トランプ2.0が描く西半球

大澤傑(愛知学院大学文学部准教授)

トランプ2.0が描く西半球

「米国」研究会 CC2026-1号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

米国によるベネズエラへの強硬な行動は世界を驚かせた。当初は「麻薬運搬船」への攻撃に注目が集まっていたが、年が明けると早々にベネズエラ本土への攻撃とマドゥロ大統領夫妻の拘束が発表された。
米国のベネズエラへの態度は、2025年12月に発表された「国家安全保障戦略(National Security Strategy; NSS)」のなかで「西半球」に対する言及が多くなされたことを裏付けるかのようである。2000年代に入り、米国がラテンアメリカへの関与を縮小してきた点を考慮すれば、こうした「転換」は特筆すべきであろう。
では、トランプ政権が描く西半球の未来とはどのようなものか。NSSにおける「転換」と、今次のベネズエラへの姿勢は、その中でどのように説明できるのか検討してみたい。

新国家安全保障戦略の内容

第二次トランプ政権で発表されたNSSでは、過去の政権に比して、西半球に対する関与が強調された。第一次政権では、同文書(以下、NSS2017)における地域の登場順は、インド太平洋、ヨーロッパ、中東、南・中央アジアに次いで5番目(6番目(最後)はアフリカ)であり、記述も1頁に過ぎなかった。中国が同地域で影響力を増していること、中ロがキューバやベネズエラを支援していることへの言及はあったが1、その取り組みに対しては抽象的な内容にとどまった。
続く、バイデン政権で発表された2022年のNSSでも、西半球の登場順はインド太平洋、ヨーロッパに次ぐ3番目となったが、分量にして2頁しか割かれていない。「西半球における民主主義の発展と共栄」という節タイトルからも明らかなように、当時の政権が重視する民主主義的な理念に基づく連帯についての言及(およびコロナ対策)が主であった 2
そして、昨年12月に発表された第二次トランプ政権のNSS(以下、NSS2025)では、西半球がどの地域よりも先に登場し、約4頁の紙幅が割かれることとなり、副題には「モンロー主義に対するトランプの系論(The Trump Corollary to the Monroe Doctrine)」と銘打たれた。
節冒頭では、「米国は長年放置されてきたモンロー主義を再確認し、西半球における自国の優位性を回復するとともに、わが国の国土および地域における重要地へのアクセスを確保するため、これを実施する。米国は、西半球外の競争国が、同地域に軍隊その他の脅威となるものを配置したり、戦略的に不可欠なアセットを所有・支配したりすることを否定する。このモンロー主義への『トランプの系論』は、米国の安全保障上の利益に沿った、米国のパワーと優先事項の良識的かつ強力な回復策である」と述べられており、これまでとは異なり、地域への積極的な介入を想起させる。
その目的を達成するために、米国が掲げているのが「結束(enlist)」と「拡大(expand)」である。「結束」には、移民管理、麻薬対策、陸海における安全と安定の強化のための友好関係構築、「拡大」には、地域における新たなパートナーの育成と、自国が経済・安全保障の優先的なパートナーとなることが謳われている。
「結束」のなかでは、同地域への軍事的プレゼンスを再考する必要性について言及されており、①米州への脅威に対処するため、相対的重要性が低下した戦域から撤退し、世界的な軍事プレゼンスを再調整すること、②不法移民や人身取引・麻薬密輸を阻止し、危機時の主要輸送路を統制するための沿岸警備隊および海軍の適切な展開、③国境の安定とカルテル撲滅に向け、過去数十年に渡って失敗した法的な手続きに基づく戦略に代わる必要に応じた武力行使を含む重点的な展開、④戦略的な重要地域へのアクセスの拡大と確保に取り組むと述べられている。
「拡大」のなかでは、外部の競争相手が西半球に介入していることを踏まえ、米国の安全保障と繁栄の条件として、地域における自国の卓越した地位を維持する必要性が指摘される。そのために、敵対的な外部勢力の影響力縮小を、協力やあらゆる支援の提供条件とすること。その対象には、軍事施設・港湾・重要インフラの支配権から、広義の戦略的アセットの買収に至るまで多岐にわたることが示されている。そのうえで、金融と技術における米国の影響力を活かして各国に域外からの支援を拒否させたり、自国の製品・サービス・技術の優位性を発信したり、ラテンアメリカ諸国政府や企業と連携しながら米国の権益を守っていくことが主張される。さらにここでは、米国が主導する主権国家と自由経済の世界で生きるか、地球の裏側にある国々の影響下にある世界を選ぶかを各国に迫る記述も見られる3

新国家安全保障戦略の特徴

NSS2025で注目すべきは、主に、かねてからトランプ大統領が重視してきた移民管理と麻薬対策が強調され、ここに軍事的視点が含まれている点、および直接的な言及を避けながら中国のラテンアメリカ進出をけん制している点の二つであろう。なお、移民の管理については、「戦略」の章の「優先事項」の最初にも記されている。
第一次トランプ政権期の対ラテンアメリカ外交において重視されたのも、移民問題や麻薬問題であり、主たる対象は米国が直接影響を受ける北中米・カリブが中心であった。ベネズエラも、海を挟んで米国と接していることを考慮すれば、これらの対応は国土安全保障(homeland security)の一環であり、それはトランプ支持者に訴求するものである。つまり、NSS2025が描く西半球の未来は、支持者が望むものと重なり合っているのである。
もう一つNSS2025で新しいのは、明示を避けながらも中国のラテンアメリカ進出を明白にけん制している点である。この点は、NSS2017では西半球の節に中国(およびロシア)の介入に関する直接的な記述がありながらも、その対策が抽象的なものにとどまった点とは異なる。すなわち、NSS2017では中国を名指ししながら、具体策がなかった一方で、NSS2025では相手をぼかしながら、西半球へのプレゼンス向上を具体的に述べている点に違いが見られるのである。
2000年代に入り、テロとの戦いなどから米国はラテンアメリカ軽視を続けてきた。この傾向は、共和党政権であれ、民主党政権であれ、概ね同様であった。こうした空白を埋めたのが、台頭する中国だったのである。中国は同時期から対ラテンアメリカ関与を強め、2017年には一帯一路の「自然な延伸」としてその構想に同地域を含めるようになっている。米国の無関心をしり目に関与を続けた中国は、米国を抜き、いまやラテンアメリカの主要国との主たる貿易パートナーとなっている。加えて、同国による港湾をはじめとする交通インフラの所有や情報通信技術の拡散などは、米国の安全保障上の脅威にもなっている。CELAC(ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体)などの地域機構への関与や軍事交流も深まっており、中国のラテンアメリカ進出は政治、経済、軍事などあらゆる面で進んでいる4
 しかし、第一次トランプ政権でも、バイデン政権でも米国のラテンアメリカへの関心が高いとは言えなかった。それが第二次トランプ政権に入って「転換」した点は重要である。

トランプ版モンロー主義(ドンロー主義)が目指すものは何か

第一次政権期においても、モンロー主義を肯定する発言が政府高官からなされていたが、任期中のトランプによるラテンアメリカ訪問はブエノスアイレスで開催されたG20に参加した一度きりであった。
ただ、同政権においてもキューバやベネズエラなどの反米左派政権への厳しい制裁、NAFTA(北米自由貿易機協定)の見直し、米州開発銀行への介入など、自国の利益に関する点には強硬であった。
当時はラテンアメリカ地域への、特に情報通信分野への中国の関与に対する懸念も高まっており、2020年には中国系企業を各国から排除するために「クリーンネットワーク計画」が発表された。しかし、その後、トランプは再選を果たすことができなかった。
続くバイデン政権では、ラテンアメリカを「裏庭」ではなく「前庭」と表現し、民主主義的価値と対等性を重視した対ラテンアメリカ政策がとられるも、地域の文脈を無視した価値外交は奏功せず、ラテンアメリカ諸国を振り向かせることはできなかった5
こうした中、船出を迎えたのが、第二次トランプ政権である。トランプ大統領は、就任早々にマルコ・ルビオ国務長官に中米・カリブ諸国を歴訪させ、パナマ運河に対して、中国の影響力を排除するよう試みた。
その後、ベネズエラの「麻薬運搬船」への攻撃、そして大統領拘束が次々と実行された。2019年から米国はウゴ・チャベス大統領から反米権威主義を継いだマドゥロ政権を承認してこなかったが、マドゥロ拘束に際して、トランプは「政権交代まで米国がベネズエラを運営(run)する[UA1.1][傑大1.2][傑大1.3]」と述べた。
留意すべきは、トランプ自身がベネズエラに言及する際には、民主主義などの価値よりも石油を中心とした自国の利権に関する点が目立つことである。ベネズエラへの侵攻は、1989年末に発生したパナマ侵攻との類似点が指摘されるが、今回のトランプ政権によるベネズエラ介入は、民主化によってベネズエラを安定化させるよりも、麻薬の流入を抑えつつ、資源を確保するためといえるかもしれない。
以上から、トランプ版モンロー主義とは、西半球全体を価値に基づいて管理するということよりも、自国の国土安全保障、そして経済的利益に影響する諸国に対する強硬な関与を正当化するもののようである。こうした点からみれば、むき出しの自国利益の追求というトランプ外交の本質6はトランプ1.0から変わらない。むしろトランプ2.0になり、その傾向は先鋭化している。こうした中で実行されたベネズエラへの武力行使は、過去の政権の政策を「失敗」として断罪しつつ、(内部で様々な議論はあれど)支持者に訴求するものとして位置づけられよう。

今後の展望

ここまでNSS2025とベネズエラへの関与を通じて、トランプ政権による西半球政策を検討してきた。現状では、トランプ版モンロー主義とは、自国の利益に基づいて西半球への介入を強硬に推進するための指針であるといえよう。このことは、かつてセオドア・ルーズベルト大統領が1904年にモンロー主義への「ルーズベルトの系論」を通じて、当初は米大陸への欧州の干渉を拒否するものであった同概念を修正し、米大陸への介入を正当化したことと重なり合っている7
ベネズエラへの軍事介入を受け、国際社会では米国を批判する国と支持する国、そして態度を鮮明にしない国に分かれている。中ロが米国を批判していることから、ベネズエラと関係が深かった両国の態度を踏まえ、世界が陣営化しているかのようにこの問題を見る向きもある。
しかし、ラテンアメリカ諸国の米国に対する姿勢は一様ではない。昨年12月に開催予定だった米州首脳会談をドミニカ共和国が延期したように、ラテンアメリカ諸国は米国の地域に対する強硬な姿勢に不信感を抱いている8。エルサルバドルのブケレ政権やアルゼンチンのミレイ政権など、トランプ政権にすり寄ることで権力を維持しようとする例もあるが、ほとんどのラテンアメリカ諸国は米中対立を利用することで、そこから利を得ようとしている。さらにいえば、ラテンアメリカ諸国は地域の自律性を奪うような米国の介入を嫌う傾向にあり、実際、米国が強引に推し進めようとした計画の多くは頓挫してきた。こうした点を踏まえれば、米国によるベネズエラ「運営」、さらにはトランプ版モンロー主義がうまくいくかは不透明である。米国は、NSS2025のなかでも自国とラテンアメリカ諸国との結びつきの強さに自信を見せているが、トランプ政権による強硬な介入が、ラテンアメリカ諸国と中国との関係強化を加速させるとの意見もある9。過去とは異なり、ラテンアメリカでは中国の影が濃くなっているからである。
元々、モンロー主義は、西半球への欧州の関与をけん制する意味で使われてきたと同時に、欧州に干渉しない宣言でもあった。NSS2025には「米国が世界の秩序を支える時代は終わった」とも述べられている。もしトランプ版モンロー主義が、かつてのモンロー主義と同様に自らの勢力圏外への関与を控えることも意味するのであれば、日本にとっては厳しい内容となろう。NSS2017では西半球における懸念事項として中国の進出を明記していたことに対して、NSS2025ではそれを控えていること10 、さらには世界的な軍事バランスの再調整について言及していることは、トランプ2.0は中国と国際秩序管理を線引きする構想すら持っているのかもしれない。



1 The White House, National Security Strategy of the United States of America, December 2017.
2 The White House, National Security Strategy of the United States of America, October 2022.
3 The White House, National Security Strategy of the United States of America, December 2025.
4 大澤傑「ラテンアメリカにおける米中対立の展開―離れる米国、近づく中国」佐橋亮・梅川健編『トランプのアメリカ—内政と外交、そして世界』東京大学出版会、2025年、229-240頁。
5 同上。
6 佐橋亮「トランプ外交とは何か―米中対立と国際秩序の将来」佐橋亮・梅川健編『トランプのアメリカ—内政と外交、そして世界』東京大学出版会、2025年、125頁。
7 文脈は違えど、奇しくも、その発端もベネズエラ問題であった。
8 Adam Ratzlaff and Diana Roy “The U.S. Can’t Talk to Its Neighbors Anymore,” Foreign Policy, December 4, 2025, https://foreignpolicy.com/2025/12/04/us-latin-america-trump-summit-americas-dominican-republic/.
9 Oliver Stuenkel, “Trump Can’t Bully Latin America Without Consequences,” Foreign Policy, January 28, 2025, https://foreignpolicy.com/2025/01/28/colombia-us-petro-trump-deportation-flights-migration-tariff-threats/.
10 NSS2017は、第一次政権が発足した年に発表されたこともあり、トランプ大統領自身が内容を把握していないのではないかという批判があったのに対して、NSS2025は、二期目に公開されたことを踏まえると、その内容もより大統領の意向に沿っている可能性があるといえるかもしれない。NSS2017については、森聡「2017年国家安全保障戦略にみるトランプ政権の世界観」日本国際問題研究所編『トランプ政権の対外政策と日米関係』2018年、29-36頁。