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経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ 第6回「北朝鮮制裁違反事例にみる企業・研究機関のリスク管理」(竹内舞子 経済産業研究所コンサルティングフェロー/前国連安保理北朝鮮制裁委専門家パネル委員)

2022-06-03
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経済・技術安全保障の重要性の高まりから、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)では「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ」を開催しています。その第6回会合が2022年6月3日に開催されました。本会合では、2021年4月まで国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員としてご活躍されてきた竹内舞子氏(現経済産業研究所コンサルティングフェロー)をスピーカーとしてお招きし、「北朝鮮制裁違反事例にみる企業・研究機関のリスク管理」と題し、ご講演いただきました。

はじめに竹内フェローは、日本と北朝鮮との地理的近接性や市民間の文化的つながりなどから北朝鮮制裁に違反する行為に対して脆弱性が高いとのFATF対日相互審査報告書による指摘や、北朝鮮制裁違反の日本関連事案を紹介し、海外から見た日本の北朝鮮リスクは必ずしも楽観的なものではないと指摘しました。また、北朝鮮による制裁逃れの事案と傾向として、新型コロナ禍による国境封鎖で第三国に残された労働者等の就労、IT技術者やハッカーによる資金調達、外交官やエージェント等による物資調達、ならびにサイバー攻撃や共同研究を通じた技術移転について説明しました。さらに、アフリカや中南米での活動や、非国家主体および犯罪組織との関係性についても懸念する必要があると指摘しました。 次に、ウクライナ危機や北朝鮮の大陸間弾道ミサイル発射、新型コロナの感染拡大、対北朝鮮制裁安保理決議案の否決といった最近の事象がもたらしうる影響について解説がなされました。特に、過去には制裁決議が採択された大陸間弾道ミサイル発射実験に際して、今回安保理が決議の採択に失敗したことは深刻で、安保理決議のハードルが上がってしまった現在は、北朝鮮にとって核実験、特に小型化などの目的で前回より低出力の実験を行う好機になりうると指摘しました。また、北朝鮮での新型コロナ感染者の報告を受け、同国においてコロナ対策を理由としたさらなる人権侵害に懸念を示すとともに、他方でワクチン供給などの国際支援への北朝鮮の対応に変化があるかもしれないとも述べました。

最後に、日本企業・研究機関が北朝鮮制裁違反に巻き込まれるリスクについての解説とともに、政府や企業・研究機関が講じるべき取り組みについて提言がなされました。前者の具体例として、北朝鮮産品の間接調達、あるいは第三国の子会社や提携企業などを通じた北朝鮮への迂回輸出、オンラインプラットフォームを利用したIT関連業務や翻訳などのサービス調達で制裁違反に巻き込まれる可能性が挙げられました。また、カスタマーデューデリジェンス、従業員、研究員のスクリーニング実施にかかるリスクや、拡散上機微な専門知識をもつ退職者への対応といった課題も指摘されました。金融対策についても、マネーロンダリングや拡散金融、テロ資金供与のそれぞれ固有のリスクへの対応の必要性を述べるとともに、拡散金融分野と安全保障貿易管理分野における協働を、各分野の関係省庁が主導する必要性が述べられました。また、日本国内での処罰だけでなく米国による二次制裁が課されるリスクも鑑みると、制裁違反リスク管理の実施は極めて重要であると述べました。そして、これらを含む多くのリスクへの対応を民間の企業や研究所のみで行うのは困難であることから、政府においてはこれまで行われてきた決議の内容等についての情報公開に加えて、北朝鮮制裁違反事案に関するより具体的な情報開示や安保理決議で定められた措置の法制化・法執行が必要であること、さらに企業・研究機関における「みなし輸出」管理規制を単なる手続きに留まらず真に外国への機微情報の流出を防ぐ実効的なものにするためには、外国の影響下にある者の情報などが必要であり、政府が企業・研究機関を積極的に支援する必要があると論じました。

ご講演を受けて、当センターの髙山嘉顕研究員は、企業のサプライチェーンに北朝鮮労働者が組み込まれるリスクについてコメントを寄せ、企業や学術機関が取引の判断を行うために知るべき目安や情報はあるか、また、拡散金融などのリスクへの意識をどのように高めていくべきかという質問を投げかけ、議論を深めました。参加者とのQ&Aセッションでは、金融や資金調達などに関わる具体的な制裁違反事例のデータはどこから取得できるのか、北朝鮮への制裁をより実効的にするために取りうる方策は何か、米国の拡散金融とテロ資金供与対策の政策から学べることは何か、また、経済安全保障推進法が制定される中で北朝鮮の事例はどのように位置づけられていくのか等について質問が寄せられ、活発な議論が交わされました。