『国際貿易』解題

川島真・東京大学教授

 『国際貿易』は、1954年に発足した国際貿易促進協会(以下、国貿促)の機関誌(当初週刊)であり、現在に至るまで刊行されている。国貿促は日中友好団体の一つとして知られ、日中貿易の促進を旨とした組織である。その活動は、特に日中国交正常化以前であれば、まさに「日中民間貿易」を担った友好商社をはじめ、多くの関係企業の集う組織であった。

 『国際貿易』は1967年6月2日に刊行された。文化大革命が発生した1966年、日本の日中友好運動は分裂の危機に直面し、中国との直接交流も従来通りには進行できなくなっていた。国貿促は、中国との直接貿易を重視するので、当然中国共産党と距離をとった日本共産党側を批判することになる。創刊号を見ると、天津科学機器展覧会への日本からの出品を品物の船への積載五日前になって通産省が差し止めたことが大きな問題として提起されている。文化大革命の時期にもこのような経済交流が推進されていたことも含めて改めて気付かされることが少なくない。なお、創刊号以来、『国際貿易』には「日共の反中国 黒い報告書」などといった記事が掲載され、日本共産党批判が展開されていたことも、国貿促の政治的スタンスを示すものとなっている。

 このデータベースには1967年6月2日の創刊号から、1972年12月12日刊行の257号までを採録している。日中国交正常化を報じた1972年10月3・10日の248号には石橋湛山が寄稿している。このデータベースに掲載された『国際貿易』を通じて当時の日本の経済界の中国市場への期待や、国交正常化以前から行われていた「民間貿易」を推し進めた友好商社などの企業の活動やスタンス、そしてそうした経済貿易活動が国交正常化を支持する世論にも一定程度関わっていたことなどがうかがえるであろう。

【2023年10月】

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