【 イラク戦争−個々の事情を反映したアフリカ諸国の反応 】

 インドネシアなどイスラム教徒を多く抱える途上国において、2001年のアフガニスタン攻撃の際と同様に、米英などのイラク攻撃に対し抗議の動きが見られる。これは驚くに値しない。イスラム急進勢力が中心となって「米英対イスラム」という対立を煽り、穏健なイスラム教徒の連帯感に訴えている。ではアフリカ諸国はどうか。

 多くのサブサハラアフリカ諸国も今回の攻撃には反対の姿勢を示しているが、それは以下の三つの文脈による。第一に、スーダン、モーリタニアなどイスラム国において、上記と同様の文脈による民衆の抗議行動が目立つ。(ただしスーダンでは、当初の米国に対する抗議から、デモで学生が死亡したことをきっかけに自国政府への抗議に対象が移ってきている。)

 第二に、南アフリカではツツ大司教がモラルの問題を唱えると共に、ムベキ大統領は多国間主義をないがしろにするものであると主張する。また戦争による原油価格の高騰と世界経済の停滞はとりわけアフリカなどの最貧国に決定的なダメージを与えるとし、これによりアフリカで進められているNEPAD(アフリカ開発のための新パートナーシップ)プロセスへのダメージを指摘している。

 第三に、ケニアなどは戦争が自国の観光に与える影響を懸念している。98年の米国大使館爆破事件、昨年のイスラエル資本のホテル爆破によって既に観光業に打撃を被っているところ、今回のイラク戦争を前にテロリストの攻撃が懸念されるとしてケニアへの渡航自粛を米英政府が呼びかけたことも、ケニアの反感を買っている。

 なお米国は3月25日現在、安全上の理由から在南アフリカ、ナイジェリア、ケニア大使館を閉鎖している。

 他方、アンゴラ、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ルワンダ、ウガンダは公式に米英を支持しているが、これもそれぞれの国内事情及び近隣国との外交関係を反映している。例えばウガンダはOIC(イスラム諸国会議機構:Organisation of Islamic Conference)のメンバーである。だが国内北部で反政府活動を行う勢力(LRA:Lord's Resistance Army)がイラクと関係の深いスーダンに繋がっており、スーダン経由でイラクからLRAに武器が流れる可能性が完全には否定できない。また米国がウガンダに対テロ対策資金を供与し、LRAなどをテロ集団と米国が認定していること、さらに米国の圧力などによってスーダンがLRAに武器供与を停止したことなどが、ウガンダの米国支持の要因となっている。

 3月15日中央アフリカ共和国でクーデターが発生し、パタセ大統領は追放され反政府軍が首都を掌握している。この事件に対する国際社会の関心は皆無に等しい。国連はイディ・アミンの独裁体制及びルワンダの虐殺を放置し、あるいはタンザニアがアミンを打倒した際にも国連やアフリカ統一機構(OAU)による関与はなんら無かった。アフリカ大陸各地で長年発生してきた内戦に収束の兆しが見えてきたタイミングで起こったこのクーデターへの無関心と、現在WTOの農業交渉が先進国の抵抗によりデッドロックに陥っている現状に対し、多国間システムに対するアフリカのいらだちと幻滅が看取される。

(3月31日、渡辺松男)