研究レポート

米国トランプ政権による対イラン核施設攻撃の北朝鮮核・ミサイルリスクへの示唆

2025-08-29
阿久津博康(ラブダン・アカデミー教授)
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「朝鮮半島情勢とリスク」研究会 「北朝鮮核・ミサイルリスク」部会 FY2025-2号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

はじめに

2025年6月21日(日本時間22日午前)に実施された米国トランプ政権によるイラン核施設への一連の攻撃は、中東地域はもとより、世界的な衝撃を与えるものとなった。1月に発足した同政権による初の本格的な軍事行動であったからである。この攻撃は直接的にはイランの核開発を阻止することを目的として行われたが、中東地域に留まらず、朝鮮半島を含む北東アジアにも様々な示唆を与えると考えられる。北朝鮮はこれまで核兵器を自国の体制存続を保証する戦争抑止力と位置づけ、米国を始めとする国際社会からの非核化要求を断固として拒絶してきた。では、米国による今回のイラン核施設攻撃は、米国の対北朝鮮政策とどのような関係性を持つのか、北朝鮮は同攻撃をどのように認識しているのだろうか、そして、同攻撃は北朝鮮の核・ミサイルリスクにどのような示唆を与えるのであろうか。本小論では、これらの点について考える。特に最後の点に関する回答を以て本小論の結論とする。

米国の対イラン核施設攻撃と対北朝鮮政策の関連性

米国の対イラン核施設攻撃は、表面上はイランの核保有阻止を目的としているものの、その背後には北朝鮮に対する明確なメッセージがあったと思われる。攻撃前日の6月20日、米国はトランプ大統領が「北朝鮮に関する国家緊急事態」を1年間延長する大統領令を発令していた1。同大統領令には、北朝鮮の核分裂性物質の存在とその拡散の脅威、そして北朝鮮政府の行動が米国の国家安全保障、外交政策、経済に対し引き続き「異常かつ重大な脅威」を与えていると明記されている。

トランプ大統領は2月の日米首脳共同声明で「北朝鮮の完全な非核化」への確固たるコミットメントを表明していたが2、 その後「北朝鮮は核保有国(nuclear power)である」と発言した3。トランプ大統領のこの発言は、核保有国と自認しその立場を強化しようとしている北朝鮮を利する方向に作用するものとも解釈されるが、上記大統領令はトランプ大統領の北朝鮮の核開発の進展を許容しない姿勢を示唆するものである。

但し、今回のイラン核施設に関する6月22日の米国防長官の記者会見では、イラン、北朝鮮、そして他の国の間の協力の可能性についての記者からの質問に対し、同長官は北朝鮮には直接言及せずに「残念ながら、前政権下の政策のために、これらの国々を連携させてしまった。... 今回の作戦の焦点は、イランとイランの核能力であり、単に「核を保有してはならない」と言うことにとどまらない。トランプ大統領は20年以上前から率直に『イランは核兵器を持つべきではない』としてきた。しかし、結局彼らが強硬な態度を崩さないので、それを阻止するために直接的な軍事行動を起こさなければならないと判断した」と述べた。4

この発言は、米国がイランに対しては核保有を阻止するための軍事行動を辞さないという強い意志を示しつつ、既に一定の核能力を有する北朝鮮に対しては異なるアプローチをとっている可能性を新たに示すものである。それはまた、北朝鮮の核保有阻止失敗の二の舞は避けたいという、米国の願望の表れともいえよう。

なお、米中央軍は今回のイラン攻撃のため、単発の夜間攻撃ではなく数週間にわたって展開され、3か所の追加標的への攻撃が含まれる、より包括的な計画を立てていたことが報じられている。しかし、この計画について説明を受けたトランプ大統領は、これが紛争の深化拡大、そして双方に犠牲者が出る事態に発展すること等を懸念し、これを却下したとされる。5 これが事実であれば、そしてトランプ大統領のこれまでの武力行使への一般的な消極的態度及び中東とは異なる朝鮮半島の地政学的特性を踏まえれば、北朝鮮に対する武力行使について、トランプ大統領は一層慎重かつ消極的になることが予想される。

北朝鮮の反応

北朝鮮は、米国トランプ政権によるイラン攻撃以前から、イスラエルによるイランへの軍事攻撃及びイランを支持してきた米国及び西側諸国を強く非難してきた。6 そして、今回の米国によるイラン攻撃については、北朝鮮は6月23日に外務省声明を通じ、米国のイラン攻撃を「主権侵害」と強く糾弾し、米国とイスラエルを「国際平和の破壊者」と位置付けた。7 この声明自体は、国際法及び国際社会の常識に論拠を置く通例の対米批判である。

他方で、北朝鮮は、従来より米韓両軍による空爆や「斬首作戦」に備えた実践的な防空体制の強化にさらに拍車をかけている。2025年になってからは、例えば5月15日、金正恩総書記は朝鮮人民軍近衛第1航空師団隷下の飛行連隊訓練を視察し、新型中距離空対空ミサイルの発射や無人攻撃機迎撃の電子戦任務を確認した8 この訓練には、新型長距離精密滑空誘導爆弾の搭載も含まれている。今回のイランへ攻撃は、北朝鮮のこうした防空能力強化の路線を加速化させる方向に作用することが予想される。

さらに、北朝鮮は外交・軍事面でロシアとの戦略的提携を強化している。既に6月17日、金正恩総書記はロシアのセルゲイ・ショイグ連邦安全保障会議書記と会談し、朝露包括的戦略的同伴者関係の深化を確認した9。金総書記は「帝国主義覇権策動に対抗し、国家主権と領土保全、国際的正義を守るロシア政策を無条件に支持する」と表明した。この協力関係は、北朝鮮が国際的な孤立を乗り越え、エネルギー支援や軍事技術協力といった実利を確保するための重要な戦略的支えとなっている。特に、ロシアからの軍事技術支援は、北朝鮮の核・ミサイル開発や上記の防空能力強化の動きをさらに加速させる方向に作用するであろう。

韓国の防衛力増強と新政権の対北朝鮮政策の影響

北朝鮮の核・ミサイルリスクを分析する上では、韓国の軍事面での言動もまた重要な要素となる。韓国軍は国産の地下貫通兵器「玄武-5」を開発している10。このミサイルは、8〜9トンの通常弾頭を搭載し、地下200メートル前後の目標に到達可能であり、その破壊力は戦術核に匹敵すると報じられている。過去に米国から導入したGBU-28バンカーバスターと比較しても、玄武-5は圧倒的に高い貫通力と破壊力を有しており、北朝鮮の地下核施設や指導部防護施設を狙う「3軸体系」の中核兵器として、北朝鮮の核・ミサイル能力に対する強力な抑止力として位置付けられている。

現李在明政権は「玄武-5」配備公表後の6月に発足した。同政権は前尹錫悦政権とは異なり、拡声器撤去等の軍事的緊張緩和措置を開始する等、より明示的に北朝鮮に対する柔和な姿勢を示している一方で、対米同盟強化を表明しており、8月には同政権初の米韓軍事合同演習「「ウルチ(乙支)・フリーダム・シールド」を開始している。現政権は文在寅政権と同じ進歩派とされるものの、「実用主義」を標榜する等、現実主義的ともいえる側面も見せており、既存の軍事アセットは少なくとも維持することが期待される。北朝鮮はそうした点は見逃さないであろう。

おわりに

本小論の結論は次の通りである。即ち、米国による今回のイラン核施設攻撃は、北朝鮮の核・ミサイルリスクを全般的に高める方向に作用すると考えられる。第一に、今回の攻撃は、核兵器を保有しない国家が直面する脆弱性を北朝鮮に改めて認識させ、核兵器を体制安全の究極的保証と見なす北朝鮮の考えを一層強固なものにした。その結果、北朝鮮は米国を含む国際社会からの非核化要求を今後も断固として拒否する可能性が高い。

第二に、イランへの空爆事例は、北朝鮮に防空システムの強化と核施設防護の必要性を再認識させ、空爆や「斬首作戦」への備えが一層進むであろう。

第三に、ロシアとの戦略的提携は、そのような動きをとる北朝鮮が国際的な圧力に対抗し、エネルギー支援や軍事技術協力といった実利を確保するための重要な手段となる。

第四に、韓国の新政権が今後どのような対北政策をとるにせよ、玄武-5のような対北抑止兵器を含む、既に強化された国防力に対する北朝鮮の警戒は維持され、軍事的緊張が続くことが予想される。

今後の東アジアの安全保障を考察する上で、北朝鮮単独の行動だけでなく、米国や韓国の政策・軍事行動、そして地域・国際情勢の変化と北朝鮮の戦略的選択との複雑な連動性を統合的に分析することが引き続き不可欠である。

また、本小論では省いたが、北朝鮮の核・ミサイル及び防空能力開発に加え、通常戦力の近代化の動向についても注視しておく必要があろう。

(2025年8月29日校了)



1 "Statement on the Continuation of the National Emergency with Respect to North Korea," Federal Register, Vol. 90, No. 119 Tuesday, June 24, 2025 https://www.federalregister.gov/documents/2025/06/24/2025-11683/continuation-of-the-national-emergency-with-respect-to-north-korea
2 外務省「日米首脳共同声明」、2025年2月7日。https://www.mofa.go.jp/files/100791692.pdf
3 "Trump says he still has good relations with leader of 'nuclear power' North Korea," Reuters, March 14, 2025. https://www.reuters.com/world/trump-says-he-still-has-good-relations-with-leader-nuclear-power-north-korea-2025-03-13/
4 US DOD, "Secretary of Defense Pete Hegseth and Chairman of the Joint Chiefs of Staff General Dan Caine Hold a Press Conference," June 22, 2025. https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript/Article/4222543/secretary-of-defense-pete-hegseth-and-chairman-of-the-joint-chiefs-of-staff-gen/
5 "President Donald Trump rejected a military plan for more comprehensive strikes on Iran's nuclear program that would have lasted weeks, NBC News has also learned," NBC News, July 17, 2025. https://www.nbcnews.com/politics/national-security/new-us-assessment-finds-american-strikes-destroyed-only-one-three-iran-rcna218761
6 例えば、6月13日のイスラエル空爆を以下のようについて、「イスラエルの不法無法な国家テロ行為は、中東地域に新たな全面戦争の危険を高め、国際社会の強力な糾弾と憂慮を招来...世界が目撃している厳重な事態は、米国と西側の支持と後援を受けているイスラエルが中東平和の癌的存在であり、世界平和と安全破壊の主犯」等と難じた。「조선외무성 이란에 대한 이스라엘의 군사적공격 규탄」『조선중앙통신』(2025년 6월 19일)
7 「조선외무성 미국의 이란 핵시설 군사적공격 규탄」『조선중앙통신』(2025년 6월 23일)
8 「김정은총비서 조선인민군 공군 비행련대 방문,훈련 지도」『조선중앙통신』(2025년 5월 17일)
9 「김정은총비서 로씨야 안전리사회 서기장 접견」『조선중앙통신』(2025년 6월 18일)
10 「イラン核施設空爆に使われた米バンカーバスターを上回る破壊力、韓国の地対地弾道ミサイル「玄武5」とは」朝鮮日報、2025年6月27日。https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2025/06/27/2025062780095.html