JIIAフォーラム講演要旨

2005年11月14日
於:日本国際問題研究所

アントン・ペリンカ・インスブルック大学教授
「EU(欧州連合)とその対外政策」

欧州統合は経済の領域において捉えられがちであるが、主要な役割は政治的なものであった。EU(欧州連合)がまず何よりも先に果たさなければならない機能は、平和を維持することである。これは欧州統合の当初からの哲学であり、国家間の戦争の歴史を克服することによる域内の平和と、西側諸国の同盟の一環を成し東からの挑戦とのバランスをとるという、対外的平和の2つの側面を有していた。EUによる平和の維持とは、まず域内の平和である。EUはその加盟国間の平和を保障している。EUの平和機能におけるこの部分が、EUの成功物語の最も重要なものとなっている。そして、対外的な平和である。EUは、自らの安全保障のために、特に冷戦終結後、1992年のマーストリヒト条約により共通外交安全保障政策(CFSP)を設けることを定め、そしてバルカン半島における戦争を通じて、特に1999年の軍事介入の後、対外政策を発展させてきた。CFSPを強化するために、EUは、例えば1999年に「外交・安全保障上級代表」の職を設置し、批准はされていないが2004年の欧州憲法条約では「EU外務大臣」職の創設を盛り込むことにより、異なった各国の対外政策をすっきりさせようとした。

EUの対外政策が勘案すべき各種要素を理解するためには、様々なアプローチの違いを理解しなければならない。6つのアプローチが考えられる。第1は、地理的アプローチである。EUは西洋における米国の覇権と、東および南における安定の欠如に向き合わなければならない。EUは米国にとってパートナーとライバルの両方、あるいはそのいずれかであると考えることができる。したがって、EUは例えば地中海諸国や南コーカサスなどに対して、それぞれ米国とは異なったアプローチを適用している。第2は、文明アプローチである。ハンチントンの分析によれば、EUの大半が「西洋文明」に属しており、米国と共通の利害と価値観により結びついている。しかし、拡大の結果、EUは「東欧」のみならず、おそらく「イスラム文明」にまで広がる見込みであり、EUは西欧という枠におさまらなくなった。第3には、平和アプローチである。平和が均衡の上に成り立っているため、EUは、その平和維持の機能を全うするために、力の均衡、特に米国の力に対するバランスを取る中枢でなければならない。第4は、自己利益アプローチである。EUは、自己の利益のために、特に隣接する地域を安定化するために行動しなければならない。例えば大量の移民など、国境を接する国々における不安定化は、欧州の安定を脅かしかねない。第5は、連邦主義アプローチである。EUは「連邦の製造中」という段階に至っているため、その対外政策という要素が重要性を増している。これは国民国家の対外政策、とくに英国やフランスの伝統との緊張を示唆するものだ。そして第6はグローバリゼーションのアプローチである。国境の撤廃、特に資本の自由移動により、国民国家の政治的能力は減少している。その能力を再建するために、EUが弱くなった国民国家から必要な引継ぎを行わなければならない。

EUの対外政策には、いくつかの特定の条件が必要である。まず、制度化された条件が必要である。EUは、いくつかの加盟国の意志に反したものであっても、その行動を実行することができなければならない。対外政策に関する問題に特定多数決制を適用することにより、EUとしての行動を可能とする制度的設計が確保される。また、特定の道具が必要である。CFSPは、各国の軍隊が協力するという以上の欧州軍を基礎としなければならない。EUには統一した欧州の軍隊が必要である。米国および他の国々が、ドイツとイタリア、英国とフランス、ポーランドとスペインの利害を、「古いヨーロッパ」と「新しいヨーロッパ」として、区別できてしまう限り、欧州は米国と同等のパートナーではなく、世界で唯一のガリバー(巨人)に立ち向かうリリパット(小人の国)の不協和音でしかない。

EUの対外政策が実効性を持つためには、特別な利害を克服しなければいけない。EUの中心を成す2カ国、英国とフランスが特別な国益を持ち、特に国連安全保障理事会の常任理事国の地位にあるという問題は重要である。欧州委員会や、イタリアなどいくつかの加盟国は、EUの常任理事国入りという道を選択しているが、英国とフランスは、ドイツの常任理事国入りを支持することにより、そのような協議を回避しようとしている。また、EUの加盟国の中でも小さな中立国(非同盟国)の特別な利害についても考えなければならない。アイルランド、スウェーデン、フィンランド、オーストリア、キプロス、マルタにおける国内のコンセンサスにより、全加盟国の軍隊を統合するという側面は、これらの加盟国の伝統に反することになる。

欧州にとって米国の存在は重要な要素となっている。欧州にとっていまや米国は、米国ではないものとして自らを定義づけるための他者としての存在となっている。そのいい例がイラク戦争であったが、今後世界でまた同様の事例があった場合、欧州として単一の社会を形成し、欧州としての意思が強まる契機となるかもしれない。

以 上