【読売新聞社との共同世論調査論考】「身近な安全・安心」を志向する日本人

石井正文(JIIAプラットフォーム・マネージングディレクター)

【読売新聞社との共同世論調査論考】「身近な安全・安心」を志向する日本人

国際問題研究所は、「国家戦略」を議論するプラットフォーム事業の一環として、読売新聞社と共同で世論調査を行った。今般その結果がまとまったので、そこから見えてくる「国のありかた」に対する世論の現在地について、印象深い点に限り、以下論じることにしたい。

調査の目的

この世論調査実施の目的は、第一に、日本国民は日本の現状と人口減少を含む将来見通しに対して不満や不安(危機感)を持っているのかどうかを確認することにあった。そもそも日本国民の間に国の在り方や資源投入のプライオリティについて、現状に大きな不満が無く、将来に対しても大きな不安がないのであれば、いくら声高に「痛みを伴う現状改革」やプライオリティ付けの変更を伴う「国家戦略」の必要性を論じても、正に「独り相撲」の誹りを免れないだろう。

第二の目的は、現状や将来への不満と不安の存在を前提として、日本という国の在り方についてどのような方向を目指すべきか、そのために身を切る改革が必要な場合には、どのような改革ならより抵抗感が少ないのか、についての具体的感覚を得ることにあった。もちろん、質問は30問を少し上回る程度であり、サンプル数についても、年代別傾向の把握も含めて、有意な結果を得るには十分であるものの、ある程度限定されたものではある。

なお、ここに著者なりの簡単な分析は示したが、以上の目的に照らし、世論調査の結果が我々に何を示しているかは、実際の回答結果を見て、皆さん自身で咀嚼していただくのが一番である。なぜなら、皆さんに「国家戦略」の必要性と論点について関心と知識を増やしていただくことも、この世論調査の大きな目的だからである。

「身近な安全・安心」を志向する日本人

そう申し上げた上で、まず第一の印象は、「危機感はある」ということだ。将来の課題に関心があると言う回答は9割を超え、性別・年代を問わず極めて高く、人口減少を深刻だと捉える回答の割合も9割を超える。この世論調査(郵送)の送付先は、実際の年代構成を反映した3000の無差別抽出サンプルだが、2000人以上から回答があり、回収率は7割弱で、この種の世論調査としては異例の高さらしい。世論調査実施のタイミング(1月19日―2月26日)が結果として解散総選挙のタイミングと重なったこともこの高い回答率の背景にあるのかもしれない。

ただ、何に不安を感じるかについては、全てが生活に直結する「身近な問題」に集中している。不安のトップは年金制度の崩壊、次に大規模災害、増税、医療サービス低下で、外国との武力衝突、サイバー攻撃、テロの危険増大、感染症、重要鉱物の調達危機等の順位と比率は低い。

どのような国を目指したいのかについては、世界トップレベルの「治安」「技術力」「社会福祉制度」など、身の回りの安定と安全は重視するが、「国際社会での影響力・発言力」や「経済力」を重視するのは、3割程度であり、文化振興は2割を切る。ちなみに、今後生産性の向上などに不可欠な「実力を試せる競争重視の国」を選んだのは最下位の4%に過ぎない。

日本が世界水準であって欲しい分野には「幸福度」「医療・創薬」「食文化」「交通機関の信頼性」等身近な問題が上がるが、一人当たりGDPについては37%で若年層において高く、一定の理解があったのは希望が持てる。

日本が国際社会で主導的な役割をはたしてくべきものは、「法の支配に基づいた国際秩序維持や公正な貿易・投資」「環境対策」が上位を占める。医療保険分野での国際貢献は思いのほか高いが、途上国・新興国への経済協力は、予想通り非常に低い。

少し乱暴かもしれないが、以上をまとめると、危機感はあるものの、求めるのは「身近な安全・安定」であり、その実現のために「身銭を切って苦労する」つもりは(分野を限れば可能性はあるが)一般的には余り無い、という傾向が見て取れる。

必要性に応じた外国人材受け入れ

第二の印象は、「外国人材」受け入れに対するハードルは思ったより低い、ということである。

日本経済成長のための外国人材受け入れの方策を聞いたのに対して、「専門人材の受け入れ」と「専門性に拘わらず幅広く受け入れる」という意見の合計は5割を超えるが、増やす必要が無い、という意見は15%を切る。専門人材受け入れのための条件改善(待遇・環境)に対しては、「どちらかと言えば賛成」を含めれば、賛成は7割以上だ。一方、「定住」を前提とした「移民」受入に対しては、反対が5割を超える。

要するに「移民」という言葉の持つイメージに反対が引っ張られているのでは無いか。これを踏まえれば、現実的必要性が厳然と存在しているにも拘らず(日本の遠洋漁業は外国人人材無しには最早成り立たないし、道路工事、建物解体、飲食業なども同様な状況である。)国民の「アレルギー反応」を理由に、政治が本能的に「移民問題」に向き合うことを避けてきた(又は、移民反対を煽ってきた)状況は早急に改められるべきであり、「必要性」に応じた冷静な外国人材受入れの議論を活性化すべきだ。少なくとも、専門人材の受入とその待遇改善は、これから日本が生産性を高め一人当たりGDPを増加させていく上では、避けて通れない課題である。

防衛分野における「総論賛成・各論反対」

第三の印象は、防衛分野での「総論賛成・各論反対」の傾向の継続に注意すべきことである。 防衛力強化への賛成は74%なのに、そのために必要な防衛費増額になった途端に賛成は58%に落ちる。その財源は、他の経費の削減が40%で、増税への支持は7%に過ぎない。

「防衛装備品の輸出規制緩和」については、反対が60%と、未だに極めて高い。これは自民党支持層でも同じである。

非核三原則については、その変更への反対が多いのは予想通りだが、興味深いのは、三原則のそれぞれの変更について質問したのに対し、「持ち込ませず」の変更への反対が84%と一番多く、「持たず」の変更への反対が(79%と高いが、比較的には)一番少ないことである。この含意はもう少し分析が必要かもしれない。

一方、大学や民間の先端技術を防衛目的に使用することへの賛成は、2年前の前回調査(75%賛成)からは少し減ったとはいえ70%と引き続き高い。

今後高市政権は、与党内で比較的支持の多い防衛費増大とその財源明確化、防衛装備品輸出規制緩和、更には、非核三原則の取り扱いに踏み込んでいくことが予想されるが、思った以上に政権の体力を使うことになるかもしれない。


以上は、今回の世論調査の結果に関するとりあえずの分析結果である。この調査結果については、本年7月に実施予定の国際問題研究所主催「東京グローバル・ダイアローグ」でも取り上げて議論する予定である。また、今後国家戦略を巡る議論がより具体化するにつれて、より具体的問題について世論の反応を見定めることが必要になることが予想されるが、その場合には、再びこのような世論調査を、定点観測のために大部分の質問は維持する一方で、異なる質問を「追加」する形で実施することも検討していきたい。