コラム

日米安全保障協議委員会(「2+2」)の合意

2005-11-07
水本 義彦(研究員)
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2005年10月29日(米国時間)、日米の外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(通称「2+2」協議)が開催され、今後の日米安全保障協力の方向性と課題が確認された。…
「2+2」協議の合意
2005年10月29日(米国時間)、日米の外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(通称「2+2」協議)が開催され、今後の日米安全保障協力の方向性と課題が確認された。「日米同盟は、日本の安全とアジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎」と定義され、日本本土及び周辺の防衛に限定されず、グローバルな安全保障環境の改善に共同して取り組むことが謳われ、日米同盟の世界的な展開に向けての体制整備に取り組む姿勢が鮮明になった。

今般の「2+2」協議では、最大の懸案事項であった「兵力態勢の再編」、すなわち在日米軍の再編に関して日米両政府が合意に至った。日米共同による抑止力の維持と基地を抱える地域の負担軽減を模索し、10月後半、新聞報道等でも連日報じられた喧々囂々の難交渉を経て合意に至った。合意事項の主要な点には、沖縄の普天間飛行場から米第三海兵機動展開部隊司令部がグアムへ移転(約7,000人の海兵隊削減)、キャンプ・シュワブ沿岸部に代替飛行場の建設、また神奈川県座間キャンプに駐留している在日米陸軍司令部の機能強化(米陸軍第一軍団司令部(ワシントン州)を改編して移設し、展開可能で統合任務が可能な作戦司令部組織に近代化)などが含まれる。

これで、一時は日米間での基地摩擦による同盟の亀裂が憂慮されていた事態から抜け出すことに成功した。しかし、日本政府は合意に漕ぎ着けた安堵感に浸っている場合ではなく、むしろこれから先、同盟の深化に向けての日本の実質的な貢献が米政府によって評価される試練の時を迎えるのである。

合意では、来年3月までに日本政府が関係地方自治団体との政策調整を完了させることが「確約」されている。早くもラムズフェルド米国防長官は、日米の「政府間」交渉が合意を見た以上、今後は日本政府が強いリーダーシップを発揮して合意に対する国内支持の取り付けに成功できるかどうかに日米の安全保障協力の将来がかかっていると、日本政府の迅速な対応を催促する発言をおこなった。キャンプ・シュワブでの滑走路建設地をめぐる日米論争が、結果的に防衛庁発案の日本案に米国政府が譲歩するかたちで妥結したことで、むしろ日本政府は、政府間合意に対する国内了解を取り付けることに失敗が許されない立場に置かれているのである。

日米同盟の深化の鍵:日本の自助努力
今後の日米同盟の強化には、これまで以上に日本による防衛・安全保障政策面での「自助努力」が重要になってくる。

日米同盟は冷戦を生き延びたばかりか、冷戦後強化されているという印象が強い。さらに近年の、親密な小泉・ブッシュ関係が日米関係全般の友好ムードを醸成している。しかし日米同盟の将来の発展を所与のものとして当然視することはできない。冷戦時代のように特定の脅威に対する共通の脅威認識によって結束を維持してきた時代と違って、これから先は同盟の存在意義・役割は持続的な討議を通じて随時検証されていく時代になるだろう。

特に現ブッシュ政権に顕著な特徴であるが、米国政府は同盟という連携の「形式」よりも、連携の実質的機能や効果という「実体」に関心を注ぐようになっており、この傾向は政権担当者の交代が生じても中長期的な傾向として続いていくだろう。しばしば、「モノ(基地)とヒト(米軍)」の交換と描写される、元来非対称的な役割・機能が結合した日米安保体制は、日本によるより積極的な同盟への貢献が認められなければ、米政府が日本を同盟国として重視する動機が次第に弱まり、形骸化していく危険性がある。現在のアメリカはイラクでの混迷が示すように単独であらゆる問題に対処できるほど万能ではないが、しかし同時に、具体的な貢献をおこなう意志も能力もない国家との連携を維持しなければならないほど脆弱では決してない。

今後同盟は、冷戦期にみられた「庇護者」と「被保護者」のような垂直固定的な関係ではなく、多様かつ変化する目的に対して適合する能力を互いに提供しあい、その貢献具合を相互に評価しながら、新たな連携の形が模索されていくようにみえる。換言すれば、任務に応じて各国がそれぞれ提供可能なサービスをアメリカが統括指揮者となって組み合わせていくタイプの連携が生じてくると思われる。

「軍事革命」の進展によって飛躍的に遠征能力を高めた米軍はまさにグローバルな兵力展開能力を保持しているが、地域それぞれの個別・特殊問題に対処するには周辺地域諸国からのローカル・サポートが不可欠である。今回の合意文書にもみられるように、今後の日米同盟の果たすべき役割は、伝統的な日本およびその周辺地域の防衛にかかわるものばかりではなく、捜索・救難活動、人道救援支援、復興支援活動など伝統的に非軍事的領域と見なされてきた分野も含まれ、日本の自衛隊が積極的に能力を発揮できる分野が多くある。現在特別時限立法の形で実施されているアフガニスタン、イラクでのテロ対策支援、復興支援活動、またインドネシアの津波災害に際して実施された救済活動などを日米同盟の恒常的な課題として認識し、法整備とともに自衛隊が事態対処能力を向上させ、アメリカを始めとする他のパートナーに自らの存在価値を訴えていくことが重要になってくるだろう。