序文:近年注目を集めてきた予備役
不安定化する安全保障環境の中、日本においても防衛力強化施策が進められるなか、従来焦点が当てられてこなかった、自衛隊の予備役制度たる予備自衛官等1に対しても注目が集まっている。
自衛官の待遇改善2の一環ではあるももの、約40年弱ぶりに予備自衛官等の処遇改善が行われた他3、2026年4月3日に「予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律案4」が閣議決定された。これらの予備自衛官等の成り手を確保しようとする姿勢は、防衛力強化の一手段として予備役制度が有用と認識されていることの証左であると言える。
予備役制度への認識が変化した背景として、ロシアウクライナ戦争に代表される国家間のConventionalな戦争の脅威が過去のものではないという意識に加え、それらの武力紛争において予備役が動員され、実戦での成果を上げた結果5、有事において予備役が安全保障上一定の役割を果たしうるという認識が受け入れられてきたためと考えられる。
しかしながら日本において、予備自衛官等を含む予備役制度についての理解は一般的には進んでいるとは言えない。その理由として公募予備自衛官(民間人出身の予備自衛官)の割合が低く、社会での知名度が高くないことに加え、安全保障研究においても人類学や社会学の立場以外からの検討があまり行われていないことが挙げられる。
いずれにせよ防衛力強化の一環として予備自衛官等の改革を行うにあたっては、自国のみならず、他国の予備役制度に対する検討は重要な視座をもたらすものである。そのため本稿では2012年から予備役制度の改革に着手し、一定の成功を収めているイギリスの予備役制度、特に陸軍における志願制予備役の特徴を、制度の概要と実際の運用から、整理したい。
常備と密接な関係を持ち、その技能を含めて、積極的に国内外で活用されているイギリス陸軍予備役
イギリスにおいて予備役は安全保障政策において一定の重要性が置かれており、Strategic Defence Reviewといった防衛政策文書における言及のみならず、予備役に特化した政府文書6が不定期に発刊されている。これらの文書から伺えるイギリス陸軍予備役の特徴は「常備との密接な連携」「積極的な予備役の活用」「民間技能の活用」の3点である。
第一にイギリス軍は、2011年に打ち出された「Whole Force Concept7」を指針として、予備役は常備との統合を目的に密接な連携を進めてきた。その統合施策の象徴的な事象は2012年における名称変更である。
従来イギリス陸軍予備役は各地の陸上兵力の集合体であり、その歴史的背景から「Territorial Army」と呼ばれていた。しかし2012年に常備兵との統合を進める改革の一環として、地域性を排除した呼称である「Army Reserve」に変更され、イギリス陸軍の一組織として統合を深めてきた8。
もちろん名称の変更のみならず、実務レベルでの常備と予備役の連携を強化しており、具体的な施策として、装備品の共有や訓練の合同実施9などを通して、部隊レベルでの常備と予備役のペアリングを進めている。実際に2025年での調査では約半数の常備兵が予備役兵との任務上の関わりがあると回答しており10、常備との密接な連携は英予備役の特徴である。
第二にイギリス陸軍予備役は国内外において幅広く、積極的に活用されている。冷戦期においてイギリス陸軍の常備兵が海外派遣されるケースは多くとも、イギリス陸軍予備役は海外派遣されるケースは例外的であった。しかし1996年のReserve Forces Act11の改正やFR2020にて示された5年間に1年間の動員を行うという目標設定がなされたこともあり、テリック作戦(イラク)やヘリック作戦(アフガニスタン)などの海外作戦に加え、国内においてもCovid-19対応やロンドン五輪における警備などで、予備役の動員が積極的に行われてきた。
更にその任務も多岐にわたり12、警備や衛生、補給といった後方支援部隊に配属されるケースが多い一方、歩兵や落下傘兵といった前線部隊への配属も行われている。実際に予備役が戦闘に従事し、戦死した事例も存在する13ことも、予備役に対して常備と遜色ない練度が要求されていることの証左と言える。
前述の通り、常備兵と同様の任務を求められるイギリス陸軍予備役は、その練度を錬成・維持するために入隊時の訓練に加え、毎年の訓練参加が求められている。一部の要員は常備兵と遜色ない頻度で訓練参加をしており14、動員に向けたイギリス軍の姿勢が伺える。

表1 イギリス陸軍予備役の訓練概要(Group Aの場合)※「The Reserve Land Forces Regulations Amendment No 13」などから作成
第三にイギリス陸軍は予備役が有する技能の活用を進めてきた。SDR2025では法務(lawyer)や整備(engineer)、そしてサイバー(cyber specialist)が具体例として挙げられ、予備役が持つ技能や経験は防衛力強化に資すると認識されている15。特にサイバー領域については予備役で構成されたサイバー部隊16の設立など重点的にその技能の活用が進められている。
このような技能活用の姿勢は予備役の制度設計からも伺える。イギリス陸軍予備役は元現役で構成される「Strategic Reserve」と志願者からなる「Volunteer Reserve」で構成され17、本稿が対象とする「Volunteer Reserve」は予備役の能力や身分に応じて複数のグループに細分化されている。このようなグルーピングを通して予備役の技能を管理しており、技能活用を進めている。

表2 イギリス陸軍予備役の構成(一部抜粋)※「The Reserve Land Forces Regulations Amendment No 13」などから作成
またRF2030では前述の例に加え、人事コンサルティングやオペレーション改革といった形での活用可能性を指摘しており18、イギリス空軍の予備役兵が航空会社勤務の経験を活かし、航空燃料管理の改善に関与した事例が紹介されている。本事例の紹介は、予備役の持つ技能が部分的な欠落を補うだけでなく、能力構築に利用できるものとイギリス軍が認識していることが伺える。
イギリス陸軍予備役の抱える充足率という課題
このようにイギリス陸軍において、予備役は常備と同等の役割ないし、その特殊性を活かした役割を要求され、任務を遂行してきた。しかし前述した英予備役の事例や特徴は一つの側面でしかなく、「動員の困難性19」や「予備役に対する軽視20」など課題も少なく、網羅的に挙げるのは困難である。そのため本稿では「予備自衛官等」に対する改善施策の背景として挙げられた「充足率」におけるイギリス陸軍予備役の課題について整理する。
イギリス政府はSDR2025にて「予備役の兵員数を20%引き上げる21」という野心的な“提言“をしており、人員の確保に一定の自信があるように見える。しかし2013年以降、増加傾向であったイギリス軍予備役は2018年頃から停滞・漸減傾向である。例えばイギリス陸軍は2019年度までに予備役の兵員を30,100人22確保する目標を2016年度に打ち出したものの、その定員を維持できず、2026年1月時点の実績は23,740人であり、その達成率は8割弱となっている23。

表3:イギリス陸軍予備役の兵員数推移※「Quarterly service personnel statistics」から作成
もちろん、このような充足率の低さをイギリス軍は課題と認識しており、充足率の引き上げに向けて、柔軟性のある動員体系の導入に加え、イギリス軍の年金制度(AFPS 15)や研修支援(Standard Learning Credit)へのアクセスを予備役に与えた24ほか、各種訓練参加の報奨金の増額に加え、特定の条件を満たせば報奨金が非課税となるといった施策25を実施している。しかし充足率の伸びは芳しくなく、報奨金といった金銭インセンティブは短期的な効果しか望めず、予備役に参加する心理的・社会的インセンティブを強化するべきと指摘する声もある26。
終わりに:予備役制度の今後の展望
イギリス陸軍予備役は充足率や動員においての困難は存在する一方で、Whole Force Conceptのもと、常備との統合が進められており、その役割として、国内外における任務遂行だけでなく、サイバー領域や法務といった軍隊が有さないスキルの提供も期待されている。
こうした「民間が持つ高度な知見を防衛力に直接還元する」という発想は、日本における予備自衛官等の運用からも伺え、従来の災害派遣に加え、近年ではNATOサイバー防衛協力センターが主催する「ロックド・シールズ」や「日米共同方面隊指揮所演習(YS)」、「降下訓練始め」などで予備自衛官の活用が行われており、イギリス陸軍予備役の積極的な活用事例は今後の予備自衛官等の活用を推進・検討する上で、良い先行事例となると言える。
いずれにせよ、不安定化する国際秩序において、防衛力強化は洋の東西を問わず喫緊の課題である。少子高齢化や予算制約といった背景を含め、予備役制度の在り方・活用については議論が進んでいくと考えられる。
- 防衛省・自衛隊では「予備自衛官」「即応予備自衛官」「予備自衛官補」を総称し「予備自衛官等」と表記する。そのため本稿においても自衛隊の予備役制度を指す場合「予備自衛官等」という用語を用いる。
- これらの方針は2025年12月に出された「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」に依拠するものである。
- 予備自衛官に対する処遇の改善として「勤続報奨金」の新設や各種手当の引き上げが行われた。
- 防衛省・自衛隊、「防衛大臣記者会見」、2026年3月2日、https://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2026/0403a.html
- Pierre LEMERCIER, Louis-Marie RÉGNIER (2023) "Use of reservists in the Ukrainian conflict: between mass and high technology, hard lessons for western armies", IRSEM Research paper, 138
- Future Reserve 2020(FR2020)やReserve Force Review 2030(RF2030)などが代表的
- SDR2025ではWhole Forceを「Incorporating the Regular and Reserve forces, civil servants, and contractors」と説明しており、予備役に加え国防省の背広組や請負業者をも含めた防衛力強化を進めている。
- UK Ministry of Defence、「Future Reserves 2020」、2012年11月8日
- Ibid.
- UK Ministry of Defence、「Armed Forces Continuous Attitude Survey: 2025」、2025年5月22日
- 改正によって国外での平和維持活動や人道介入での予備役の動員が可能となった。
- 予備役の配属される部隊(兵種)の種類は多く、歩兵や戦車兵といった前線部隊から衛生兵、通信兵、従軍聖職者といった後方支援部隊が予備役の配属先として挙げられている。https://jobs.army.mod.uk/army-reserve/available-roles/
- https://www.gov.uk/government/fatalities/warrant-officer-class-2-michael-norman-williams-and-private-joe-john-whittaker-killed-in-afghanistan
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8363912.stm - Bury Patrick (2019) "Mission improbable: The transformation of the British Army Reserve", Howgate.
- UK Ministry of Defence、「Strategic Defence Review 2025」、2025年6月2日
- 2013年に予備役を中心としたJoint Cyber Reserve Forceが設立された。
- “Strategic Reserve“は退役後のイギリス兵が有事の際に動員される義務を負う制度であり、今回議論する予備役とは別種のものである。本稿では特段断りがない場合「英予備役」は”Volunteer Reserve”のことを指す。
- UK Ministry of Defence、「Reserve Force Review 2030」、2021年5月12日
- Quarterly service personnel statisticsによるとイギリス陸軍予備役の総数は2026年4月時点でイギリス陸軍の兵員数は108,620人であり、そのうち25,770人が予備役であり、20%ほどである。しかし海外派遣など部隊における予備役比率はそれより低く、本業や家族との兼ね合いで調整コストが常備より高いという予備役特有の問題がある。
- 予備役として志願している事実に感謝される一方で、「予備役は制服を着た民間人であり、兵士ではない」やhobby(趣味)と揶揄される事もある。イギリス軍のみならず、世界各地の予備役で広くみられる現象である。Connelly, V. (2021). Understanding and Explaining the Marginalization of Part-Time British Army Reservists. Armed Forces & Society, 47(4), 661-689.
- UK Ministry of Defence、「Strategic Defence Review 2025」、2025年6月2日
- House of Commons Library、「UK defence personnel statistics」、2025年6月30日
- 2025年の調査では陸海空のうち、RAFのみが目標を大幅に超え、達成している。
- UK Ministry of Defence、「Future Reserves 2020」、2012年11月8日
- 毎年要求される訓練に参加し、かつMilitary training testに合格した者については報奨金への課税が免除される。https://jobs.army.mod.uk/army-reserve/life-in-the-army-reserve/pay-benefits/
- Bury Patrick (2017) "Recruitment and Retention in British Army Reserve Logistics Units", Armed Forces & Society, 43(4), 608-631.
- 2022年に「システム防護(サイバー)」の技能区分が設定されて以降、サイバー領域においては訓練などを通して、更なる活用への検討が進んでいる。
- 「防衛省・自衛隊X公式アカウント」、2026年1月11日、https://x.com/i/status/2010363228061306944
