研究レポート

第16回早稲田大学世界デジタル政府ランキング2021にみる超高齢社会日本のSDGsと国際貢献

2022-02-07
岩﨑尚子(早稲田大学電子政府・自治体研究所教授)
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「地球規模課題」研究会 FY2021-3号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。なお、各研究会は、「研究レポート」とは別途、研究テーマ全般についてとりまとめた「研究報告書」を公表する予定です。

1. はじめに

高齢社会と地球温暖化は2大地球規模課題と称される.ポスト・コロナで人類が迎える次なる挑戦は,高齢社会である.高齢化は今後,新興国,途上国も含めて,世界的に進展すると予測される.すでに多くの先進国のほか,中国,ASEANなどにも高齢化の波が押し寄せる.特に,韓国,シンガポールは日本よりも高齢化のスピードが速い1と予測され,中国,韓国,シンガポール,タイはすでに,総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が7%を超えた状態を意味する"高齢化社会"を迎えた.中国国家統計局によれば,中国の高齢化率は13.5%で,まもなく65歳以上の高齢者の割合が14%を超えた状態の"高齢社会"が到来する.日本は2021年に高齢化率29.1%となり,高齢化率21%以上の超高齢化社会に突入して久しい.その地位はおよそ2045年まで不動であると,予測される.

世界で最初に超高齢社会を経験し,COVID-19で急激なデジタル社会にシフトしつつある中で,超高齢社会におけるDXという日本の先行事例は,今後超高齢社会を迎える他の国への重要な示唆となる.

2. デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進と背景

日本でデジタル・トランスフォーメーション(DX)が必須となった要因は2点ある.

一点目は急激な人口動態の変化である.団塊の世代が75歳以上になることによる医療・介護ニーズへの対応が懸念される2025年と,団塊ジュニア世代が65歳以上になる2040年が目前に迫っている.地方公共団体では持続可能な形で住民サービスを提供し続けることができるプラットフォームを維持するためにDXを急ぐ必要がある.

次に,COVID-19の拡大によって露呈したデジタル社会の遅れである.縦割り行政,電子政府(中央)と電子自治体(地方)の分離,そして市町村のデジタル格差などコロナ禍での行政の構造的弱点が明らかになった.

今後,日本は社会全体でどのようにDXを進めるべきか.当研究所がこれまで4度開催してきた国連SDGsフォーラムと,16年にわたって調査研究してきた早稲田大学世界デジタル政府ランキングの結果から検証したい.

3. 国連での活動-誰も取り残さない社会とデジタル政府の挑戦

早稲田大学電子政府・自治体研究所はこれまで以下の表1の通り,国連経済社会局(UN-DESA)とデジタル政府や高齢社会研究で協力連携してきた.

表1.ニューヨークの国連本部でのフォーラム開催状況

年月

イベント名称

テーマ

20162

第54回国連CSDサイドイベントセミナー

(第1回)高齢社会とICT

20182

第56回国連CSDサイドイベントセミナー

(第2回)なぜデジタル・スキルが高齢者にとって重要なのか―デジタルICT利活用による高齢者雇用の促進

20202

第58回国連CSDサイドイベントセミナー

(第3回)スマートホームからスマートシティへ~高齢者のためのテクノロジー

20212

第59回国連CSDサイドイベントセミナー

(第4回)COVID-19における健康的な高齢社会のためのデジタル技術活用から得られた教訓

出典:早稲田大学電子政府・自治体研究所

国連フォーラムは,早稲田大学主催,総務省後援,APEC,UN-DESA Focal Point on Ageing,NGO Committee on Ageing等が共催で開催している.

第1回は,高齢社会とICTがテーマであった.2060年に全世界の人口の27%が高齢者となる「シルバー津波」が到来する.2050年には60~75歳のアクティブ・シニアのために10億人分の雇用が必要であるとし,ICTを活用した新たなワークスタイルが求められる点について議論した.いかに高齢者にとってスマートでレジリエントな社会を構築するかが課題であった.

筆者は次の点を提言した.「日本では,出生率低下,超高齢化,人口減少が進む中で,介護・保育需要が増加している.一方,女性の雇用機会が拡大する過程で,女性の就労にとって望ましい「ワークライフバランス」の在り方の議論が重要である」点について提言した.また,ICTインフラもままならない国連加盟の多くの途上国ではAIの議論は時期尚早であったが,翌年,国連NGO団体から高齢者とAIに関するレポートが発表されたのは大きな進展である.全面的に協力してくれた吉川国連大使(当時)からは終了後,日本の超高齢社会の現状,課題,解決策を中心に世界の動向や課題に関して真摯な議論が行われ,国連での関心が一段と高まった点を大変高く評価して頂いた.

第2回セミナーで特筆すべきは,2千万人の高齢者を会員に持つ全米退職者協会(AARP)からブラッドレー・シェルマン局長(当時)が参加し,AARPが公表した「高齢化対応・競争力報告書(Aging Readiness & Competitiveness Report)」に基づき,デジタル技術が高齢者の生活に影響を及ぼす例としてアクティブで自立した生活について説明した.参加した星野国連大使(当時)は,「全世界の高齢者人口は2050年までに2倍になることが予測されるため,我が国は国連での協力を促進することを目指したい」と述べた.レーン国連経済社会局高齢化課題統括官(当時)は「ICTのコネクティティビティの確保はSDGs2030で焦点を当てている課題の一つとなっていることから,各国政府はより一層取り組んでいくことが必要」と述べた.

第3回は,世界的なブームの「スマートシティ」をテーマに,高齢者や弱者のデジタル居住環境について議論した.高齢社会におけるIoT,ビッグデータ,AI,5Gといった技術の重要性に関する議論は,今後高齢社会を迎える国々にとっても有意義である.2度目の参加となる星野国連大使(当時)は,「スマートホーム,スマートシティは,時宜に見合うタイムリーなテーマであり,超高齢社会を迎えた日本が世界をリードし,議論の深化を図ることに意義がある」と述べられた.

第4回は,COVID-19の影響で国連本部ではなく参加国を結んだオンライン開催となった.国連SDGs 参加事業の中で有意義なフォーラムと認定され,開催後に国連WEB サイト2に掲載された.コロナ禍でデジタル技術の重要性が再認識されるなか,国連SDGs の達成に向けたデジタル技術の機能横断的なパラダイム転換の必要性について議論した.日本,米国,中国,インドネシア,シンガポール,タイ,ロシアから世界的に著名な専門家が参集して,コロナ禍で学んだ教訓と,各国の知見を活かし,国際社会問題の解決のための政策提言を行った.

こうした国連での活動を通して加盟国の高齢化問題の解決策を数年にわたり議論してきた.結論として,デジタル技術の活用は高齢社会が抱える諸課題の解決策として有用で,高齢化分野で世界の先頭を走る日本への期待の大きさを実感した次第である.

4. 早稲田大学世界デジタル政府ランキングの最新分析

早稲田大学電子政府・自治体研究所は毎年,世界のデジタル政府の進捗度を調査分析している.当研究所は第16回早稲田大学デジタル政府ランキング調査結果を2021年12月に公表した3.行財政改革の起爆剤となるデジタル政府が大幅なコスト削減と行政のDXに貢献することは必須といえる.経済成長・イノベーション戦略,並びに国際競争力強化の基点としてデジタル政府の本格的な推進展開が不可欠である.

本調査は,ICT先進国64か国を対象としている.デジタル政府の進捗度を主要10指標で総合的,部門的評価且つ歴史的推移等を評価解説している.当研究所のほか,国連も2年に1度,3つの指標に基づき国連加盟国のデジタル政府をランキング評価している.

早稲田大学世界デジタル政府ランキングは,すべての対象国のICT 部門におけるデジタル政府の最新動向を詳細かつ正確に評価するために,包括的な10のベンチマーク指標分析をベースにしている.10の調査大項目は次の通りである.

①ネットワーク・インフラの充実度,②行財政改革への貢献度,③各種オンライン・アプリケーション・サービスの進捗度,④ホームページ,ポータルサイトの利便性,⑤政府CIO(最高情報責任者)の活躍度,⑥電子政府の戦略・振興策,⑦ICTによる市民の行政参加の充実度,⑧オープン・ガバメント,⑨サイバーセキュリティ,⑩先端ICTの利活用度,である.

最新の調査結果は,新型コロナ感染症等へのデジタル対応がランキングに大きな影響を及ぼした.ベスト5は次の通りだ.1位:デンマーク,2位:シンガポール,3位:英国,4位:米国,5位:カナダである.日本は前回7位から2つランクを落とし9位となった.

表2 第16回早稲田大学世界デジタル政府総合ランキング2021

出典:早稲田大学電子政府・自治体研究所

この調査を通して日本の課題は以下4項目に纏めている.

  1. コロナ対応で露呈した官庁の縦割り行政,DX(デジタル変革)やスピード感の欠如
  2. 電子政府(中央)と電子自治体(地方)の法的分離の弱点
  3. 地方公共団体の財政・デジタル格差
  4. デジタル政府・自治体の推進役となるICT人材不足

さらに,分析をとおして,ウィズ・コロナ時代のデジタル政府の最優先事項として,日本に対する提言を次の5項目に纏めている.

  1. 少子・超高齢・人口減少社会を見据え,デジタル活用による官民連携やデジタル・イノベーションの推進で行政のコスト削減や効率化が国民生活の利便性向上に寄与すること.
  2. コロナ時代のデジタル政府の最優先事項である,強力かつ迅速なデジタル化による新生活様式へのシフトと行政DXを推進すること.
  3. 経済再生・成長戦略,及び質の高い行政サービスを提供することにより国民生活の安定,安心・安全を守ること.
  4. 2021年9月に発足したデジタル庁は,個別最適ではなく,中央と地方の全体最適を目指すこと.
  5. 3大技術「5G,AI,8K」の統合力が我が国のポスト・コロナのデジタル・イノベーション成長戦略の基軸となること.

日本ではデジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進させるために,9月1日にデジタル庁が発足した.強力な決定権を担うデジタル庁の役割にも注目が集まっている.本ランキングで明らかになったデジタル政府の課題解決にむけ,世界でもわずか1桁の国にしか設置されていないデジタル庁に期待がかかる.

5. 最後に―超高齢社会日本が果たすべき国際貢献と"誰も取り残さない社会"の実現

日本政府は,「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」の中で目指すデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により,ひとりひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことが出来,多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない,人に優しいデジタル化~」を掲げている.このビジョンを実現するために,国民に最も身近な行政を担う自治体の役割の重要性が指摘されている.

国連SDGsの17分野169部門の社会課題の解決こそ世界の関心事である.第3章で言及したように,当研究所は国連SDGsセミナーを国際貢献として国連本部で主催してきた.「誰一人とり残さない(No one left behind)」社会の実現という国連SDGs2030目標を実現させて,日本を先頭に全世界が来るべき超高齢社会での行政サービスの質の向上に貢献することも日本だから出来る国際貢献である.

一方,デジタルを推進するうえで,高齢者をはじめとする情報弱者によるデジタル格差が拡大している.コロナ禍でさらにリスクは顕在化し,二極化が進行する.格差構造は,情報化社会の進化スピードとあいまって,大きなグローバル課題となると予測される.

いま,日本政府が中心となり進めている行政DXは,国民視点のUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)が求められている.高齢者などのデジタル弱者対応を含めた行政DXは,世界に目を転じても,事例は多くはない.むしろ,超高齢社会日本の新しいシルバー・イノベーションの視点が活かされている.今後の課題は,SDGsはグローバル視点の途上国をはじめとする国際支援という視点が必要となる.高齢化を迎える諸国へのモデルケースとしてデジタル政府の役割と推進を掲げることは,SDGsでの日本の国際貢献としても有意義である.

以上




1 国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」2018年
3 最新で,かつ最も正確な情報を得てデータ分析及び評価するために,NPO法人国際CIO学会(理事長:岩﨑尚子)の世界組織であるIAC(International Academy of CIO)傘下の提携大学を代表する専門家による合同調査チームを編成.連携大学は,シンガポール国立大学(シンガポール),北京大学(中国),ジョージ・メースン大学(米国),ボッコーニ大学(伊),トルク大学(フィンランド),タマサート大学(タイ),連邦大統領政経大学(露),ラサール大学(フィリピン),バンドン工科大学(インドネシア),それに統括拠点の早稲田大学(日本)である.研究調査プロセスでは専門家チームが意見交換し,さらに各国政府デジタル部門,国連,OECD,世界銀行,APEC等国際機関と意見交換をしている.