研究レポート

深化する露中関係―高まり続けるロシアのプレゼンス

2022-01-31
熊倉潤(法政大学法学部准教授)
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「大国間競争時代のロシア研究会」FY2021-6号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

はじめに

2021年夏のアフガニスタン問題、2022年1月のカザフスタン問題など、中央ユーラシア地域の安定に関わる重大な事案が次々と浮上するなか、ロシアと中国の関係は、どのように推移しているのだろうか。結論から言えば、両国の協力関係はますます深化すると同時に、ロシアのプレゼンスが高まっているように思われる。

2020年度の本研究会報告書の拙稿1において指摘したように、両国関係には、経済的には中国がはるかに巨大であるにもかかわらず、ロシアはあくまで独立した立場を維持し、中国の格下のパートナーに成り下がらないでいるという特徴がある。一帯一路構想に関して言えば、中国の掲げる「シルクロード経済ベルト」とロシア率いる「ユーラシア経済同盟」(EAEU)が連携するという認識のもと、ロシアは中国と対等なパートナーとして振る舞ってきた。また2020年に再燃した中印国境紛争においては、両国の調停者の役回りを果たした。中国との原子力協力の面では、米中間のデカップリングに対し、ロシアは中国に援助の手を差し伸べることで、支援者としての一面を見せた。北京オリンピックについても、プーチン大統領は開幕式への出席を表明することで、西側の外交ボイコットを横目に、中国のよき理解者としての姿勢を示してきた。

さらに言えば、ロシアには中国にとって安全保障上の共闘者としての一面もある。この面でのロシアのプレゼンスは、2021年夏のアフガニスタン問題、2022年1月のカザフスタン問題において、ますます高まったように思われる。本稿では、この2つの事案を通じてロシアが中国に見せた、安全保障上の共闘者としての一面と、中国側から見て高まり続けるロシアのプレゼンスについて考察したい。

1. アフガニスタン問題と露中関係

2021年夏、アフガニスタンからの米軍撤退及びタリバン勢力の捲土重来は、同地で再び「テロ」が活発になり、地域の不安定化を引き起こすのではないかという恐れを世界中に抱かせた。このときとりわけ地理的に近接するロシアと中国がこの脅威をより深刻に受け止めたことは、6月28日の習近平国家主席とプーチン大統領のテレビ会談において、双方がアフガニスタン情勢を注視し、地域の平和と安全、安定を共同で維持することを強調したことからも窺える2。7月14日にタジキスタンの首都ドゥシャンベで開催された上海協力機構の外相会合において、アフガニスタン情勢について、早期停戦、暴力の停止、和平プロセスを求める共同声明が採択されたのも、この時期の露中両国の切迫した関心をよく表している。

さらに8月前半、中国の寧夏回族自治区において1万人以上が参加する露中合同軍事演習「西部・聯合2021」が行われたことも注目に値する。中国国防部は、この演習を通じて「テロリストの勢力を攻撃し、地区の平和と安定を共同で維持する決心と能力を示す3」と発表しており、この演習がアフガニスタン情勢を睨んで行われたものであることは明らかである。以上の露中首脳会談、上海協力機構外相会合、露中合同軍事演習からわかるように、両国はいわゆる「反テロ」の面で利害を共にしており、共同歩調をとった。

同時に、露中共闘のもう1つの方向性である、アメリカへの対抗という側面も看過できない。両国が「反テロ」の文脈でアフガニスタンの不安定化に対し抱えた懸念は、これまでのチェチェン、新疆における「テロとの戦い」を思うに、それぞれかなりリアルなものであった。それだけに露中両国は、アフガニスタンから撤退するアメリカに対して批判的姿勢を隠さなかった。7月の上海協力機構外相会合後、王毅外相は、アメリカはアフガニスタン問題をつくった張本人で、地域の安定に責任があると名指しで非難した4。このときラブロフ外相も、アメリカ人は任務が完了したと言っているが、任務が失敗に終わったことは誰の眼にも明らかだと批判した5

2021年8月25日の露中首脳電話会談においても、習近平国家主席は「靴が自分の足に合うか否かは靴を履いている者にしか分からない」と述べ、アフガニスタンに欧米式の民主主義体制を押し付けてきた米国を暗に批判し、中露間での「反干渉協力の深化」を訴えた。プーチン大統領も「アフガン情勢は、外部勢力がその政治モデルを押しつけても破壊と災難をもたらすだけということを示している」と応じ、中国側と密接に協調すると述べたとされる6

このように2021年夏のアフガニスタン問題を通じて、両国はアメリカのいわば無責任な介入と撤退を批判するという点で一致し、いつもながらの対米批判の文脈で歩調を合わせたと言えよう。同時にロシアは、「反テロ」という観点から、中国と軍事演習を行い、地域の混乱を未然に防ぐ中国の共闘者としての立場を強めたように見える。アフガニスタン問題は中国において新疆の安定に直結する問題であると考えられており、ロシアは地域の安定を確保する上での強力なパートナーとして、プレゼンスをいっそう高めたと言えよう。

2. カザフスタン問題と露中関係

2022年1月、カザフスタンで起こった一連の混乱に対しても、露中両国は封じ込めの方向で利害が一致した。ただここでは「反テロ」という観点もあるものの、「カラー革命」の動きを鎮圧する方向で認識を共有した。1月6日、ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)が部隊派遣を決めると、中国も鎮圧を支持する態度をとるようになった。

1月7日に習近平国家主席自ら、カザフスタンのトカエフ大統領に宛てたメッセージで武力鎮圧の支持を伝達したが、そこで外部勢力が「カラー革命」を起こそうとすることに断固反対であると表明された7。続いて1月10日に露中外相電話会談が開催され、中国側はカザフスタンの主権を尊重するという前提のもとで、CSTOの部隊派遣を支持した。その際に王毅外相は、中露双方が協力を強化し、外部勢力の中央アジアへの介入に反対し、「カラー革命」そして「三つの勢力」(三股勢力)が混乱を引き起こすことを防がなければならないと述べた8。「三つの勢力」とは、中国がいうところの「テロリズム、分離主義、宗教的極端主義」の三勢力の総称であり、新疆の「反テロ」政策の文脈で使用される表現である。カザフスタン情勢が新疆に波及する懸念もここに明示されたと言えよう。

結果的にロシアの行動は、カザフスタンの主権尊重という条件付きながら、中国の支持を取りつけた。ここで重要なことは、中央アジアを自国の勢力圏と見なすロシアが、カザフスタンにおける自らの影響力を中国に認めさせたことである。かつてロシアの裏庭とも言われた中央アジアには、近年中国が経済面で、そして一部安全保障面でも進出しつつあったが、今も安全保障面ではロシアが影響力を持つこと、また中国もそれを認めざるをえないことが明らかとなった。

おわりに

2021年後半から2022年の年初にかけて立て続けに起こった以上の2つの事案を経て、ロシアと中国は一層の協力関係に入ったように見える。この2つの事案は何を露中共通の脅威と見なすかにおいて多少の違いがあるが、「テロリスト」であれ、「カラー革命」を引き起こす勢力であれ、共通の脅威に対する共闘という文脈がますます強調されることとなった。

中国から見ると、新疆の安定に直結するアフガニスタン、カザフスタン情勢に対処する上で、ロシアが不可欠な存在であることが改めて明らかとなった。中国にとって、安全保障面での共闘者として、ロシアのプレゼンスは否応なく高まったと言えよう。




1 熊倉潤「2020年の露中関係:『一帯一路』と中印国境紛争をめぐって」『大国間の競争時代のロシア』研究会報告書、日本国際問題研究所、2021年、79-84ページ。<https://www.jiia.or.jp/pdf/research/R02_Russia/08-kumakura.pdf> (本稿の引用は全て1月27日最終閲覧)

2 アフガニスタン問題に対する中国側の懸念、また中国とアフガニスタンの近年の関係については以下の拙稿を参照。熊倉潤「アフガニスタンへの関与を深める中国 中露の利害はどこまで一致しているのか」『中央公論』10月号、2021年、68-75頁;「東トルキスタン・イスラーム運動とは何か-中国における「反テロ」の論理と新疆政策」『外交』69号、2021年9月、56-61頁。<http://www.gaiko-web.jp/test/wp-content/uploads/2021/09/Vol69_p56-61_east_turkestan_islamic_movement.pdf>;「タリバン政権への関与を探る中国:具体的な政策や方向性はまだ見えず」Nippon.com、2021年11月。<https://www.nippon.com/ja/in-depth/a07802/>

3 中国国防部「2021年7月国防部例行記者会文字実録」2021年7月29日。<http://www.mod.gov.cn/jzhzt/2021-07/29/content_4890594.htm>

4 中国新聞網「王毅談美従阿富汗撤軍:美国需以負責任方式确保局勢平穏過渡」2021年7月18日。<https://www.chinanews.com/gn/2021/07-18/9522636.shtml>

5 ИТАР-ТАСС, "Лавров заявил, что миссия США в Афганистане провалилась," 16.07.2021. <https://tass.ru/politika/11921031>

6 中国外交部「習近平同俄羅斯総統普京通電話」2021年8月25日。<https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202108/t20210825_9136997.shtml>

7 中国外交部「習近平向哈薩克斯坦総統托卡耶夫致口信」2022年1月7日。<https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/gjldrhd_674881/202201/t20220107_10479994.shtml>

8 中国外交部「王毅同俄羅斯外長拉夫羅夫通電話」2022年1月11日。<https://www.mfa.gov.cn/web/wjdt_674879/gjldrhd_674881/202201/t20220111_10480831.shtml>