国問研戦略コメント(2026-12) トランプ2.0時代の中国外交(2)――対米関係の安定化と国際協調へのコミットメントの行方
飯嶋佑美(日本国際問題研究所研究員)

「国問研戦略コメント」は、日本国際問題研究所の研究員等が執筆し、国際情勢上重要な案件について、コメントや政策と関連付けた分析をわかりやすくタイムリーに発信することを目的としています。
2025年の総括から2026年の重点
2025年12月30日に中国・北京市で開催された「2025年の国際情勢と中国外交に関するシンポジウム」において、中国共産党中央政治局委員兼外交部長の王毅は2025年の中国外交を総括し、「中国と世界の関係はより積極的な方向へと発展しており、中国の国際的影響力、イノベーションを牽引する力、道義的な感化力が著しく高まっている」と述べた。また、「今日の中国外交が落ち着きと自信を持って、荒波を乗り越えて前進できているのは、習近平主席が舵取りをされていること」などが背景にあると説明した。トランプ2.0の始動も相まって国際情勢の不確実性が増した2025年に、中国にとっては、米国の圧力に真っ向から抵抗し、結果的に米中関係を比較的安定した状態に管理できたことは大きな外交的成果であろう。
経済力や戦略的不可欠性に裏付けされた外交力に自信を深めている中国は、第15次5カ年計画の1年目にあたる2026年において、外交面でさらなる成果を上げることを掲げている。2026年3月の全国人民代表大会での王毅外交部長の記者会見では、2026年に控えている外交行事として習近平主席が国内でゲストを迎えること、APEC首脳会議や第2回中国アラブ諸国首脳会議を中国で開催すること、複数の重要な外遊を行うことが言及された。前述のシンポジウムでは、特定の国や地域としては大国(米国、ロシア、欧州)、周辺諸国(ASEAN)、グローバル・サウス(BRICS、アフリカ、アラブ諸国、ラテンアメリカ)との関係をさらに発展させること、イシューとしては対外開放と協力(一帯一路推進、WTOを中心とした多国間貿易体制の維持、APEC議長国の役割を全う)、グローバル・ガバナンスの改革と改善に取り組むことなどが具体的な指針として言及されている。
米中関係の安定:対米国で強さを維持できるか
前述の通り、中国外交にとって2026年の重点の1つは、対米関係の安定であると言える。中国は、2025年に安定化させた対米関係を2026年も維持することに腐心しており、米国が1月にマドゥロ・ベネズエラ大統領を拘束したことに続き、イスラエルとともにイランを攻撃したあとも、その方針を変更させていない。上述の3月8日に実施された王毅外交部長の記者会見でも、米中双方が努力し、誠意をもって交流すれば、「2026年を米中関係が健全かつ安定的で持続可能な発展へと向かう象徴的な年とすることができるだろう」との前向きな見通しを示している。
2026年の1回目の首脳会談の機会となるトランプ大統領の中国訪問は、3月下旬から4月初旬にかけて予定されていたものの、イランへの軍事作戦を開始した米国側の事情により5月中旬に延期された。予定されていた米中首脳会談の地ならしとして2026年3月に行われたフランス・パリでの米中閣僚級会合では、貿易管理のメカニズムを創設することなどが協議されたが、5月に予定される米中の首脳会談では通商問題や台湾問題に限らず、中東情勢についても議題に上ることは必至だろう。
イラン攻撃に対して、中国は即時停戦と対話による政治的解決を呼び掛ける一方、友好国であるイランを直接的に支援することもなく、対米関係の重視から米国への非難のトーンを抑えている。トランプ大統領によりホルムズ海峡への艦船派遣を期待する国として名前を挙げられた際も、具体的な行動についての明言を避けた。中国の原則的立場としては、①主権の尊重、②武力の不行使、③内政不干渉の堅持、④懸案問題の政治的解決、⑤大国が建設的役割を果たし、善意をもって力を行使することを表明するに留めている。
中国は情勢から一定の距離を置きつつも、関係各国とのコミュニケーションを密に図っている。米国とイスラエルの共同攻撃以降、王毅外相がロシアやイラン、サウジアラビア、エジプト、トルコ、パキスタンなどの外相と電話会談を実施している。米国・イスラエルとイランの仲介を担っている旨を表明したパキスタンのダール副首相兼外相とは、3月27日に電話会談に応じてパキスタン側が引き続き仲介役としての役割を果たすことを支持しただけでなく、31日にダール副首相を北京に招いて会談し、共同で湾岸・中東地域の平和と安定を回復するための5項目の提案(①敵対的行動の即時停止、②和平交渉の早期開始、③非軍事目標の安全確保、④航路の安全確保、⑤国連憲章の優位性確保)を発表し、中国はパキスタンと緊密に連携していくことを表明した。
加えて、2019年より中国政府中東問題特使を務める翟隽を中東に派遣している。翟隽特使は列車で中東各国を訪問し、湾岸協力会議(GCC)事務総長やアラブ連盟事務総長、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、クウェート、エジプトの外相と面会した。国内でも、駐中国イラン大使、イスラエル大使、ロシア大使、GCC諸国の使節団と会談し、意見交換を行っている。
中国が関係を強化してきた中南米や中東地域に米国トランプ政権が力による介入を見せたことにより、中国の影響力が削がれた側面がある一方で、米国のインド太平洋地域への回帰の遅れや米国政権内部や共和党・支持基盤内の分断に繋がっている。中国は、対米関係を安定させるためにも、米国の圧力を退ける強さの確保と、協力可能な分野の模索を続けるだろう。
グローバル・ガバナンス改革:世界の安定要素となれるのか
米国トランプ政権が、国連憲章や国際法、グローバル・イシューの解決に向けた国際協調を重視しない一方で、中国は自身の道徳的優位性を主張し、グローバル・ガバナンスの改革と改善を推進することを掲げている。他方で、中国が自らの優位性と貢献を言葉でアピールする一方で、グローバル・ガバナンスの機能不全という課題にどの程度貢献できるのかは大きな疑問が残る。中国自身もトランプ政権が数多くの国際機関から脱退したことで生じた空白を単独で埋める意思はなく、あくまでも国連を主体とした改革を志向している。
前述のシンポジウムで王毅外相は、グローバル・ガバナンスの改革と改善に関し、中国が「国連の権威と地位を強化し、国連憲章の目的と原則を堅持するとともに、重要な問題において国連が中核的な役割を果たすことを支持する」、そして「開発問題を再びグローバル・アジェンダの中心に据え、積極的に『ガバナンスの赤字(不足)』を補い、『ガバナンスの死角』を埋め、そして『ガバナンスの領域』を拡大していく」と述べている。
グローバル・ガバナンスの改革と改善の実践として、2025年9月の拡大SCO会議の際に習近平主席が新たに提唱したのは、グローバル・ガバナンス・イニシアチブ(GGI)という新たな国際協力構想だ。特にグローバル・サウスの代表制欠如、国連の権威低下、グローバル・イシュー解決の実効性の欠如という課題に対処することを目的とし、中国の提案は「既存の国際秩序を覆して一から作り直すことでも、現行の国際システムの外で新たな枠組みを構築することでもなく、現行の国際システムや国際メカニズムの実行力と有効性を高めること」であると説明されているが、実質的には中国にとって望ましい国際秩序を形成するための更なる一手であるとも捉えられている1 。
同年12月には、中国主導によりニューヨークの国連本部で「グローバル・ガバナンス・フレンド・グループ」が発足し、世界約40カ国の創設メンバー国の代表が発足会議に参加している。同グループは、グローバル・ガバナンス・イニシアチブを具体化するためのものと位置づけられ、多国間主義の実践を中核とし、国連の権威の維持やグローバル・サウス諸国との協力の深化を目指している。
中国は、ガバナンスの改善という共通利益を通じて志を同じくする仲間を増やしていくことに取り組んでいる。中東情勢などの安全保障面での国際的危機を傍観しているとの批判を退け、言説空間だけでなく、グローバル・ガバナンスにおいてどこまで実質的な貢献を見せることができるのかが、グローバル・サウスを味方につけて中国にとって公正な国際秩序を形成するための大きな課題である。
日中関係へのインプリケーション
2025年11月以降、日中関係は依然として回復の兆しが見えず、日中双方がポジティブなシグナルを送っているようには窺えない。2026年の中国外交にとって、日本の優先度は低いと言わざるを得ないが、APEC議長国として「共に繁栄するアジア太平洋共同体の構築」を掲げる中国が、日本抜きでのアジア太平洋の協調を語ることは現実的ではないだろう。中東情勢の不安定化により混沌を極める国際情勢下、中国は国内の経済事情の観点からも、遅かれ早かれ日中関係の安定化に舵を切ることになるだろう。日本は関係緩和の糸口を探り、機を捉えて日本の原則的立場や懸案事項を中国側に説明するとともに、協力のメリットと実行策を提示することが必要だ。
(2026年3月31日脱稿)
- 江藤名保子「中国の『選択』と戦略:既存の国際秩序への対抗」nippon.com、2025年9月25日;大熊雄一郎「習近平が密かに打ち出したグローバル・ガバナンス・イニシアチブの正体は『アメリカ不在の世界』を想定した新秩序構想」東洋経済オンライン、2025年10月3日。