【 「イラク復興」 (米国内の議論) 】
2003年3月

 対イラク戦争の開始を受けて、当研究所としても紛争後のイラク復興の方向性につき議論を重ねているところですが、ご関心のある向きのご参考までに、この問題について米国の議論の方向を示す以下の資料を掲載します。

 これまで、フセイン体制打倒後の戦後イラク統治計画に関する報道が続き、3月11日には戦後の統治体制はフランクス米中央軍司令官が指揮をとり、その下に文民の統治官や調整官が配置されるといった計画内容が明らかになっています。この計画は本年1月に米国防総省内に新設された復興人道援助局が立案したものですが、その設置と同じタイミングで、米国を代表する2つのシンクタンクから、イラク復興計画に関わる米国政府向けの提言がそれぞれ発表されています。
ひとつは、戦略・国際問題研究センター(Center for Strategic and International Studies, CSIS)が1月21日に発表したものであり、もうひとつは、外交評議会(Council on Foreign Relations, CFR)が23日に発表したものです。その要点は以下の通りです(両提言の詳細および統治計画の報道内容については、当研究所ホームページの会員専用ページに別途掲載中)。

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1、外交評議会:

Guiding Principles for U.S. Post-Conflict Policy in Iraq, Jan. 23, 2003.

(1) 対イラク武力行使およびフセイン体制の打倒が短期間で実現した場合、以下の3段階によるアプローチが有効である。
  1. 短期(紛争後2ヶ月以内):国連安保理決議が新体制の目標を示し、米軍または同盟軍司令官による暫定政府が統治。
  2. 中期(3ヵ月後から2年後):国連事務総長代表および米国上級代表と緊密に連携するイラク人指導者に率いられ、国連により国際的に監督されるイラク暫定政府が統治。
  3. 長期(2年後以降):完全に独立したイラク人指導者に率いられる、主権を有するイラク政府が統治。
(2)

米国の活動を総括するイラク調整官を任命し、大量破壊兵器の確保・廃棄、イラク軍再編、秩序の維持と抑圧体制の排除、国境および石油施設の防衛、人道支援、現行の限定的石油輸出による分配の再編、難民流出(トルコ、イランへ推定150万人)への対応などを速やかに開始する。


(3)

第二次大戦後の日独のような占領行政は不適当であり、正当性を持たない国外反体制派指導者達による臨時政府も避けるべきである。


(4)

エスニック集団の領域ではなく、世俗的な州の間の協力という、統合された連邦の枠組作成を促し、バグダードおよび各州に、国家および地方レベルの代表者と国外反体制派メンバーからなるイラク諮問委員会を設置する。


(5)

国連に監督されたイラク暫定統治の議会設置のための民衆レベルでの準備を開始する。


(6)

フセイン体制幹部の公職追放や起訴のための規準作成、戦争犯罪に対する法的手続きの整備を行なうイラク人の活動を、国際的に支援する。


(7)

イラク石油について、[1]イラク人の管理に委ねる、[2]初期の収入は石油産業の再建に充てる、[3]外国企業に公平で競争的な環境を整える、[4]石油収入はすべてのイラク人のために公平に分配するという4原則によるアプローチをとるべきである。

  1. 操業改善や油田開発に推定300〜400億ドルの投資が必要。
  2. 1990年以前の350万p/dの水準に戻すには、数十億ドルと数ヶ月を必要とする。

対イラク制裁後に交わされた契約の合法性は再検討しなければならない。武力行使以前の開発協定を調査する正当な、可能であれば国連から委託された法的枠組を事前に確立すべきである。


(8)

緊急の人道援助を除き、イラク復興には250〜1000億ドルが必要と推定される。

  1. 既存の石油輸出設備の補修に50億ドル、発電施設を1990年以前の能力に回復させるために200億ドルが必要と見られる。
  2. イラクの石油収入は年間100億ドル程度であるため、財政支援が必要であり、イラク統治は国連開発計画や世銀の計画と統合されたものでなければならない。
  3. イラクの対外債務は600億ドル以上であり、債務軽減のための債権者会議を開催し、債務返済・賠償金支払いの猶予を求める。

(Council on Foreign Relations and the James A. Baker III Institute for Public Policy of Rice University, http://www.cfr.org/pdf/Post-War_Iraq.pdf参照)



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2、CSIS:

A Wiser Peace: an Action Strategy for a post-conflict Iraq, Jan. 21, 2003.

(1)

暫定治安部隊の設置。


(2)

大量破壊兵器の確保と廃棄。


(3)

イラク軍再編(現在の35万から15万人程度に再編、再教育)。戦争犯罪容疑者の拘留。


(4)

国連安保理による暫定統治官の任命。暫定統治官は「脱バース党化」をおこなうとともに、既存の行政機構などを利用しつつ、国外反体制派や米国務省の「イラクの将来」プロジェクトに従事している有能なイラク人を閣僚に選定する。


(5)

国連による国民対話プロセスのための特別調整官(理想的にはイラク人)の任命。特別調整官は地方レベルで会議を開催し、それらの会議は新体制、新憲法、選挙日程、過去の清算などを討議する国民会議への代表団を選出する。


(6)

国際的な法律専門家からなる司法チームの設置。このチームは、イラクの司法機関を代替し、現行法および憲法を人権などに照らして精査するとともに、広報・教育などによって司法への信頼や法の支配、人権などを確立する。


(7)

国連による国際的な市民警察の組織。


(8)

イラクの石油収入を復興費のために用いる。復興費は初年で数百億ドル、全体で推定250〜1000億ドル。
債務・賠償金の免除・軽減のための協議を開始し、露仏中蘭・UAE・エジプトとの総額推定572億ドルの契約(主としてエネルギー・電信分野)の合法性を見直すメカニズムを確立する。イラクの対外累積債務620〜1300億ドル、湾岸戦争に関わる賠償金1720億ドル(注:日本政府の未回収債権は約60億ドル)。


(9)

効果的な人道および復興支援のため、制裁解除の作業を開始する。


(10)

米国は世銀、IMF、国連とともに、イラク復興支援ドナー会議を招集し、復興のための資金を早期に確保する。

(Center for Strategic and International Studies and the Association of the United States Army、http://www.csis.org/isp/wiserpeace.pdf参照)


(松本 弘)