
対ロ・対中接近を図る北朝鮮
2025年4月、北朝鮮はウクライナ戦争への関与を公表した。また同6月には工兵部隊派遣を表明するなど、ロ朝関係の「同盟」化が強調された。北朝鮮はその見返りとして外貨のほか、先端軍事技術や経済制裁の「抜け穴」を得ているとされ、ドローンなど現代戦のノウハウの軍備増強への活用も図っている。
また9月のロ朝首脳会談(北京)ではプーチン大統領も両国関係を「同盟関係の局面に至った」と表現し、一層の関係深化を誇示した。さらに北朝鮮は対中関係への梃入れも進め、朝鮮半島での影響力拡大を図る中国側の呼応もあって9月の金正恩訪中(上記)では6年ぶりの中朝首脳会談が実現し、「非核化」に言及しないまま関係強化が約された。
9月の中国・抗日戦勝80年軍事パレードで習近平主席とプーチン大統領に並んで金正恩総書記が立ったことは、これまで「線」とどまっていた中ロ朝の関係の「面」への変化を印象付けた。
「 動乱の枢軸」の形成?
ただし、この動きは「陣営」の形成よりは、対米関係を見据えた利害の一致の帰結とみるべきである。また北朝鮮はロシアからの支援を背景に全方位的な軍拡を進めているが、ロシア派兵による経済的利益はかつての韓国の「ベトナム特需」と比較して、広範な輸出市場の獲得という決定的要素を欠いており、その中での軍拡路線は体制安定の鍵となる「可視的な経済振興」を遠ざけることとなる。ロ朝「同盟」関係の下で「安全保障リスクの低下と平和の配当の増加」が表面化している形跡は見られない。
今後中ロ朝の連携がさらに深まる場合、中ロ共同軍事訓練への北朝鮮の参加、核実験の敢行とロシア・中国による安保理決議の阻止といった事態が想定されるが、それら以上に、各国の対米関係(含・交渉)の推移とその過程で連携がいかほど可視化するかが、中ロ朝関係の実態を示す尺度となろう。そして北朝鮮は、中ロ両国が対米関係改善を通じて自国を「見捨てる」可能性を念頭に置きつつ、「核保有国としての軍備管理交渉と在韓米軍撤退を含む対米国交正常化」の実現のために中国・ロシアを「巻き込む」べく、軍事的成果の誇示とセットになった対米メッセージを発出していくだろう。
韓国情勢と日韓関係
韓国では2024年12月の非常戒厳と2025年4月の弾劾を経て大統領選挙が6月に行われ、進歩派「共に民主党」の李在明大統領が就任した。巨大与党と強力な党内基盤を得ての当選であったが、進歩・保守系候補の得票率は拮抗し、国内の政治的分裂が浮き彫りになった。このことから、初期の政権運営は慎重であり、外交面では「国益中心の実用外交」のもと対外関係の維持が図られた。また就任早々の日韓首脳会談の実現、米韓・日米韓の合同訓練の実施、尹錫悦政権期に復元された外交・安全保障当局間の意思疎通の継続を通じ、日韓関係の安定的管理を強調している。そして日本側も10月に発足した高市新政権が日韓関係重視の姿勢を表明し、国際情勢の流動化も背景に、両国関係は堅調に推移した。
同政権の外交政策は米韓同盟の追求と対北朝鮮緊張緩和の2系統で進められているが、それは両者の中長期的整合性というリスクを内包する。前者は駐留経費・防衛費増額に加えて戦時作戦統制権の返還と在韓米軍の地域安保への関与、韓国軍の役割拡大をめぐる議論に発展する可能性が高く、これは進歩派政権が特に忌避する「巻き込まれ」に直結する。また後者は北朝鮮側が「敵対的二国家論」を掲げる以上、一方的なものにならざるをえない。さらに北朝鮮が「対話モード」に転じた場合には、対米直接交渉を志向する北朝鮮が韓国を疎外することも予期され、その際には極端な対北朝鮮融和や制裁無用論が浮上し、対米・対日関係が混乱する可能性を否定しがたい。
韓国は10月の慶州APECを米韓関係の深化と米朝対話・南北関係改善の試金石と位置付け、対米関税交渉の妥結と原子力潜水艦保有への米国の支持という成果を得た。他方で米朝接触は実現せず、南北関係を改善し米朝対話を促進することはできなかった。今後の「2系統」の進展と整合性、米朝関係・南北関係の連動性と日米韓の連携維持の可否が注目される。
そして、大統領選挙で表面化した国内の対立状況は、内政の文脈で対外政策が語られる傾向を示唆する。対日スタンスが国内政治の争点と化した文在寅政権期の再現を、李在明大統領が与党への影響力と「実用」主義によって回避できるかは、なお定かではない。
提言
- 中ロ朝の接近は国際秩序の動揺を衝く思惑の一致によるものだが、それだけに秩序の混乱は各国の「陣営」化の促進要因となりうる。日本は、各国の内在的文脈の把握と、国際秩序の下支えに努めねばならない。
- 米国の「西半球重視」や「個別ディール」方式は朝鮮半島をめぐる秩序の観点からも懸念される。日米韓協力の制度化、安全保障協力の効率化、制裁監視の強化、北朝鮮の「対話モード」を非核化(含・拉致問題解決)につなげる包括的ロードマップの作成が、米国の国益にも裨益することをインプットする必要がある。日韓が協調してそのような働きかけを行うことも重要である。
- 韓国の新政権に対し日本では対日政策強硬化への憂慮が、また韓国では日本の政権交代に際し「右傾化」への懸念が浮上したが、これは日韓双方で「内政と外交の連結」が起きる可能性を示唆する。日韓関係は、相互の自制と内外分離対応が重要な「管理」の局面に再び入ったと見ねばならない。
- 歴史・領土をめぐる問題の相互連関の回避、地球規模課題や少子高齢化・地方振興など共通の社会課題での協力拡大、そして安全保障(日韓ACSA)・経済連携(韓国のCPTPP加盟)・対北朝鮮政策のような求心力・遠心力のいずれにもなりうるイシューの再確認・再設定が必要である。
(脱稿日2025年12月31日)