【 米国にすり寄る中国 】

  3月17日にブッシュ大統領がフセイン大統領向けに48時間の最後通告を行った際、中国の反応が仏、露、独とは明確な違いを見せたことは注目に値する。仏、露、独が米国を名指しで非難したのに対し中国は極めて慎重な表現を用いた。

  中国では日本の国会にあたる全国人民代表大会が開会中であったが、同大会で新総理に選任された温家宝は18日の記者会見でイラク問題について次の三点を述べた。(1)イラク問題は国連の枠内において政治的手段で平和的に解決すべきであり、極力戦争を避けるべきである、(2)決議1441号は全面的に実施されるべきであり、査察を継続すべきである、(3)イラク政府は国連の関連決議を遵守すべきであり、大量破壊兵器を徹底的に破棄すべきである。

  中国政府は現在に至るまで上記の原則論で対応しており、公式なコメントの中で米国について名指しはしていない。20日、武力行使が行われた直後に中国外交部は声明を発表したが、その内容は(1)決議1441号で大量破壊兵器の破棄を実現することは可能である、(2)関係国家は軍事行動を停止すべきである、の二点であり18日の温総理の発言同様慎重な表現であった。「関係国家」と名指しを避ける配慮も見せている。同日、外交部で行われた記者会見での外交部スポ-クスマンの対応を見ても様々な質問に対して慎重な返答ぶりであった。

  その後現在に至るまで(28日)、中国政府の立場を表明するような特別の発表ないし発言はないが、24日に来訪したパキスタン総理と会談した温総理が、「できるだけ早く戦争を停止し、イラク人民の災難を減らし、国連の政治的解決の軌道に乗せるべき」旨発言したと報じられている。

  2001年9月11日のテロ事件を契機に米中関係は急速に改善した。中国政府はこの改善を非常に喜び、良好な対米関係の維持には最大限の配慮をしている。

  27日に中国の学者に会った際、イラク問題について意見交換したが、同学者は「国内には米国への反発もあるが、政府は押さえ込んでいる」旨述べていた。また、私より「米国が短期間に圧倒的な勝利を収めることを望むか」と質問したのに対し、「当然であり、そうでなければ経済に影響がある」旨の反応であったから、再度私より「中国の外交方針は米国の一極支配に反対し多極化を図ることと理解するが、米国が短期間に圧倒的な勝利を収めればますます一極支配が強まるが矛盾はないか」と質問したのに対して、「既に米国はス-パ-パワ-である」旨述べ一向に気にしていない風であった。

(北村隆則主任研究員)