
日本国際問題研究所(JIIA)は、将来における国のあり方や国際社会で日本が果たすべき役割などについて国民の意識を探るため、読売新聞社と共同で世論調査を行った。調査結果に関する筆者の所感を以下に記す。
調査の背景
世論調査の実施背景には、「JIIAプラットフォーム」の創設理由でもある、国際社会における日本の存在感低下に伴う切迫した危機意識がある。第2次世界大戦後に日本が享受してきた平和と繁栄の基礎となってきた国際秩序(法の支配といった国際規範、GATT/WTO等の国際諸機関に支えられる国際貿易投資システム)は不安定化している。また、少子高齢化による大幅な人口減少の継続が不可避となっている中、日本が高い生活水準を維持し、国際的に存在感を示し続けていくためには、これまでの内外諸政策を惰性的に継続するのではなく、限られた国家資源を明確な優先度をもって有効活用するための戦略の策定が不可欠である。
国家資源配分の優先度付けは、まさに政治の最も基本的な機能・役割である。国家戦略策定作業を進めていくうえで、国民の意識を踏まえることが重要と考えることから、読売新聞社と共同で調査を実施した。
国民生活に直結するものに対する高い関心
当研究所関係者の論考にもあるとおり、国の将来に対する国民の危機感は総じて高い。9割以上の回答者が、日本の将来の課題について「関心がある」と回答し、半数以上が人口減少を深刻な問題と捉えている。また、財政(税負担)や年金、医療・介護あるいはインフラの持続可能性に対する懸念、地震などの大規模災害のほか、地球温暖化などの環境問題に対する懸念、さらには、景気、治安、食料・エネルギー不足、経済格差など、日常生活に直結する項目が上位を占めている。日本が今後どのような国を目指すべきかという質問や、世界の中で最高水準であってほしい分野についての質問への回答については、治安、医療・社会福祉、自然、食、交通、礼節規範など自身の生活に身近な項目を重視する傾向が見て取れる。
治安、自然、礼節規範などは、外国の人たちが日本の優れた面として高く評価する一方、日本人はその価値を当然視してきたと言われている。今や日本人の多くがこれらの価値をより明確に認識するようになったことは、将来にわたり、これらを持続的に維持していくためには、それなりの国家資源を投入しなければならないことへの暗黙の支持があると言えよう。
国際社会で日本が主導的な役割を果たすべき役割に関する問いについては、自国の平和と繁栄に寄与する項目を選択する回答者の多さが目立った。具体的には、「法の支配に基づいた国際秩序の維持や強化」を選択した回答者が45%と最も多く、次いで「気候変動問題、環境問題への対策」(44%)、「国際ルールに基づいた公正な貿易や投資の確保」(42%)がそれぞれ選ばれた。こうした回答振りと日本のあるべき姿として治安、社会福祉、環境、規範などが重視される傾向からは、当該分野で日本が積極的な役割を果たすことへの基本的支持があることが窺える。
国家資源の有効活用を念頭に置いた議論の重要性
回答者の相当多数が、治安、医療・社会福祉、環境、インフラなどの面で優れた国を目指すべきと回答しており、日本のあるべき将来像について広範な意見の一致がある。このような回答振りからは、平和が維持されることと高い生活水準を支えるだけの十分な経済力を当然視する傾向が見てとれる。
他方、今後の日本の社会保障のあり方として、サービスを充実させることと、負担を軽減させることのどちらを優先すべきかという問いにおいては、64%が「負担の軽減」を望んでいる。また、防衛力強化には74%の回答者が賛成する一方で、防衛費増額に賛成する回答者は58%である。国の予算配分を巡る問いへの回答においても、今後増やす方がよいと思う予算に関し、「医療」(43%)や「年金」(40%)、「介護」(36%)といった身近な問題への回答が高い一方、老朽化するインフラ修復を含む公共事業分野における予算増額を望む声は少なかった。 このことは、大きな方向性では意見の一致がある場合でも、それを実現するための有効な具体策については、投入できる国家資源が有限であることを意識しながら、きめ細やかに議論することの必要性を示唆している。
政策論に立脚した議論の必要性
調査を通じて明らかになった三点目として、政策論に立脚した議論の必要性である。たとえば、日本が国際社会で果たすべき役割として「法の支配に基づいた国際秩序の維持や強化」を挙げる回答者が多いかたわら、「難民や避難民に対する人道的支援」や「PKO(国連平和維持活動)」といった、日本自身の平和と繁栄との直接的な関連性が見えづらい項目を選んだ者は少なかった。また、国の予算を今後減らす方がよいと思う分野として「途上国への経済協力」を挙げた回答者は52%にまで上ったほか、「生活保護」を選択した者の割合は40%だった。極端な貧困が国際社会や国内の社会情勢に負の影響を及ぼしうるなか、国際協力や共助を通じた「利他」の精神は回りまわって自国や自分の幸福のための有効な手段となる。こうした点を踏まえ、政府はより広い視野での政策目的を国民に対して分かりやすく説明することが望まれる。
政策的な視点に立った議論は、外国人材受け入れについても急務である。外国人が定住を前提に日本に移り住む「移民」の受け入れについて問うた項目に関し、「賛成」または「どちらかといえば賛成」と答えた回答者の割合が42%だったのに対し、「反対」、「どちらかといえば反対」と回答した者の割合は57%だった。一方、専門的知識や技術を持った外国人材の受け入れやそのための待遇や環境の整備については、賛成が反対を上回っている。また、多くの地方において、外国人材なくしては社会の機能の維持が困難となるという現実があり、周期的に外国人材が入れ替わるよりも、特定人材に「定住」してもらうことを希望する声も存在している。このことは客観的且つ長期的視点に立って、外国人の受け入れ問題を冷静に議論する余地があることを表している。この問題については、治安や規制の観点からだけではなく、産業政策(中小企業対策)、労働市場、社会福祉などあらゆる側面から検討し、総合的に検討する必要がある。
総括
一連の調査を通じて判ったことは、多くの日本人が国の将来の行方に高い関心を持ち、世界が評価する日本の良さや、現在享受している生活水準を今後も維持できるのか心配している点である。こうした危機感は、国家戦略を議論している当研究所の認識と一致しており、国全体で戦略を議論する土壌は十分にあるといえる。こうした事情を踏まえ、政治家はリーダーシップを持って国民と向き合い、中長期的な視点で将来の課題に取り組むことが期待される。
以上