第7回東京グローバル・ダイアログ セッション1 不確実性時代の戦略的選択

セッション1『不確実性時代の戦略的選択』
本セッションでは、ダイアログ全体のテーマを俯瞰する形で率直な意見交換を行いました。冒頭、モデレーターを務めた佐々江理事長からは、ルールに基づく国際秩序を維持しつつ、現実のパワー・ポリティクスにいかに向き合うべきかとの問題提起がなされました。パネル討論では、全体を通じ、ルールに基づく国際秩序を支えるためには信頼性のある抑止力が不可欠である一方、抑止のみでは十分ではなく、国家・社会の強靱性、外交、責任ある負担分担、同盟・パートナー間の協力、継続的な対話を組み合わせる必要があるとの認識が、共通する論点として浮かび上がりました。
不確実性を前に悲観や諦観に陥るのではなく、先を見通す力を養い、国内改革を進め、能力を高め、同志国と関係強化を深める必要があるとの指摘がありました。米国の政策転換、中国の国力増大と威圧的行動、ロシアによるウクライナ侵略と北朝鮮・イランとの連携、北朝鮮の核・ミサイル問題、急速に進展する新興技術等、複数の変化が同時進行する中で、主要国やいわゆる「ミドルパワー」が自らの戦略的前提をどのように見直すべきかが議論されました。
米国については、衰退しているとの仮定は誤りであり、依然として経済、技術、軍事の各面で大きな力を有するが、その力の使い方や、国際公共財を提供する意思の変化、アメリカ第一の取引的外交姿勢が不確実性の要因であるとの指摘がありました。米国は欧州やインド太平洋から撤退しようとしているわけではなく同盟国自らの安全保障のために一層の負担を引き受けることを求めている、同盟国側もより大きな責任を持つ努力をしている、こうした役割分担強化の求めは機会の提供ともなっているとの指摘もありました。
法に基づく国際秩序は、原則を掲げるだけでは維持できず、信頼性のある抑止力と実行力によって支える必要があることも強調されました。同時に、ドローン、AI、サイバー・宇宙能力、データを活用した軍事システムや非対称的な技術が、戦争と抑止のあり方を大きく変えつつあること、また、偽情報、サイバー攻撃、経済的威圧、準軍事組織や海警による圧力などのグレーゾーン活動が、平時と有事の境界を曖昧にし、誤算の危険を高めていることも論じられました。このため、通常戦力・核抑止に加え、防衛産業基盤、技術イノベーション、経済安全保障、社会全体のレジリエンスを強化する必要性が強調されました。
同盟関係の強化、より公平な責任分担、欧州・インド太平洋の同志国連携拡大の重要性、ウクライナ、中東、インド太平洋の安全保障情勢は相互に連関しており、ある地域における紛争が、他地域の抑止力、軍事資源の配分、戦略的判断にも影響を及ぼすとの見方も示されました。日本、韓国、インド、豪州、カナダ等の同志国は、既存の多国間機関の抜本的改革を待つのではなく、防衛、先端技術、貿易、経済安全保障、海洋安全保障等の具体的な分野で協力を進め、実務的なルール形成により積極的な役割を果たし得るとの指摘がありました。
中国の台頭、台湾海峡をめぐる緊張、インド太平洋における軍事バランスの変化にどのように対応すべきかをめぐっては、登壇者の間で見解の相違も見られました。中国の通常戦力、核戦力、海洋・サイバー能力、準軍事的能力の拡大が地域の不安定性を高め、紛争の閾値を引き下げているとの懸念が示されました。一方で、米中間対話、外交、国際法、道義的な自制の重要性も強調され、「力による平和」だけでは十分ではないとの議論もありました。日本には、防衛力とパートナーシップを強化し、地域に戦略的空白を生じさせないよう努めるとともに、中国との関係を慎重に管理し、信頼性のある抑止と法の支配に支えられた安定的な地域秩序の維持に貢献することが求められるとの指摘もありました。
現在の戦略環境の変化は冷戦終結時を上回る規模のものであり、中国の台頭、ロシアによる侵略、新たな戦争形態、経済安全保障、米国の対外政策の変化が同時に進行しているとの認識が示された。とりわけ米国の関与の在り方が変化する中でも、インド太平洋に戦略的空白を生じさせないことが重要であると強調されました。また、北朝鮮の核・ミサイル問題、同志的なミドルパワー外交の重要性、人口動態、経済再均衡、気候変動・エネルギー転換等、今後の国際秩序を左右する構造的な諸要因に加え、米中対話や台湾をめぐる問題についても議論が及びました。
