研究レポート

ロシア地域の最新情勢 -統一地方選挙で見えた政治的安定-

2021-12-08
中馬瑞貴(ロシアNIS貿易会(ROTOBO)ロシアNIS経済研究所研究員)
  • twitter
  • Facebook

「大国間競争時代のロシア研究会」FY2021-4号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。なお、各研究会は、「研究レポート」とは別途、研究テーマ全般についてとりまとめた「研究報告書」を公表する予定です。

はじめに

2021年9月17~19日、ロシアでは連邦下院選挙と同時に統一地方選挙が実施され、各地で首長、構成主体議会、地方自治体議会などの選挙が行われた。すべての首長選挙で現職が当選し、すべての構成主体議会で「統一ロシア」が第1党を占め、野党候補が現職首長に勝利したり、野党が構成主体議会の第1党を占めたりといった数年前のような波乱の展開は見られず、ロシア地域の政治的安定が示される結果となった。そこで本稿では2021年9月の統一地方選挙の結果について紹介する。

首長選挙

2021年の統一地方選挙では9連邦構成主体(モルドヴィア共和国、トゥヴァ共和国、チェチェン共和国、ハバロフスク地方、ベルゴロド州、ペンザ州、トヴェリ州、トゥーラ州、ウリヤノフスク州)で、住民による首長の直接選挙が行われ、すべての構成主体で現職首長(または首長代行)が当選を果たした。中でもチェチェン共和国のラマザン・カディロフは、当初、首長選挙への出馬を躊躇していたにもかかわらず、99.7%と圧倒的な支持率で再選を果たした。チェチェンと同様に投票率が高かったシベリアのトゥヴァ共和国でも86.81%という高い得票率でヴラジスラフ・ホヴァルィク元クィズィル市長が当選を果たした。トゥヴァでは2021年4月に共和国を14年間率いてきたカラ‐オオルが辞任し、ホヴァルィク元市長が首長代行に就任していた。退任したカラ‐オオルは同時開催となった連邦下院選挙で当選を果たし、同副議長に就任している。さらに、今回、唯一無所属で出馬したトゥーラ州のアレクセイ・デュミンも83.58%の高い支持率を獲得し、2位の共産党候補(8.97%)に大きく差をつけて再選を果たした。デュミンは前職が国防省次官、さらにその前にはプーチン大統領の警護を務めていた経験をもち、9月8日に事故死したジニチェフ前非常事態大臣や10月12日に大統領補佐官に就任したばかりのミロノフ元ヤロスラヴリ州知事と近い関係にある。大統領や政権との結びつきが強い首長の1人だ。

また、今回の首長選挙では、共産党のルースキフ・ウリヤノフスク州知事や自由民主党のデグチャリョフ・ハバロフスク地方知事のように「統一ロシア」以外の出自の知事も誕生している。ただし、ルースキフについては83.16%と高い得票率で勝利しているが、デグチャリョフは56.77%と支持率が低く、2位の公正ロシアの候補者が25.43%まで迫っていた。

さらに、重鎮知事の後任選びとなったモルドヴィア共和国とベルゴロド州では、それぞれ、ダゲスタン共和国とスタヴロポリ地方という全く別の地域から外様首長が代行を務めていたが、78%を超える得票で当選を果たしている。知事就任歴最長を誇っていたエヴゲニー・サフチェンコ・ベルゴロド州元知事(1993年10月~2020年9月)の後任となる知事代行選びは、紆余曲折を経て2020年11月18日にベルゴロドとは縁もゆかりもないスタヴロポリ地方政府副議長のヴャチェスラフ・グラトコフが就任し、今回の選挙に臨んだ。そして同日、モルドヴィア共和国でも共和国ナンバー2である政府議長とトップの首長を合わせて20年以上、行政に携わってきたウラジーミル・ヴォルコフが辞任を表明すると、元タタルスタン共和国経済大臣で、直近はダゲスタン共和国政府議長を務めていたアルチョム・ズドゥノフが首長代行に就任し、今回の選挙となった。

同じく70%超えの得票を得たのは、ペンザ州のオレグ・メリニチェンコであった。ペンザ州では2021年3月にベルゼルツェフ知事が汚職と職権乱用で逮捕され、知事を解任されていた。ペンザ生まれのメリニチェンコは州政府の要職経験(教育大臣、副知事、政府副議長など)を持つと同時に、極東連邦管区や沿ヴォルガ連邦管区など、別の地域でのキャリアも持つ。直近ではペンザ州代表の連邦上院メンバーとして、連邦体制・地域政策・地方自治委員会の議長を務めていた。まさに地域のスペシャリストである。

今回の選挙で最も低い得票率となったトヴェリ州のイーゴリ・ルデニャは52.33%とかろうじて過半数を超えての再選となった。

住民の直接選挙に加えて、構成主体議会による間接選挙で首長が選出される制度を採用している地域の議会でも投票が行われた。カラチャイ・チェルケス共和国議会では50議員中48議員の支持を得て2011年から首長を務めるラシド・テムレゾフが首長に再選した。北オセチア共和国議会では2021年4月に首長代行に就任していたセルゲイ・ミニャイロ元シベリア連邦管区大統領全権代表が70人中57人の議員の支持を得て首長に選出された。また、ダゲスタン共和国では統一地方選挙で新たに選出された共和国議会議員によって10月14日に首長選出のための投票が行われた。同共和国では2020年10月にウラジーミル・ヴァシリエフが首長を退任し、スタヴロポリ地方代表の連邦上院メンバーで北カフカス連邦管区大統領全権代表を務めた経験のあるセルゲイ・メリコフが代行に就任しており、首長に就任した。

表 2021年連邦構成主体首長選挙の結果一覧

地域名

当選者(所属)(前職)/第2位となった候補者(所属)

得票率

投票率

1

モルドヴィア共和国

アルチョム・ズドゥノフ(統一ロシア)

(2020年11月~代行、ダゲスタン共和国政府議長)

ドミトリー・クジャキン(共産党、連邦下院議員)

78.26%


11.48%

65.20%

2

トゥヴァ共和国

ヴラジスラフ・ホヴァルィク(統一ロシア)

(2021月4月~代行、クィズィル市長)

チョイガナ・セデン‐オオル(共産党、教師)

86.81%


4.04%

82.92%

3

チェチェン共和国

ラムザン・カディロフ(統一ロシア)

(2007年2月~現職)

イサ・ハジムラドフ(公正ロシア、元グローズヌィ市長)

99.70%


0.15%

94.61%

4

ハバロフスク地方

ミハイル・デグチャリョフ(自由民主党)

(2020年7月~代行、連邦下院議員)

マリーナ・キム(公正ロシア、テレビ司会者)

56.77%


25.43%

43.82%

5

ベルゴロド州

ヴャチェスラフ・グラトコフ(統一ロシア)

(2020年11月~代行、スタヴロポリ地方政府副議長)

キリル・スカチコ(共産党、市議会議員)

78.79%


9.94%

58.57%

6

ペンザ州

オレグ・メリニチェンコ(統一ロシア)

(2021年3月~代行、連邦上院メンバー)

オレグ・シャリャピン(共産党、ペンザ市議会副議長)

72.38%


12.35%

57.00%

7

トヴェリ州

イーゴリ・ルデニャ(統一ロシア)

(2016年~現職)

リュドミラ・ヴォロビヨヴァ(共産党、州議会議員)

52.33%


20.09%

41.76%

8

トゥーラ州

アレクセイ・デュミン(無所属)

(2016年2月~現職)

ウラジーミル・イサコフ(共産党、トゥーラ市議会議員)

83.58%


8.97%

52.60%

9

ウリヤノフスク州

アレクセイ・ルースキフ(共産党)

(2021年4月~代行、連邦上院メンバー)

ゲンナジー・ブダリン(緑の党、ウリヤノフスク市議会議員)

83.16%


5.5%

45.50%

北オセチア共和国

セルゲイ・ミニャイロ

(2021年4月~代行、シベリア連邦管区全権代表)

57/70票

カラチャイ・チェルケス共和国

ラシド・テムレゾフ

(2010年3月~現職)

48/50票

ダゲスタン共和国

セルゲイ・メリコフ

(2020年10月~代行、連邦上院メンバー)

82/87票

(出典)各連邦構成主体の選挙管理委員会で公表されているデータを基に作成。

連邦構成主体議会選挙

今回の統一地方選挙では、39連邦構成主体で議会選挙が行われた。すべての比例選挙で、「統一ロシア」が第1党となり、特にチェチェン共和国(89.20%)、イングーシ共和国(82.10%)、ダゲスタン共和国(73.74%)、モルドヴィア共和国(67.21%)、スタヴロポリ地方(60.34%)、タンボフ州(57.91%)、チュメニ州(50.07%)、ユダヤ自治州(62.38%)の8地域で過半数を超える得票となった。ただし、モルドヴィア共和国やチュヴァシ共和国では、前回の選挙と比べると、「統一ロシア」の得票率は15%以上も低い結果となっている。また、キーロフ州(27.26%)、アディゲ共和国(28.61%)、カレリア共和国(28.96%)、ノヴゴロド州(29.46%)、オムスク州(31.29%)、クラスノヤルスク地方(31.69%)などでは過半数を大幅に下回った。結果、「統一ロシア」は30地域で前回より議席を減らした。

他の主要政党を見ると、「公正ロシア」も「統一ロシア」と同様にすべての構成主体議会選挙で議席を獲得している。共産党が38、自由民主党も36の構成主体議会で議席を獲得したが、両党の結果は明暗が分かれるものであった。共産党は34地域で得票率を伸ばしており、特に沿海地方議会では前回の選挙より10%以上もアップさせる31.02%の支持を得た。獲得議席も前回の8議席から14議席と大きく躍進した。オレンブルグ州(29.11%)、ヴォログダ州(24.2%)、スヴェルドロフスク州(22.98%)、レニングラード州(20.7%)でも前回の選挙と比べて8~9%得票率が増加している。一方、自由民主党は議席を獲得したすべての地域で得票数、議席数とも減少している。

これらの主要政党に加えて健闘したのが、連邦下院選挙の比例区で初めて議席を獲得した政党「新しい人々」だ。同党は39構成主体中20もの構成主体議会で議席を獲得しており、カムチャッカ地方、クラスノヤルスク地方、アストラハン州、サンクトペテルブルグ市などの比例投票では、自由民主党や公正ロシアを超える得票で第4位を占めている。そのほか、年金生活者党が16地域、ヤブロコが3地域、緑の党が1地域で議席を獲得した。

市議会選挙

今回の統一地方選挙では、11連邦構成主体の行政中心都市でも市議会選挙が行われ、いずれも「統一ロシア」が第一党となった。一般的に都市住民は農村住民よりも現政権に反対を示す傾向があり、大都市で行われる選挙は政権にとって大きな課題となる。実際、2020年の選挙では、トムスク、ノヴォシビルスク、タンボフなどの市議会選挙で「統一ロシア」が苦戦を強いられた。しかし、今回は政権に対する強い風当たりは見られず、穏やかだった。

中でも小選挙区と比例で半数ずつの議席が選出されるケメロヴォ市議会では、「統一ロシア」が比例で72.77%と高い支持率を得たのに加えて、18小選挙区すべてで「統一ロシア」の候補者が当選を果たし、36議席中31議席を「統一ロシア」が確保する圧勝となった。ケメロヴォ州では第二の都市ノヴォクズネツクでも「統一ロシア」が比例区で60.48%、18小選挙区中17選挙区で当選を果たし、圧勝している。同様にスタヴロポリ市議会でも、「統一ロシア」が比例で62.26%を獲得すると同時に20すべての小選挙区で「統一ロシア」の候補者が当選を果たし、30議席中27議席を獲得した。モルドヴィア共和国のサランスク市議会では比例で過半数に届かなかったものの(48.21%)、14小選挙区すべてで「統一ロシア」の候補が当選している。このほか、バシコルトスタン共和国のウファ市議会で66.61%、ハンティ・マンシ自治管区のハンティ・マンシスク市議会で63.5%と「統一ロシア」の得票が過半数を超えた。

一方、カレリア共和国のペトロザヴォツク市議会とペルミ地方のペルミ市議会では比例投票による「統一ロシア」の得票はそれぞれ29.26%、29.39%と30%に満たず、前者では、共産党(17.88%)、「公正ロシア」(11.15%)、「ヤブロコ」(9.88%)、自由民主党(7.82%)、年金生活者党(7.27%)、後者では共産党(19.62%)、「公正ロシア」(11.77%)、「新しい人々」(11.57%)、自由民主党(8.24%)と、それぞれ複数政党が拮抗する結果となった。ただし、いずれの市議会も小選挙区では統一ロシアの圧勝で、ペトロザヴォツクで14選挙区中12選挙区、ペルミも22選挙区中20選挙区で「統一ロシア」の候補が当選した。

比例代表のみの投票が行われたチェチェンのグローズヌィ市議会とカバルダ・バルカル共和国のナルィチク市議会では、「統一ロシア」が89.9%と63.9%といずれも過半数の得票となり、それぞれ、27議席中25議席と33議席中21議席を確保した。また、小選挙区のみで投票が行われたカリーニングラード市とサラトフ市では、27議席中21議席と35議席中31議席と、こちらもやはり「統一ロシア」の大勝であった。

育成された首長候補たち

2021年10月4日、プーチン大統領はアレクサンドル・アヴデエフ連邦下院議員をウラジーミル州知事代行に任命した。統一地方選挙と同時開催で行われた連邦下院選挙で、自由民主党の選挙名簿に名を連ねたセルゲイ・シピャギン同州知事が9月29日に知事を退任し、連邦下院議員に就任する意向を示したためだ。シピャギンと言えば、2018年9月の統一地方選挙で、当時現職で、統一ロシア推薦の候補者であったスヴェトラーナ・オルロヴァ知事を破って当選を果たし、「波乱の首長選挙」の一翼を担った野党知事の1人である。一方、連邦下院から異動したアヴデエフは、カルーガ州第二の都市オブニンスク市長(2010~2015年)やカルーガ州副知事(2015~2016年)を務め、「カルーガの奇跡」と称される同州の投資誘致の成功に一役買った経験も持つ。また、「知事育成スクール」と呼ばれ、近年多くの首長を輩出しているロシア国民経済・公務アカデミー公共政策大学管理職人材育成発展プログラム修了している。

また、同日にはアレクサンドル・ニキーチン・タンボフ州知事も解任され、マキシム・エゴロフ連邦住宅・公共政策・建設省次官が知事代行に就任した。二ジニノヴゴロド出身のエゴロフは、チュメニ州で知事顧問を務めていたが、ヤクシェフ知事(当時)が住宅・公共政策・建設大臣に就任すると同時にモスクワへ移動し、大臣顧問を務めたのち、同省次官に就任していた。地方での経験を持つエゴロフもまた、前述のアヴデエフと同様に「知事育成スクール」を修了している。一方、2015年5月に前任のオレグ・ベチンに代わって知事代行に就任し、同年9月の選挙で正式に知事に就任したニキーチンは、2020年9月に再選を果たしたばかりであった。再選と同時に行われたタンボフ市議会選挙では、マクシム・コセンコフ元市長(2005~2008年)が党首を務める「祖国」が45.7%の得票で第1党となり、統一ロシアは20.6%の得票で第2位にとどまっていた。そして2020年11月にはコセンコフが市長代行に返り咲いていた。今回の統一地方選の枠内で行われたタンボフ州議会選挙では統一ロシアが57.91%の得票で第1党(50議席中42議席)を維持したものの、地元エリートとの関係をうまく築けなかったことが辞任の理由の1つではないかと言われている(RBC、2021.10.4)。退任後、ニキーチンは連邦上院メンバーに就任している。

さらに10月12日にはドミトリー・ミロノフ・ヤロスラヴリ州知事が大統領補佐官に任命されたことを受けて、ミハイル・エヴラエフ元連邦独占禁止局副長官(2018年11月~2021年2月)が知事代行に就任した。このエヴラエフもまた、ロシア国民経済・公務アカデミー公共政策大学管理職人材育成プログラムの修了生だ。ヤロスラヴリ州は連邦下院選挙の比例投票で「統一ロシア」の得票率が29.72%と最も低い地域の1つであった。これがミロノフの知事退任の理由と考えられている(コメルサント、2021.10.12)。一方で彼は治安維持機関で勤務し、2016年の知事就任直前は連邦内務省次官を務めていた。連邦警護局で勤務していた時にはプーチンの警護を務めたこともあり、大統領の信頼は高く、治安維持機関の上層部に異動の可能性もあるのではないかと言われている。

おわりに

ロシア地域の発展には地域政府の自助努力が欠かせない。そうした政策を実現できる有能かつ経験や知識豊富な首長の存在が必要不可欠である。任期満了前に首長を辞任させ、代わりを務める首長代行を大統領が任命し、選挙での勝利をほぼ確実にさせておくという近年の連邦政府による対策は、事実上の大統領任命制であるとして問題視されることがある。しかし、その一方で、地域の発展を実現するために有能な人材を育成したり、適切に配置したりすることは地域の社会・経済発展、さらには国全体の発展のために必要なことでもある。地域の政治的安定は、地域の経済的・財政的安定化という国民生活に直結する問題でもあり、首長の行政手腕は今後もますます重要になるだろう。