コラム/研究レポート

〔研究レポート〕朝鮮半島の「アド・ホックな米中協調」と台湾海峡問題

2021-10-28
倉田秀也(防衛大学校教授・グローバルセキュリティセンター長/日本国際問題研究所客員研究員)
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「中国」研究会 FY20214

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

なお、各研究会は、「研究レポート」とは別途、研究テーマ全般についてとりまとめた「研究報告書」を公表する予定です。

1. はじめに――米中対立のパッチワーク

米中対立は必ずしも全面的な対立ではない。確かに、台湾問題、南シナ海問題などでは妥協の余地は少ないが、2020年6月、ホノルルでポンペオ国務長官と楊潔篪中国共産党政治局員が会談したとき、スティルウェル米国務次官補は「中国と協調できる機会が次第に少なくなるなかでも明らかに協調が可能な分野」があると述べ、その一例として「北朝鮮問題」を挙げていた。過去米中両国は、4者会談、6者会談という多国間協議にみられるように、他地域、他領域で対立する問題にも拘わらず、あえて朝鮮半島に固有の問題については協調してきた。今日、台湾海峡での緊張のなかで、朝鮮半島での「アド・ホックな米中協調」はどのような挑戦を受けているのか。果たしてその枠組みはいまだに有効たりうるのか。

2. 4者会談提案と日米安保共同宣言――第3次台湾海峡危機

(1)デカップリングの原型

台湾海峡の緊張と朝鮮半島の平和体制樹立との関連で想起されるのは、1995年6月の李登輝中国国民党主席が母校コーネル大学を訪問して以降、96年3月の台湾総統選挙にかけての第3次台湾海峡危機である。中国は李登輝当選阻止のため3回にわたるミサイル演習を実施し、クリントン政権は「インディペンデンス」に加え、「ニミッツ」空母打撃群をペルシャ湾から台湾東方水域に急行させた。他方、朝鮮半島に目を転じると、北朝鮮は冷戦終結後、かねてからの米朝平和協定の主張をいったん取り下げ、1991年末に韓国と「南北基本合意書」を交わし、南北間の平和体制樹立のために努力することを誓約していた。しかし、北朝鮮は93年3月の核兵器不拡散条約(NPT)脱退宣言以降、対米協議が実現すると米朝平和協定の主張に回帰し、第3次台湾海峡危機と同時期、米朝平和協定に至る過渡的措置として米朝暫定協定を提案し、板門店での緊張を意図的に高めていた。

ここで指摘すべきは、1996年3月20日、台湾海峡での緊張が高潮するなか、孔魯明韓国外務部長官が訪中し、銭其琛外交部長、李鵬総理、江沢民主席と会談し、その直後の訪米ではクリストファー国務長官と会談をもったことである。さらに4月16日、クリントン大統領は済州島での米韓首脳会談で金泳三大統領とともに、「南北基本合意書」に従って南北間平和協定を締結するため、韓国、北朝鮮に米中両国を加えた4者会談を提案した。中国もまた、北朝鮮が中国を排する米朝平和協定を主張するなか、多国間協議のなかで軍事停戦協定の事実上の当事者として関与することを考えた。江沢民はこの提案について「建設的役割」を果たす用意があることを韓国に伝えてきたという。

この経緯からみて、孔魯明の訪中と訪米は4者会談提案の最終調整であったとみてよい。金泳三は後に4者会談提案の「20日前に江沢民主席に正文の書簡」を送ったと明らかにしたが、4者会談提案から20日遡ると孔魯明訪中にほぼ符合する。また、台湾海峡での緊張にもかかわらず、韓国と中国が平和体制樹立で協力するだけではなく、この問題では米中両国も協力しうることも示された。4者会談提案の2日後、クリストファーはハーグで銭其琛と会談をもつが、「中国の『建設的役割』が見込まれる4者会談について議論する」と述べていたのである。

(2)日米同盟への「アウトソース」

朝鮮問題から分離された台湾問題は、日米同盟の文脈に置かれた。済州島での米韓首脳会談の翌日、東京に飛んだクリントンは橋本龍太郎総理と日米安保共同宣言を発表し、日米安保条約6条事態への比重を明確にした。そこにその数年前の北朝鮮核危機に襲われた韓国は当然として、台湾海峡も含まれるかについて国内で論争も展開された。

日米安保条約第6条は在日米軍の基地使用に際しての事前協議制に関わるが、ここで想記されるのが、1969年11月、日米共同声明(佐藤栄作総理=ニクソン大統領)である。そこでは、「(佐藤)総理大臣は(中略)韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要であると述べた」とする「韓国条項」とともに、「(佐藤)総理大臣は台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとつて極めて重要な要素である」とする「台湾条項」が盛り込まれていた。

日米共同声明を受け、佐藤総理はナショナル・プレス・クラブでの演説で、事前協議について「前向きかつ速やかに態度を決定する方針」を明らかにしたが、「韓国条項」が1975年8月の日米共同新聞発表(三木武夫総理=フォード大統領)で「新韓国条項」として更新され、その後も「朝鮮半島条項」として日米首脳間で確認されたのに対して「台湾条項」は更新されることはなかった。日米安保共同宣言は「韓国の安全」と「台湾地域における平和と安全」には直接言及しなかったとはいえ、「韓国条項」と「台湾条項」を冷戦終結後の文脈に置き直す宣言であった。日米安保共同宣言に明記されたように、97年9月には日米防衛協力ガイドラインが改訂され、「後方地域支援」として「戦闘行動が行われている地域とは一線を画されている日本の周囲の公海およびその上空」での自衛隊の活動を規定したのに続き、98年4月には「周辺事態法」が整備され、日米間の物品役務相互提供協定(ACSA)も「周辺事態法」に準ずる形で改訂された。

3. 文在寅「韓半島平和プロセス」――王毅「双軌並行」との親和性

朝鮮半島の平和体制樹立が台湾問題とデカップリングされる構図はその後も続いた。ブッシュ政権の下、在韓米軍が北朝鮮抑止のみを担う「硬直性」から脱して「戦略的柔軟性」をもつべきとの議論が生まれ、在韓米軍の再配置計画にも着手された。これに対して盧武鉉政権は、在韓米軍がわけても台湾海峡に動員されることに強く反対した上で、その際には韓国との事前の協議の必要性を主張し、それは「盧武鉉ドクトリン」ともいわれた。在韓米軍の再配置計画とともに、米韓同盟が地域的任務をもつ方向性が謳われたことはあるが、それが在韓米軍の兵力構造に大きな変更をもたらしたわけではなかった。在韓米地上軍が再配置されても、在韓米海軍は依然として実戦部隊、固定艦船を擁していない。

 これは同時に、中国にも台湾問題などの他領域の問題とは切り離して、朝鮮半島固有の局地的問題に関与できる余地を生んだ。2016年2月に王毅が提唱した「双軌並行」は、北朝鮮の非核化と平和体制樹立という二つのプロセスを同時並行させる構想であるが、そこで王毅は中国が「建設的役割」を果たすとして、四半世紀前の4者会談提案に対して江沢民が参加を表明したときと同一の言辞で、朝鮮半島での平和体制樹立に関与する意志を示した。これに対して文在寅大統領は20年11月の王毅訪韓の際、「南北関係の発展にも建設的な役割を果たして下さることを希望します」と述べ、王毅も「この地域の各国も中米間でどちらか一方を選ぶよう迫られたくはない」と述べ、朝鮮半島に米中対立が波及することを懸念する韓国に配慮する発言を行った。王毅は米韓同盟が局地同盟に留まる限り、朝鮮半島固有の局地的問題で韓国と協力する余地があると考えたに違いない。

4. 日米「新台湾条項」と米韓「台湾条項」――二つの首脳会談共同声明

(1)日米「台湾条項」の更新

台湾海峡での緊張が高まるなか、2021年3月16日、東京でもたれた日米「2+2」(外務防衛閣僚会議)共同声明では、「閣僚は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」と謳われた。これが「台湾地域における平和と安全の維持」を日本の安全にとって「極めて重要な要素」とする「台湾条項」を念頭に置いていたことはいうまでもない。「韓国条項」とは異なり、1969年の日米共同声明以来更新されることがなかった「台湾条項」が半世紀以上の時を経て再確認されたことになる。

さらに4月16日、菅義偉総理はワシントンでバイデン大統領との首脳会談に臨み、日米共同声明を発表するが、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」として、その前段部分で日米「2+2」共同声明を踏襲した。「台湾条項」は半世紀以上を経て日米首脳間の共通認識として再確認されたことになる。日米「新台湾条項」(小谷哲男)と呼ばれる所以である。振り返ってみれば、佐藤総理はナショナル・プレス・クラブで、台湾海峡での武力衝突について「幸いにしてそのような事態は予見されない」と述べていたが、菅総理とバイデンはともに、「韓国条項」が更新を重ねた朝鮮半島よりも、台湾海峡での武力衝突の蓋然性が高いと認識していたに違いない。中国の武力行使によっては、その作戦領域は日本領内に及ぶこともありうる。それは「台湾条項」が前提とした在日米軍の基地使用を前提とする6条事態であると同時に、5条事態に該当しうる。

日米「新台湾条項」が「台湾条項」を再確認する以上、それは台湾海峡での武力衝突の際、米国の在日米軍基地使用と自衛隊の支援を含意する。中国がこれを牽制したのはいうまでもない。中国外交部の趙立堅発言人は、「必要なあらゆる措置を取り、国家主権を断固守る」とし、『環球時報』も「巻き込まれ方が深ければ深いほど、日本が支払うべき代価はそれにつれて大きくなるだろう」とする社説を掲げた。

(2)デカップリング失敗?

これに対して韓国は、台湾海峡の緊張にもかかわらず、朝鮮半島の非核化と平和体制樹立問題での中国の協力を求め、他領域の米中対立が朝鮮半島に波及しないよう努めていた。文在寅が2021年の新年記者会見で、中国とは「韓半島の平和増進のために協力しなければならない関係」であることを強調し、習近平主席の早期訪韓のために努力すると述べたのに続き、鄭義溶外交部長は4月初頭、厦門で王毅との会談に臨んだ。そこでは「多様な地域及びグローバルな次元の問題についても幅広く意見を交換した」というが、米韓首脳会談が予定されたその時期、王毅は鄭義溶に対して韓国が中国に敵対的な隊列に加わることを牽制したであろう。ソウルでもたれた米韓「2+2」の共同声明でも、中国への言及は避けられ、米国の北朝鮮政策の見直しに関する論議が多くを占めた。青瓦台の康珉碩代弁人によれば、米国側は「中国とは敵対的、協力的、競争的関係という複雑性があり、今後韓国と緊密に協議(中略)することを希望した」というが、ここで韓国は米国が朝鮮半島については、台湾問題をはじめ「敵対的」、「競争的」な側面が強い問題とは切り離して、「協調的」関係を形成するなかで、韓国が発言力をもつことを期待したであろう。

米中両国が、朝鮮半島での「アド・ホックな米中協調」を形成する意志は、アンカレッジでの米中外相級会談でも示された。米国からブリンケン国務長官、サリヴァン大統領安全保障担当補佐官、中国から楊潔篪、王毅らが参加するなか、台湾問題、新疆などの人権問題など多岐にわたる問題で激しい議論が交わされたが、ブリンケンは会談後、「イラン、北朝鮮、アフガン、気候変動で利害が交わる部分がある」と述べていた。

この文脈から、2021年5月の文在寅とバイデンとの米韓首脳会談の共同声明は確かに突出していた。ここで米韓両首脳は初めて「台湾海峡での平和と安全の維持の重要性」に言及したからである。中国との対立で「民主主義対専制主義」の理念の側面を強調するバイデンが、台湾海峡について文在寅の政治的立場を確認させ、文在寅もそれに応じたと考えてよい。米韓「台湾条項」が――日米「新台湾条項」とは異なり――当面、台湾海峡での武力衝突で在韓米軍の展開を意味するわけではない。

このことを中国も知悉していた。米韓首脳会談が共同声明を発表する直前、『環球時報』が掲げた社説は、「韓国が毒薬を飲まされるか注意すべき」とした上で「外交的均衡をとる点では日本より賢明」として、韓国を対中政策に組み込もうとする米国に批判を向けていた。趙立堅発言人も「関連国は台湾問題で言動を慎重にすべきで火遊びしないことを促す」として、韓国を名指しで批判することはなかった。

5.おわりに――韓国の対中関与の余地

振り返ってみれば、朝鮮戦争勃発と中国人民志願軍の介入で、朝鮮問題と台湾問題は連動していた。トルーマン政権は戦争勃発を受け、「台湾不介入宣言」を撤回して「台湾海峡の中立化」を図った。中国は人民志願軍を戦争に介入させることにより、台湾解放を先送りせざるをえなかった。しかし、冷戦終結後の4者会談にみられるように、米韓両国は朝鮮半島の平和体制樹立を台湾問題と分離して構想し、台湾海峡の「平和と安定」は日米同盟に「アウトソース」された。韓国が平和体制樹立に中国の協力を不可欠と考えれば、韓国が米中対立――わけても台湾問題――に「巻き込まれ」まいと考えたのは当然であった。他領域の米中対立にも拘わらず、韓国が朝鮮半島固有の局地的な問題で対中協力を推進できる余地は残されている。米韓首脳会談の前月、厦門で王毅と会談をもった鄭義溶は国会で、米韓首脳会談での共同声明について「過去中国に低姿勢外交をした後にユーターンして韓米同盟を強化した」と述べた。韓国が台湾海峡の緊張に拘わらず、朝鮮半島の平和体制樹立などの局地的問題で中国の協力を得るべく、鄭義溶がいう「低姿勢外交」に回帰することもありうる。




主要参考文献

『文在寅大統領演説文集(第4巻 上・下)』ソウル、大統領秘書室、2021年

『金泳三大統領演説文集(第4巻)』ソウル、大統領秘書室、1997年

「第387回国会(臨時会)外交統一委員会会議録(第1号)」国会事務処、2021年5月28日

青瓦台HP <http://www.president.go.kr/>

韓国外交部HP <https://www.mofa.go.kr>

『人民日報』/『人民日報(海外版)』/『環球時報』

中国外交部HP <https://www.fmprc.gov.cn/web/>

姜殿銘主編、粛敬・曹治洲・修春萍副主編『台湾1996』北京、九洲図書出版社、1997年

李永春「韓美首脳会談――給半島局勢和中韓関係理下隠患」『世界知識』総第1799期(2021年6月16日)

Department of State Dispatch

James Mann, About Face: A History of America's Curious Relationship with China, from Nixon to Clinton, New York: Alfred Knoph, 1999(鈴木主税訳『米中奔流』、共同通信社、1999年)

ホワイトハウスHP<https://www.whitehouse.gov/>

米国務省HP <https://www.state.gov/>

New York Times

小谷哲男「〔国問研戦略コメント〕新台湾条項――台湾と日本の安全保障 2021-05-11<https://www.jiia.or.jp/strategic_comment/2021-01.html>

倉田秀也「〔研究レポート〕朝鮮半島と『適正な』米中関係――対中関与の外交空間 2021-03-02」<https://www.jiia.or.jp/column/post-43.html>

____「『アド・ホックな米中協調』と北朝鮮――人権問題と『適正』な米中関係」令和2年度外務省外交・安全保障調査研究事業『習近平政権が直面する諸問題』、日本国際問題研究所、2021年

____「朝鮮半島平和体制樹立と中国――多国間協議なき対中関与の南北間格差」令和元年度外務省外交・安全保障調査研究事業『中国の対外政策と諸外国の対中政策』、日本国際問題研究所、2020年

____「北朝鮮『非核化』と中国の地域的関与の模索――集団安保と平和体制の間」『国際安全保障』第42巻第3号(2018年9月)

____「日米同盟の更新と日韓関係――リアリズムが復権するとき」『外交』第34号(2015年11月)

____「朝鮮半島平和体制問題と中国――北東アジア地域安全保障と『多国間外交』」高木誠一郎編『脱冷戦期の中国外交とアジア・太平洋』、日本国際問題研究所、2000年

Hideya Kurata, "Korean Peace Building and the Sino-US Relations: An 'Ad-Hoc' Concert of Interests?" The Journal of Contemporary East Asia Studies, Volume 8 Issue 1 (July 2019), etc.