戦略アウトルック2026 第6章 ロシアによるウクライナ侵略は終結するのか:停戦交渉の行方と緊密化するロ朝関係

田島理博(日本国際問題研究所研究員)

戦略アウトルック2026 第6章 ロシアによるウクライナ侵略は終結するのか:停戦交渉の行方と緊密化するロ朝関係

停戦交渉の行方

米国で第2期トランプ政権が発足、同氏が選挙期間中たびたび言及していたとおり、停戦に向けた仲介は大きく加速した。

ロシア・ウクライナ双方との首脳会談や停戦仲介の動きを経て、11月にトランプ政権は当初 28項目に渡る新たな停戦案を提示した。この案はウクライナや欧州の反発や対案の提示によって20項目へと整理、目下この内容をもとに具体的な交渉が進んでいる。

停戦案には領土や安全の保証などウクライナにとっては容認できないものも含まれるが、年内での停戦合意というレガシー作りに傾くトランプ大統領の不興を買うことで米国による支援が停止する恐れ、国内の深刻な汚職問題に起因する欧米からの不信などを背景として、停戦後の安全保証を条件としてNATO 加盟を事実上断念する考えを表明、合意に向けて米国との交渉に臨んでいる。しかしながら、12月に実施された首脳会談においてもロシアの占領地域の帰属等を巡り交渉が難航し、合意には至れなかった。

ロシアの停戦条件は、ウクライナ東部の占領地域の併合および「根本原因」の除去、すなわちウクライナの NATO 加盟路線と親欧米方針の放棄、軍事力の削減などに基づく脅威の減少と親ロ化との点で一貫している。米国との交渉においても、占領地域のロシアへの帰属とNATO 加盟の放棄は絶対的な条件としているとみられる。ゆえに、これらの条件についてロシアが受け入れるような合意がされない限り、継戦の姿勢は崩さないだろう。事実、プーチン大統領は12月に行われた恒例の記者会見において停戦条件の譲歩を否定、軍に対しては進攻を続けている南部ザポリージャ州の完全掌握を指示するなど、米・ウクライナ間で合意が難航している中で現状をさらにロシア有利とすべく、ウクライナ・西側への強硬姿勢を崩していない。

戦況はロシア優位と見る向きも少なくなく、欧州の支援疲れも懸念されている。今後、ウクライナはどの条件を絶対的なものとし、代償として何を失うのかの選択に迫られるだろう。停戦交渉は2026年も継続する公算が高い。仮に東部をロシアに譲渡する形での停戦に合意したとしても、「根本原因」の除去を掲げるロシアが合意を遵守せず侵攻を続けることへの懸念も残る。ゆえに、欧州等西側の支援持続可能性、および仮に停戦合意が果たされた場合の、安全の保証も含めた停戦の実効性と持続性へのコミットメントがより重要な要素となる。

ロシアの継戦体制を支えているもの

ロシアは停戦に向けた動きを注視しつつも継戦に固執しているが、足元の国内景気は失速の一途を辿っている。実質GDPは減速を示しており、膨張する軍需を背景に国内の景気は良好とされているが14第6章 ロシアによるウクライナ侵略は終結するのか:停戦交渉の行方と緊密化するロ朝関係民需は低調であり、また輸出入も減少している。総じて内需・外需ともに「経済が景気後退の瀬戸際」(レシェトニコフ経済発展大臣談、6月)であるといえよう。また、10月に発動された米国による石油大手企業への制裁などにより、中長期なロシアの国家収入を減少させる効果が見込まれる。とはいえ、国内では目立った混乱が起きておらず、また、継戦体制を維持するための軍事力・労働力などの人的資源を北朝鮮から「輸入」することをもって代替している。さらには中国による経済支援、グローバル・サウス諸国を経由した経済制裁回避により、こうした体制の維持に大きな変化は起きないであろう。

ロ朝関係の緊密化と「同盟」関係への進展

これまで非公式然としていた北朝鮮軍将兵の動員が4月ごろより事実上明らかとなり、平壌で行われた関連式典にショイグ安全保障会議書記が参加するなど、ロ朝関係は軍事的連携を超えて深化の傾向にある。

北朝鮮は兵器・砲弾の提供や兵力の派遣のみならず、代替労働力としてロシア国内に人員を送り出している。ロシアも、軍事技術の供与や北朝鮮の戦訓獲得を事実上支援しているのみならず、モスクワ―平壌間での空路・鉄路の再開や道路橋の建設開始、高等教育分野での協力に関する協定に調印するなど、関係は長期的かつ多岐にわたる枠組みになりつつある。侵略の長期化に伴い、ロシアにとって北朝鮮は単なる継戦のツールを超え、中長期的視座に立つ「同盟」となりつつある。仮に停戦が合意されたとしてもこの関係の進展は続くであろう。

政策提言

  • 経済制裁・国際的批判に関わらず侵略は継続しており、仮に今後ウクライナが領土や安全の保証で妥協を強いられる形での停戦が実現した場合、既存の国際秩序に対して及ぼす影響は大きく、武力を伴う一方的な現状変更を行うにあたっての意思決定のハードルを下げる要素ともなりうる。日本は停戦交渉に関与する立場にないが、戦争終結の在り方については注意警戒が必要である。まず、日本政府はウクライナ支援の継続でぶれてはならず、仮に停戦が果たされた場合はウクライナの戦後復興へ積極的に関与し、地雷除去や機雷掃海等の分野でも協力に踏み込むべきである。また、力による一方的な現状変更の試みを許さない姿勢を一貫させなければならない。今後、ウクライナのような国際法違反の侵略を受ける国家に対し必要かつ需要に合う支援ができるよう、防衛装備移転三原則の運用指針を緩和すべきである。
  • ロシアによるウクライナ侵略が継続するかぎり日ロ関係の改善は見込めないが、ロシアが日本の隣国であることに変わりはない。日ロ関係はそれを取り巻く米ロ中三大国の戦略的関係と結びついており、日本の安全保障において重要である。ゆえに、停戦後の日ロ関係再構築の在り方に向けた議論は不可欠である。そのためにも、トラック2.0会合などを通じたロシアとの適切な対話チャンネルの維持や新規開拓を続けるべきである。

    (脱稿日2025年12月31日)