国問研戦略コメント(2026-19) 中国のSLBM発射実験が示したもの――核戦力の成熟と、リスク管理なき示威の危うさ

秋山信将(日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター所長)

国問研戦略コメント(2026-19) 中国のSLBM発射実験が示したもの――核戦力の成熟と、リスク管理なき示威の危うさ

「国問研戦略コメント」は、日本国際問題研究所の研究員等が執筆し、国際情勢上重要な案件について、コメントや政策と関連付けた分析をわかりやすくタイムリーに発信することを目的としています。

はじめに

中国は7月6日、原子力潜水艦から模擬弾頭を搭載した弾道ミサイル(潜水艦発射弾道ミサイル:SLBM)を太平洋の公海上に向けて発射し、指定海域に着弾させたと発表した1。ミサイルの型式は公式には発表されていないが、外部専門家や中国側の軍事専門家の間では、JL-2または新型・長射程のJL-3である可能性が指摘されている2。とりわけJL-3であった場合、中国の海洋配備核戦力が実戦的な信頼性を高めつつあることを示す重要なシグナルとなる。ただし、今回の発射は、核戦力を保有する国家による通常の兵器試験という側面もあり、それだけで過度に驚くべき事案とはいえない。問題は、発射そのものよりも、今回のミサイル発射の含意を、中国の核運用能力の向上、軍備管理・リスク管理の不十分さ、そして南太平洋の非核規範にどのような含意を持つかという観点からどう評価するかである。

中国の核運用能力の向上

技術的に見れば、今回の実験の意味は二重である。第一に、潜水艦からの戦略ミサイル発射という複雑な運用を、実際の長距離飛翔を伴って示した点である。今回の飛翔距離は約7300キロと推定されている3 。これはJL-2でもJL-3でも到達可能な距離であるため、画像や飛距離だけで型式を断定することは難しい。ただし、約12000キロの射程を持つとされているJL-3は、太平洋に進出せず、中国近海から米本土の相当部分を射程に収め得る能力を持つと評価されている4

第二に、今回の実験は、中国が「生存性の高い第二撃能力」をより可視化しようとしていることを示している。地上配備ミサイルや爆撃機と比べ、戦略原潜は探知・追尾が難しく、核報復能力の中核となる。中国は094型戦略原潜を6隻運用し、JL-2からJL-3への置き換えを進めているとみられるが5 、南シナ海や渤海湾が中国のSSBN運用上の「聖域」となり得ることも踏まえれば、今回の実験は、中国の海の核戦力が単なる保有能力から、実際に運用される抑止態勢へ移行しつつあることを印象づける。

このことは、日本の安全保障に直接の含意を持つ。中国の海洋核戦力の充実は、米国の拡大抑止に対する核レベルの圧力を増大させる。中国が米本土に対する報復能力をより確実なものにすれば、台湾有事や東シナ海・南シナ海の危機において、米国の介入コストは高まる。これは直ちに米国の拡大抑止が機能しなくなることを意味しない。しかし、日本から見れば、中国の核戦力の増強は、抑止の信頼性を維持するために、日米間の拡大抑止協議、ミサイル防衛、対潜能力、危機管理メカニズムを一体として体系化し、強化する必要性を強めるものと言えよう。

加えて、今回の実験は、中国の核戦力増強全体の文脈で理解されなければならない。米国防総省の2025年版中国軍事力報告は、中国の核弾頭数が2024年時点で「600発台前半」に達し、2030年までに1000発を超える軌道にあると評価している6 。また同報告は、中国が早期警戒に基づく反撃能力、すなわち米露の「警報即発射(launch on warning)」に近い態勢の整備を進めている可能性にも言及している。今回のSLBM実験は、単発の技術試験ではなく、中国が核戦力を量的にも質的にも拡大し、より高い即応性と多様な運搬手段を備えた抑止態勢へ移行している過程の一部であると見るべきであろう。

軍備管理・リスク管理の観点から

今回のミサイル発射の一連の過程で深刻なのは、中国のリスク管理に対するアプローチである。中国はミサイルの発射を「関係国に事前通告した」と主張している。しかし、通告があったこと自体と、それが危機管理上十分であったかは別問題である。

米国に対する通告は発射の数時間前であったほか、日本、豪州、NZに対しても短時間での通告にとどまったとされ、通告内容も十分ではなかった 7。もし中国の目的が純粋に安全確保と透明性の向上であったなら、関係国に対して十分な時間的余裕と具体的情報を伴う一貫した通告を行うべきであった。発射通告は、単に「知らせた」という事実では足りない。相手国が誤認や過剰反応を避け、航空・海上安全を確保し、必要な外交・危機管理対応を行えるだけの時間的余裕と具体的情報が伴っていなければならない。ところが、実際には、着弾海域に近い国には比較的早く通告したものの、米国や日本には短時間の通告にとどまった可能性がある。今回の通告は国際的な信頼醸成措置というより、必要最小限の危険回避措置と政治的シグナルを組み合わせたものと見るべきである。すなわち中国は、「通告した」という形式を確保しつつ、相手国に十分な評価・調整・外交対応の余地を与えないことで、軍事的主導権を誇示したのである。

この点で、ハーグ行動規範(HCOC)が示す事前通告の考え方は重要である。HCOCは、弾道ミサイルや宇宙ロケットの発射に際し、ミサイルの一般的分類、発射予定時間帯、発射地域、飛翔方向などを含む事前通告を求めている8 。HCOCは法的拘束力を持つ条約ではないが、弾道ミサイル発射をめぐる透明性と信頼醸成の国際標準として機能してきた。中国はこの枠組みに参加しておらず、今回のような発射では、通告の有無、時刻、対象国、情報の粒度が中国側の裁量に委ねられる。その結果、「通告した」という形式は保たれても、リスク低減という実質は十分に確保されない。

各国の反応も、この実験が単なる技術試験として受け止められていないことを示している。米国は、中国からの通告が発射の数時間前にすぎず、内容も不十分であったと批判した。米国務省当局者は、この通告が他のP5核兵器国が採用している水準を大きく下回るものだとし、中国が定期的な発射通告メカニズムに参加しないまま核搭載可能なミサイルを発射することは無責任であると述べた。さらに米国は、中国に対し、戦略的安定と軍備管理に関する実質的な協議に応じるよう求めた9

日本も、中国から発射前に通知を受けたものの、中国軍の活動活発化に対する重大な懸念を伝え、ミサイルが日本上空を通過したり日本の安全保障上のリスクを生じさせたりしないよう、中国に再考を求めた。木原官房長官は、中国が十分な透明性を欠いたままICBMを含む核・ミサイル戦力を広範かつ急速に増強していると指摘し、その軍事動向は日本と国際社会の深刻な懸念事項であると述べている10 。フィリピンも強い反応を示した。フィリピン国防省は今回の発射を、小国や脆弱な生態系を軽視する「軍事力の無謀な誇示」と批判し、中国に対して共有された海を威嚇と覇権的野心の空間に変えるべきではないと訴えた11

中国は2024年にも大陸間弾道ミサイルを太平洋に向けて発射しているが、米国防総省は、その際にも中国が米国や一部の国には事前通告した一方、日本やフィリピンには通告しなかったと指摘している12 。今回、日本に通知があったこと自体は、2024年と比べれば一歩前進とも評価し得る。しかし、通告時間が短く、情報が限定的であったなら、それはリスク低減措置としては不十分である。リスク低減とは、単に「知らせた」という事実ではなく、相手が誤認や過剰反応を避けるために十分な情報を得られることを意味するからである。

核軍縮への含意

南太平洋諸国、豪州、ニュージーランドの反応は、今回の実験にもう一つの政治的文脈を与えている。ミサイルは南太平洋非核地帯、すなわちラロトンガ条約によって形成された地域に向けられた。ラロトンガ条約は、南太平洋における核爆発装置の製造・取得・保有・配備・実験を禁じる地域的非核兵器地帯条約であり、中国は核兵器国として関連議定書を批准している13 。今回の実験は模擬弾頭を搭載した弾道ミサイル発射であり、核爆発装置の実験そのものではないため、直ちにラロトンガ条約の明白な法的違反と断定するには慎重であるべきである。しかし、核搭載可能な長距離ミサイルを南太平洋非核地帯に向けて撃ち込むことは、同条約の目的と精神に反し、そして核実験の歴史に苦しんできた太平洋島嶼国の政治的記憶と緊張関係に立つ。

その結果、豪州やニュージーランドにおける対中警戒を高めたというだけでなく、太平洋島嶼国が自らの地域を「核なき平和の海」として維持しようとする姿勢に対する挑戦のようにも受け止められた。豪州のアルバニージー首相は今回の発射を不安定化させる挑発的行為と批判し、ソロモン諸島の首相も「友人のする行為ではない」とする趣旨の反応を示した14 。ニュージーランドのピーターズ外相も、南太平洋を中国のミサイル能力の実験場にすることは全く望んでいないと述べている15 。敢えて付言するならば、これは国際社会における核軍縮への規範的な取り組みに対する挑戦とも受け止められかねないだろう。

おわりに

今回のSLBM実験は、中国の核抑止力が成熟しつつあることを示した。同時に、それは中国がその能力をいかに「責任ある核大国」として管理するのかという問題を提起した。核戦力の強化そのものが地域に緊張をもたらす以上、透明性、通告、危機管理の制度化は不可欠である。中国が軍事的能力を大国の地位の証として誇示するのであれば、それにふさわしいリスク低減上の責任も引き受けなければならない。今回の発射実験の本質は、JL-3であったか否かだけにあるのではない。中国の核戦力が拡大する一方で、それを管理するルールと信頼醸成措置が追いついていないという、インド太平洋の核秩序の新たな不安定性を示した点にある。

ミサイルの発射実験は、核に係る地位如何に拘わらず、ミサイル能力を保有する国にとっては、中国に対して禁止することは現実的ではない。したがって、日本にとっての課題は、これを単なる抗議案件にとどめず、中国に対して信頼醸成措置の実施を促し、リスク低減のきっかけにしていくことである。第一に、中国に対し、HCOCへの参加、または少なくともHCOCに準じた発射通告の実施を求めること、第二に、日中間、日米中間、あるいは地域的な枠組みとして、弾道ミサイル・宇宙ロケット発射の事前通告メカニズムを議題化すること、第三に、発射通告を、核リスク低減、危機時ホットライン、海空における連絡メカニズム、偶発的衝突回避措置と結びつけ、より広い戦略的安定の枠組みに位置づけることが挙げられる。日本には、これらを通じて、軍拡が深刻化する中でも不要なエスカレーションを回避し危機を管理する取り組みを進めることが必要である。


  1. Reuters, “China test fires missile into Pacific, alarming regional powers,” July 6, 2026. https://www.reuters.com/world/china/china-test-fires-missile-into-pacific-alarming-regional-powers-2026-07-06/.
  2. Joseph Rodgers, Bonny Lin and Leon Li, “China’s SLBM Test Underscores the Importance of a Ballistic Missile Launch Notification Agreement,” CSIS, July 7, 2026. https://www.csis.org/analysis/chinas-slbm-test-underscores-importance-ballistic-missile-launch-notification-agreement. 
  3. Rodgers, Lon and Li, “China’s SLBM Test Underscores the Importance of a Ballistic Missile Launch Notification Agreement”.
  4. 防衛省防衛研究所「米国防総省報告書に見る中国の核・ミサイル戦力の変化」NIDSコメンタリー第367号、2025年3月26日、
    https://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/commentary367.html
  5. 防衛省防衛研究所。
  6. U.S. Department of Defense, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2025: Annual Report to Congress, December 2025. 
    https://media.defense.gov/2025/Dec/23/2003849070/-1/-1/1/ANNUAL-REPORT-TO-CONGRESS-MILITARY-AND-SECURITY-DEVELOPMENTS-INVOLVING-THE-PEOPLES-REPUBLIC-OF-CHINA-2025.PDF
  7. Reuters, “US criticizes China for short notice ahead of missile test,” July 8, 2026.
    https://www.reuters.com/business/aerospace-defense/china-gave-little-notice-detail-us-before-july-6-missile-test-state-dept-2026-07-08/; Huizhong Wu and Charlotte Graham-McLay, “China test-launches a ballistic missile in the South Pacific and raises regional concerns,” Associated Press, July 2026. 
    https://apnews.com/article/china-missile-test-submarine-36963889390c8a08079165d8a63e4960
  8. Hague Code of Conduct against Ballistic Missile Proliferation, “Text of the HCoC.” https://www.hcoc.at/what-is-hcoc/text-of-the-hcoc.html 
  9. Reuters, “US criticizes China for short notice ahead of missile test,” July 8, 2026.
  10. Jディフェンスニュース「官邸が発表 中国の弾道ミサイル発射通知と弾着後の警報取消し」、2026年7月6日、https://j-defense.ikaros.jp/docs/mod/005524.html.
  11. Philippine News Agency, “DND, AFP alarmed over Chinese ballistic missile launch in Pacific,” July 2026, https://www.pna.gov.ph/articles/1278835
  12. U.S. Department of Defense. 
  13. Nuclear Threat Initiative, “Treaty of Rarotonga / South Pacific Nuclear-Free Zone Treaty.” https://www.nti.org/education-center/treaties-and-regimes/south-pacific-nuclear-free-zone-spnfz-treaty-rarotonga/
  14. ABC News Australia, “Pacific leaders criticise Chinese nuclear-capable missile test as ‘reckless’,” July 7, 2026. https://www.abc.net.au/news/2026-07-07/china-missile-nuclear-pacific-nauru-tuvalu/106887324.
  15. Huizhong Wu and Charlotte Graham-McLay, “China test-launches a ballistic missile in the South Pacific and raises regional concerns”; Al Jazeera, “US leads concern after China fired a long-range missile into Pacific ocean,” July 6, 2026. https://www.aljazeera.com/news/2026/7/6/china-missile-test-draws-criticism-from-australia-new-zealand-japan