2026年米国中間選挙――議会多数派の行方とトランプ外交の展望

ブッシュマン・フィリップ(日本国際問題研究所研究員)

2026年米国中間選挙――議会多数派の行方とトランプ外交の展望

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

はじめに

2026年11月3日、米国では中間選挙が実施される。最大の焦点は、共和党が上下両院の多数派を維持するのか、それとも民主党が一方または両院を奪還し、「分割政府」が復活するのかである。しかし、議会の多数派が交代することと、トランプ大統領の政策遂行能力が大きく失われることは必ずしも同義ではない。今回の中間選挙では、選挙結果そのものに加え、それがトランプ政権の残り2年間に実際にどのような制約をもたらすのかが重要な論点となる。

下院では全435議席が改選される。10月19日時点で共和党218議席、民主党214議席、無所属1議席、欠員2議席と、共和党の多数は極めて僅差であり、少数の議席が移動するだけで多数派が交代する。一方、上院では100議席のうち35議席が改選される。現在は共和党53議席に対し、民主党45議席、民主党と統一会派を組む無所属2議席となっており、選挙制度と今回の改選州の構成上、民主党による多数派奪還のハードルは下院より高い。

本稿では、まず中間選挙を左右する政治・経済環境を整理し、上下両院それぞれの選挙情勢を検討する。そのうえで、議会多数派の交代がトランプ政権に及ぼし得る制度的影響を分析し、中間選挙後の米国内政及び外交政策の方向性を展望する。

共和党を取り巻く逆風

中間選挙を目前に控え、共和党を取り巻く政治環境は厳しい。Pew Research Centerが9月28日から10月4日に実施した世論調査では、トランプ大統領の支持率は30%、不支持率は68%となった。2024年大統領選でトランプに投票した有権者に限っても、支持は67%に低下し、31%が現在の職務遂行を支持していない。第2次政権発足当初には、同じ層の95%がトランプを支持していた。1

最大の争点となっているのが経済、とりわけ生活費である。Pewの調査では登録有権者の84%が経済を中間選挙で「非常に重要」な争点としており2 、Reuters/Ipsosの8月末の調査では47%が生活費を投票先決定の「最も重要な要因」に挙げた。 39月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.7%上昇し、食料品は2.5%、エネルギーは20.4%上昇した。特にガソリンは34.2%、燃料油は74.2%上昇しており、イラン情勢を背景とするエネルギー価格の上昇が家計負担を通じて政権への不満と結び付いている。4

イラン戦争自体に対する世論も厳しい。Pewの同調査では、米国の対イラン軍事行動に対するトランプ大統領の対応を支持する回答は33%に対し、不支持は65%に達した。 5戦争への不支持に加え、エネルギー価格の上昇を通じて外交問題が国内の生活費問題にも波及している。

トランプ政権の主要政策である関税についても、共和党支持層の評価に変化がみられる。関税政策が今後米国に「主として好影響」を与えると回答した共和党支持者・共和党寄り無党派層は、2025年8月の52%から2026年1月の49%、10月には40%へ低下した。一方、「主として悪影響」とする回答は同期間に21%から17%を経て26%へ上昇している。 6トランプ政権の主要政策の一つについて、共和党支持層内部でも信頼が低下していることがうかがえる。

共和党にとっては、投票率の非対称性も問題となる。トランプ大統領や政権運営に不満を持つ共和党支持者が民主党候補に投票しなくても、投票を棄権するだけで接戦区では共和党候補に打撃となり得る。Pew Research Centerの調査では、民主党候補支持者は共和党候補支持者に比べ、今回の選挙について「かなり考えている」と回答した割合が14ポイント高く、「極めて投票意欲が高い」と回答した割合も17ポイント高い。現時点では、選挙への関心と投票意欲の双方で民主党側が共和党側を上回っている。7

こうした状況は、トランプ大統領自身と一部の共和党候補との間の認識のずれにも表れている。トランプ大統領は、自らの集客力と支持基盤の動員が共和党候補の当選に貢献すると考え、有権者に「自分が投票用紙に載っていると思って」投票するよう呼び掛けるとともに、各地で選挙集会を開催している。8 他方、Reutersが激戦となっている上下両院62選挙を調査したところ、トランプ大統領との一体化が無党派層への訴求を妨げ、選挙上の負担となることを懸念し、41選挙の共和党候補が個別政策でトランプと異なる立場を示すか、大統領との関係を目立たなくする動きをみせていた。9

こうした傾向は、9月にダラスで開催された共和党中間選挙大会への候補者の対応にも表れた。同大会を前にCBS Newsが激戦州・選挙区の共和党候補60人に出席予定を照会したところ、出席を確認したのは4人、欠席を明言したのは5人にとどまり、51人は回答しなかった。欠席する候補の中には、地元での選挙運動や議会日程を理由に挙げる者もみられた。 10さらに、こうした候補者側の懸念を明示的に言葉にしたのが、テキサス州上院選の共和党候補ケン・パクストンである。パクストンは非公開の会合で同大会について、「大会をやったら、我々の数字が下がった。みんなの数字が下がった」と発言したと報じられた。11

下院――民主党奪還をめぐる構図

下院では全435議席が2年ごとに改選されるため、その時々の全国的な政治環境が選挙結果に比較的反映されやすい。現在の共和党の多数は僅差であり、民主党はわずかな議席の純増で多数派を奪還できる。今回の下院選挙では、第2節でみた共和党への逆風が、実際の議席移動にどの程度つながるのかが焦点となる。

もっとも、今回の下院選挙では、通常の中間選挙とは異なり、2025年から2026年にかけて複数の州で異例の選挙区再編が行われた。発端となったテキサス州では、共和党が2026年選挙を念頭に選挙区を再編し、当初は最大5議席の上積みを狙った。 12これに対し、カリフォルニア州では民主党が対抗措置として新たな選挙区割りを導入し、共和党が保持していた3~5議席を民主党側に動かし得る地図を作成した。 13その後も複数の州で再編が進み、Cook Political Reportは、こうした2025~26年の一連の選挙区再編だけをみれば、共和党が全国で純増約4議席の構造的な利益を得ると推計している。14 したがって、民主党が下院を奪還できるかは、こうした共和党側の構造的な上積みを全国的な反共和党へのスイングによって相殺できるかにかかっている。

しかし、選挙戦終盤には、競争の範囲が従来は共和党にとって比較的安全とみられていた選挙区にまで広がっている。Inside Electionsは、トランプ大統領が2024年に10ポイント以上の差で勝利した選挙区にも共和党側が広告費を投入していることを、共和党が守勢に立たされている表れとして指摘しており、10月15日時点で民主党の純増を10~20議席と予測している。 15さらにReutersの分析では、選挙区再編によって共和党が優位を拡大した16選挙区のうち、現在では9選挙区が民主党優勢または接戦となっており、共和党が選挙区再編によって得た構造的な優位も当初の想定ほど確実なものではなくなっている。現在の共和党の多数が僅差であることを踏まえれば、民主党は大規模な議席移動を必要とせずとも、比較的少数の共和党議席を奪取するだけで下院多数派を奪還できる状況にある。16

上院――多数派交代へのより高い制度的ハードル

上院では、下院以上に多数派交代への制度的ハードルが高い。下院の全435議席が2年ごとに改選されるのに対し、上院議員の任期は6年で、2年ごとに改選されるのは約3分の1にとどまる。現在、上院は共和党53議席、民主党45議席、民主党と統一会派を組む無所属2議席で構成されている。50対50の場合にはヴァンス副大統領が可否同数時の決定票を持つため、民主党が多数派を奪還するには4議席を純増し、51議席を確保する必要がある。しかも、実際に改選される議席は特定の州に限られるため、全国的な政治環境が民主党に有利に動いたとしても、それが下院と同様に議席増へ結びつくとは限らない。

多数派交代をさらに難しくしているのが、上院選挙特有の「地理」の壁である。全国的に民主党へのスイングが生じても、その年に改選される州の構成によっては、それが議席増に直結しない。今回改選される共和党議席の多くは共和党優位州に位置しており、民主党が多数派を奪還するには、自党の競争的な議席を防衛すると同時に、共和党が保持する複数の議席を奪取する必要がある。また、下院に比べて上院候補は個人としての知名度や州内での政治的基盤が強い場合が多く、大統領支持率を含む全国的な政治環境との連動性も相対的に弱い。もっとも、Inside Electionsは10月15日時点で民主党の純増を3~5議席と予測しており、多数派交代が射程に入る一方、その実現には複数の競争州で同時に勝利する必要があるとしている。17

選挙結果と「分割政府」への回帰

前節までにみたように、現時点では民主党が少なくとも下院を奪還するとの見方が専門機関の間で強まっている。Inside Electionsは10月15日時点で、民主党の純増を下院で10~20議席、上院で3~5議席と予測しており、下院については民主党による多数派奪還を有力視する一方、上院についてはより不確実性が大きい。 18このため、民主党が下院を奪還する一方で共和党が上院を維持し、「分割政府」に回帰するケースを中心に、民主党が上下両院を奪還する場合も含め、その制度的な含意を検討する。

民主党が下院を奪還する一方、共和党が上院多数派を維持した場合には、立法上の膠着が強まるとともに、予算・歳出をめぐる両党間の交渉が政権運営の重要な焦点となる。下院では法案を原則として単純過半数で可決できるほか、多数党は委員長ポストと議事運営を掌握し、公聴会、調査、召喚状等を通じて政権監視を強化することができる。また、単純過半数によって大統領を弾劾訴追することも可能となる。ただし、弾劾訴追だけでは大統領を罷免することはできず、上院での有罪判決には出席議員の3分の2の賛成が必要となる。現在想定される選挙結果では民主党がこの水準の議席を確保することはなく、実際の罷免には相当数の共和党上院議員の賛成が不可欠となる。他方、共和党が上院多数派を維持すれば、トランプ政権による政府高官、大使、連邦裁判官及び最高裁判事等の人事承認を引き続き進めることができる。

民主党が上下両院を奪還した場合には、トランプ政権に対する議会の制約はさらに強まる。両院の委員会を通じた調査・監視が可能となり、予算・歳出をめぐる交渉でも民主党の影響力が拡大する。とりわけ上院多数派の交代は、大統領指名人事の承認に単純過半数で足りることから、政権高官や連邦裁判官、最高裁判事の新規任命を大幅に制約し得る。ただし、上下両院を掌握しても、民主党が独自の政策を容易に立法できるわけではない。上院では通常法案についてフィリバスター終結に原則60票が必要であり、予算調整措置(reconciliation)等を除けば、僅差の多数派だけではこの壁を越えられない。さらに、トランプ大統領は議会を通過した法案に拒否権を行使でき、その覆しには上下両院それぞれで3分の2の賛成が必要となる。条約の承認にも上院で出席議員の3分の2の賛成を要する。このため、民主党が両院を奪還した場合でも、その影響は独自の政策を立法することより、人事・司法任命、予算交渉及び政権監視の面でより強く表れることになる。

もっとも、上下両院の多数派の帰趨が11月3日の投票終了時点で直ちに判明するとは限らない。2020年大統領選及びその後の選挙をめぐる訴訟等の前例を踏まえれば、接戦となった州・選挙区では再集計に加え、投票資格や集計手続をめぐる訴訟、結果認定をめぐる政治的対立が生じる可能性がある。特に上下両院の多数派が1~2議席によって決まる場合には、個別選挙の結果確定が遅れることで、投票日後もしばらく議会多数派の帰趨が確定しない可能性がある。

議会多数派交代はトランプ政権をどこまで拘束するか

民主党が一方または両院を奪還すれば、予算、人事、司法任命、政権監視等を通じてトランプ政権に対する議会の制約は強まる。しかし、それが直ちに政権の政策遂行能力の大幅な低下を意味するわけではない。第2次トランプ政権は、共和党が上下両院を支配する現在においても、大統領令、既存法によって大統領に委任された権限、緊急権限、行政機関による措置等を積極的に活用して政策を実施してきた。議会多数派が交代しても、こうした政策手段そのものが失われるわけではなく、トランプ政権は可能な分野では引き続き議会による新規立法を必要としない政策手段を活用すると考えられる。

第2次トランプ政権の統治手法を考えるうえで重要なのは、法的制約の存在が必ずしも行政措置の実施を事前に阻止するわけではないという点である。同政権は、大統領権限を広く解釈してまず政策を実施し、その法的根拠が司法によって否定された場合には、別の法的権限を用いて同様の政策目的を追求する手法をとってきた。その典型が関税政策である。最高裁は2026年2月、国際緊急経済権限法(IEEPA)がトランプ大統領による相互関税及びフェンタニル関税を課す権限を与えていないと判断した。 19しかし、政権は判決後も、通商拡大法232条に基づく既存の関税を維持するとともに、通商法301条に基づく調査を通じた新たな関税措置を追求する方針を示した。 20一つの法的根拠が司法によって否定されても、それによって政策そのものを断念するのではなく、既存法上の別の権限を用いて同じ政策目的を追求する姿勢がみられる。

歳出をめぐる対応は、さらに異なる形でこの統治手法を示している。2026年9月、トランプ大統領は11の歳出勘定について議会に歳出取消しを提案するとともに、対象資金を一時的に留保する措置をとった。これに対し、政府監査院(GAO)は、1974年議会予算・歳出留保統制法(Impoundment Control Act)の下では、議会が歳出取消しを承認しない限り、大統領は対象資金が失効するまで留保することはできないとの見解を示した。 21ここでは、議会が法律によって大統領の行動を明示的に制約しているにもかかわらず、政権はその限界に抵触する行政措置をまず実施し、その適法性をめぐる争いを事後的な法的手続に委ねている。したがって、議会が法律によって大統領権限を制約していることと、その制約によって行政の行動を事前に阻止できることは、必ずしも同義ではない。

議会多数派交代の実質的な影響を考えるうえでは、トランプ政権が残る2年間に実現しようとする政策が、そもそも新たな議会立法をどの程度必要とするのかが重要となる。過去の政権では、ブッシュ政権の大型減税やMedicare Part D、オバマ政権の医療保険制度改革法(ACA)やDodd-Frank法、バイデン政権のインフラ投資・雇用法(IIJA)、CHIPS・科学法、インフレ抑制法(IRA)等、大統領の主要な国内政策上の成果の多くが大規模な新規立法に依存していた。これに対し、第2次トランプ政権では、関税、移民、規制、外交・安全保障等、大統領または行政機関が既存の法的権限を用いて政策を実施できる分野が重要な位置を占めている。このため、議会多数派を失うことは新たな大規模国内立法の成立を著しく困難にする一方、政権の政策遂行能力全体を同程度に縮小させるとは限らない。

その大きな例外が、予算措置を必要とする政策である。とりわけトランプ大統領は2027年度の国防予算を1兆5,000億ドルとする方針を示しており、2026年度に議会が承認した約9,010億ドルから大幅な増額を求めている。 22この規模の国防費増額には議会による歳出承認が不可欠であり、民主党が一方または両院を掌握すれば、政権は議会との交渉を避けることができない。国防費には超党派的な支持が形成される余地があるため、民主党議会が増額そのものを全面的に拒否するとは限らないが、国内歳出とのバランスやウクライナ・NATO政策、イランを含む軍事行動への監視等をめぐり、増額への支持と引き換えに条件や譲歩を求める余地は大きくなる。

したがって、議会多数派の交代によってトランプ政権に対する制約が一様に強まると考えるべきではない。新規立法、人事、司法任命、そして何より歳出を必要とする政策では議会の影響力が大きい一方、既存法による委任権限や大統領固有の権限を利用できる分野では、その直接的な拘束力は相対的に弱い。議会は政権の戦略的選好そのものを必ずしも変更できなくても、その実行に必要な資金や人事、法的条件を通じて政策の範囲と持続可能性を左右することができる。

中間選挙後の外交政策――レームダック期の大統領権限

議会多数派の交代によって国内立法が困難になった場合、トランプ政権の残る2年間では、大統領の裁量が比較的大きい外交・安全保障政策の比重がさらに高まる可能性がある。歴代政権においても、任期後半に入り、かつ中間選挙で少なくとも下院の多数派を失った大統領には、国内立法の余地が狭まる一方、外交交渉や軍事力の行使等を通じてレガシーの形成を目指す傾向がみられる。第2次トランプ政権についても、中間選挙で議会多数派を失い、レームダック期に入った場合、国内政策に比べて議会による直接的な制約を受けにくい外交・安全保障分野に政策上の重心が移る可能性がある。

そのなかで、中間選挙後に最も直接的に状況が変化し得るのがイランである。トランプ大統領は10月8日、11月3日の中間選挙まではイランを攻撃しないと明言した。これに先立ちReutersは、政権内で中間選挙前の軍事的エスカレーションを避ける方針が共有される一方、投票後には軍事行動の拡大を再び検討する可能性があると報じている。 23イランとの戦争に伴う原油・ガソリン価格の上昇は生活費への不満を強め、共和党の選挙環境にも悪影響を及ぼしてきたが、中間選挙後には少なくとも2026年の議会選挙に対する直接的な政治コストは消失する。このため、外交交渉が進展しない場合には、対イラン軍事作戦が再び拡大する可能性を、中間選挙後の主要なリスク・シナリオの一つとして考慮する必要がある。

ロシア・ウクライナ政策については、議会多数派の交代によって政権と議会の対立が強まる可能性がある。トランプ政権は最近、対露制裁の一部を緩和する一方、ウクライナに停戦に向けた譲歩を求めている。この方針には民主党だけでなく一部の共和党議員からも反発が生じており、民主党が議会多数派を奪還すれば、対ウクライナ支援の拡大や対露制裁緩和の制限を求める動きが強まると考えられる。 24他方、既存法の下では制裁の運用について大統領にも広範な権限が認められており、プーチン大統領との交渉や停戦・和平をめぐる外交も引き続きトランプ大統領が主導することになる。

中国政策については、議会多数派の交代による直接的な影響は限定的と考えられる。トランプ政権は、習近平国家主席との首脳外交を軸に、関税、輸出管理、レアアース等を交渉材料としながら対中関係を運営しており、これらの多くは既存法の下で大統領及び行政府が権限を行使し得る分野である。他方、台湾への安全保障支援をめぐっては政権と議会の間で摩擦が生じている。トランプ大統領は約140億ドルの対台湾武器売却を留保しているほか、政権は議会が既に計上した台湾向け安全保障支援の一部を執行しておらず、議会からその実施を求める声が上がっている。 25ただし、台湾への武器売却や安全保障支援の継続については民主・共和両党に広範な支持があり、この問題は民主党による下院奪還によって新たに生じるものではない。26 

北朝鮮については、軍事的エスカレーションとは異なり、首脳外交の再開が一つの焦点となる。トランプ大統領は金正恩総書記との再会に繰り返し意欲を示しており、10月にも11月のアジア訪問中に会談する可能性に言及した。 27米政府は公式には北朝鮮の完全な非核化という政策目標を維持しているものの、北朝鮮側は核保有国としての地位を不可逆的なものと位置付け、非核化を前提とする交渉を拒否している。 28このため、首脳外交が再開された場合には、完全な非核化ではなく、核・ミサイル能力の凍結や軍備管理、緊張緩和等を軸とするより限定的な「ディール」が模索される可能性も考えられる。

こうした場合、日本にとって重要なのは、合意の対象となる核・ミサイル能力の範囲である。北朝鮮は米本土を攻撃し得る大陸間弾道ミサイルだけでなく、日本を射程に収める多数のミサイル能力を保有している。仮に米国が自国本土への直接的な脅威の抑制を優先し、大陸間弾道ミサイル等に対象を限定した合意を追求する場合、日本に対する核・ミサイル脅威が残存する可能性がある。その場合には、北朝鮮問題そのものに加え、米国による対日拡大抑止の信頼性という観点からも、日米間の緊密な政策調整が重要となる。

もう一つのリスク要因がキューバである。第2次トランプ政権は2026年1月、ベネズエラで限定的な軍事作戦を実施してニコラス・マドゥロを拘束しており、その後、キューバに対しても圧力を強めてきた。トランプ大統領は5月、キューバへの介入の可能性を示唆し、ルビオ国務長官もキューバを米国の国家安全保障上の脅威と位置付け、政権はその対応に「非常に真剣」であるとの姿勢を示した。 29さらに、米軍はキューバをめぐる潜在的な軍事行動に備えた準備を進めていると報じられている。 30トランプ大統領自身は9月、米国とキューバは最終的に合意に達するとの見通しを示し、「軍事力は必要ないと思う」と述べたが31 、この発言も軍事的選択肢そのものを否定したものではなく、圧力を背景に合意を迫る姿勢を示すものとみることができる。

おわりに

現時点の選挙情勢を踏まえれば、民主党が少なくとも下院の多数派を奪還する可能性が高く、第2次トランプ政権は残る2年間を「分割政府」の下で迎え、レームダック期に入る公算が大きい。しかし、本稿でみてきたように、議会多数派の交代が直ちにトランプ政権の政策全般の転換や政策遂行能力の大幅な低下を意味するわけではない。議会が大統領を拘束する力は、政策分野と政権が用いる政策手段によって大きく異なる。

新規立法、課税、歳出・予算、司法任命、政府高官人事については、議会多数派の交代による影響が強く表れる。他方、通商・関税、移民執行、議会が計上した予算の執行等では、既存法によって大統領や行政機関に付与された権限を通じて、議会多数派の交代後も政権は政策を遂行することができる。さらに、外交、制裁の運用、外交上の合意、一定の軍事・国家安全保障上の措置は、大統領及び行政府が独自に権限を行使し得る分野であり、新たな立法や議会の事前承認を必要としない。加えて、第6節でみたように、第2次トランプ政権は法的制約の限界まで、時にはこれを超えて行政権限を行使し、その適法性をめぐる争いを事後的な法的手続に委ねる統治手法をとってきた。このため、議会による法的制約が強まることも、それだけで政権の行動を直ちに停止させることを意味しない。

こうした状況の下では、国内立法の余地が狭まる一方、大統領及び行政府が広範な権限を行使し得る外交・安全保障政策の重要性が一層高まると考えられる。とりわけ、再選を目指す必要のないレームダック期には、トランプ大統領が残る任期における政治的レガシーを意識し、外交交渉や軍事力の行使を含む対外政策により積極的に取り組む可能性がある。第7節でみたように、中間選挙後には、イランに対する軍事作戦が再び拡大する可能性があるほか、ロシア・ウクライナ政策では対露制裁やウクライナ支援をめぐる政権と議会の対立が強まる可能性がある。中国政策ではトランプ政権主導の対中外交が継続する一方、台湾への安全保障支援をめぐる議会との摩擦も続くと考えられる。北朝鮮については首脳外交の再開の可能性、キューバについては軍事的選択肢を背景とした圧力のさらなる強化が、それぞれ焦点となり得る。

中間選挙による民主党の議会多数派奪還は、国内政策におけるトランプ政権の行動を強く制約する一方、大統領権限の強い外交・安全保障分野においては、むしろ残る2年間の動向を一層注視する必要がある。


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