研究レポート

北朝鮮最高人民会議「核使用法令」採択

2022-09-26
倉田秀也(防衛大学校人文社会科学群国際関係学科教授/日本国際問題研究所客員研究員)
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「『大国間競争の時代』の朝鮮半島と秩序の行方」研究会 FY2022-2号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

はじめに――「核保有法令」の更新

2022年9月8日、北朝鮮の最高人民会議は第14期第7次会議で、「朝鮮民主主主義人民共和国核戦力政策について」(以下、「核使用法令」と略記)を採択した。最高人民会議が核兵器について採択した法令はこれが初めてではない。2013年3月末日、金正恩朝鮮労働党第1書記(当時)が党中央委員会全員会議で行った演説を受け、翌4月1日、最高人民会議は「自衛的核保有国の地位を一層強固にすることについて」(以下、「核保有法令」と略記)を採択していた。「核使用法令」は「核保有法令」の「効力をなくす」(11「その他」-1)としているが、内容的には多くを継承しつつ更新する内容となっている。2013年の「核保有法令」が核保有の正当化を図ったのに対して、金正恩が「核戦力の使命と構成、それに対する指揮統制、使用原則と使用条件、安全な維持管理及び保護など、細部的な条項を明白にしました」と述べたように、今回の「核使用法令」は核兵器運用に記述の力点が置かれている。以下、2013年の金正恩演説及び「核保有法令」と対比しつつ、今回の「核使用法令」に至る経緯を確認して、そこに示される核使用原則を位置づけてみたい。

1. 二つの核使用原則――二つの戦争想定

振り返ってみれば、2013年3月末日に金正恩が党中央委全員会議で行った演説は、北朝鮮が朝鮮半島で起きうる二つの戦争を想定し、それぞれについての核使用の原則をもつことを示唆していた。その一つは、ブッシュ(子)政権により公言された「先制攻撃論」のような米国からの直接の核攻撃である。もとより、北朝鮮が米国との核戦争を戦い抜くことを考えているわけではない。北朝鮮は最初の核実験以来、核先制不使用(NFU)を宣言し、その後もそれに相当する宣言を行っていたが、そのとき想定された戦争とは米国からの直接の核攻撃であった。北朝鮮は爆発力を高めるべく核実験を繰り返しつつ、米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発し、2017年11月の「火星-15」の発射では「国家核戦力の完成」を謳い上げたが、NFUと第1撃を受けた後も残存する秘匿化された第2撃能力でニューヨーク、ワシントンなど人口稠密な大都市に対価値攻撃を行う抑止態勢は、インドなどで公式化される最小限抑止に相当する。金正恩がこの演説で言及した「戦争抑止戦略」は、最小限抑止と同義と考えてよい。

他方、北朝鮮は冷戦期からみられた南北間の武力衝突に米軍が介入してエスカレートする核戦争も想定している。ただし、通常兵力で米韓連合軍に対して劣位に立つ朝鮮人民軍に戦争勝利は望めない。したがって、北朝鮮は南北間の武力衝突が発生したとき、そこに米軍が介入してエスカレートすることを抑止するために核使用を考えなければならない。米韓連合軍に核がないことを考えたとき、それは核先制使用となるが、ソウルなどの人口稠密な大都市を標的にするよりは、在韓米軍の軍事施設、司令部などの狭小な標的に命中させる能力を示すことで、米国に介入を躊躇させることを目的とする。そこで核兵器は、米軍の介入を阻止するための作戦に組み込まれる形で使用される。この演説で金正恩が言及した「戦争遂行戦略」とは、「エスカレーション阻止」に相当する。

北朝鮮はこれら二つの核抑止態勢を同時に追求している。金正恩の発言、あるいは党機関紙などの公式文献が、NFUを宣言する一方で「先制核打撃」を公言するのは、曖昧性を意図しているのではなく、そもそも北朝鮮が二つの戦争を想定し、それぞれに異なる核使用の原則を掲げているからに他ならない。二つの核使用原則は、2021年1月の第8回党大会での金正恩による報告でも貫かれていた。ここで金正恩は、「侵略的な対外勢力がわれわれを狙って核を使用しない限り、核兵器を濫用しない」と述べる一方、「万が一、いかなる勢力であれ、わが国家の安全を脅かしたら、われわれを標的にして軍事力を使用しようとしたら、私はわれわれの最も強力な攻撃的な力を先制して総動員して膺懲する」として、核先制使用の立場を明らかにしていた。金正恩はここで「国防5カ年計画」として、戦術核、1万5000キロのICBM、極超音速滑空飛行ミサイル弾頭、原子力潜水艦などを挙げ、2022年3月に発射された「火星-17」と主張されるICBMは――「国防5カ年計画」に挙げられた通り――通常軌道なら1万5000キロの射程をもつと観測された。このように北朝鮮がNFUを掲げつつ、「戦争抑止戦略」を支える第2撃能力としてICBMを温存するとしても、その他の核戦力についてNFUが貫かれるわけではない。

2. 戦術核配備と「エスカレーション阻止」

米国からの直接の核攻撃に対して、「戦争抑止戦略」の下での最小限抑止の必要は依然として残されているものの、今回の「核使用法令」のほぼ全体を貫いているのは、朝鮮半島での南北間の武力衝突が米韓連合軍司令官の「戦時」作戦統制下での全面戦争にエスカレートしようとしたときの「戦争遂行戦略」――「エスカレーション阻止」――である。北朝鮮が通常兵力で米韓連合軍に対して劣位に立つと認識しているとすれば、南北間の武力衝突が米軍の介入を招いて全面戦争にエスカレートしたとき、たとえそれを通常兵力での戦争に封じ込めたとしても勝利を期すことはできない。ハノイでの第2回米朝首脳会談が文書不採択に終わった後、北朝鮮はロシアの「イスカンデル」を改良したKN-23などの在韓米軍、韓国軍の基地などを標的とした短距離ミサイルを発射してきたが、そこに搭載される戦術核の開発を済ませたとは考えにくい。戦術核開発は、「国防5カ年計画」に挙げられたが、そこで金正恩は「戦術核兵器を開発しなければ(中略)なりません」と述べて、これからの課題に位置づけていた。しかし、戦術核が開発され、KN-23などの短距離ミサイルに搭載されれば、南北間の武力衝突への米軍の介入を阻止する上で有効な核戦力となる。

ここで指摘すべきは、「核使用法令」が北朝鮮指導者の戦術核配備を示唆する発言をうけて発表されていることである。折しも、そのとき韓国では尹錫悦政権への移行期にあったが、尹錫悦が朴槿恵政権期に構想された「キル・チェーン」の「復元」を国防公約とするなか、徐旭国防部長官は、北朝鮮の「ミサイル発射の兆候が明確である場合」には、韓国軍は「その発射点と指揮・支援施設を打撃する能力と態勢を整えている」と発言した。これに対し、金与正党副部長は4月2日、「わが国家に対する『先制打撃』の妄言を吐いて、反共和国対決の狂気を露わにした」と批判した。金与正は4月4日に再び談話を発表し、「決して誰それを先に攻撃することはしない」として先制攻撃を否定する一方、「(韓国が)『先制打撃』のような軍事行動に出れば状況は異なってくる」(括弧内は引用者)と述べた。さらに、金与正は「やむを得ずわれわれの核戦闘武力は自らの任務を遂行しなければならなくなる」と述べ、「戦争初期に主導権を掌握し、他方の戦争意志を挫きながら、長期戦を防ぎ、自分の軍事力を保存するために核戦闘武力が動員される」と述べた。金与正はここで、核のない米韓連合軍に対して戦術核を先制使用することで、「エスカレーション阻止」の主導権――「エスカレーション・ドミナンス」を得る意思を示したといってよい。

この文脈から、22年4月25日の朝鮮人民革命軍創建90周年閲兵式での演説は特筆してよい。ここで金正恩は、北朝鮮の核戦力が「戦争防止」という「一つの使命」をもつことに言及しながらも、「この地でわれわれが決して望まない状況が醸成される場合にまで」、それに「束縛されているわけにはいきません」と述べた。その上で金正恩は、「いかなる勢力であれ、わが国家の根本的利益を侵奪しようとするならば、われわれの核戦力はその二つ目の使命を断固果たさざるを得ないでしょう」と述べた。核戦力の「二つ目の使命」とは――NFUと対価値攻撃能力で構成される「戦争抑止戦略」とは異なる――核先制使用と対兵力攻撃能力で構成される「エスカレーション阻止」に他ならない。そこで金正恩の念頭には、「エスカレーション・ラダー」の核による最初のラダーとなる戦術核があったに違いない。

3. 核使用委任と核使用原則

このように、「核使用法令」は戦術核がやがて実戦配備されることを前提としている。4月16日に「新型戦術誘導弾」が発射されたとき、朝鮮中央通信はこれが「戦術核運用の効果性と火力任務多角化を強化することに大きな意義をもつ」と報じ、6月21日から23日にかけての党中央軍事委員会第8期第3回拡大会議では、「朝鮮人民軍前線部隊の作戦任務に重要軍事活動計画を追加」することが決定されたという。ここでいう「重要軍事活動計画」とは戦術核配備を指すと考えてよい。金正恩は「核使用法令」採択に際しての演説で、「最も重要なことは、われわれの核武力の戦闘的信頼性と作戦運用の効果性を高められるように、戦術核運用空間を不断に拡張し、適用手段の多様化をさらに高い段階で実現し、核戦闘態勢を各方面で強化していかなければなりません」と述べていた。

「核使用法令」は「核戦力の使命」を冒頭に挙げ、「戦争抑止が失敗する場合、敵対勢力の侵略と攻撃を撃退し、戦争の決定的勝利を達成するための作戦的使命を果たす」(第1条「核戦力の使命」第2項)とされた。「戦争抑止が失敗する場合」とは、米国からの直接の核攻撃よりも、朝鮮半島内部で起きた南北間の武力衝突が米軍の介入による全面戦争にエスカレートしようとしたとき、北朝鮮がその「エスカレーション阻止」のために戦術核使用の威嚇を行ったにもかかわらず、米軍の介入を招いたときを指す。そこで北朝鮮は、介入した米軍の基地、司令部などを標的として戦術核攻撃を行うことによって、それ以上の戦争拡大を阻止しようとするであろう。戦術核を実際に使用すれば、北朝鮮が核の敷居を跨いだことを意味し、在日米軍、グアムのアンダーセン米空軍基地からの戦闘行動を抑止すべく、中距離以上の核戦力を使用する信憑性を高める。ここでいう「戦争の決定的勝利」とは、まずこれら米軍の介入を阻止することが前提となる。

「核使用法令」では、日本に対する核攻撃も正当化されている。「朝鮮民主主義人民共和国は、非核国(複数)(non-nuclear weapons states )が他の核兵器保有国(複数)(nuclear weapons states)と結託して朝鮮民主主義人民共和国に反対する侵略や攻撃行為に加担しない限り、これらの国々を相手にして核兵器で威嚇したり、核兵器を使用しない」(5「核兵器の使用原則」-2)は、この文脈からも取り上げられなければならない。この文言は、不法に核兵器を保有した北朝鮮が、非核兵器国に核による威嚇も使用もしないとするNPTの核兵器国に固有の消極的安全保証(NSA)を供与するという逆説的な内容となっており、2013年の「核保有法令」にも明記されていた。その原型は 2010年4月6日に発表されたオバマ政権による「核態勢の見直し(NPR)」報告に対抗して、北朝鮮が同年4月21日に発表した外務省備忘録「朝鮮半島と核」にある。米国はカーター政権以来、非核兵器国にNSAを供与しつつも、そこには、非核兵器国が他の核兵器国との同盟関係にある場合、あるいは連合して作戦を行った場合には、NSAの例外とする方針を踏襲していた。これは一般に「ワルシャワ条約機構条項」と呼ばれるが、オバマ大統領はこれを撤回して、NSAの例外として核不拡散義務を履行していない北朝鮮とイランを挙げていた。北朝鮮はこれに対して2013年の「核保有法令」で自らの核保有を正当化するとともに、非核兵器国であっても米国と同盟関係にある日本もまた、核使用の対象となりうることを述べており、この点は2013年の「核保有法令」の文言を踏襲する形で「核使用法令」でも再確認されている。

また、北朝鮮においては、これを含めた核使用の決定が金正恩によってのみ下されることはいうまでもない。「核使用法令」は2013年の「核保有法令」を継承する形で、「朝鮮民主主義人民共和国の核戦力は、朝鮮民主主義人民共和国国務委員長の唯一的指揮に服従する」(3「核戦力に対する指揮統制」-1)とした。他方、「核使用法令」では、2013年の「核保有法令」で言及されなかったこととして、国務委員長を補佐する国家核戦力指揮機構という組織に触れられている。これは国務委員長が任命する成員で構成され、「核兵器に関連する決定から実行に至る全過程」で国務委員長を「補佐する」とされている(同-2)。別言すれば、核兵器の開発、配備はもとより、使用についても金正恩の同意なく何らの決定もありえないことになる。

しかし、核戦力をいかに増強させたとしても、それが事前に無力化されては抑止力にも戦闘力にもならない。わけても、「核保有法令」が採択された2013年以降、トランプ政権の下で指導部を標的とした「首狩り攻撃(decapitation)」 が議論されたこともあった。さらに、尹錫悦政権が「キル・チェーン」の「復元」を主張したとき、それを北朝鮮が「先制攻撃」と批判したことは上に指摘した通りである。日本でも「敵基地反撃能力」に「指揮統制系統」への攻撃能力も含むべきとの議論があった。北朝鮮が核使用を指揮官に委任しないとすれば、指導部に対する攻撃があった場合、核使用できない状況に陥ることもありうる。これについて「核使用法令」では、「国家核戦力に対する指揮統制システムが敵対勢力の攻撃によって危険に瀕する場合」は、「事前に決った作戦方案に従って挑発原点(starting point)と指揮部をはじめとする敵対勢力を壊滅させるための核打撃が自動的に即時に断行される」(同条第3項、括弧内は朝鮮中央通信の英文配信記事による)とされ、実際に武力攻撃を受ける前でも、その兆候があれば、あらかじめ作成された作戦指針により、核使用できることになっている。

戦術核が配備されるとき、核使用の権限が前線指揮官に委任される(delegation)可能性はしばしば指摘される。パキスタンが戦術核を配備したときも、インド側でパキスタンが前線司令官に核使用の権限を委任していると指摘された。パキスタンはこれを否定したが、インドではパキスタンの核管理の弛緩を指摘するとともに、通常兵力行使に対してパキスタンが即座に戦術核を使用可能な態勢をとることで抑止効果を高めようとしていると議論されることがある。しかし、北朝鮮の場合、核使用の委任はパキスタン以上にありえない。核兵器を党が一元的に管理することが、党に対する軍の絶対的忠誠の源泉の一つとなっている北朝鮮で、核使用が前線指揮官に委任されることは、源泉の一つを失うことに等しいからである。

このため、北朝鮮が金正恩をはじめとする指導部に対する攻撃でその核戦力が無力化されることを警戒すれば、核先制使用だけではなく早期使用の動機にも駆られることになる。「核使用法令」は「6 核兵器の使用条件」として五つを挙げているが、そのうち「核兵器、またはその他の大量殺戮兵器による攻撃が強行されたり、差し迫ったと判断される場合」、「国家指導部と国家核戦力指揮機構に対する敵対勢力の核および非核攻撃が強行されたり、差し迫ったと判断される場合」、「国家の重要戦略的対象に対する致命的な軍事的攻撃が強行されたり、差し迫ったと判断される場合」の三つにおいて、核攻撃はもとより、核兵器以外の攻撃が「差し迫ったと判断される場合」にも、核使用が許されることになっている。これ自体、指導部に対する核兵器以外の攻撃を抑止しようとする意図が含まれていようが、それにもかかわらず、攻撃が「差し迫っていると判断された場合」には、核の早期使用の危険性を孕むことになる。

おわりに――「早期使用」のリスク

「核使用法令」は、2013年3月末に金正恩が党中央委員会で言及した「戦争抑止戦略」と「戦争遂行戦略」のうち、明らかに後者に比重を置いている。「戦争遂行戦略」が朝鮮半島内部での南北間の武力衝突が米軍の介入にエスカレートすることを阻止する「エスカレーション阻止」と同義であり、それが核先制使用と対兵力攻撃で構成される以上、「エスカレーション・ラダー」の最初のラダーである戦術核の効用が意識されている。確かに、金与正の談話のように「核使用法令」が発表される過程では、戦術核が尹錫悦政権の「キル・チェーン」の「復元」を「先制攻撃」構想に対抗する装備であるかのような言辞もみられた。しかし、北朝鮮が韓国の「先制攻撃」に米国が加担するという戦争を想定したとしても、戦術核の開発は金正恩が2021年1月の第8回党大会で掲げた「国防5カ年計画」にも含まれており、尹錫悦政権の発足と「キル・チェーン」の「復元」が戦術核開発の契機となったとは考えにくい。たとえ先の韓国大統領選挙で、文在寅政権を継承する李在明政権が発足していたとしても、その時期はともかく「核使用法令」は発表されていたであろう。尹錫悦政権の発足と「キル・チェーン」の「復元」は、北朝鮮に戦術核配備と「核使用法令」を正当化する言辞を提供したというべきである。

「核使用法令」が2013年の「核保有法令」を更新しつつ、「戦争遂行戦略」――「エスカレーション阻止」――の下に核先制使用に比重を置いているとはいえ、そこには政治指導部に対する武力攻撃でその核戦力が無力化されることへの警戒が新たに示されている。国務委員長を補佐する国家核戦力指揮機構という組織に触れられ、「敵対勢力」の攻撃によって「国家核戦力に対する指揮統制システム」が「危険に瀕する場合」に、「事前に決った作戦方案に従って」核が自動的に使用されることも明記された。「核使用法令」が挙げた核兵器の使用条件」の五つのうち三つが、「敵対勢力」による核攻撃以外の攻撃が「差し迫ったと判断される場合」に核使用が許されるとし、核の「早期使用」の危険を孕んでいることも指摘した通りである。

そして、この核の「早期使用」の危険は、「核使用法令」が前提とした戦術核でも指摘できる。ここで挙げられた「核兵器の使用条件」の一つには、「有事に戦争の拡大と長期化を防ぎ、戦争の主導権を掌握するための作戦上の必要が提起されることが不可避な場合」が挙げられているが、これは、4月4日に金与正が尹錫悦政権の「キル・チェーン」の「復元」を「先制攻撃」構想と批判した際に触れた「戦争初期に主導権を掌握し、他方の戦争意志を挫きながら、長期戦を防ぎ、自分の軍事力を保存するために核戦闘武力が動員される」と同様の文脈に属する。金与正がその談話で戦術核による「エスカレーション・ドミナンス」の掌握を意図していたとすれば、「エスカレーション・ドミナンス」もまた、核の早期使用の危険性を孕んでいることになる。

(2022年9月26日校了)




<主要参考文献>

・『労働新聞』

Pyongyang Times

・Hyun-Binn Cho & Ariel Petrovics, "North Korea's Strategically Ambiguous Nuclear Posture," Washington Quarterly, Volume 45, Number 2 (July 2022)

・倉田秀也「六者会合と『安全の保証』の地域的展開――米国の核態勢と北朝鮮『核保有』の修辞」小此木政夫・西野純也編『朝鮮半島の秩序再編』、慶應義塾大学出版会、2013年

・____「金正恩『核ドクトリン』の生成と展開――比較のなかの北朝鮮『最小限抑止』の現段階」『北朝鮮をめぐる将来の安全保障環境』、防衛研究所、2017年

・____「北朝鮮の核態勢における対南関係――『エスカレーション・ドミナンス』」の陥穽」平成28年度外務省外交・安全保障調査研究事業『朝鮮半島情勢の総合分析と日本の安全保障』、日本国際問題研究所、2017年

・____「北朝鮮の核態勢と対価値・対兵力攻撃能力――弾道ミサイル開発の二系列」平成29年度外務省外交・安全保障調査研究事業『「不確実性の時代」の朝鮮半島と日本の外交・安全保障』、日本国際問題研究所、2018年

・____「北朝鮮の『戦争抑止戦略』と『戦争遂行戦略』の現段階――核使用の宣言的措置と弾道ミサイル系列生産」令和2年度外務省外交・安全保障調査研究事業『大国間競争の時代』の朝鮮半島と秩序の行方』、日本国際問題研究所、2021年

・____「研究レポート 北朝鮮『戦術核兵器化』」の現段階――KN-23の効用と多様化2021-11-12」<https://www.jiia.or.jp/research-report/korean-peninsula-fy2021-04.html>

・____「北朝鮮の『核兵器戦術化』と『エスカレーション阻止』――KN-23と抑止論上の含意」令和3年度外務省外交・安全保障調査研究事業『大国間競争の時代』の朝鮮半島と秩序の行方』、日本国際問題研究所、2022年

・____「北朝鮮の戦術核配備と抑止の構図――『先制』の応酬と『エスカレーション・ドミナンス』」『CISTEC Journal』第201号(2022年9月)

・Hideya Kurata, "North Korea's Nuclear Weapon Capabilities: Emerging Escalation Ladder,"CSCAP Regional Security Outlook, Canberra: Council for Security Cooperation in the Asia Pacific, 2017

・_______, "Kim Jong-un's Nuclear Posture under Transformation: The Source of North Korea's Counterforce Compulsion," Hideya Kurata and Jerker Hellström (eds.), North Korea's Security Threats Reexamined, Yokosuka: National Defense Academy, 2019

・_______, "Escaping from the 'Accuracy-Vulnerability Paradox': The DPRK's Initial Escalation Ladders in War Strategy," Hideya Kurata and Jerker Hellström (eds.), Nuclear Threshold Lowered? Yokosuka: National Defense Academy, 2021, etc.,