研究報告

2023年度外交・安全保障調査研究事業費補助金
総合事業「日本周辺の主要国の国内要因が国際秩序の変容にもたらす影響」内
「韓国研究会」政策提言

2024-03-31
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本「政策提言」は、3年計画で行われる「韓国研究会」の1年目(2024年度)の研究活動より得られた知見を総合したものである。本提言の内容は同研究会が実施した複数の研究会合での所属メンバー間の議論に基づき、またメンバー全員の総意として文章化されている。所属メンバーが(研究会を含む)本事業において披瀝するのは個人的な見解であり、したがって本提言はいかなる組織・機関の見解も代表するものではない。

3年計画で行われる本研究会では事業期間中に、比較的短期のスパンを念頭に置いた提言を継続的に発出して、研究会の成果発表の一部に位置づける方針である。この方針に基づき、本「政策提言」では2023年~2024年にかけての直近の地域・国際情勢を念頭に置きつつ、研究会の直接の考察対象である韓国の各分野の情勢についての分析と、それをふまえて日本として考えるべき/取り組むべき課題や当該分野で取りうる日韓協力のかたちについての記述をもって、提言のとりまとめを行っている。

1.韓国外交をめぐって(特に米韓同盟・日米韓関係、インド太平洋戦略)

提言

インド太平洋における日韓・日米韓の連携を強化する。日本の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の新たなプラン」(23年3月)と日米韓キャンプ・デービッドサミット合意(23年8月)をもって「インド太平洋2.0」と「日米韓2.0」の時代が開かれた。それらの二つの文書を踏まえて、より具体的な協力を推進する。

背景

2022年から23年にかけて、インド太平洋をめぐる日韓・日米韓の連携の土台が整えられた。22年11月、韓国・尹政権はインド太平洋戦略を発表し、同月のプノンペン・サミット(カンボジア・東アジアサミット)で日米韓・日韓首脳がインド太平洋での連携を確認した。翌年3月、岸田首相と尹大統領の日韓首脳会談(3月16日)が開催され、日韓のインド太平洋の公的な連携も進められるようになった。軌を同じくして、日本は、23年3月に「自由で開かれたインド太平洋の新たなプラン」(3月20日、岸田首相のインド世界問題評議会演説;「4つの柱、51の課題」(外務省))を発表し、「インド太平洋2.0」へとFOIP構想が更新された。韓国がインド太平洋のパートナーとして公式文書でも確認された。その後、5月の日韓会談、G7広島サミットに続き、8月の日米韓キャンプデービッド会談において日米韓連携が首脳レベルで確認され、「日米韓2.0」時代が公式化された。

以上の通り、政策連携の土台が整えられたが、2023年後半からは日本の「FOIPの新たなプラン」と日米韓キャンプデービッド合意をもとに、政策を具体化していく段階に入った。それには二つの目的がある。一つは、現政権としての対応である。定例化された次の日米韓サミット(2024年)と日韓サミット(2024年、2025年日韓国交60周年)に向けて、政策協力の土台作りを進めていく。二つ目は、将来への対応である。成果をもって、来る米韓両国における選挙(24年4月韓国総選挙、11月米大統領選、27年韓国大統領選)や政権交代の様々なシナリオに備えていく。いわゆる「制度化」を進めて、政治が揺れても、実務的な政策連携・協力の土台をできる限り固めておく。戦略・安保環境が厳しいからこそ、制度化を含めた関係の安定化の重要性は増している。

当該分野でありうべき日韓協力の内容

インド太平洋連携の文脈における日韓協力の重点課題として以下をあげる。

  • 日韓・日米韓戦略対話などを通して、インド太平洋政策対話を推進する。
  • 防衛・安保:北朝鮮問題(核・ミサイル能力向上)への対処もあるが(註:北朝鮮の核・ミサイル能力向上の現状と対処に関しては「北朝鮮核・ミサイルリスク」研究会の政策提言も参照)、より広いインド太平洋課題として海洋安全保障の協力を積極的に模索すべきである。韓国もインド太平洋戦略において、従来とは異なり、「インド太平洋国家」として海洋安全保障や海上交通路を守ることに対する関心を明確にした。地理的にはアフリカ東沿岸から南シナ海、東シナ海(台湾海峡も含まれる)も対象となる。日米韓だけではなく豪州、インド、欧州(英独仏など)などのインド太平洋連携国との多国間の枠組みでも推進すべきである。
  • 経済安保・経済協力:日韓・日米韓経済安保対話を活用し、経済安全保障・サプライチェーンにおける協力を強化する。半導体に加え、エネルギー、AI・量子技術などの先端技術での協力の土台作りが進んでいる。例、23年11月、米APECサミット後の岸田・尹会談(於:スタンフォード大)における日韓の水素・アンモニア供給網の構築、量子技術研究に関する日韓の国立研究所の協力覚書。日本の「FOIPの新たなプラン」の焦点の一つであるグローバルサウスにおける開発協力の具体的な例でも成果が期待される。インド太平洋方面ではASEANや太平洋諸島が重点地域となる。この方面でも日韓・日米韓のみならずIPEF(インド太平洋経済枠組み)を含む多国間協力の枠組みを活用することが重要である(註:経済編(後述)も参照)。
  • 社会・グローバル課題:日米韓キャンプデービッド合意では社会課題(ジェンダー・エンパワーメントなど)やグローバル課題(気候変動、保健・医療など)も重点課題として取り上げられたが、日韓でも社会・グローバル課題を特定し、研究、対話、政策協力を進めていくべきである。また、次世代育成のために(キャンプデービッド会談で合意された)日米韓グローバルリーダーズ・ユースサミットの第1回が来年24年7月釜山で開催される。日中韓に加えて日米韓で構築されるユース・ネットワークを活用し、日韓の次世代の人材育成を多角的に推進すべきである(註:社会編(後述)の提言も参照)。

2.韓国の内政状況と日本の対応

提言

日韓関係、日米韓連携の重要性について理解を深めてもらうためのパブリック・ディプロマシーを強化すべきである。特に尹錫悦政権に対して批判的な韓国の野党支持者を念頭に置き、そうした人々の理解を得ようとする努力が必要となる。

背景

韓国社会は政治的な分極化が進んでおり、保守派の尹錫悦政権が取る政策であるからという理由で進歩派の野党支持者が反発するという構図ができている。対日政策はその典型であり、2023年3月に打ち出された徴用工問題解決策に対して与党支持者は肯定的な反応を見せた一方、野党支持者は極めて否定的であった。ただし、政治的思惑に基づく野党の主張に無理があるとみなされれば、その影響力は限定的である。それを示したのは、同年夏の福島第一原発からの処理水放出を巡る動きであろう。野党勢力は危険性を強く主張し、放出を是認する政権批判の材料として活用しようとしたが、科学的根拠に基づく粘り強い説明が政権側によってなされたこと等によって野党側の思惑は不発に終わった。

韓国社会においても国際情勢の厳しさは認識されており、複数の世論調査からは日米韓のみならず日本との安保連携についても従前より拒否感が減っていることが読み取れる。適切なパブリック・ディプロマシーを展開すれば、日本との関係改善の必要性への理解を広められる環境であると言えよう。その際に重要なのは、尹政権の姿勢に否定的な態度を取る人々に「現下の状況を考えれば必然である」と理解してもらうことである。その際には、歴史認識などを巡る日韓間の相違を印象づけるような言動を厳に慎み、協力の必然性に対する理解を広めるというポジティブな方向性に専心することがきわめて重要であろう。特に2024年4月に実施される韓国総選挙後には、その結果のいかんにかかわらず、この点をとりわけ留意する必要がある。

当該分野でありうべき日韓協力の内容

尹錫悦政権に批判的な人々へのアプローチを図るためには、韓国の中立的な機関もしくは民間をパートナーとして事業を展開すべきである。政治的な理念対立が社会問題と認識されているがために、そこからの脱却を訴えるオピニオンリーダーも少なくない。実際には完全に中立とは言えない場合が多いものの、こうしたグループの中で比較的に進歩派寄りといえるグループへのアプローチは有益となりうるのではないか。「理念対立からの脱却」を訴えているだけに、少なくとも「耳障りが悪いことでも聞くべきだ」と働き掛ける余地はある。そうしたグループから一定の理解を得ることを目標にすれば、伝えるべき内容のあり方についても適切な検討をできるであろう。

3.対北朝鮮政策・南北関係をめぐって

提言

日本は、拉致問題を進展させるためにも日朝交渉の再開に積極的に取り組み、南北朝鮮の軍事的な緊張状態の緩和に貢献する必要がある。南北朝鮮それぞれがナショナル・アイデンティティの強化を進め、国家対国家という「1民族2国家」の関係が定着しつつある現状は、日本が独自に北朝鮮外交を展開する好条件を与えている。南北や米朝対話が途絶えている中、日朝交渉の再開は地域の緊張緩和という側面から重要な意味がある。

背景

南北関係の再構築が進んでいる。第一に、核兵器を基盤とした新しい南北対立の時代に入りつつある。南北対話が途絶し、尹政権に対する北朝鮮の非難が高潮している。2019年のハノイ米朝首脳会談が成果無く終わったことで、北朝鮮は非核化から完全に離脱し、韓国をターゲットにした戦術核の開発に乗り出す政策に転換した。それに対し、韓国は米国との同盟を強化する中で核協議グループの設立や戦略核潜水艦の韓国寄港を行うなど、米国の拡大抑止の信頼を高めようとしている。

第二に、「民族」よりも「国家」が強調されるようになっている。北朝鮮の金正恩委員長は「わが国家第一主義」を掲げ、韓国を「大韓民国」と呼び始めた。また、朝鮮労働党中央委員会総会(2023年12月26〜30日)では、「北南関係は、同族関係、同質関係ではなく、敵対的な二つの国家関係、戦争中にある二つの交戦国の関係に完全に固着化した」と規定した。1991年12月の「南北基本合意書」で、「国と国の間の関係ではなく、統一を志向する過程で暫定的に形成された特殊な関係であることを認め、平和統一を成就するための共同の努力を傾ける」と謳った関係からの転換が図られた。他方、韓国の尹錫悦大統領は外交・内政において理念を重視している。北朝鮮を 「共産全体主義」と規定し、「自由民主主義国家韓国」と差別化している。韓国・北朝鮮による双方への敵対的な政策の強化によって、民族よりも国家対国家としての南北関係(「1民族2国家」)が定着する可能性がある。この動きは短期的には統一論と緊張関係を生み出すと思われるが、長期的には「1民族2国家」をもとにした共存関係構築の基盤として機能する可能性がある。

当該分野でありうべき日韓協力の内容

日韓協力は、北朝鮮に対する抑止力強化を重視しながらも、朝鮮半島の軍事的緊張の高まりには細心の注意をはらうべきである。北朝鮮との対話、交渉の機会があれば日本はそれを果敢に掴むべきである。しかしその際には、韓国との緊密な意思疎通を欠いてはならない。日韓関係の改善に尽力している尹政権との連携をしっかりとりながら対北朝鮮外交に臨むことが望ましい。

4.韓国経済と経済安全保障

提言

米中経済のデカップリング傾向が顕著となる一方で中国経済が国産化を進めるなかで、韓国経済は2000-2010年代のような中国への傾斜には歯止めがかかりつつある。日韓両国は経済面での利害が共通する部分が多くなっており、対中、対米で協調する余地が大きくなっていることに留意すべきである。

背景

韓国の輸出に占める中国向けの比率は2018年をピークに低下傾向にある。これは中国によるTHAAD配備への制裁以降、サムスン電子のスマートフォンやヒョンデ自動車の乗用車の中国内での販売が顕著に落ち込むとともに、中国企業が着実に成長を遂げて中間財の国産化が進んだことによる。また韓国企業の中国向け直接投資も、中国企業が力をつける一方で中国経済全体の成長は減速傾向にあること、反スパイ法改正によって中国国内での事業活動に不確実性が強まったことによる。他方でサムスン電子やSKハイニクスは中国内に大規模な生産施設を有しており、米中の技術覇権をめぐる対立が深刻化してアメリカが対中技術規制を強めるなかで、両社は中国内での生産活動の維持に苦慮している。日本も、中国向けの輸出や直接投資は減少傾向にある一方で、これまで中国に投資をしてきた日本企業は非常に多く、近年の情勢変化に大きく影響を受けている。特に韓国の対中傾斜が弱まった結果、経済面でも対中のスタンスは日韓で大きな違いはなくなってきている。

当該分野でありうべき日韓協力の内容

日本と韓国は、中国を含めた様々な三国間協力の枠組みを持っている。その枠組みの中で、日韓は共同で中国内の様々な不透明な規制に対して改善を求めるべきであろう。また、近年、アメリカは日米韓、あるいはIPEFのような日米韓を含めた多国間の枠組みをつくって中国への対抗姿勢を強めている。日本と韓国は技術やサプライチェーンの面でアメリカとの協力を強めつつも、日韓企業が中国とのビジネスを継続する上で不確実性が高まらないように、対中規制のあり方をめぐっても協調してアメリカと協議を進めることができるであろう。

5.韓国社会の様態をめぐって

提言

日韓の共通課題について若い世代を中心に議論する場を増やす。持続可能な社会発展のためにどのように現状を変えていくべきなのか、両国の若者が意見を交わし、政策決定者に提言する機会を提供する。長期的に日韓の若い世代間の相互信頼や協力関係を強化する上で大きな効果が期待できる。

背景

韓国社会では目下、国内の分極化をどう是正していくかが大きな政治的課題となっており、少子高齢化や人口減少、移民受け入れなど、国民の同意に基づく対応策を進める喫急の問題が山積している。これらの問題は、とりわけ若い世代の未来に大きくかかわるという点において、日韓の共通課題でもある。隣国の動向や政策の方向性のモニタリングすることが、日本の政策選択の幅を広げるために有用なのはいうまでもない。

近年、各種の日韓交流で学生が選ぶディスカッション・テーマは、少子高齢化、フェミニズム、ジェンダー平等、社会保障、環境問題が主を成す。若い世代にとって、それだけ切実なテーマとなっていることがわかる。

日韓がトップランナーとなる急激な人口減少や超高齢化は、他国に参照事例がない中で解決策を模索する課題だ。実際に未来を生きるのは若い世代である。時代に合った新しい価値観やそれに基づく斬新な発想を、日韓の若い世代から引き出すための仕組みづくりが必要であろう。両国の政策決定者には、将来世代の利害や意見をもっとすくいとり、政策に取り入れる努力が求められる。

当該分野でありうべき日韓協力の内容

日韓の若者が対話を重ね、政策アイディアを提言する場を設定する。定期的に同じメンバーで2~3年かけて議論し提言をまとめることで、両国の若者による新しい協力モデルを提示する。

また、助成金の充実で交流を活性化していくことで、日韓の同世代の若者をつなげる取り組みを、さらに一歩前に進める。

(2024年3月31日)