
1.はじめに
幕末・明治初期、在日英公使を務めていたパークス(Harry Smith Parkes)は、日本の政策に大きな影響を与えた人物である。筆者は現在、日本国際問題研究所領土・歴史センターの「『領域』概念の歴史的変遷研究会」の委員として幕末・明治初期の樺太境界画定交渉を研究しており、その交渉過程においてパークスが日本に与えた影響も検討対象としている。
パークスに関連する史料を収集するために、2025年8月31日から9月8日にかけて、英国のケンブリッジ大学図書館(Cambridge University Library)、国立公文書館(The National Archives)、大英図書館(British Library)を歴訪した。ここでは、ケンブリッジ大学図書館について取り上げ、施設や史料へのアクセス方法や、注意点などを記しておきたい。
2.ケンブリッジ大学図書館の概要・アクセス・宿泊施設・周辺環境
【概要】
住所:West Road, Cambridge, CB3 9DR, UK
開館日時:月曜から金曜9:00-19:00、土曜9:00-16:45、日曜休館
ホームページ:https://www.lib.cam.ac.uk/
【アクセス】
ヒースロー空港からバスなどでケンブリッジに直接移動することもできるが、今回はロンドン中心部を経由した(ヒースロー空港からロンドン中心部への移動方法については省略する)ケンブリッジに停車する電車は、映画ハリーポッターの舞台として有名なロンドンのキングスクロス駅から出ており、Great Northernに乗ると、便にもよるが1時間ほどでケンブリッジに到着する。チケットは、事前にオンラインで予約と支払いを済ませておけば、メールでeTicketが送られてくる。車内での検札の際には、このeTicketを端末で表示すればよい。車内には大きな荷物を置くスペースがあり、窓側席に座るとコンセントが利用できる。朝の早い時間に移動したためか、車内は比較的すいていて、駅で調達したと思われる朝食をとりながら移動している人が多かった。ケンブリッジ駅からケンブリッジ大学図書館への交通手段としては、バス、タクシーも利用できるが徒歩でも15分程度で、今回は荷物も少なかったため徒歩で移動した。
今回、移動手段を調べるためにTfL Goというロンドン交通局の公式アプリを利用した(TfL: Transport for London)。目的地を入れると、複数の移動手段や出発時刻が列挙され、地下鉄の一部など電波が届かない場合を除いて現在地も表示されるため、迷うこともなく大変便利であった。

(キングスクロス駅構内の様子)
【宿泊施設・周辺環境】
宿泊したのは、Gonville & Caius CollegeのB&B、Harvey Court Building (https://www.cai.cam.ac.uk/bedrooms/harvey-court) で、街の中心部からは少し離れているが大学図書館から徒歩5分の距離にあるため、図書館の開館時間に合わせて入館し、閉館ギリギリまで滞在するには最適の施設であった。通常のホテルとは勝手が異なるが、Porters’ Lodgeが建物のすぐそばにあり、チェックインやチェックアウト、チェックイン前の荷物の預かりなどの対応をしてもらえる。部屋はWi-Fiがつながり、大きなデスクもある。

( Selwyn College外観)

街の中心部やローターパクト国際法研究センターも、図書館や宿泊施設からの徒歩圏内にある。今回は幸運にも研究者仲間が留学中であったため、街の中心部を案内してもらったり、ローターパクト国際法研究センターで国際法研究者とのティータイムに参加させてもらったり、カレッジのバーを訪れたりすることができたのは、大変に貴重な経験であった(右写真)。
3.パークスペーパー(Parkes Papers)の利用方法
今回利用した、パークスに関係する史料のコレクション、パークスペーパー(Papers of Sir Harry Parkes: Parkes Papers)は、ケンブリッジ大学図書館3階のManuscripts Reading Room (https://www.lib.cam.ac.uk/collections/departments/archives-modern-and-medieval-manuscripts-and-university-archives/visiting) に所蔵されている。
【事前準備】
このコレクションを利用するためには、通常のケンブリッジ大学図書館の利用申請に加えて、Matheson and Co. Ltdへの利用申請も必要となる。
大学図書館自体の利用申請は、大学図書館のHPからオンラインで事前に行う。イギリスの他の施設利用の際にも求められることがあるが、日本からの来訪者にとっては「現住所の証明」がハードルとなる。英文証明を発行しない自治体に居住する場合、国際免許証が一つの証明手段である。
Matheson and Co. Ltdによる利用許可申請の際には、図書館のHPからオンラインでも入手できる申請書に、申請者が所属する機関が作成した紹介状(written reference)を添付する必要がある。筆者の場合、所属大学における職位や採用日、史料利用の目的、予算の出どころなどの情報を、所属長名義で証明する内容の書類を作成した。メールにデータを添付して申請することができ、筆者の場合は申請から10日ほどたってから、許可が出た旨のメール連絡を受け取った。
パークスペーパーは全体の史料の数が多く、数日程度の滞在では全ての史料を入手することが難しいため、後述するオンラインカタログを参照しながら事前に入手すべき史料をリストアップしてから来訪すると効率的に史料収集できる。5点までは、事前に申し込みをしておけば、訪問日時に合わせて準備しておいてもらえるため、すぐに閲覧を開始したい場合は事前申込をしておくと時間の短縮になる。
【利用上の諸注意】

大学図書館に到着したら、入口のReader Services Deskにて写真付きIDを見せ、予めオンライン申請をしておいた利用者カードを受け取る。入館前に、ロッカーに荷物やコートを預ける必要があるが、必需品については準備されている透明な袋に入れて持ち込むことができる(写真は大学図書館の内部)。
図書館内には複数のパソコンが設置してあり、所蔵資料の検索が可能である。
パークスペーパーは、上述したように、3階のManuscripts Reading Roomで閲覧することができる。持込許可品は、大学図書館自体よりもさらに制限されており、鉛筆・パソコン・カメラ(音のしないハンディーサイズのもの)などごく限られたもののみである。図書館入口で持ち込んだ透明の袋も持ち込むことはできず、この部屋への持込許可品以外を持っている場合は、改めて廊下のロッカーに預ける必要がある。
開室時間は、月曜日から金曜日までは9:30から18:50 まで、土曜日は9:30から16:30 までと、図書館自体の開館時間より短い点に注意する必要がある。
事前にメール連絡を受けていたが、室内は冷房が相当に効いている。史料保存のためだろうか。コート等の室外着は着用できないためセーターやひざ掛けなどで防寒することになるが、それでも筆者自身は寒く感じた。(が、半袖の人を見かけた時には、海外にいることを実感した)
事前に申し込みをした史料以外は、一点につき一枚の申請書を記入し、カウンターに提出する。30分から1時間ほどで準備が整い、閲覧できるようになる。一つのボックスにまとまっている史料は、一つの束ずつではあるものの自由にそのボックスから取り出したりしまったりできるが、それ以外の史料は、一つ終わるごとにカウンターでサインをして返却した上で、新しい史料を受け取らなければならない。この手間が面倒といえば面倒であった。
史料は撮影が許可されているため、筆者はデジタルカメラで撮影をし、随時クラウドとハードディスクに保存した。
【所蔵史料】
Parkes Papersは、香港、中国、日本で集められた膨大かつ雑多な史料群であり、日本の政府関係者やイギリス本省の要人を含む様々な人物と交わした手書きの書簡、個人的なメモ類、地図など、多岐にわたる。大多数の史料は英語であるが、稀にフランス語のものも見られる。収められている史料の概要は、オンラインカタログで確認することができる (https://archivesearch.lib.cam.ac.uk/repositories/2/resources/13389)。ただし、オンラインカタログでは、例えば書翰について、誰から誰に宛てられたものかは書かれていても、それが何についてのものであるかが書かれていないことも多く、その内容は実際に史料を読んで初めて判明する。パークスペーパーの一部の史料は、Stanley Lane-Poole and F.V. Dickins, 'The Life of Sir Harry Parkes' (2 vols; London, 1894)に掲載されている。
手書きの資料については、解読困難なものも多い。他者が読むことを想定した文書や清書されたものは比較的読みやすいが、個人的なメモ類は、それぞれの筆者の筆跡に慣れていなければ解読は相当に難しい。
史料の保存状態は、おおむね良好であるが、一部の史料は破れたり欠損したりしており全てが閲覧できないものもある。史料の状態が良くない場合には、その旨がオンラインカタログに記載されている。
今回収集した史料の内容は精査しているが、領域に関連する史料としては、「琉球」に関する史料を何点か収集することができた。ただ、今回同時に訪問したイギリス国立公文書館の史料の方が、同じ手書きであっても圧倒的に読みやすく、また関連するものが多く見つかった。
4. おわりに

昨今、多くの史料のデジタル化が進み、以前は海外に行かなければ入手できなかった史料もオンラインで比較的容易に入手できようになってきた。しかし、今回の史料のように、実際に現地に足を運ばなければ閲覧できない史料がいまだ多数存在している。
筆者は、今回初めてイギリスの図書館や公文書館を訪問した。どの施設もホームページが充実しており、施設の概要からオンラインカタログまで、事前に多くの情報を得ることができた。今回訪問した複数の施設で、アーキビスト達に史料の集め方に関する細かい質問をしたが、どの質問に対しても、アーキビスト達が実に的確にかつ丁寧に回答してくださり、その専門性の高さには大変驚かされた。そのおかげもあり、短期間の滞在ではあったが、有意義な史料収集となった。