研究レポート

バイデン政権発足1年目の対中政策をふりかえる

2022-03-28
舟津奈緒子(日本国際問題研究所研究員)
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「中国」研究会 FY2021-10号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。なお、各研究会は、「研究レポート」とは別途、研究テーマ全般についてとりまとめた「研究報告書」を公表する予定です。

米中間のパワー・バランスの縮小に伴い、中国の国際社会における存在感が高まり続けている。これを背景に、アメリカの外交政策はアメリカと中国との間の戦略的競争がその通底をなすようになってきている。本レポートは、アメリカと中国の関係がどこに向かうのかを探る一助とするために、バイデン政権の1年目の対中政策をふりかえり、整理する。

民主主義的価値の擁護を柱とした対中観

2021年1月20日、アメリカにバイデン政権が誕生した。2021年3月3日には、バイデン政権の発足後初となる外交・安全保障政策に関する政権の公式文書である国家安全保障戦略暫定方針が公表されi、アメリカが中国との戦略的競争のただなかにあることが規定されている。中国がアメリカにとって「経済的、外交的、軍事的、技術的能力を結集し、安定的かつ開放的な国際システムに挑戦することができる唯一の競争相手」と明確に位置付けられておりii、対中政策がバイデン政権の外交の基底をなしていくことが見て取れる。

このようなバイデン政権の厳しい対中観は前政権のトランプ政権の対中観を継承したものだ。トランプ政権は政権初期こそ対中貿易赤字是正を政策の優先課題に挙げ、アメリカの多額の対中貿易赤字を背景とした通商をめぐる米中対立に基づく対中政策を取っていた。しかし、その4年間の政権のうち政権後期に向かうにつれて米中間の対立軸を多面化させる認識を持つようになった。すなわち、通商問題をめぐる対立から中国共産党政権下における資本主義経済という中国の経済モデルをめぐる対立、新興技術・先端技術分野を中心とする経済分野も含む安全保障をめぐる対立、そして、アメリカの民主主義体制と中国の共産主義体制という統治モデルをめぐる対立へと変化させていったiii。バイデン政権は中国との決定的な対立を避け、中国との対話の努力を模索するため、中国の共産主義体制そのものへの言及は避けている。しかし、人権や民主主義的価値の擁護を外交政策の柱に据えていることは明確である。国家安全保障戦略暫定指針においても、国内外における人権の擁護がバイデン新政権の優先政策として掲げられており、対中政策においてもこのイシューを基本とする姿勢であることがわかる。実際に、バイデン政権は政権発足以来、中国の人権状況をめぐって、香港民主派やウイグル族、チベット族などの少数民族に対する弾圧があると中国の取り組みを強く非難し、このような中国における人権状況を容認しないという姿勢を示し続けている。例えば、2021年2月10日には就任間もないバイデン大統領と習近平国家主席との間で電話による首脳会談が行われ、バイデン大統領は習国家主席に香港や新彊ウイグル自治区における人権の取り扱いについて、アメリカが持つ主要な懸念事項であると直接伝えているiv。バイデン政権は2021年12月6日には中国の人権に対する取り扱いを理由に2022年北京で開催される冬季オリンピックについてアメリカの政府関係者を北京五輪に派遣しない外交的ボイコットを発表している。2022年3月21日には少数民族や少数派の宗教関係者、ジャーナリストらに対する国内外での抑圧に関与しているとする中国政府当局者のビザ発給の制限を発表しているv

この背景には自由と民主主義の旗手を自認するアメリカでは、人権や民主主義的価値の擁護に対するアメリカ国民の高い支持があることと、議会においても超党派の支持を得やすいということが背景にあろう。ピュー・リサーチセンターが2021年2月1~7日に実施した調査では「中国と聞いたときに何を最初に思い浮かべるか?」という問いに対して、「人権」という回答が20%で最も高く、「経済」(19%)、「政治体制」(17%)、「脅威」(13%)、「米中関係」(12%)が続いている。また、同調査では、「中国との経済的な関係を損なってでも、アメリカは中国の人権状況の改善に取り組むべき」と回答したアメリカ人が70%にも上っており、この内訳を支持政党別に見ると、自らを共和党支持者および共和党支持寄りであると見做す人では72%、民主党支持者および民主党支持寄りであると見做す人では69%がそのように回答しているvi。つまり、人権や民主主義的価値の擁護は支持政党の別なく、アメリカ人全般からの支持が得られやすい。内政において民主党と共和党の分断が益々進む一方、政権与党である民主党内の中道派と左派との分断も深まるなかで政策遂行に困難を極めているバイデン政権にとって、党派の別なく支持を得やすいイシューであるという点は重要であろう。アメリカが唯一の戦略的競争相手と規定した中国に向き合う際にバイデン政権が人権や民主主義的価値の擁護をその柱にする姿勢は今後も続くと考えられる。

同盟国や友好国との連携で臨む対中政策:中間層のための外交とインド太平洋の重視

バイデン政権はアメリカ第一主義を標榜し、単独主義的な行動を取ったトランプ政権とは対照的に、同盟国や友好国との協調や共働を重視する方針を明確に取っている。対中政策においてもこの姿勢が基調となっている。2021年3月12日にはインド太平洋地域における日米豪印4か国の民主主義国の協力枠組みであるQUADの初の首脳会談がオンラインで開催されたvii。インド太平洋地域における民主主義国間の協力枠組みということからは中国を意識した取り組みであることは明らかであろう。QUAD首脳会談直後には対中連携の強化を図るためアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が日本viiiと韓国ixを訪問し、それぞれの外務大臣、防衛大臣との2+2会談を実施した。2021年9月15日には中国による海洋進出などへの懸念を念頭にインド太平洋地域の平和と安定を図るための米英豪の3か国による安全保障の新しい枠組みであるAUKUSが創設されたx。さらに、2021年9月24日にはアメリカの主催でワシントンDCにおいてQUADの首脳会談が初めて対面で開催されているxi。これら一連の動きからはバイデン政権の対中政策における2つのことが読み取れる。第一にバイデン政権はトランプ政権のアメリカ第一主義との決別を明確にし、対中政策についても同盟国や友好国との協調や共働をアプローチの方策として重視すること、第二にインド太平洋地域の重視についてはトランプ政権からそのまま引き継ぎ、バイデン政権も引き続き「自由で開かれたインド太平洋」を推進することである。

第一の点については、アメリカ国内で広がる内向き志向とバイデン政権が進める「中間層のための外交」と無関係ではないと考えられる。アメリカにおいて非介入主義的な動きはオバマ政権時より顕著になり、トランプ政権時に明確となったがxii、バイデン政権もこれに配慮せざるを得ない。バイデン大統領は大統領選挙中から「中間層のための外交」を謳っているが、これは平均的な収入を得る勤勉なアメリカ市民が外交政策の犠牲にならないように、彼らに裨益する外交政策を取るというものである。バイデン大統領はこれについて内政と外交を結びつけるものであると説明しているxiii。ここには、とりわけ、2001年9月11日の同時多発テロ事件以降、長期化した対テロ戦争に疲弊してきたアメリカ国民への配慮が見て取れる。

ただし、非介入主義やアメリカの内向き志向についてはそれが実際に何を表しているのか注意深く見る必要がある。例えば、2021年10月7日にシカゴ・グローバル評議会が発表したレポート「中間層のための外交-アメリカ人の考えるもの-」によると、アメリカは国際問題に対して積極的な役割を果たすべきであると考えるアメリカ人は64%にも上る。前年の2020年の68%から4ポイント下がっているとはいえ、果たすべきではないという回答の35%を大きく上回っている(2020年は30%)。同レポートでは「アメリカが国際社会で影響力を維持するためにどの分野が重要であるか?」という問いについての回答で非常に重要であると考える分野の上位5位は上から順に、「公教育の発展」(73%)、「アメリカ国内の民主主義の強化」(70%)、「アメリカの経済力の維持」(66%)、「アメリカの軍事力の優越性の維持」(57%)、「1月6日の議会襲撃事件のような政治的暴力を防ぐこと」(54%)となっているxiv。つまり、国際問題に対する責任を果たすアメリカの役割の維持にはこれまで通り賛意が集まっているが、そのアプローチの方法については国内問題を解決することによって指導力を発揮したいということが現在のアメリカの世論であることが読み取れる。バイデン政権が重視する同盟国や友好国との連携強化というアプローチはこのような声に応える努力の中からでてきたもので、バイデン政権の対中政策における同盟国や友好国との連携の重視もこの流れの中にあるものだと考えられる。

第二の点については、バイデン政権は2022年2月11日にインド太平洋戦略を発表したがxv、ここでは特にインド太平洋地域のアメリカにとっての戦略的重要性が述べられている。インド太平洋戦略ではインド太平洋地域が世界の半数を超える人口を擁し、世界のGDPの6割の経済規模をなし、世界経済の成長の3分の2を占め、地理的には世界の海洋の65%と大陸の25%を占めているとし、具体的に数字を挙げてアメリカの繁栄と発展にとって不可欠な地域であることが強調されている。これに加えて、アメリカがインド太平洋地域に注力する理由としてこの地域が中国からの挑戦を受けており、中国のこの地域に対する抑圧と攻撃に対処する必要性を述べ、今後10年間のうちにインド太平洋地域の法と規範を維持できるかどうかは、アメリカのインド太平洋戦略にかかっていると強調している。バイデン政権にとってインド太平洋地域の戦略的重要性は明らかであり、加えて、ここでもアメリカ一か国で対処するのではなく、インド太平洋地域における同盟国とパートナー国との共同目標であることも強調されている。

むすびにかえて

バイデン政権は政権発足から1年目は安定的かつ開放的な国際システムに挑戦することができる唯一の競争相手と規定した中国との戦略的競争を外交の中心に据えることとなった。そのアプローチの方法は人権や民主主義的価値の擁護と同盟国や友好国との連携の重視である。アメリカはインド太平洋地域に複数の同盟国やパートナー国を擁しており、QUADの発展やAUKUSの創設など同盟国や友好国との連携を着々と進めている。人権や民主主義的価値の擁護についても、中国に懸念を伝え続けている。2021年12月9~10日には台湾を含む110 の民主主義国家および地域を招き、民主主義サミットを始めて開催するなどの新たな試みも行っているxvi。他方、米中間の決定的な衝突や対立の激化を避けるための模索も続いている。バイデン大統領は2021年9月21日の国際連合総会の一般討論演説で米中関係に触れ、その中で米中間の新冷戦も国際社会のブロック化も望まないと述べているxvii

2022年2月24日にはロシアがウクライナに軍事侵略する事態が起こり、国際情勢は緊張の度合いを高めている。バイデン政権は、政権2年目はこの大きな国際情勢の変化に対応しながら内政と外交に取り組み、2022年11月8日に政権の通信簿とも呼ばれる中間選挙を迎えることになる。ウクライナ危機を経て、注力すべき対象地域は拡大せざるを得ないであろう。そして、ウクライナ危機はアメリカの非介入主義的な動きに変化を起こすのであろうか、その場合、「中間層のための外交」はどのような分野にスポットライトが当たり、対中政策にどのような影響を与えるのであろうか。このような点に着目しながら、バイデン政権の2年目の対中政策を注視したい。




ii ibid.

iii 舟津奈緒子「アメリカの対中政策からみる米中対立-トランプ政権からバイデン政権へ-」日本国際問題研究所編『令和2年度外務省外交・安全保障調査研究事業「『新時代』 中国の動勢と国際秩序の変容」』(日本国際問題研究所、2021年)、pp55-56.

xii 舟津奈緒子「トランプ大統領とアメリカ共和党」日本国際問題研究所編『平成30年度外務省外交・安全保障調査研究事業「トランプ政権の対外政策と日米関係」』(日本国際問題研究所、2019年)、pp63-64.