コラム/レポート

『Global Risk Research Report』No. 26
アメリカとイラン―― 第一期トランプ政権とその後

2020-02-21
小野沢 透 (京都大学大学院文学研究科教授)
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(1) はじめに

 2019年、米国の対イラン制裁の強化に伴い、米・イラン関係は軍事的緊張を伴うほどにまで悪化した。しかしながら、ドナルド・トランプ(Donald Trump)政権の対イラン政策には、強硬一辺倒というだけでは片付けられぬ、複雑な側面が存在する。
 本稿は、トランプ政権の対イラン政策の複雑さに焦点を当てることにより、対立と緊張の亢進という外観の背後に存在する米・イラン関係の文脈を浮かび上がらせるとともに、米国の対イラン政策が内包するいわば構造的な問題を明らかにすることを目指す。

(2) 概観――トランプ政権のイラン政策と中東政策

 2018年5月、トランプ政権は、2015年のイラン核合意(Joint Comprehensive Plan of Action: JCPOA)が、①イランの核開発を長期的に抑制できず、②核兵器の運搬手段の開発を制限しておらず、③米国がテロ組織と見做す中東域内の反米勢力へのイランの支援を抑制していない、ことを理由としてJCPOAから一方的に離脱した。これ以降、トランプ政権は、これらに関する譲歩をイラン側からの引き出すことを目標に、イランに対する圧力を段階的に強化している。同政権が「最大限の圧力」政策と呼ぶ一連の政策は、2019年に入ってからいっそう広範な展開を見せた。とりわけ4月から6月にかけて、イランのイスラーム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard Corps: IRGC)の在外テロ組織(Foreign Terrorist Organization)指定、イラン産石油を輸入する第三国に対する制裁(いわゆる二次制裁)発動の例外撤廃および鉄鋼・アルミニウム・銅等への禁輸措置拡大などの経済制裁の強化、ペルシャ湾地域への米軍の増派およびサウジアラビアやUAEへの武器供給の加速、イラン最高指導者アリー・ハーメネイー('Alī Khāmene'ī)の資産凍結などの措置が取られることで、イランへの経済的・軍事的圧力は急速に強まった。米国がJCPOAから離脱した2018年5月以降、中東に展開する米軍は約1万4千人増加し、全体で5万人規模に達していると見られる。
 これに伴い、米・イラン間の緊張は軍事的次元にまで高まった。対イラン制裁が大幅に強化された頃から、ペルシャ湾を航行する各国のタンカーへの攻撃が頻発するようになった。管見の限り、これらの攻撃が何者によって行われたのかを特定できる明確な証拠は上がっていないが、トランプ政権はこれらがイランによって行われたものとする見方を取っている。しかし同時に、トランプ政権はイランとの軍事的衝突を回避する姿勢も一貫して示している。6月20日、イランが米軍の無人偵察機を撃墜したのを受け、米国はイランへの軍事的報復を準備したが、直前になってトランプはこれを中止する決定を下した。9月14日にはサウジアラビアの石油施設に対する大規模な攻撃が発生した。これについてもトランプ政権はイランが関与したとの見方を取っているが、報復措置は取らなかった 1。軍事的エスカレーションを回避するという点については、米国とイランの間に(少なくとも公式のレヴェルでは暗黙の)立場の一致があると見ることができる。この立場の一致が一般に想像されている以上に強固であることは、後述するガーセム・ソレイマーニー(Qāsem Soleymānī)殺害事件で明らかになることとなる。
 トランプ政権は、イランへの圧力強化という経路を通じてあたかも中東に深入りするかのような行動を取る一方で、大統領選挙で公約していた中東からの米軍撤退を進めようとしている。政権内で米軍撤退を強く推し進めようとしているのはトランプ大統領であると考えられるが、このことを巡って政権内にはしばしば大きな軋轢が生じてきた。「イスラーム国(Islamic State of Iraq and Syria: ISIS)」の支配領域の縮小に伴い、トランプはシリアからの早期の米軍撤退を目指す姿勢を明確化したが、これが原因となって、2018年末には、米軍のシリア展開継続を主張していたジェームズ・マティス(James Mattis)国防長官が政権を去ることとなった2。この後、シリア撤退に向けた動きはいったん後景に退いたが、2019年10月、トランプはシリア北東部に展開する米軍を撤退させる方針を明らかにした。米国政府は、ISIS掃討で共闘したクルド人をはじめとするシリア反政府勢力への支援継続およびISISの支配から解放した地域の再建にコミットする立場を公式には維持しているものの、米国と連携する勢力が残存していた北東部からの米軍撤退により、如上のコミットメントは事実上、空文化したと考えられる3
 これと並行して、トランプ政権は、アフガニスタン駐留米軍を漸減させつつ、完全撤退を視野に、アフガニスタン政府の頭越しにターリバーン(Ṭālibān)との交渉を進めた。2019年9月には米国側が交渉をいったん打ち切ったことにより、締結間近であったとされるターリバーンとの合意はいったん流れたが、遅くとも12月初旬までに米・ターリバーン間の交渉は再開されたと見られている4。9月の交渉打ち切りと前後して、トランプはターリバーンとの合意に反対した国家安全保障担当大統領補佐官ジョン・ボルトン(John Bolton)を事実上更迭した5。マティスとボルトンが、何れも対イラン強硬派であるのと同時に中東における米国の軍事的プレゼンスや友好関係にある勢力へのコミットメントを維持することを主張していたのは、偶然ではない。敢えて単純化するならば、両名はイラン封じ込めという目標を貫徹するために米軍撤退という目標を断念せざるを得ないと主張し、2つの目標を同時に追求しようとするトランプに解任されたのである。
 中東からの米軍撤退とイランからの譲歩獲得というトランプ政権の2つの目標は、(理論上はともかく)現実には矛盾する。マティスやボルトンの退場により政権内の異論は排除されたかもしれぬが、このことは2つの目標の間に存在する矛盾が解消されたことを意味するわけではない。トランプ政権は、イランの核兵器および運搬手段の開発停止のみならず、周辺諸国におけるイランの影響力の抑制を重要な目標に掲げているが、シリアなどからの米軍の撤退は、域内におけるイランの影響力を縮減するという目標とは明らかに矛盾する。周辺諸国における米軍のプレゼンスの縮小は、イラン指導部に対する外交的な圧力を減ずるのみならず、それまで米国とともにイランに対抗してきた勢力を弱体化させ、イランが影響力を拡大するのを容易にするからである。
 矛盾はそれだけではない。前述のように、トランプ政権は、イランに対する圧力を増大させるという名目で米軍を中東に増派し、結果的に中東地域に派遣されている米軍の規模は政権発足時よりも拡大するに至っている。増派された米軍の相当部分は撤収が容易な海・空軍戦力と考えられるものの、米軍撤退と対イラン圧力の増大を同時に追求することが現実には困難であるがゆえに、トランプ政権は言行不一致に陥っているのである。
 トランプを含む米国の政策担当者たちが、2つの目標の間の矛盾や言行不一致状況をどのように意識しているのか、そしてこれらをめぐって政権内でどのような議論が行われているのか、知ることはできない。しかし、これまでの行動から判断する限り、トランプ政権はこれらの矛盾を解消し得る唯一のシナリオに賭けているように見える。それは、交渉を通じてイランから大幅な譲歩を勝ち取るというシナリオである。

(3) 米・イラン交渉の可能性

 トランプ政権の「最大限の圧力」政策は、イランを経済的・外交的に追い詰めることにより、米国側に有利な状況を創出した上で、イランとの交渉を開始し、核兵器および弾道ミサイルの開発凍結や、米国政府が「テロ組織」と位置づけるヒズブッラー(Ḥizbullāh)等を含む域内の親イラン勢力への支援の縮小・停止などの譲歩をイラン側から引き出すというシナリオに基づいている6。つまり、「最大限の圧力」政策は、イランとの交渉なしには完結しない。トランプ政権あるいはトランプ自身が、2019年6月頃から、イラン大統領ハサン・ロウハーニー(Ḥasan Rowhānī)との直接会談の可能性も含め、イランとの交渉を開始したいというシグナルを発し始めたのは、このような事情によるものと考えられる7
 とりわけ秋以降、イラン側への交渉の呼びかけは、いっそう鮮明になった8。2019年9月25日の国連総会演説において、トランプは、米国が早期の交渉開始を求めていることを率直に表明した。演説におけるイランへの言及は、トランプ政権の公式のイラン政策の正当化から始まる。イランは「テロ支援国家の筆頭」であり、イラン政府は国民の富を強奪して核兵器を開発しようとしている。それにもかかわらずJCPOAには、イランの核開発を抑制する上で重大な抜け穴があり、弾道ミサイル開発も禁止していなかった。それゆえ米国はJCPOAから離脱して、制裁を開始したのである。「イランの威嚇的(menacing)行動が続く限り、制裁は強化され、緩和されることはない」。このように述べた上で、トランプはイラン政府への呼びかけを行った。少し長くなるが、引用してみよう。
 イランの市民は、彼らの金を国内外の大量殺戮のために収奪する政府ではなく、貧困を減らし、腐敗を根絶し、職を創出することに関心を向ける政府を持つ権利がある。[イスラーム革命から]40年間の失敗を経て、いまこそイランの指導者たちは、前進し、他国を脅迫するのをやめて自国の建設に集中すべきである。いまこそイランの指導者たちは、イラン国民を最優先すべき(put the Iranian people first)である。
アメリカは、平和と尊敬を心から望む者であれば、何者とでも友誼を結ぶ用意がある。アメリカの最も緊密な友邦の多くは、かつては最大の敵であった。合衆国は、永遠の敵[という考え方]を信じない。我々は敵ではなくパートナーを求めている。戦争を始めるのは誰にでもできるが、平和を選ぶことができるのは最も勇気ある者のみであることを、アメリカは知っている9

 ここからは、イラン政府との早期の交渉を希望しているとのメッセージが読み取れるが、もう一点、見落としてならないのは、トランプ政権がイランの現体制の存続に反対しない、言い換えるならば「最大限の圧力」政策はイランの体制転換を目指すものではないとのメッセージである。
 2019年11-12月にイランで発生した反政府抗議活動に対するトランプ政権の対応からも、米国がイランの体制転換を求めているわけではないという一貫したメッセージを読み取ることができる。ガソリン価格の引き上げをきっかけとして発生したとされる今次の抗議活動の性質や規模および当局の取締についてはなお明らかではない部分も多いが、抗議行動が全国的な規模で発生し、当局による取締の結果数百人規模の死傷者が出たことは、ほぼ間違いない。米国政府は、対イラン制裁はイラン政府を攻撃対象とするものであり、イラン国民を攻撃するものではない、との公式の立場を取っている。(これは、第一次世界大戦時の米ウッドロウ・ウィルソン(Woodrow Wilson)政権の対ドイツ政策以来、米国政府がしばしば用いられてきたロジックであり、対イラン政策に特有のものではない。)かかる公式政策に鑑みれば、米国政府が抗議行動を政治的に支持する立場を取ったとしても、さらにはイラン政府に対する圧力としてそれを利用しようとしたとしても、不自然ではない。それにもかかわらず、この抗議活動に対するトランプ政権の反応はきわめて抑制的であった。
 抗議活動開始直後の11月中旬、ホワイトハウス報道官は、「平和的な抗議活動」を「支持」し、当局による「致死的な(lethal)」弾圧と通信の制限を「非難(condemn)」するとの公式声明を発した10。一見するところ、米国政府は抗議活動の側に身を置いたようにも見えるが、じつのところ、この公式声明は、人権や民主主義を尊重するという米国の原則的な立場を確認する以上に踏み込むものではなく、抗議活動への「支持」はあくまでも人道的な、すなわち非政治的な見地から表明されていた。つまり、この公式声明の隠れたポイントは、米国政府は抗議活動を政治的に支持しているわけでも、イランの現体制の存続に反対しているわけでもない、とのメッセージであったと考えられる。
 これ以降も、トランプ政権は、この原則的な立場を維持した。抗議活動の開始から1週間以上が経過した11月末、マイク・ポンペオ(Mike Pompeo)国務長官は、右派メディアとのインタヴューにおいて、抗議活動は「自由と経済的達成を求めるイラン国民」の意思を反映しているとの解釈を示しつつ、より強硬な対イラン政策を催促するようなアンカーからの質問に対しても、イラン政府への政治的な批判は避け続けた11。12月初め、イラン問題担当官のブライアン・フック(Brian Hook)は、記者会見において、IRGCによる暴力的な取締を人道的な立場から批判しつつ、抗議活動を通じて「イラン国民は、政府に対して、[周辺諸国の]代理勢力ではなく、自国民に関心を向けるよう求めている」との解釈を示すにとどまった12。さらに12月初旬、ロンドンでの北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization: NATO)会合に際して行われた記者会見で、トランプは、イランでの抗議活動を米国は支持しているのか、との質問に対して、「その事については語りたくないが、答えはノーだ」と回答した。その後、「我々はそれ(抗議行動)を全面的に支持しており、最初から支持してきた」と言い直したものの、トランプの真意は、むしろ言い直す前の発言に表れていたように見える13。言い直し後の発言とて、11月中旬のホワイトハウス報道官の公式声明をなぞるものに過ぎない。つまりトランプ政権は、抗議活動を人道的見地から支持する立場を示しつつも、それを政治的に支持することを一貫して避け続けたのである。
 以上のように、トランプ政権は、イランの現体制の存続を前提として、早期に交渉を開始するよう、イラン側にシグナルを送り続けている。これに対してイラン政府は、米国側の経済制裁解除なしには交渉に応じないとの立場を堅持し、とりわけ高官レヴェルの米国との直接交渉を避け続けている。このことは、上記のトランプ演説が行われた国連総会の舞台裏で繰り広げられた外交からも垣間見える。米・イラン間の直接交渉を進めようとしていたエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)仏大統領は、トランプとロウハーニーが直接会談できる場所を設定し、両者に打診した。トランプはこれに応じ、別室で待機していたが、結局ロウハーニーが難色を示したために、会談は流れたという14。ここでのロウハーニーの行動には、制裁解除なしに米国との交渉開始を拒否するというイラン政府の原則的立場に加え、米国側と接触したことが明らかになれば(まして会談の写真などが流出すれば)、イラン国内で政治的な攻撃材料とされる可能性が高いという事情も関係していたと考えられる。マクロンの一件をイラン側も秘匿したことから窺われるように、イラン側も米国との接触の可能性を閉ざすことには慎重な姿勢を維持しているものの、ロウハーニーの行動から読み取れるのは、イランは「最大限の圧力」に屈することはないという強いメッセージである。
以上を俯瞰するならば、2019年後半は、米・イラン間の緊張が高まる背後で、双方が交渉の入り口を巡って相手方の譲歩を待ち続けている状況にあったと見ることができる。トランプ政権は、イラン現体制を容認する立場を一貫して維持することにより、交渉を求める姿勢が単なるリップサーヴィスではないというメッセージを送り続けたが、イラン側は制裁解除を先行させることなしに交渉を開始することを拒否する姿勢を堅持した。制裁により苦境にあるのがイラン側であることは言うまでもないが、外交的レヴェルで見る限り、交渉をより強く求めたのが米国側であったことは留意しておいてよいであろう。

(4) ソレイマーニー殺害事件

 2019年末、米・イラン間では、軍事的緊張がいっそう高まった。カターイブ・ヒズブッラー(Katā'ib Ḥizbullāh)をはじめとするイラクにおける親イラン民兵組織のよる米軍関係施設への攻撃が激化し、12月27日には米国人の軍属に死者が出た。12月29日、米国はこれに対する報復として、イラク国内3箇所、シリア国内2箇所のカターイブ・ヒズブッラーの拠点への攻撃を実行し、後者の発表によると24人の死者、50人以上の負傷者が発生した15。イラクでは米国の攻撃に対する抗議活動が活発化した。12月31日には、バグダードの米大使館周辺で大規模な抗議行動が発生し、暴徒化した参加者の一部が米大使館の敷地に侵入した16。このように緊張が高まっていた2020年1月3日、米国は無人機による攻撃で、バグダードを訪問していたIRGCゴドゥス軍司令官のガーセム・ソレイマーニーを殺害した17
 米国によるソレイマ―ニー殺害は、前例のないものであった。米国は「対テロ戦争」の一環との位置づけで、アル=カーイダやISISなど、米国を敵視する非政府組織の指導者を殺害し、それを「暗殺」とは呼ばず「標的殺害(targeted killing)」と呼んできた。じつは「標的殺害」が合法的であるとの立場を明示し、それを拡大したのはバラク・オバマ(Barack Obama)政権であったが、少なくとも知られる限りでは、主権国家の公職にある者がその標的となることはなかった。ソレイマーニー殺害は、戦争状態にない国家の公職にある人物を正規軍の攻撃により殺害するという点で異例であり、国際法上も問題をはらむ、きわめて重大な事件であった18
 トランプ政権がこのような行動に出た背景については、情報が錯綜している。一方には、これはトランプ大統領の衝動的な決定によるものであり、したがって明確な目標や戦略なき行動であったとする見方がある19。これに対してトランプ政権は、ソレイマーニー殺害は米大使館などへの差し迫った脅威を除去するためであったと説明している。調査報道の中にも、ソレイマーニーがイラクのシーア派民兵組織を代理勢力としてイラク駐留米軍への攻撃を強化しつつあったことを指摘し、トランプ政権の説明が少なくとも部分的には真実を含んでいると示唆するものもある。ソレイマーニーが、カターイブ・ヒズブッラーの創設者であるアブー・マフディー・ムハンディス(Abū Mahdī al-Muhandis)と接触しているさなかに殺害されたことも、このような見方の根拠とされている20。さらに、ソレイマーニー殺害に至る軍事行動を主導したのは、JCPOA離脱に始まる対イラン強硬政策を主導してきたポンペオ国務長官であるとして、今次の軍事行動を「最大限の圧力」政策の一環として位置づける報道もある21
 現地時間1月8日深夜、イランは報復として米軍が駐留するイラク国内の軍事基地2か所に弾道ミサイル攻撃を行った。16発(22発との報道もある)あまりの弾道ミサイルが発射され、少なくとも一部が着弾したにもかかわらず、米国側の報道によると、この攻撃による人的被害は出なかった22。イラン側が米国人に被害が出ぬよう配慮したとする見方もあるが23、少なくとも公式見解のレヴェルでは、イラン・米国双方ともイランの報復攻撃は米軍に被害を与えることを意図したものであったとの立場を崩していない24
 本稿執筆時点では、米国によるソレイマーニー殺害およびイランによる報復攻撃のそれぞれの背後にあった当事者たちの意図を確認することはできない。何れにせよ重要であったのは、この段階で、米・イラン双方が危機のエスカレーションを回避する明確な意志を示したことである。報復攻撃後まもなく、イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ(Moḥammad Javād Ẓarīf)外相は、これを国連憲章第51条の自衛権に基づく軍事施設に対する攻撃として正当化した上で、米軍への報復攻撃は「完了した」との声明を発した25。これを受けてトランプ大統領は、8日、演説を行った。演説は、ソレイマーニー殺害の正当化から始まり、「イランは核保有の野望を放棄し、テロリストへの支援を終了しなければならない」として対イラン経済制裁をいっそう強化する方針を示した。トランプは、あらためてJCPOA批判を展開した上で、JCPOA調印国である英・独・仏・露・中に対して、「世界をより安全でより平和な場所とするようなイランとの合意(deal)」の実現に向けて米国に同調するよう呼びかけるとともに、NATOに対して中東への関与を強化するよう要請する方針を示した。演説の終わり近くで、トランプは、米国の経済力と軍事力を背景として対イラン圧力を継続する方針を示した後に、突如として話題をISISへと向け、次のように演説を締めくくった。

・・・ISISはイランの当然の敵である。ISISの壊滅はイランにとってよいことである。そして我々は、このことを含む共通の関心事項(priorities)について行動を共にすべきである。
最後に、イランの国民と指導者たちよ、我々はあなたたちが、あなたたちに相応しい未来を、それも素晴らしい未来を勝ち取ることを希望している。それは、[イランが]国内において繁栄を実現し、世界の諸国民との調和の下にある未来である。合衆国は平和を望むあらゆる者との平和を受け入れる用意がある26

 驚くべきことに、ソレイマーニー殺害という重大事件を経た後にもかかわらず、1月8日のトランプ演説の基調は、前年9月の国連演説のそれから大きく変わっていない。ソレイマーニー殺害に至る経緯がどのようなものであったにせよ、トランプ政権は、イラン側との交渉を求める姿勢をあらためて示したのである。
 しかしながら、トランプ政権の思惑どおりに事が進む可能性は、きわめて低い。当然ながら、ソレイマーニー殺害事件の結果、イランが米国との交渉に早期に応じる可能性はいっそう低下したと考えられる。イランは、ソレイマーニー殺害に対抗する形で、JCPOAで定められた核燃料濃縮の制約にもはや拘束されないとする立場を宣言した。同時にイランは、JCPOAそのものからは離脱せず、また国際原子力機関(International Atomic Energy Agency: IAEA)査察官への全面協力を継続する方針を示すことにより、慎重に国際的孤立を回避しようとしている27。一方、イランの最高指導者ハーメネイー師やロウハーニー大統領は、ソレイマーニー事件後、中東から米軍を放逐することを目標とすることをこれまで以上に明言するようになった28。イランによる弾道ミサイル攻撃と同日に発生した、IRGCによるウクライナ航空機の誤射・撃墜事件をめぐる国際的な動き29、さらにこの事件へのイラン当局の対応に対する批判を契機とするIRGCやイラン政府に対するイラン国内の抗議行動など30、流動的な要素も少なくないが、イラン政府としては、国際的な孤立を可能な限り回避しつつ、国内秩序の維持に努め、少なくとも11月の米大統領選挙までは、米国との交渉を回避しようとし続けると考えられる。
 一方、ソレイマーニー殺害事件は、米・イラン間の代理戦争の戦場となったイラクにおける反米感情の高揚をもたらした。1月5日、イラク議会は同国に駐留する外国軍の撤退を求める決議を全会一致で採択した。決議に拘束力はなく、シーア派議員の主導で提出された決議案の投票にスンナ派やクルド人を中心とするおよそ半数の議員は参加しなかったものの、政府レヴェルでイラクがここまで明確な反米の意思を表明するのはイラク戦争後初めてである。イラク政府は、同決議に従い、米軍の撤退について協議するために米国に代表の派遣を求めたが、米国側はこれを拒否した。しかしながら、ここで注目すべきは、イラクからの撤退要求には応じぬ姿勢を示しながらも、トランプとポンペオが何れもイラク駐留米軍の縮小や全面撤退に原則的に反対せぬ立場を示唆したことである31。ソレイマーニー殺害後、中東にはさらに3,500人規模の米軍が増派されたが、トランプ政権の中東撤退方針に変化はないと見られる。トランプ政権は、自らが望まぬ形でイラクから放逐されることは拒否しつつも、イラクからの米軍撤退を視野に入れているものと考えられる。
 これに関連して、先述の1月8日のトランプ演説でNATOの関与強化に言及した箇所は、トランプ政権がイラクにおける米国の役割を欧州のNATO諸国に肩代わりするよう求める意思表示と読める。しかし実際には、ソレイマーニー殺害に伴い、イラクに駐留するNATO諸国軍はISIS残党への掃討作戦を停止し、カナダ、ドイツ、クロアチアは、自国軍をイラク国外に一時的に避難させている32。これらはあくまでも暫定的な措置とされているものの、欧州のNATO諸国は、米国の役割を肩代わりしてイラクにおけるプレゼンスを拡大するような状況にはない。イラクにおいても、トランプ政権の思惑通りに事態が展開する見通しは描き難い。
 事件から1か月あまり経過した2月初旬時点で、ソレイマーニー殺害事件は、事の重大性に鑑みるならば奇妙なほどに、米国とイランの基本的立場にも、米・イラン間の膠着状態にも大きな変化をもたらしていない。しかしながら、この間に米・イラン関係を取り巻く不確定要素は間違いなく増大した。とりわけ、イランがJCPOAの核濃縮の制約を放棄する立場を示したことは、イランを取り巻く国際関係に何らかの影響を与えていく可能性がある33。一方、イラン国内では政府に対する支持と批判の動きがほぼ同時に表面化し、イラクでは反米の動きが加速するなど、現地では対立しあう政治的潮流が交錯している。早期のイラク撤退に含みを持たせたトランプ政権の動向を含め、情勢は流動化の度合いを高めている。

(5) 米民主党の対イラン政策

 2020年は、米国の大統領・連邦議会議員選挙の年である。しかしながら、それがどのような形で米国の対イラン政策に影響を与えるか、現時点で具体的に予測することはできない34。トランプが再選されれば、第二期の政策は基本的に第一期の政策の延長線上に展開されると考えられる。再選という国内政治上の制約から大きく解放される第二期には、トランプ政権はより思い切った政策を展開しやすくなる。先述のように、すでにトランプ政権はイランとの早期の交渉を望む姿勢を示しており、経済制裁のカードをほぼ切り尽くしている事情にも鑑みるならば、第二期トランプ政権は、イランとの新たな核合意に向けたバーゲニングを本格化する、つまり部分的な譲歩を交渉の俎上に載せ始める可能性が高いと考えられる。
 一方、民主党政権が誕生した場合には、イラン政策や中東政策にはどのような変化が予想されるであろうか。ジョー・バイデン(Joe Biden)、バーニー・サンダース(Bernie Sanders)、エリザベス・ウォーレン(Elizabeth Warren)ら、民主党の有力な大統領候補たちが選挙戦で最も強調しているのは、米国内の中産層の復活や経済的不平等の緩和というような国内経済問題である。対外政策については、彼等は何れも、トランプ政権が同盟諸国との不和を増大させ、専制的支配者たちに接近し、国際秩序を混乱させ、民主主義の模範としての米国の地位を貶めたとして、同政権を強く批判しているものの、いまのところ対外政策は主要な争点とはなりそうにない35。対イラン政策について見ると、ほとんどの民主党候補は、米国のJCPOAへの復帰を主張する一方で、トランプ政権が同協定からの離脱の根拠としたイランによる弾道ミサイル開発や中東域内の諸勢力への支援については、JCPOA復帰後の交渉によって解決するとの曖昧な方針を示すにとどまっている36
ここから読み取れることは2つある。ひとつは、対イラン政策について、民主党候補は基本的にオバマ政権の方針に回帰しようとしているということである。オバマ政権は、イランの脅威が増大しつつある(加えてイスラエルの対イラン先制攻撃の危険が存在している)との見方に立ち、圧力と関与を組み合わせる硬軟並行(dual-track)戦術によって、JCPOAを実現した37。民主党候補たちは、 JCPOAあるいはそれに準ずる枠組によって米・イラン関係を安定させた上で、関与と圧力の組み合わせによってイランの脅威を漸減させていくというイメージを抱いていると考えられる。このような対イラン政策は、米国の中東政策全般の方向ともかかわってくるが、この点については後述する。
 これに関連して読み取るべきもうひとつの点は、民主党候補たちもまた、イランを米国にとっての脅威と見なす基本認識においては、イスラーム革命以降の米国政府の基本的な立場を踏襲しているということである。つまり、イランを敵視する基本認識について、米国にはなお超党派的なコンセンサスが存在しており、共和党と民主党の相違は、圧力のみによってイランから譲歩を引き出そうとする前者と、関与拡大と圧力を組み合わせることによってイランの脅威を縮減していこうとする後者の間の、手段をめぐる相違にすぎない。別の角度から言い換えるならば、イランを敵視する前提を見直し、イランを――たとえば中国のような――米国と対立するインタレストを有しつつも正当な国益を追求する地域的大国として遇し、通常の外交によって関係を調整していくことを目指すような立場は、政治的公約のレヴェルで見る限り、米国の主要な政治指導者の間には見当たらないのである38
 この点では、民主党左派も例外ではない39。ウォーレンが2019年はじめに『フォーリン・アフェアーズ』に寄稿した論考には、次のような一節がある40

[ブッシュ政権による]イラク侵攻は中東を不安定化させ、大いなる苦難をもたらし、何十万にものぼる人々を死に追いやった。同地域は複雑な混乱状態にある。アラブの春の期待は押しつぶされ、イランは勢いを増し(emboldened)、シリアは破壊され、ISISおよびその分派は根強く残存し、大規模な難民危機が欧州に不安定化の脅威をもたらしている。(p.54。強調は引用者による。)

 短い言及ではあるが、イランを敵視し、それを抑制する必要があるとの前提は明らかである。同様に左派に属するサンダースも、2018年のジャマール・ハーショクジー(カショギ、Jamāl Khāshuqjī)暗殺に際して、米国のサウジアラビアとの連携を批判した意見広告において、イランの影響力拡大を好ましくないものと見做す言及を行っている41。米国の国内政治の変動がイラン敵視政策そのものに変化をもたらす可能性は、ほぼ皆無と言ってよい。
 とはいえ、民主党政権が誕生した場合、米国のイラン政策および中東政策(さらには対外政策全般)には質的な変化が生じる可能性が高い。民主党候補者たちが唱える対外政策方針に共通しているのは、民主主義の価値を対外政策の基本に据えようとする姿勢である。バイデンの選挙キャンペーンのホームページの対外政策の項目には、次のような一節がある。

包容力、寛容、多様性、法の支配の尊重、言論の自由、出版の自由、宗教の自由――これらの価値は我々の民主主義の基礎であり、同盟国とともに我々が世界を先導する能力の源泉である。我々は、国内においても、それが脅かされるあらゆる場所においても、我々の価値を守るために戦わねばならない。(強調引用者)

 その上でバイデンの対外政策は、「世界的に、我々の同盟国との関係を修復し、独裁者や悪漢(strongmen and thugs)に立ち向かう」ことを目指すものであると説明される42。バイデンは有力候補であるだけに抽象的な言い回しであるが、対外政策において民主主義の価値を重視し、多国間関係を含む米国の国際的な協力関係を再構築しようとする方向性は明確に窺われる。
 バイデンの対外政策に関する主張の背後には、トランプ政権が強権的な指導者たちとの友好関係を強化する一方で、いわゆる「リベラルな国際秩序」を破壊しているとする、リベラル派の国際政治・対外政策の専門家たちの批判がある。これらリベラル国際主義者の間では、米国は民主主義の価値を尊重し、それに反する強権的指導者や体制から距離を取るべきである、とする主張が強まっている。バイデンの立場が、このようなリベラル国際主義者の主張を取り入れたものであることは間違いない。さらに、前出のウォーレンの論考を見る限り、民主主義の価値を対外政策の基準にするとの基本方針において、ウォーレンら左派とバイデンら中道派との間に大きな相違はない。
 こんにちのリベラル国際主義者たちは、民主主義という価値を対外政策において重視するという点で、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)政権下で影響力を有した新保守主義者(ネオコン)に類似している。しかし、民主主義の不在を米国のインタレストに反するものと見做し、民主主義の領域を拡大するために米国が積極的に行動すべきであると説いたネオコンとは対照的に、価値重視のリベラル国際主義者たちは、非民主的な体制や指導者からは距離を取りつつ、民主主義の価値を共有する勢力との連携を強化することを通じて「リベラルな国際秩序」を再建すべきであると説く。価値重視のリベラル国際主義者たちは、米国が関与を縮小すべき国の典型例としてサウジアラビアやエジプトなどの中東諸国を挙げ、米国が価値に基づくパートナーを見出すことを期待できぬ異質なる他者として中東を描き出す43。いささか単純化するならば、彼らは洗練された「オリエンタリスト」であり、異質なる中東への米国の関与の縮小を強く主張するのである。
 リベラル国際主義者たちの中東・イラン政策は、トランプ政権のそれとは異なり、政策としての一貫性を有している。すなわち、米国は、中東からの軍事的撤退を加速するのみならず、サウジアラビアを筆頭とする非民主的な中東の友好諸国からも政治的に距離を取る。そして、その結果として生まれる行動の自由を背景として、民主主義を共有するパートナーである欧州諸国などとの協調のもとにイランの核開発を抑制する新たな協定を実現し、いわば民主主義諸国の有志連合を核とする「リベラルな国際秩序」によってイランを封じ込める。民主党政権が成立した場合、米国の中東・イラン政策はこのような基本方針の下に遂行されるであろう。
 いささか皮肉な見方をすれば、民主党政権はトランプ政権が発動した対イラン制裁をも交渉カードとして利用することができる。経済制裁に苦しむイランとしても、新たな政権とであれば交渉を開始するのが容易になるであろう。「最大限の圧力」は、民主党政権が成立したときに上手く機能しはじめるかもしれない。しかし、このことはイラン封じ込めが米国の思惑通りに実現するということを意味するわけではない。

(6) むすびにかえて

 トランプ政権は、みずからが掲げた、中東からの米軍撤退およびイランからの譲歩獲得という2つの目標を何れも実現できておらず、これらの間にある矛盾を解消する見通しも持ち得ずにいる。トランプ政権の下でこの矛盾が解消される唯一の方途は、イランが早期に交渉に応じることであるが、本稿執筆時点で、そのような兆候はない。トランプ政権が、大統領選挙までの間に、ソレイマーニー殺害以上の軍事的冒険に出るとは考えにくい。そのような挙に出れば、中東へのさらなる増派が必要になり、中東からの米軍撤退という目標がいっそう遠のくことは確実だからである。また、それとは逆に、大統領選挙戦のさなかに、制裁の緩和を含む交渉のハードル引き下げに動くことも想像しがたい。そうであるとするならば、こののち第一期トランプ政権においては、米・イラン間の緊張を伴う――しかし米・イラン双方が軍事的エスカレーションを自制する――膠着状態が継続し、その結果、中東に展開する米軍の大幅な縮小は実現せず、それにもかかわらず中東における米国の地位や影響力は後退し続けることになるであろう。
 この間、イランは、核問題に関しては慎重に行動するであろう。IAEA査察官が残留する中で核濃縮を加速すれば、その事実は遅かれ早かれ知られるところとなり、結果的に米国以外のJCPOA調印国のみならず、国際社会を敵に回すことになる。イラン指導部は、国内向けには核濃縮を進める権利を強調しながらも、実際の核濃縮については慎重に行動するのではなかろうか。そのように行動するならば、米国における政権交代の有無にかかわらず、2021年以降に核問題を交渉する余地は拡大し、制裁緩和を実現する可能性も高まるからである。先述のように、第二期トランプ政権でも民主党政権でも、米国はイランとの新たな核合意の実現に向けて「最大限の圧力」政策とは異なる動きを見せる可能性が高い。当面イラン側はそれを見越して行動するであろう。
 その一方で、イランはひきつづき中東域内におけるみずからの影響力を維持あるいは拡大しようとし続けるであろう。じつのところ、シリアからの米軍撤退およびイラクにおける反米感情の高まりは、イランに絶好の機会を提供している。核問題とはまったく異なり、イランが域内におけるみずからの影響力拡大を自制したり、この点について譲歩したりする、合理的な理由は見出し難い。そして、中東からの撤退を進めようとする限り、米国にはイランの影響力拡大を食い止める術はほとんど残されていない。つまり現状は、トランプ政権のみならず米国の政治的主流にある多くの人々が望むようなイラン封じ込めが実現する可能性よりも、イラクとシリアに親イラン・ブロックとでも呼ぶべきイランの事実上の勢力圏が出現する可能性、つまりイラン封じ込めが挫折する可能性の方がはるかに高い44。このことは、新たな核合意の成否とはほとんど無関係である。
 イラク国内で反イラン的な動きも見られるとはいえ、中東の北層に親イラン・ブロックが出現するのは時間の問題のように見える。親イラン・ブロックの出現に際して域内政治の焦点となるのは、もはや米国ではなく、イスラエルやサウジアラビアなど域内の反イラン諸国の動向であろう。そこで米国が直面するのは、みずからがコントロールできぬ域内対立に巻き込まれるリスクを甘受してもなおイラン敵視政策に執着するか、それともイラン敵視という前提を再考するか、という選択肢になると思われる。2020年の米大統領選挙の結果は、ここに至るまでの経路や時間に影響を及ぼすかもしれぬが、親イラン・ブロックの出現という地政学的変動や、それに伴って米国がいずれ直面せざるを得なくなる選択肢を、大きく変化させることにはならないであろう。
(2020年2月18日脱稿)

※本稿は、令和1年度外務省外交・安全保障調査研究事業報告書『反グローバリズム再考――国際経済秩序を揺るがす危機要因の研究 グローバルリスク研究』(日本国際問題研究所、2020年)の一部となります。


- 注 ―


1 以上の情報は、概ね次の資料に依拠している。Kenneth Katzman, Kathleen J. Mclnnis and Clayton Thomas, U.S.-Iran Tensions and Implications for U.S. Policy, updated December 13, 2019, Congressional Research Service (hereafter CRS) Report R45795.
2 Carla E. Humud, Christopher M. Blanchard, and Mary Beth D. Nikitin, Armed Conflict in Syria: Overview and U.S. Response, Updated March 25, 2019, CRS Report RL33487.
3 Carla E. Humud, Christopher M. Blanchard, Clayton Thomas,and Jim Zanotti, "Syria: Turkish Incursion and Conflict Status," CRS Memorandum, October 16, 2019.
4 Clayton Thomas, Afghanistan: Background and U.S. Policy in Brief, Updated December 5, 2019, CRS Report R45122. 2020年2月29日,米国とターリバーンは,14か月以内に全ての外国軍を段階的に撤退させることを骨子とする協定を締結した。協定は,撤退の条件として,ターリバーンに「米国とその同盟国」の脅威となるような行動を取らぬことを義務として課しているが,それ以外には,アフガニスタン政府との和平協議も含め,ターリバーンを拘束する義務をほとんど盛り込んでいない。Agreement for Bringing Peace to Afghanistan between the Islamic Emirate of Afghanistan Which Is Not Recognized by the United States as a State and Is Known as the Taliban and the United States of America, February 29, 2020 <https://www.state.gov/wp-content/uploads/2020/02/Agreement-For-Bringing-Peace-to-Afghanistan-02.29.20.pdf>, accessed on March 4, 2020. 協定に参加していないアフガニスタン政府は,同日,米国との共同宣言を発した。共同宣言では,両者がアフガニスタン内戦終結にコミットすることが表明されているが,アフガニスタン政府にターリバーンとの和平協議を事実上の義務として課す一方で,米国はアフガニスタン政府と治安部隊への支援以外の義務を負わぬ内容となっている。Joint Declaration between the Islamic Republic of Afghanistan and the United States of America for Bringing Peace to Afghanistan," undated [February 29, 2020] <https://www.state.gov/wp-content/uploads/2020/02/02.29.20-US-Afghanistan-Joint-Declaration.pdf>, accessed on March 4, 2020. つまり何れの文書においても,米国は,アフガニスタン政府の存続や和平協議に具体的な義務を負っておらず,一方的に撤退を進めることができる。約1万2千人の駐留米軍を8,600人まで縮小する協定の第一段階(135日間)の開始直後に,早くもターリバーンのアフガニスタン政府軍への攻撃が行われるなど,内戦の行方はなお不透明であるが,トランプ政権は撤退を進める姿勢を崩していない。Julian E. Barnes, Thomas Gibbons-Neff, and Eric Schmitt, "Afghanistan War Enters New Stage as U.S. Military Prepares to Exit," New York Times (hereafter NYT), (Online), March 1, 2020; Thomas Gibbons-Neff, "U.S. Troop Reduction Begins in Afghanistan," NYT, Late Edition (East Coast) March 3, 2020.
5 Peter Baker, "Trump Ousts John Bolton as National Security Adviser," NYT(Online), Sep 10, 2019.
6 Michael R. Pompeo, "Confronting Iran: The Trump Administrations Strategy," Foreign Affairs, 97/6, Nov/Dec 2018, pp. 60-70.
7 Alyza Sebenius, "Trump Says 'Always a Chance' of War With Iran But Prefers Talks," Bloomberg (online), June 5, 2019<https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-06-05/president-trump-says-there-s-always-a-chance-of-war-with-iran> accessed on December 25, 2019.
8 イランとの直接交渉に異を唱えたことも、ボルトン解任の原因のひとつになったと報道されている。上記註5参照。
9 Remarks by President Trump to the 74th Session of the United Nations General Assembly, Issued on September 25, 2019 <http://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-president-trump-74th-session-united-nations-general-assembly/>
10 Statement from the Press Secretary Regarding Protests in Iran, Issued on: November 17, 2019 <https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/statement-press-secretary-regarding-protests-iran/> accessed on December 24, 2019
11 "Interview: Secretary Michael R. Pompeo With Ben Shapiro of The Ben Shapiro Show," Via Teleconference, November 27, 2019 <https://www.state.gov/secretary-michael-r-pompeo-with-ben-shapiro-of-the-ben-shapiro-show/> accessed on December 24, 2019.
12 Special Briefing by Special Representative for Iran and Senior Advisor to the Secretary Brian Hook, Press Briefing Room, Washington, DC, December 5, 2019 <https://www.state.gov/special-representative-for-iran-and-senior-advisor-to-the-secretary-brian-hook-3/> accessed on December 24, 2019
13 Kim Hjelmgaard, "Trump Temporarily Breaks from His Own Stated Iran Policy," USA TODAY (online), Dec. 3, 2019 <https://www.usatoday.com/story/news/world/2019/12/03/nato-meeting-trump-gets-confused-his-own-stated-iran-policy/2595779001/> accessed on December 24, 2019
14 Farnaz Fassihi, and Rick Gladstone, "How Iran's President Left Trump Hanging, and Macron in the Hall," NYT (Online), Sep 30, 2019.
15 Julian E. Barnes, "U.S. Launches Airstrikes on Iranian-Backed Forces in Iraq and Syria," NYT (online), December 29, 2019.
16 Falih Hassan, Ben Hubbard, and Alissa Rubin, "Protesters Attack U.S. Embassy in Iraq, Chanting 'Death to America'," NYT (online), December 31, 2019.
17 MIchael Crowly, Falih Hassan, and Eric Schmitt, "U.S. Strike in Iraq Kills Commander of Iranian Force," NYT (Late Edition, East Coast), January 3, 2020.
18 Karen J. Greenberg, "The Slippery Slope to Suleimani's Death," (Op-Ed), NYT (Late Edition, East Coast), January 7, 2020. なお、「標的殺害」を正当化するために、ペンス副大統領は、イランがアル・カーイダやターリバーンと関係を有しているとの見方を示したという。Edward Wong, "Pompeo Warns Iran's Leaders U.S. Could Attack Them If They Retaliate," NYT (online), January 5, 2020.
19 Helene Cooper, Eric Schmitt, Maggie Haberman, and Rukmini Callimachi, "As Tensions with Iran Escalated, Trump Opted for Most Extreme Measure," NYT (online), Jan. 4, 2020 (Updated January 7, 2020).
20 Alan Yuhas, "Airstrike That Killed Suleimani Also Killed Powerful Iraq Militia Leader," NYT (online), January 3, 2020; Reuters Staff, "Inside the Plot by Iran's Soleimani to Attack U.S. Forces in Iraq," Reuters (online), January 4, 2020 <https://www.reuters.com/article/us-iraq-security-soleimani-insight/inside-the-plot-by-irans-soleimani-to-attack-u-s-forces-in-iraq-idUSKBN1Z301Z> accessed on January 6, 2020.
21 Edward Wong and Lara Jakes, "Pompeo Pushed for Fatal Airstrike. Now He's Managing the Fallout," NYT (Late Edition, East Coast), January 8, 2020.
22 Babak Dehghanpisheh, "Outgunned, Iran Invests in Means to Indirectly Confront Superpower Enemy," Reuters (online), January 8, 2020 <https://www.reuters.com/article/us-iraq-security-iran-military-analysis/outgunned-iran-invests-in-means-to-indirectly-confront-superpower-enemy-idUSKBN1Z711Q> accessed on January 9, 2020.
23 Megan Specia, "Iran Offers Mixed Message after Backing Away from Conflict with U.S.," NYT (online), January 9, 2020. さらに、イラクの有力なシーア派ウラマー、ムクタダー・サドル(Muqtadā al-Ṣadr)らは、親イラン民兵に米国への攻撃を自制するよう呼びかけている。Author Unspecified, "Iraq's Sadr Says Crisis Over, Tells Militias to Stand Down: Statement," Reuters (online), January 9, 2020 <https://www.reuters.com/article/us-iraq-security-sadr/iraqs-sadr-says-crisis-over-tells-militias-to-stand-down-statement-idUSKBN1Z72LN> accessed on January 11, 2020.
24 Phil Stewart, "Iran Intended to Kill U.S. Personnel in Missile Attack: U.S. General," Reuters (online), January 9, 2020 <https://www.reuters.com/article/us-iraq-security-pentagon/iran-intended-to-kill-u-s-personnel-in-missile-attack-u-s-general-idUSKBN1Z72ZM> accessed on January 11, 2020.
25 Author Unspecified, "Iran 'Concludes' Attacks, Foreign Minister Says," NYT (online), January 7, 2020.
26 Remarks by President Trump on Iran, Issued on January 8, 2020. <https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-president-trump-iran/> accessed on January 12, 2020.
27 David Sanger and William Broad, "Iran Challenges Trump, Announcing End of Nuclear Restrictions," NYT (online), January 5, 2020.
28 Peter Baker, "Trump Backs Away from Further Military Conflict with Iran," NYT (online), January 8, 2020.
29 Babak Dehghanpisheh, and Alexander Cornwell, "'Disastrous Mistake': Iran Acknowledges Shooting Down Ukrainian Airliner," Reuters (online), January 11, 2020, <https://www.reuters.com/article/us-iran-crash/iran-says-its-military-shot-down-ukrainian-plane-in-disastrous-mistake-idUSKCN1ZA04Y> accessed on January 13, 2020.
30 Author Unspecified, "Iranian Semi-official News Agency Reports Anti-government Protests," Reuters (online), January 12, 2020 <https://www.reuters.com/article/us-iran-crash-protests-fars/iranian-semi-official-news-agency-reports-anti-government-protests-idUSKBN1ZA0P3> accessed on January 13, 2020.; Babak Dehghanpisheh, "'Clerics get lost!': Iran protests rage on over plane disaster," Reuters (online), January 13, 2020, <https://www.reuters.com/article/us-iran-crash/clerics-get-lost-iran-protests-rage-on-over-plane-disaster-idUSKBN1ZC0P1> accessed on January 13, 2020.
31 Atlantic Council, "Iraqi parliament calls for troop withdrawal: What next for the United States?,"
Jan 5, 2020 <https://www.atlanticcouncil.org/blogs/new-atlanticist/iraqi-parliament-calls-for-troop-withdrawal-what-next-for-the-united-states/> accessed on Jan. 20, 2020.; Edward Wong and Megan Specia, "U.S. Says It Won't Discuss Withdrawing Troops from Iraq, Defying Bughdad's Request," NYT (online), January 10, 2020. なお、ソレイマーニー事件後に停止されていた米軍とイラク軍の共同のISIS掃討活動は1月15日頃に再開されたが、これに関するイラク政府の正式な決定があったのか否かは明らかではない。Alissa J. Rubin, and Eric Schmitt, "U.S. Military Resumes Joint Operations With Iraq," NYT (Online), January 15, 2020.
32 Thomas Gibbons-Neff, and Eric Scmitt, "U.S. Halts ISIS Fight in Iraq and Syria," NYT (Late Edition, East Coast), January 6, 2020; Ron Depasquale, "NATO Starts to Pull Troops Out of Iraq," NYT (Late Edition, East Coast), January 8, 2020.
33 1月14日、英仏独はイランがJCPOAの核濃縮の制約から離脱したことへの対応として、JCPOAの紛争解決メカニズムの発動方針を表明したが、これは米国の「最大限の圧力」に同調するものではなく、外交的解決を望むとの立場を明らかにした。Author Unspecified, "France, Germany, Britain trigger Iran Dispute Mechanism: Statement," Reuters (online), January 14, 2020, <https://www.reuters.com/article/us-iran-nuclear-mechanism/france-germany-britain-trigger-iran-dispute-mechanism-statement-idUSKBN1ZD1B6> accessed on January 15, 2020.
34 やや古いデータになるが、トランプ政権がJCPOAからの離脱を発表する前後の2018年5月のピュー・リサーチ・センターによる調査によると、イラン問題は党派的立場によって主張が分かれるイシューのひとつである。トランプ政権の対イラン政策への支持は、共和党支持層で54パーセントであるのに対して,民主党支持層ではわずか11パーセントに過ぎない。しかしながら、この数字は,JCPOAの内容への評価とはそれほど強く相関していない。2015年から18年にかけての調査対象全体のJCPOAへの支持の推移は、不支持が49パーセントから40パーセントに減少しているものの、支持の割合は32~33パーセントでほとんど変化していない。党派別の推移を見ると、JCPOAへの支持は,民主党支持層では49パーセントから43パーセントへと減少しており、共和党支持層では14パーセントから22パーセントに増加している。この調査から見る限り、そもそもJCPOAへの支持は民主党支持層でもさほど高くはなく、しかも時間の経過に従ってJCPOAへの評価は党派的色彩を薄める傾向にある。(調査対象のうち,JCPOAについて「大いに」あるいは「少し」聞いたことがあると回答した者は、全体のおよそ4分の3で,共和党支持層の方がわずかに割合が高かった。)Pew Research Center, "Survey Report: Public Is Skeptical of the Iran Agreement - and Trump's Handling of the Issue," <https://www.people-press.org/2018/05/08/public-is-skeptical-of-the-iran-agreement-and-trumps-handling-of-the-issue/> accessed on December. 24, 2019.. いささか乱暴な展望を記すなら、JCPOAに代わるイランとの新たな核合意は、共和党にとっても民主党にとっても、支持層を大きく増減させるようなイシューとはならないであろう。つまり,米国の世論は核合意を抑制/促進する要因としてはさほど重要ではなく、政治指導者がそれに拘束される度合いも小さいと考えられる。
35 Carol Giacomo, "Trump Has Scrambled America's Foreign Policy. Can the Democrats Do Better?," NYT (Online), July 20, 2019.
36 Carol Giacomo, "With a Democrat, a Cooler Head Would Prevail on Iran," NYT (Online), August 2, 2019.
37 Derek Chollet, The Long Game: How Obama Defied Washington and Redefined America's Role in the World (New York: Public Affairs, 2016), chap. 7.
38 実務経験者を含む米国の対外政策の専門家の間にそのような方針を主張する者がいないわけではない。次を参照。Flynt Leverett and Hillary Leverett, Going to Tehran (Metropolitan Books, 2013).
39 Elizabeth Warren and Bernie Sanders, "Who Is Congress Really Serving?," (Op-Ed,) NYT (online), December 18, 2017.
40 Elizabeth Warren, "A Foreign Policy for All: Strengthening Democracy--At Home and Abroad," Foreign Affairs, 98/1 (January/February, 2019), pp. 50-61. ウォーレン論文もまた、「対外政策は国内から始まる」として、「より強力な経済、より健全な民主主義、国民の結束」が米国の影響力の源泉である、との見方を示している。つまり、国内経済政策を最大の課題と位置づける姿勢が強調されている。
41 Bernie Sanders, "We Must Stop Helping the Saudis in Yemen," (Op-Ed,) NYT (Late Edition, East Coast), October 25, 2018. なお、次期大統領候補ではないが、オバマ政権の国務長官でJCPOA実現を主導したジョン・ケリー(John Kerry)は、ソレイマーニー殺害がイランの強硬派を勢いづかせることになると批判する一方で、JCPOAの枠組みの下で米国は対イラン制裁を維持・調整することによりイランの代理勢力への支援を抑制することに成功していた、と論じている。つまり,JCPOAの目標は、イランへの関与の拡大そのものではなく、イランの封じ込めにあったということである。John Kerry, "Trump's Gift to Iran's Hard-liners," (Op-Ed,) NYT (Late Edition, East Coast), January 10, 2020.
42 "Joe's Vision for America," (Biden's Campaign Homepage) <https://joebiden.com/joes-vision/> accessed on January 9, 2020.
43 Marc Lynch, "Obama and the Middle East: Rightsizing the U.S. Role," Foreign Affairs, 94/5 (Sep/Oct. 2015), pp. 18-27; Steven Simon, and Jonathan Stevenson, "The End of Pax Americana: Why Washington's Middle East Pullback Makes Sense," Foreign Affairs, 94/6 (Nov/Dec. 2015), pp. 2-10; Jeff D. Colgan, and Robert O. Keohane, "The Liberal Order Is Rigged: Fix It Now or Watch It Wither," Foreign Affairs, 96/3 (May/June 2017), pp. 36-44. 「リベラルな国際秩序」を尊重すべきであるとの主張は、共和党に近い論者からも一定の支持を獲得していると見られる。Richard N. Haass, "Where to Go from Here: Rebooting American Foreign Policy," Foreign Affairs, 96/4 (July/Aug. 2017), pp. 2-9.
44 親イラン・ブロックの出現は、じつは米国にとっても必ずしも悪いこと(ばかり)ではない。イランは、ターリバーンやISISのようなスンナ派急進勢力とは敵対関係にあり、この点では米国とインタレストを共有する。1月8日のトランプ演説におけるISISへの唐突な言及は、トランプ政権がこの点でイランとの協調を視野に入れていることを示唆している。もし仮にトランプ政権が、スンナ派急進勢力との戦いをイランに委ねる可能性を見越してシリア、アフガニスタン(さらにはイラク)からの撤退を進めようとしているのであるとするならば、トランプ政権が実際にイランに求めている譲歩は、公式の政策で述べられた範囲よりも狭く、核および運搬手段の開発の抑制・凍結などに限定されていることになる。(ただし,米国政府としては、対イスラエル関係上,ヒズブッラーへの支援停止要求は取り下げ難いであろうが。)さらに、いささか極端な見方ではあるが、中東からの米軍撤退を支持する米国の超党派的な世論と中東からの米軍の放逐を呼号するイラン指導部の間に、原理的な対立は存在しない。無論、米国はイランが望むような形で中東における地位を喪失することを望んでいるわけではないが、これは最終的な結果というよりもそこに至るプロセスの問題であるようにも見える。このことは、本文で言及した、2020年1月のイラク議会による米軍撤退要求に対するトランプやポンペオの反応からも窺われる。