コラム

アジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)の活動の見直し

2004-06-30
中山 俊宏(主任研究員)
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設立から十年を経たアジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)は、2004年5月にクアラルンプールで開催された第21回国際運営委員会において、その活動を大幅に見直すことを決定した。
設立から十年を経たアジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)は、2004年5月にクアラルンプールで開催された第21回国際運営委員会において、その活動を大幅に見直すことを決定した。CSCAPは、この10年間、アジア太平洋地域における最も包括的且つ継続的なトラック2のフォーラムとして積極的な活動を行ってきた。トラック1のASEAN地域フォーラム(ARF)を知的に支援することを主たる目的としつつも、トラック2の柔軟性を活かし、アジア太平洋地域が抱える問題を様々な角度から、重層的に取り扱ってきた。具体的には、5つの作業部会を設置し、問題の性質に応じ、問題の理解を深めるための研究活動、提言(メモランダム)の作成、トラック1からの参加者を招くトラック1.5の会議などを開催してきた。

5つの作業部会のなかでも、とりわけ信頼醸成安全保障作業部会が開催したトラック1.5の会議において作成した「アジア太平洋地域における予防外交の定義」は、ARFが作成した予防外交の共通理解の原案となり、CSCAPの知的インプットが直接トラック1の議論を支援した例としてしばしば言及される。またCSCAP日本がCSCAPカナダと共に共同議長をつとめた北太平洋作業部会は、主として北東アジアが地域として抱える問題について議論し、この地域を構成するすべてのメンバー(日本、韓国、中国、北朝鮮、ロシア、アメリカ、モンゴル、台湾[オブザーバー])が大きな関心を有し、活発な議論を行ってきた。とくに北朝鮮については、はやくからCSCAPに参画し、後のARFへの参加の道筋をつけたとの評価もある。この他にも海洋協力作業部会、国際犯罪作業部会、包括的安全保障作業部会も、提言の作成、研究成果の出版などを通じて、アジア太平洋地域が抱える問題に関心を有するポリシー・インテレクチュアルの間の知的信頼醸成の装置として極めて有用な活動を行ってきたといえる。

メンバー国の同意を得て、これまでの作業部会の活動を見直し、新たにスタディ・グループが設置されたのは、設立時とは、CSCAPのおかれた環境が変わり、単なる対話のフォーラムからより具体的な問題に取り組む必要性があるとの問題意識がメンバー間で共有されたためと言える。右運営委員会では、新たに以下の6つのスタディ・グループを設置することが決定した。(これに伴い現行の5つ作業部会は廃止された。)

1. 海洋協力のためのキャパシティー・ビルディング
2. 北東アジアにおける多国間の安全保障協力の将来的展望
3. 不法薬物取引の現状
4. アジア太平洋地域におけるピース・キーピングとピース・メイキング
5. アジア太平洋地域におけるテロリズムの問題とそのルート・コーズ
6. アジア太平洋地域における大量破壊兵器の拡散問題とそれへの対抗措置


以上、6つのスタディ・グループは、これまでの作業部会が行ってきた活動を前提としつつも、それをより深く掘り下げ、知的に深化させることによって、具体的な問題に関するアジア太平洋地域のポリシー・インテレクチュアルの間の「世論形成」の一端を担おうとするものである。新たなスタディ・グループは、これまで特段活動期間を定めていなかったものを2年で区切ることとし、政策的に意義のあるアウトプットを作成することが義務づけられた。

日本のCSCAP事務局をつとめる日本国際問題研究所は、CSCAPの設立、活動においてこれまで中心的な役割を担ってきた。それはCSCAPのメンバーの間でも高く評価されている。しかし、近年、CSCAP自体の活動の幅が広がり、さらに単に集まって議論をする信頼醸成の段階から、より具体的な政策に議論の軸が移行しつつあるなか、より幅広い知的資源を日本国内から動員する必要に迫られている。

今後、CSCAPの活動が新しい段階に入ろうとする時、日本としてもこのフォーラムでプレゼンスを示し、より積極的な知的貢献をすることが求められていると言えよう。CSCAP日本委員会は、新たに設置されるスタディ・グループのうち、「北東アジアにおける多国間の安全保障協力の将来的展望」に関するスタディ・グループの設置を提案し、北東アジアにおける多国間の対話の枠組みの研究を関係国が集まって本格的に議論する必要性を訴え、了承された。これは、現在進行する六者協議の動向を視野に入れつつも、これを超えて将来的に望ましい対話のフレームワークに関する研究を行い、北東アジアが今後直面する変動に知的に備えておこうとするものである。CSCAP日本としては、今まで以上に活動のベースを広げ、右スタディ・グループを中心に、CSCAPの活動により積極的に取り組んでいくこととしたい。

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CSCAPについては以下の文献を参照。 星野俊也 「アジア太平洋地域安全保障の展開」『国際問題』第494号(2001年5月)。
中山俊宏 「アジア太平洋のトラックIIプロセス-CSCAPの事例」森本敏編『アジア太平洋の多国間安全保障〈JIIA研究9〉』(日本国際問題研究所出版、2003年)。