ウェビナー要旨
- 日時:2026年3月23日(月)13:00~15:00
- 登壇者:
秋山 信将 司会(日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター所長)
奥田 将洋(「核不拡散」主担当)
川崎 哲(ピースボート 共同代表)
菊地 昌廣(きくりん国際政策技術研究所代表)
玉井 広史(日本核物質管理学会 メンター部会幹事)
戸﨑 洋史(広島大学平和センター准教授)
西田 充(長崎大学教授)
樋川 和子(長崎大学教授)
水本 和実(広島市立大学名誉教授)
有賀 海(日本国際問題研究所研究員、「核セキュリティ」主担当)
アルベサル・ティモテ(Timothée Albessard、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター特任研究員、「核軍縮」主担当) - 形式:オンライン(ウェビナー)
『ひろしまレポート』について−『ひろしまレポート-核軍縮・核不拡散・核セキュリティをめぐる動向』は、(一社)へいわ創造機構ひろしま「ひろしまレポート作成事業」の成果物として、事業を受託した(公財)日本国際問題研究所 軍縮・科学技術センターにより、平成24年度より取りまとめられてきた。広島県が平成23年に策定した「国際平和拠点ひろしま構想」に基づく事業である。『ひろしまレポート2026年版』は、4月10日の記者会見以降刊行予定。
実施報告
本ウェビナーは、現在の核問題が「核軍縮の停滞」と「核兵器の役割の拡大」を軸に大きく変容していることを示した。世界の核弾頭総数自体は減少傾向にあるものの、中国やロシアを中心に核戦力の近代化と増強が進み、配備戦力や運用面での強化が進展している。これにより、核軍拡は質的競争の段階へと移行している。また、核兵器は依然として国家安全保障の中核に位置付けられ、NATOやインド太平洋地域における拡大核抑止の再確認や強化の動きが見られる。一方で、こうした核依存の継続・強化は非核兵器国や非同盟諸国から強い反発を招き、国際社会の分断を一層深めている。
同時に、核軍備管理・軍縮体制は深刻な停滞に直面している。新START(戦略兵器削減)条約の失効に加え、NPT(核兵器不拡散条約)第6条に基づく軍縮義務の履行、FMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)交渉、CTBT(包括的核実験禁止条約)発効といった主要課題はいずれも進展が見られない。米国・ロシア・中国の間では、軍備管理の枠組みや参加条件をめぐる立場の相違が顕著であり、相互不信が交渉を停滞させている。こうした状況は、国際秩序の多極化や戦略環境の複雑化と相まって、従来の米露中心の軍備管理体制の限界を浮き彫りにしている。
核不拡散の分野では、イランと北朝鮮が引き続き主要な懸念である。イランは高濃縮ウラン、特に60%濃縮ウランの保有量を増加させており、核兵器取得への潜在的能力が高まっている。JCPOA(包括的共同行動計画)再建に向けた交渉は停滞し、米国とイランの立場の対立も解消されていない。さらに、イスラエルや米国による核関連施設への攻撃は、核不拡散体制や国際規範への影響という観点からも議論を呼んでいる。北朝鮮については、核保有国としての地位を明確にしつつ核・ミサイル開発を継続しており、地域の安全保障環境を不安定化させている。加えて、一部の国において核武装に関する言及が見られるなど、不拡散体制の信頼性にも揺らぎが生じている。
核セキュリティの分野では、脅威の性質が大きく変化している点が強調された。従来のテロリズムなど非国家主体による脅威に加え、国家が主体となり他国の原子力施設へ攻撃する事例が発生した。ウクライナの原子力施設をめぐる戦闘や、イランの核施設への攻撃はその最たる例である。また、ドローンやサイバー攻撃といった新たな技術的脅威が顕在化し、核セキュリティの対象範囲と対応の複雑さが増している。一方で、核セキュリティ・サミットなど従来の国際協力の枠組みは停滞し、規範と実際の行動との乖離が拡大している。
さらに、原子力の平和利用の拡大やSMR(小型モジュール炉)の開発進展により、核セキュリティや保障措置の対象は広がりつつある。医療分野などにおける放射性物質の利用増加も含め、核物質の管理や輸送に関する課題が重要性を増している。
こうした中で、核兵器の非人道的影響に焦点を当てた取り組みや核兵器禁止条約の進展も見られるが、安全保障上の現実との間で緊張関係が強まっている。総じて、本ウェビナーでは、核問題が「核軍拡の進行」、「軍備管理の停滞」、「不拡散体制の揺らぎ」、「核セキュリティ上の脅威の高度化」という複合的危機の段階にあることが示された。その上で、国際法の遵守、透明性の向上、核リスク低減、そして多極化した国際環境に適応した新たな対話と協力の枠組みの構築が不可欠であることが強調された。
