研究レポート

北朝鮮とロシアが急接近、「戦略的信頼関係」に透ける両国の温度差

2023-11-13
鴨下ひろみ(甲南女子大学准教授)
  • twitter
  • Facebook

「北朝鮮核・ミサイルリスク」研究会 FY2023-2号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

1.はじめに

朝鮮戦争(1950~53)休戦70周年(7月27日)以後、北朝鮮とロシアの接近が急速に進んだ。ショイグ露国防相の訪朝(7月)に始まり、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の訪露とプーチン露大統領との首脳会談(9月)、ラブロフ外相の訪朝(10月)と、ハイレベルの接触が続いた。

これに伴う露朝間の武器取引に注目が集まる中、米ホワイトハウス当局者は、北朝鮮がロシアにウクライナで使用するコンテナ1000個分以上の軍事物資を供与したという情報を確認したとし、関連の衛星写真を公開した。一方、ロシア側が北朝鮮に対し、どのような軍事的な見返りを供与したのかは、依然明らかになっていない。北朝鮮による軍事偵察衛星の発射は予告期間だった10月は見送られたものの、ロシアの支援を得て11月内にも3度目の発射が試みられる可能性がある。

こうした状況を踏まえ、「質的に新たな戦略的レベルに達した(ラブロフ外相)」 とされる露朝関係の現状及び中国を含めた今後の北東アジア情勢について考察する。

2.ロシアを宣伝扇動に活用

このところ北朝鮮は、ロシアとの関係強化を宣伝扇動の前面に押し出している。朝鮮中央テレビは9月12日から18日までの金総書記のロシア公式親善訪問を連日詳報し、日々の視察を複数回にわたって再放送した。また、帰国翌日には早くも約1時間30分の記録映画を公開した。

ニュース報道では写真、記録映画では動画が公開されたが、いずれも金総書記の肉声は伝えられず、アナウンサーがナレーションをつける形での放映だった。報道期間は9月12日から24日までの延べ12日間、記録映画も合わせた報道時間は57回、計1370分に及んでいる。(朝鮮中央テレビ集計:筆者)

2019年と2023年の訪露報道比較

2019年 2023年
報道期間 4/23 ~5/1 9/12~24
報道日数 9日 13日
(報道内容) 回数 分数 回数 分数
予告 4 4    
出発・到着 8 56 12 39
首脳会談 4 76 10 185
参観 4 56 18 204
通過     6 7
帰国     1 5
記録映画 8 432 10 910
総計 28 624 57 1350

2018年に開催された米朝、南北、中朝の一連の首脳会談のうち、朝鮮中央テレビでの報道回数が最も多かったのは同年6月にシンガポールで開催された初の米朝首脳会談であった。当時の報道期間は延べ9日間、放送回数は28回・624分に達する。北朝鮮が「主敵」としてきた米大統領との歴史的初対面とあって、北朝鮮側の報道ぶりもこれまでにない期待感と達成感が盛り込まれていた。今回の訪ロ報道はそれと比べても遜色のない最大級の扱いとなっている。朝鮮中央テレビの放映時間の拡大iや会談日程・報道日数の違いもあり、単純比較はできないものの、北朝鮮側が会談を高く評価し、国内外に向けた宣伝材料としてフル活用したと見てよいだろう。

金総書記のロシア訪問は2019年以来4年ぶり2度目、新型コロナウイルスの感染拡大以来、初の海外訪問となった。外遊再開にあたってロシアを訪問先に選んだことについて金総書記は、「朝露関係の戦略的重要性をわが党と政府が重視する立場を示す明確な表現になる」iiと述べ、北朝鮮のロシア重視の姿勢を強調している。

今回の訪問ではプーチン大統領との会談場所となった極東アムール州ボストーチヌイ宇宙基地をはじめ、コムソモリスク・ナ・アムーレ市での戦闘機などの飛行機工場参観、ショイグ国防相が同行したウラジオストク市での軍用飛行場、ロシア海軍太平洋艦隊基地など軍事関連施設への訪問が中核を占めた。両国の軍事協力の強化をアピールする上で効果的な場所への訪問が集中的に報じられた結果、国際社会に露朝の蜜月ぶりが印象づけられた。

3.曖昧な合意に隠された軍事的見返り

一方、露朝首脳会談での合意内容は曖昧な形でしか報道されず、首脳会談後の共同声明や共同記者会見も見送られた。北朝鮮メディアは9月13日に開催された露朝首脳会談について、金総書記が「朝露関係を最重要視して根の深い親善の伝統を変わることなく発展させていこう」と述べたことを伝えるとともに「相互の関心事となる重要問題(複数)で掘り下げた意見交換」がなされたと報じたiii。また会談は「帝国主義者らの軍事的威嚇および挑発、強権と専横を粉砕するための共同戦線で(略)国家の主権と発展の利益、地域と世界の平和と安全、国際的正義を守護していくうえで提起される重大な問題とさしあたっての協力事項(複数)を虚心坦懐に討議」して「満足のいく合意と見解の一致」を見たとしたが、具体的な合意内容は明らかにされなかった。

ただし、ロシア大統領府の公開映像に含まれた金総書記の肉声には、北朝鮮のより具体的な立場が示されていた。首脳会談の冒頭、金総書記は「ロシアは現在、覇権主義勢力に対抗して自らの主権的権利と安全、利益を守護するための正義の偉業を展開」しているとして「(ロシアが講じる)全ての措置に全面的・無条件的な支持」を表明したiv。北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻直後からロシア支持の立場を鮮明にしており、今回、金総書記自ら支持に言及したという意味で注目される。この場面は北朝鮮では報じられていないが、「さしあたっての協力事項」に北朝鮮によるロシアへのウクライナ侵攻向けの砲弾や弾薬の提供が含まれていることを意味する発言と言えた。

今後の焦点はロシア側がどのような軍事的見返りを北朝鮮に与えるかだ。プーチン大統領はロシアメディアに対し、「(金総書記は)ロケット技術に大きな関心を示しており、宇宙開発も進めようとしている」と述べ、軍事偵察衛星の発射など宇宙開発の面でロシアの協力を示唆したv。また、「ロシアはこれらすべての制限(国連の制裁措置)を順守しているが、我々が確かに話し合い、議論し、考えることができる事柄もある。そして、ここにも展望がある」と主張した。衛星発射への支援に加え、国連が海外渡航を禁じている北朝鮮の軍幹部の随行など制裁違反が明確な状況にも関わらず、ロシア側は一切、問題視していない。

4.「戦略的信頼関係」めぐる露朝の温度差

このように北朝鮮とロシアの武器取引が示唆される中、米国は異例の形でインテリジェンス情報を公開し、両国を強くけん制した。米国家安全情報局(NSC)のカービー戦略広報調整官は、9月7日から10月1日までに撮影された衛星画像を示し、北朝鮮からロシアへの武器輸送ルートを明らかにしたvi。衛星写真からは羅津港に積まれたコンテナが、ロシア船舶によってロシア太平洋艦隊の施設が並ぶ極東のドゥナイ港へ運ばれ、そこから列車でウクライナ戦の弾薬庫とされるロシア・チホレツク(ロシア南西部クラスノダール地方)に到着したことがわかる。

ロシアに運ばれたコンテナの数は1000個以上に上り、ウクライナで使う弾薬・軍事装備品が搭載されていると目されている。こうした動きは両国が露朝首脳会談の以前から、北朝鮮の武器をロシアへ運ぶための準備を周到に進めていたことを物語っている。カービー氏によると、米国情報機関は北朝鮮が見返りとして戦闘機や地対空ミサイル、装甲車、弾道ミサイルの生産装置などの調達を目指していると見ているという。ロシアが武器と軍需品の対価として北朝鮮に何を与えているのか、国際社会の懸念は高まる一方だ。

果たしてロシアは核・ミサイル開発に関わる核心先端技術を北朝鮮に実際に供与するのだろうか。かつてロシアは、国連安全保障理事会の常任理事国であり、責任ある核兵器国として、北朝鮮の核ミサイル保有に反対してきた。「核不拡散および大量破壊兵器とその運搬手段の不拡散の政治的・法的基盤の強化への揺るぎない関与を維持する」viiという立場から、安保理が2006年から2017年までに採択した11回の北朝鮮制裁決議もすべて支持している。

しかし、ウクライナ侵攻後の2022年5月には、中国とともに拒否権を発動して北朝鮮への制裁強化決議案を否決した。北朝鮮に対する制裁決議案が拒否権によって退けられたのはこれが初めてだった。これ以降、安保理は北朝鮮の核ミサイル開発に一致した対応を打ち出せなくなり、機能不全の状態が続いている。北朝鮮にとっては非常に好都合な状況であり、ロシアにとっても対米共闘とウクライナ侵攻の長期化への備えという点で、双方の利害が一致したと言える。だが、あくまで利害の一致に過ぎず、理念や信頼に基づく二国間関係と見ることは難しい。

北朝鮮側が露朝関係について、たびたび「強固な政治的および戦略的信頼関係」viiiを強調しているのに対し、ロシア側の対応には温度差が感じられる。10月16~17日に訪朝したラブロフ外相は、9月の首脳会談で露朝関係が「質的に新たな戦略的レベルに達した」ixと評価したものの、「新たな戦略的レベル」の詳細については明らかにしなかった。プーチン大統領の訪朝時期についても言及していない。一方で、ラブロフ外相は「日米韓による軍事活動の増大と、戦略資産の韓国移転」に懸念を表明し、ロシア・中国・北朝鮮が一致した対応を取ることを強調した。このことは、ロシアが露朝の枠組みに中国を引き込み、反米共闘体制の強化を図ろうとしていることを示している。北朝鮮側がロシアと中国を競わせることを念頭に、それぞれを個別に扱っているのとは対照的な動きと言ってよいだろう。

5.露朝接近と中国の反応

一方、露朝の接近に対する中国の反応は冷ややかだ。中国外務省の毛寧副報道局長は露朝首脳会談について「北朝鮮とロシアの間で調整され、朝露関係に関するものだ」「中朝関係の発展は良好だ」と突き放してみせたx。中国は朝鮮戦争休戦70周年や北朝鮮の建国75周年の記念行事に過去より格下の代表団を送る形で、露朝の接近に間接的に不快感を表明している。

そもそも中国は北朝鮮とは違い、ロシアのウクライナ侵攻を全面的に支持したわけではない。国連のロシア非難や即時停戦決議案などでは棄権に回るなど、ウクライナや国際社会の目を意識して、ロシアの側を一方的に支持することは避けた。中国は国際社会で孤立を深める露朝の米国批判に同調する一方で、米国との対話は模索し続けてきた。習近平国家主席が2023年6月に、就任後初めて中国を訪問したブリンケン国務長官との面談に応じたのも、米中対立の核心的な問題では譲らないが対話は続けるという意思表示だった。この際、米中は気候変動や麻薬密輸などの地球規模の問題で協力していくことを改めて確認した。

これまで中国にとって、北朝鮮問題は数少ない対米交渉カードの一つだった。中国は北朝鮮の第7回核実験に反対しているとされ、アメリカは中国に北朝鮮を踏みとどまらせるよう促してきた。開催で原則合意した11月の米中首脳会談で、北朝鮮の核ミサイル問題がどう扱われるのかも注目点だ。中東情勢が緊迫する中、北朝鮮問題の優先順位は高いとは言えないが、北朝鮮が第7回核実験に踏み切った場合を含め今後の中国の対応に影響を及ぼす可能性も考えられる。

北朝鮮にとって中国は政治的にも経済的にも最大の後ろ盾である。それゆえ、米中が同調することによって2017年のように対北朝鮮制裁が大幅に強化されるような事態は避けたい。そのためにも、中国との間にロシアを介すれば、中国を刺激し過ぎない範囲で揺さぶる材料として活用できる。ロシアは北朝鮮にとって中国に代わる存在にはなりえないが、対中国カードとしては歴史的にも効果を発揮してきた。とはいえ、ロシアもウクライナ侵攻以降、中国への経済的依存度を急速に深めている。露朝双方とも中国の意向を重視せざるを得ないため、露朝接近には一定の限界があるといえよう。

6.おわりに

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中で、10月にはイスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスの紛争が勃発した。混迷を増す国際情勢の下で、11月にはサンフランシスコで米中首脳会談が約1年ぶりに開かれる。ここではウクライナ情勢やイスラエル・ハマスによる衝突で緊迫する中東情勢、さらには台湾情勢をめぐる緊張緩和に向けて意思疎通を図る。米中両国を筆頭に国際社会の関心事は紛争地域に向けられている。

北朝鮮に対する国際社会の関心が失われ、監視が弱まっている間に、露朝協力がさらに進展する恐れがある。北朝鮮が今後複数の軍事偵察衛星を保有・運用して米国の軍事行動を把握できるようになれば、日本にとってもより一層深刻な事態となる。さらに、国際社会の混乱に乗じて、北朝鮮が第7回核実験に踏み切る懸念も排除できない。そうなった場合に、中国が国連安保理で拒否権を発動するのか否かによって、状況は大きく変わってくる。

安保理の機能不全が常態化する状況において、北朝鮮に対する拡大抑止を強化するためにも、露朝ならびに中露朝関係にいかにくさびを打ち込むのかが肝要となる。

(2023年11月10日校了)




i 朝鮮中央テレビの放送開始時刻は月~土が午後3時から、日曜と末尾に1のつく日は午前9時からだったが、2022年5月15日以降は午前9時からの放映となっている。

ii 2023年9月13日朝鮮中央通信「조선노동당 총비서이시며 조선민주주의인민공화국 국무위원장이신 경애하는 김정은동지께서 러시야련방의 국경역 하싼에 도착하시였다(朝鮮労働党総秘書であり朝鮮民主主義人民共和国国務委員長であられる敬愛する金正恩同志がロシア連邦の国境駅ハサンに到着なさった)」

iii 2023年9月14日朝鮮中央通信「경애하는 김정은동지께서 러시야련방 대통령 울라지미르 울라지미로비치 뿌찐동지와 회담하시였다(敬愛する金正恩同志がロシア連邦大統領ウラジミールウラジミロビッチプーチン同志と会談なさった)」

iv President of Russia(2023)「Russia-North Korea talks」,September 13

http://en.kremlin.ru/events/president/news/72265 (2023年11月5日アクセス)

v TASS(2023)「Путин сообщил, что лидер КНДР проявляет большой интерес к ракетной технике(プーチン大統領は北朝鮮がミサイル技術に大きな関心を示していると述べた),September 13」
https://tass.ru/politika/18736289
 (2023年11月5日アクセス)

vi The Washington Post(2023)「Korea provided Russia with weapons, White House says」 https://www.washingtonpost.com/national-security/2023/10/13/north-korea-russia-weapons-ukraine/ (2023年11月5日アクセス)

vii 加藤美保子(2019)「地域秩序から考える太平洋のロシア」、『神奈川大学アジア・レビュー (6)』2019年, 56頁。

viii 2023年10月20日朝鮮中央通信「경애하는 김정은동지께서 러시야련방 외무상을 접견하시였다(敬愛する金正恩同志がロシア連邦外務相に接見なさった)」

ix ロシア連邦外務省(2023)「Foreign Minister Sergey Lavrov's statement and answers to media questions at a news conference following his visit to North Korea, Pyongyang, October 19, 2023」https://mid.ru/en/press_service/minister_speeches/1910193/ (2023年11月5日アクセス)

x 2023年9月13日中国外交部毛寧発言人主催定例記者会見

https://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/202309/t20230913_11142325.shtml (2023年11月5日アクセス)