研究レポート

中国の「グローバル開発」構想(GDI)

2022-03-31
北野尚宏(早稲田大学理工学術院教授)
  • twitter
  • Facebook

「インド太平洋」研究会 FY2021-8号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。なお、各研究会は、「研究レポート」とは別途、研究テーマ全般についてとりまとめた「研究報告書」を公表する予定です。

はじめに

2021年9月21日、中国の習近平国家主席は第76回国連総会の一般討論演説で「グローバル開発」構想(Global Development Initiative: GDI)1を提起した2。GDIは「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)の実施を加速し、より力強く、より環境に配慮した、より健全なグローバル開発を実現する」構想とされるが、「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative: BRI)との関係等明らかでない点が多い。本稿では、中国の持続可能な開発目標(SDGs)達成への取り組みを述べたのちに、提唱以来の経緯をたどりながら、GDIとはどのような構想なのかについて概説したい(表1参照)。

中国のSDGs達成への取り組み

中国は、2016年3月に全国人民代表会議が採択した「第13次5カ年計画(2016~20年)」で、革新的、協調的、グリーンで、開放的、分かち合える、の五つを新しい開発理念として掲げるとともに、2030アジェンダとの連動を盛り込んだ。同年7月の持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラムでは、初のSDGsに関する自発的国家レビューに参加し、中国の2030アジェンダ実施に関する発表を行った。同年9月には「中国2030アジェンダ実施国別方案」、2017年、2019年、2021年には「2030アジェンダ実施進捗報告」を公表し、2021年には中国として第2回となるSDGsに関する自発的国家レビューを発表している。

国際協力の分野においても、2015年9月の国連持続可能な開発サミット等で習近平国家主席が、南南協力援助基金、国際開発シンクタンクである中国国際発展知識センター、国連平和発展信託基金、北京大学南南協力・発展学院の設立を表明しそれぞれ実施に至っている。2016年9月のG20 杭州サミットでは、中国の主導で、政策枠組みとして「2030アジェンダに関するG20行動計画」が策定された。2021年9月には、中国科学院が、SDGs関連データを観測し、国連に協調する持続可能な開発ビッグデータ国際研究センターを設立し、その前身の組織以来3回目となる「SDGsを支える地球ビッグデータ報告書」を公表した。11月にはSDGsビッグデータに特化した観測衛星を打ち上げている。

このように、中国は自国の開発計画と2030アジェンダを結び付け、SDGsを自国の開発目標達成に活用し、達成度を国際社会でアピールすると共に、途上国のSDGs達成支援等を通じて国際開発分野における存在感を高めてきていると言える。

GDIの経緯

2021年に提起された中国によるGDIは、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大による経済減速とSDGs進捗の停滞・後退に対応するために、中国が全世界に開かれた国際協力のプラットフォームを創設し、世界各国や国連等に共同参加を呼び掛けてSDGsを推進していく構想とされる。国連総会後の中国のアクションは早かった。10月21日の第1 回中国・太平洋島嶼国外相会議、11月22日の中国・ASEAN対話関係構築30周年記念サミット3、11月29~30日の中国アフリカ協力フォーラム第8回閣僚級会議、12月4日の中国・中南米カリブ諸国共同体(CELAC)フォーラム第3回閣僚級会議、2022年1月25日の中国・中央アジア5ヶ国国交樹立30周年オンラインサミット、などの成果文書や共同声明にGDIが盛り込まれた。

習近平国家主席は2021年10月15日第2回国連・持続可能な交通のための会議、10月30~31日のG20ローマ・サミット、11月12日のアジア太平洋経済協力会議(APEC)第28回非公式首脳会議等でのスピーチでもGDIを提起している。10月18日のシャルル・ミシェル欧州理事会議長との電話会議でも、EU及び加盟国に対しGDIへの積極的参加を呼び掛けている。外交部は、GDIの推進を2022年の外交政策の上位目標に置いている。北京冬季五輪期間中の首脳外交でも「グローバル開発」構想を重要なキーワードとしており、2月6日のイムラン・カーン・パキスタン首相との会談や、サディル・ジャパロフ・キルギス共和国大統領との会見、共同声明等でもGDIに触れている。

国連との関連では、2021年10月25日に習近平国家主席はグテーレス国連事務総長と会談しており、12月9日には外交部が中国国連常駐調整官事務所と「グローバル開発」構想の推進と2030アジェンダの共同実施に関する座談会を開催した。国際機関側からはUNDP、UNICEF、世界銀行、FAO、WHO、UNESCO、UNHCR、IMF、UNIDO、WIPOなど、中国側からは関係省庁、学術機関の代表者が出席している。2022年1月20日には、国連本部でGDIフレンズグループの第1回会合が開催された。100カ国以上の加盟国と20以上の国際機関の代表が参加したと報道されている。グテーレス事務総長とは北京冬季五輪期間中2月5日にも会談し、GDIについて意見交換している。

GDIの概要

外交部が2021年10月22日に発表した中国国連協力立場文書4によれば、GDIは、開発優先、人間中心、包摂、イノベーション主導型開発、人間と自然との共生、結果志向の行動の6つを堅持することを基本理念として掲げている。開発優先に関しては、「開発をすべての問題解決の主軸として捉える」ことに言及している。重点分野としては、貧困削減、食糧安全保障、感染症対策とワクチン、開発資金、気候変動とグリーン開発、産業化、デジタル経済、連結性の8つを挙げている。さらに、「GDIは中国が国際社会に提供する重要な公共財であり、協力プラットフォームである」として、「中国は、2030アジェンダの実施において、南南協力の枠組みの下で、他の開発途上国に対し、可能な限りの支援を提供し続ける。」と述べている。

中国はBRIにおいて、2013年の提唱以来、各国や国際機関との協力文書の締結や、国連総会決議や国連安全保障理事会決議での言及、「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの開催等国際公共財としての認知度を高めることに注力していた。中国の国連平和発展信託基金を使用し、国連社会経済局が「SDGsに向けた「一帯一路」共同建設のための国レベルの政策策定能力強化プロジェクト」を実施するなど、国際機関をつうじてSDGsとの連動によりBRIの浸透を図っている事例もある。GDIにおいてもBRIと同様の取り組みがなされつつあるようにみえる。

一方で、何故BRIに加えてGDIが必要とされるのか、BRIとはどのような関係があるのか等については明らかではない。最初の点については、欧米諸国によって「一帯一路」構想に対抗する措置がとられる中で、中国としてBRIに並び立つような新たな構想の提唱が必要と判断したという見方もありうるかもしれない。欧州連合(EU)のフォン・デア・ライエン委員長は、2021年9月15日の一般教書演説で、BRIを念頭に、EUの新たな連結性促進戦略として「グローバル・ゲートウェイ」を打ち出した。同日には、米国、英国、オーストラリアの首脳が、豪英米三国間安全保障パートナーシップ(AUKUS)に関する共同声明を行った。GDIの発表は、この直後のことである。王毅国務委員兼外交部長は、2021年9月28日欧州連合(EU)のボレル外務・安全保障政策上級代表と第11回EU・中国戦略対話をオンラインで行い、中国側の報道によれば、「米国、英国、オーストラリアが軍事的関係を強化し、ブロック対立を激化させている今、中国はGDIを提案」した、と述べている5

二点目については、BRIとGDIの間で今後何らかのすみわけが図られ、お互いを補完する可能性はあるのかもしれない。2022年3月7日に開かれた全国人民代表大会の記者会見で、王毅外交部長は、GDIの最新状況についての記者の質問に対し、BRIに続く、習近平主席の新たな構想であると述べている6。GDIはSDGs達成に向けた実践的協力の推進、すべての国のニーズに応える、国連システム等との協力、民間企業、NGO、メディア等あらゆるパートナーとの協力、という4つの面で進展しつつある旨回答している。さらに、3月22日イスラム協力機構外相会議開幕式の挨拶では、「質の高い「一帯一路」共同建設とGDIの共同実施を「双発エンジン」として...2030アジェンダの達成に強い推進力を与えていきたい。」と述べている7。BRI、GDI共に個別国のニーズに応えることが基本であろう。加えて、GDIは新型コロナウイルスワクチンや上述のSDGs関連衛星観測データ等の国際公共財提供を通じて国連等国際機関に協調することにより力点が置かれるのかもしれない。中国政府の実施体制についても、BRIの方は国家発展改革委員会が特に計画段階で中心的役割を果たしているしているのに対し、GDIは外交部が主導しているようにみえるが詳細は明らかではない。さらに、現在二位の国連予算分担率が2019~2021年の12.01%から2022~2024年には15.25%に上がること、中国の一人当たりGNIが上昇し、近い将来高所得国入りして途上国を卒業する見込みであることも、GDI提唱の背景にあるのかもしれない。GDIはいまだ準備段階にあるといっていい。今後GDIがどのように展開していくのか注視していきたい。

*表1




1 中国のメディアによるGDIの日本語訳は「グローバル発展イニシアティブ」とされることが多いが、本稿では「一帯一路」構想と対応させるために、「グローバル開発」構想を訳語として用いる。中国語の「発展」も組織名以外は「開発」を訳語とする。

2 Statement by President Xi Jinping at the General Debate of the 76th Session of the United Nations General Assembly. September 21, 2021. Permanent Mission of the People's Republic of China to the UN. https://www.fmprc.gov.cn/ce/ceun/eng/hyyfy/t1908616.htm

3 ASEANは、2019年6月に発表されたASEANとしてのインド太平洋構想「ASEAN Outlook on the Indo-Pacific」で4つの重点協力分野の1つとしてSDGsを挙げている。2021年の中国・ASEANサミットの成果文書では、ASEAN共同体ビジョン2025と2030アジェンダとの補完性を促進するASEANの努力及び中国のGDIに言及がなされている。

4 Ministry of Foreign Affairs of China. (2021). Position Paper on China's Cooperation with the United Nations.
https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/wjdt_665385/wjzcs/202110/t20211022_9609380.html

5 Wang Yi: U.S.-Britain-Australia Nuclear Submarine Cooperation Poses Three Hidden Dangers. September 28, 2021. Ministry of Foreign Affairs of China.
https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/zxxx_662805/202109/t20210929_9580025.html

6 State Councilor and Foreign Minister Wang Yi Meets the Press. March 7, 2022. Ministry of Foreign Affairs of China.
https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/zxxx_662805/202203/t20220308_10649559.html

7 Remarks by H.E. Wang Yi at the Opening Ceremony of The Session of the Council of Foreign Ministers of the Organization of Islamic Cooperation. March 22, 2022. Ministry of Foreign Affairs of China. https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/wjb_663304/wjbz_663308/2461_663310/202203/t20220323_10654638.html