出版

「国際問題」電子版 (ISSN:1881-0500)

| 3月 |
2019年3月 No.679
電子版
|
「移行期正義(transitional justice)」は、はじめ大規模な国家暴力を問題としていたが、次に戦争・内戦後の紛争解決と平和構築という文脈へと拡大され、現在では植民地支配に伴う不正義の追究・補償もその射程に入った。「移行期正義」は、いまや外縁がはっきりしない学際的なひとつの学問領域を構築していると言えよう。
それらの論点となる刑事訴追、真実委員会、補償、公的謝罪、法制度改革、記念物・追悼集会・博物館等のみならず、「不都合な過去」と向き合う際には政治的、司法的、経済的、心理学的な諸要素が多くかかわってくる。例えば、紛争後に過去の大規模な不正の補償を求める活動は、かえって不正義の起源となった集団間の境界の維持・強化につながる危険性もあり、歴史への執着はよき未来の構築を困難としてしまうかもしれない。「民主制(あるいは平和)と正義のトレードオフ」、あるいは「移行期正義のジレンマ」と呼ばれる問題が発生する理由はここにある。果たして、移行期正義の追及はこのジレンマを克服して、安定した民主主義と正義の相互補完的な(あるいは相互補強的な)過程となりうるであろうか。
本特集では、巻頭言で概念の意味について論じ、次に移行的正義の追及において国際機関が果たす役割に関する議論を展開する。その後、ポスト権威主義型、ポスト紛争型、ポストコロニアルといった移行期正義追及の3つの事例を選び、それらの課題と展望について論じる。