戦略アウトルック2026 第3章 脆弱な安定期における米中の共存と台湾情勢

 飯嶋佑美(日本国際問題研究所研究員)

戦略アウトルック2026 第3章 脆弱な安定期における米中の共存と台湾情勢

首脳外交を軸に摩擦を管理する米中関係

2025年の米中関係は、米トランプ政権の仕掛けた関税交渉を中心に推移した。米国は関税をツールとして中国から妥協を引き出そうとしたものの、米国の方策や急所を入念に研究した中国により用いられたレアアースなどの切り札に翻弄される結果となった。韓国でのAPEC首脳会議の機会に行われた米中首脳会談では、一部関税や輸出管理規制、追加入港料徴収の一時停止、米国産農産物の輸入などが合意され、米中摩擦は一旦の緩和を見た。双方の合意の履行状況次第では今後も摩擦の激化と緩和を繰り返す可能性は残されているが、現時点で中国に合意の履行意欲はあると観察でき、米国産大豆に関しては合意の3分の2の量をすでに購入したとの報道がある。

2026年は、米中首脳の相互訪問、G20(米国)やAPEC(中国)の際に首脳会談の実施が想定され、首脳外交によって比較的安定的な関係が維持されるとみられる。トランプ政権は中間選挙を見据え、自国経済や企業に利益をもたらす中国との取り引きに柔軟な姿勢をとることが想定される。中国は、米国からの経済的威圧を押し返し、米国と対等の立場で通商交渉を進めることができ自信を深めている。中国も関係の安定化と可能な分野における米中協力を志向する一方で、米国とは根本的に戦略的競争関係にあるとの認識に変化はない。新興産業や未来産業を育成・拡大するなどの国家計画を着実に進めていくだろう。

台湾問題については、韓国での首脳会談時には言及がなかったが、台湾有事に関する高市首相発言をめぐり日中関係の緊張が高まったのちの2025年11月の電話会談では、習主席が台湾問題に多くの時間を割いたとみられている。中国側は、トランプ大統領が「台湾問題の中国にとっての重要性を理解」したと述べたと公表した。日本をけん制する思惑がある一方で、かつてオバマ政権に提案した「新型大国関係」のように、双方の核心的利益を尊重し合うような大国関係が実現しつつあるかのようなアピールとも見える。トランプ大統領も米中関係を「G2」と表現した。トランプ政権が年末に発表した「国家安全保障戦略(NSS)」では、「西半球」重視が示され、中国については過去の記述から一変し、台湾海峡をめぐる紛争の抑止を優先事項としつつ対中警戒の文言は軟化している。中国にとって2026年は新しい米中大国関係を形作る好機であり、首脳同士の関係を通じて米国内の対中強硬勢力の動きを抑えたい思惑もあろう。

習近平体制のレームダック化を示す客観的材料は現時点で見あたらず、2027年の党大会では習主席の続投が決定されると予測される。同時に、世代交代がどのように進められ、ポスト習近平時代の人事の方向性が見え始めるのかが注目される。

統一地方選挙を控える台湾情勢

台湾の頼清徳政権は最大野党・国民党立法委員のリコール投票の不成立を受け、少数与党として引き続き厳しい政権運営を強いられている。国民党は、実質的に「親中」派とみられる鄭麗文を新たな党主席に選出した。

2026年11月には、内政上重要な意味を持つ統一地方選挙が行われる。両党とも候補者の早期擁立を図り選挙戦を有利に進めることを目指している。SNSを活用した戦略が重要とされ、若者票の獲得が選挙戦を左右する。台湾の世論の大半は中台関係について現状維持を望んでおり、鄭主席の親中路線が国民党の選挙戦略に全面的に反映されれば逆効果となるだろう。一方、民進党の唱える「抗中保台」も共感を失いつつある。中国にとっては、台湾での政治的混乱と国民党主席の対中傾斜路線を背景に、国民党有利の情勢を作り出すための大きな機会が到来しており、浸透工作に総力を挙げるだろう。

提言

  • 2025年10月に就任した高市首相の政治信条や台湾への姿勢を問題視していた中国は、11月の高市首相による「存立危機事態」に関する国会答弁をきっかけに、日本への圧力を強めた。強硬な対日措置の目的は、中国に有利な現状変更を創り出し、日本社会の動揺や世論の分断を引き起こすことにある。今後、戦略三文書改訂やインテリジェンス機能強化が進められると、こうした動向を警戒する中国は圧力を加速すると予測される。軍事的・経済的威圧への対応にとどまらず、偽情報や認知戦に対して耐久力のある社会を形成する取り組みが急務となる。中国は日本が軍国主義を復活し戦後国際秩序に挑戦しているとの反日批判を世界的に展開する。日本は冷静に客観的なカウンター発信を強化し、積極的かつ丁寧な説明を国際的に展開する必要がある。
  • 米中関係は、緊張が再燃するリスクは存在するが、2026年は最大4回の対面での米中首脳会談が見込まれ、比較的安定的に関係が推移するだろう。中国の対日強硬姿勢は2026年も継続する。台湾に対する攻勢もさらに強まる。日本は日米同盟を強化し、必要な抑止力・対処力を高めるとともに、粘り強く中国との対話を維持することが肝要である。
  • 2026年は、中国がAPEC議長国を務め、深圳において首脳会議を開催する。中国が自由貿易の擁護者であり、責任ある模範的な大国であるとのナラティブを拡大する好機となろう。台湾の参加のモダリティも注目される。日本は、中国に対して模範的な大国として言動一致を求め、他の関係国と協働していくべきだ。また、議長国としてAPECに参加するすべてのエコノミーの効果的な参加の保障と国際協調の進展に寄与するよう促す必要がある。

(脱稿日2025年12月31日)