頭」論を公表した。その後間もなく、この構想はハーバード大学における温家宝講話(12月10日)、毛沢東生誕110周年記念座談会における胡錦涛講話(12月26日)の中に正式に組み込まれた。外部から観察可能な形で、一政策ブレーンのアイディアが専門家による組織的な研究を経て中央指導者の政策として採用されたのは、これが初めてのことであった。

「平和的台頭」論の提起には、大きく分けてふたつの要因がある。第一に、改革開放の進展によって中国の対外認識が変わってきていることが挙げられる。日中平和友好条約交渉で知られているように、かつて中国は「覇権」に対して強い反感を抱いていた。しかし改革開放後、中国は西側の国際関係論を摂取する過程で覇権サイクル論に出会い、「覇権」即ち大国の興亡は国際社会の常であり、大国となったときにその国がどう行動するかがより大きな問題と考えるようになる。加えて90年代の半ばには、国際的な中国脅威論に対処する中で、中国は「新安全観」や「責任ある大国」論を提起し、国際社会の優等生として振舞う傾向を強めている。この経験を通して、国際社会と協調し海外からの批判を避けつつ自国の国際的影響力を拡大することを学んだのである。

第二に、中国指導部が外交の質的変化に着目し始めたことである。中国にとって、これまで外交は国家(あるいは党)指導者が行うものであった。ところが1989年の天安門事件以降、中国は初めて諸外国の反中世論がその国の対中政策を制約する状況に直面した。社会の変化と情報技術の発展によって、最近では中国でも対外世論が指導者の自由な政策決定を阻む大きな要因として浮上している。そのため「平和的台頭」論には、中国共産党と中国政府の情報発信力を強めることで、海外の対中世論と国内の対外世論を自分たちにより有利な方向に誘導しようという側面が見られる(「パブリック・ディプロマシー」)。胡錦涛政権は親民政策を唱えてはいるが、臣が民を導くという権威主義的な発想からは、残念ながらなお脱皮できていないようである。

(2004年6月2日記)

(研究員  益尾知佐子)

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