研究レポート

戦争と「平和な」選挙?開戦後の地方統治と2023年地方選挙

2024-01-24
鳥飼将雅(大阪大学准教授)
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「ロシア関連」研究会 FY-2023-3号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

1. はじめに

ある政治学者は、第一次世界大戦の分析に際して、総力戦は政治体制をテストする機能を持つと述べた。総力戦は、軍事的な側面だけではなく、国内統治の側面でも、政治体制に対して大きな負荷をかける.総力戦の重圧に耐えかねたロシア帝国は、1917年に起こった二度の革命により大戦から離脱した1。今日のウクライナ戦争は、前世紀の2回の総力戦に比肩するほどの規模ではないが、それでもロシア国内に政治的・経済的・社会的に大きな変動と苦境を強いている。今世紀最大規模の戦争の最中で、ロシアの政治体制はどのように国内の安定を達成しているのか.また、戦争の影響はどのように選挙に反映されるのか。

本稿では、地方2で強い影響力を持つ知事3と支配政党たる統一ロシアの戦争後の役割について、簡潔に叙述する。さらに、2023年9月に行われた地方選挙の結果を分析し、開戦前の選挙との差異を示す。図1は、2023年に上記の選挙が行われた地方に色を塗った地図である。

【図1: 2023 年に知事選挙、あるいは地方議会選挙が開催された地方】

伝統的に知事は地方において絶大な政治権力を持っていたが、近年の集権化の中で連邦政府の指示に従う官僚的な知事が増えてきている。開戦後、連邦政府は地方政府に対して戦争遂行可能な状況を維持するような指令を出しているが、知事はその方法に様々な手段で応えている。   

一方、開戦後の与党統一ロシアは、前線への支援の企画・運営や、社会における戦争支持の雰囲気作りに取り組んでいる。知事や統一ロシア、ひいては体制への支持は、選挙結果に一定程度反映されると考えられる。今回の戦争への市民やエリートの関わりの変化を、選挙結果から分析することが本稿の狙いである。

また、ウクライナ国内でロシア軍が占領を継続している4州でも、選挙が行われた。ロシアの行政区分では、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、ザポロジエ州、ヘルソン州として扱われている。なお、国連やNATO、西洋諸国は、4州での選挙を違法なものとして糾弾した。日本でも、林芳正外相や松野博一官房長官が「併合」4州での選挙実施に対して、強く非難した4。当然筆者も上記の非難を支持する立場であることは、予め断っておく。

本稿で用いたデータはロシア中央選挙管理委員会のサイト5から得たものだが、この4地方に関しては、正式な結果が10月末日現在未だ出ていない。この4地方の結果の分析は別稿に譲り、本稿ではそれ以外の知事選挙、および地方議会選挙に焦点を当て、分析を進める。

2. 開戦後の知事と統一ロシア

知事は伝統的に、地方における最も強大な政治経済権力を持つアクターである。1990年代には、連邦政府に対して何度も妥協を迫り、ロシアの国家の一体性にとって大きな脅威となっていた。しかし、2000年にプーチンが大統領となると、一連の集権化政策によって知事は急速に自律性を失っていった。今日の知事は、政治的な自律性は失いながらも、地方でのマネジメントには大きな責任を持つという、中間管理職的な役目を担わされている6

開戦後、クレムリンが戦争にかかり切りになっている間に、地方政府にはさまざまな雑事が押し付けられるようになった。まず求められたのは、かつてない規模の制裁や経済的孤立の中で、地方の経済的安定を維持することだった。2022年9月に動員令が出されると、課せられたクオータにしたがって動員兵を集める責任も追うようになった7。COVID-19への対応時から、連邦政府は地方政府に対して、社会のマネジメントを押し付けているのだ8

連邦政府側からの反応として特筆すべきは、戦争開始後の知事人事の変化である。2021年までは、任期最終年に到達する前に解任9されて、新しい知事選挙が行われるケースが多かった10。しかし、2022年以降、明らかに知事の交代が減っている。毎年春と秋に知事の解任ラッシュが起こるのだが、2022年秋には一人も解任されなかった。専門家は、クレムリンは目下のところ、知事の能力よりも地方の安定を優先し、知事の頻繁なローテーションは控えているのだという11

今回の選挙でも、現職知事が選挙に参加しなかったのは、クラスノヤルスククライ、オムスク州、スモレンスク州、チュコトカ自治管区のみである。このうち、任期最終年ではないのに解任されたケースは、スモレンスク州のみである。

2023年3月に解任されたスモレンスク州知事のアレクセイ・オストロフスキーは、知事公選制が復活する直前の2012年4月に任命された知事だった。ロシア自由民主党出身だったが、二度の知事選挙で統一ロシアの対抗馬は立候補せず、明らかに体制内野党へのクオータとしてポストに任じられていた。今回のスモレンスク州知事の解任に関しては、党内からは「寝耳に水」という声が上がるが、クオータの割り当てを削減する意図があるのではと専門家は指摘している12。実際、後任のヴァシリー・アノヒンは統一ロシアから出馬した。

また、2023年3月に任期が切れる半年前に解任されたオムスク州知事のアレクサンドル・ブルコフは、2018年知事選挙には無所属で臨んだものの、2007年から公正ロシアの党員である。2023年10月現在、野党出身の知事は、ロシア共産党からハカシヤ共和国のヴァレンチン・コノヴァロフ、オリョール州知事アンドレイ・クルィチコフ、ウリヤノフスク州知事アレクセイ・ルースキフの3人、ロシア自由民主党からハバロフスククライ知事のミハイル・デグチャリョフ、公正ロシアからチュヴァシヤ共和国のオレグ・ニコラエフの合計5名となった13。また、上述したとおり、ハカシヤ共和国知事のコノヴァロフに対しては、2023年知事選挙で統一ロシアが対抗馬を立てようとした。体制内野党に対しても、知事ポストをクオータで割り当てる余裕がなくなってきていることを示唆しているのかもしれない。

2003年以降、与党統一ロシアは、ロシア下院の過半数を支配し続けている。開戦後には、もともとラバースタンプと呼ばれていた議会は、より一層その傾向を強めた。統一ロシアを実質的に指導する党幹事長のアンドレイ・トゥルチャクは、支配政党から「戦争党」へと統一ロシアを変貌させた。ドンバスの2共和国では、2022年2月の併合宣言後すぐに、統一ロシアの支部が開かれた。また、ヘルソンやマリウポリなどの占領地域でも、統一ロシアを中心とした「人道的支援」の拠点を築いた14。占領地域の選挙でも、現地の人間を積極的に統一ロシアの名簿に含めることで、体制への統合を狙っていると指摘されている15

しかし、今回の選挙では、戦争に対する政党としての貢献は、それほど強調されなかった。選挙前には、帰還軍人を統一ロシアの候補として、多く擁立すると宣伝されていた。統一ロシア総評議会書記のアンドレイ・トゥルチャクは、予備選挙の結果を総括して、戦争参加者が150人以上名簿に含まれたことに言及した16

だが蓋を開けてみると、実際の選挙名簿では、戦争参加者の名前はほとんど見られなかった。多くの地方の社会経済状況が悪化の一途をたどっていることを考慮し、「特別軍事作戦」の宣伝は後景に退くこととなった。党幹部も、地方の発展計画を焦点とし、「特別軍事作戦」を主要なテーマとしてキャンペーンを行うことはないと語った。

戦争下での選挙であるゆえに、全体として各党の主張のオリジナリティは薄れている。ある政治学者は、「選挙宣伝はよりつまらないものになった。ソ連時代の新聞の社説を思い起こさせる」と表現した17

3. 知事選挙の結果

2023年には、連邦構成主体全体の約4分の1にあたる、21の地方で知事選挙が行われた。内訳は、2共和国、3クライ、14州、1連邦市、1自治管区である。全ての選挙で、現職知事、あるいは知事代行候補(オリョール州とハカシヤ共和国のみロシア共産党候補、他は統一ロシア候補)が、地滑り的勝利を収めた。また、ヤマロ・ネネツ自治管区では自治管区憲章に基づき、ロシア連邦大統領の推薦した候補に対する自治管区議会内の投票によって知事が選出された。現職のドミトリー・アルチュホフは、21票のうち17票を獲得して再選された18

戦争で生じた変化を理解するために、今回の選挙の結果を、前回の選挙の結果と比較してみよう。知事の任期は5年19なので、前回の知事選挙は2018年に行われている。ただし、前述のとおりスモレンスク州知事だけ早期に辞任したので、前回の選挙は2020年に行われた。

【図2: 2018 年と 2023 年の知事選挙における体制側候補の得票率と投票率: 2023 年ハカシヤ知事選挙の体制側得票率はヴァレンチン・コノヴァロフ候補 (ロシア共産党) の結果を利用している (詳細は本文参照)。】

図2には、前回と今回の知事選挙における体制側候補の得票率と投票率をプロットしている。体制側候補の得票率は顕著に上がっていることが分かるだろう。結果が悪くなったのは、マガダン州とオリョール州のみである。反面、投票率は平均で3.9%程度と、それほど伸びていない。モスクワ市とモスクワ州、およびケメロヴォ州とニジニノヴゴロド州で大きく伸びているが、それ以外の地方ではあまり変化していない。それどころか、投票率が減少している地方も珍しくない。

おおかた予想どおりの結果だったが、ハカシヤ共和国知事選は専門家の注目を集めた。2018年ハカシヤ共和国知事選挙では、統一ロシアから出馬した現職候補が、ロシア共産党候補のヴァレンチン・コノヴァロフに予期せぬ敗北を喫した。コノヴァロフは任期をまっとうし、今回の選挙にも現職知事として参加した。統一ロシアは、ハカシヤ共和国選出の国家ドゥーマ(下院)議員のセルゲイ・ソコルを候補として立てた。彼は「特別軍事作戦」にも参加し、「英雄」としてアピールすると考えられていた。しかし、もともと共産党の勢力が強いハカシヤ共和国で順調に支持を伸ばしたコノヴァロフに対して、共和国内でほとんど実績がないソコルは勝ち目がないという前評判だった。結局9月初頭にソコルは撤退を表明し、コノヴァロフは63%の得票という無風状態で再選された20

ロシア共産党の知事が再選されたオリョール州では、統一ロシアの候補が出馬していないため、ハカシヤ共和国の事例とは大きく事情が異なる。統一ロシアの候補が選挙参加を取り下げたハカシヤ共和国の事例は、現在のロシアのような高度な権威主義体制でも、地方レベルでは政治的な競争が生じうることを示している。

【表1: 知事選挙候補者登録の内訳】

候補者登録に目を向けると、また違ったコントラストが見えてくる。表1には、前回と今回の知事選挙候補者登録の内訳をまとめた。前回に比べて今回の選挙では、候補者登録を試みた人の数が50人以上減っている。

知事選挙における候補者登録の最も高いハードルの一つは、自治体フィルターと呼ばれる制度である。各地方の知事選挙に立候補するためには、当該地方の自治体の首長と議員の5-10%(具体的な数字は地方法で決定)の署名を集めなければならない。自治体の首長や議員の多くは統一ロシア出身、あるいは主要な体制内野党21出身なので、それ以外の候補が必要量の署名を集めるのは非常に難しい。署名を集めることに失敗した場合には、選挙委員会によって登録を拒否される(ただし、登録拒否の理由は、これ以外にも多数存在する)。2018年には、178の立候補者のうち、36人(約20.22%)が登録を拒否された。そのうち33人が、主要4政党以外の候補者だった。対して、2023年には登録拒否された候補者の人数は2人と大きく減った。ただし、これは候補者登録自体が前回に比べて容易になったことを意味しない。

もともと、登録拒否は、政権にとって都合の良い選挙コントロールの方法である。勤務先での左遷や減給の脅迫を伴う強制的な動員、あるいは特定の有権者に複数回投票させるなどの投票における不正に比べて、有力野党候補の登録拒否による排除は、比較的有権者の怒りを買いづらい戦略であることが実証されている22。そのため、体制側が候補者登録を控えさせるように潜在的な候補者に圧力をかける意味は、それほど大きくないと考えられる。

むしろ今回の候補者登録は、見込みのない候補が立候補を自主的に避けるようになったことで説明できるのではないか。その証拠に、主要6政党以外で立候補に動いた人の数は、50人以上減っている。また、実際に選挙に参加できた候補者も、28人から14人と半分になっている。2018年モスクワ市長選挙では、33人の候補者が立候補した。そのうち18人が無所属、残りの15人は政党から立候補した。対して、2023年モスクワ市長選挙では、候補者が12人と減り、その内6人のみが政党からの立候補者だった。最終的に選挙に参加したのは、主要な体制内野党のみだった。

有名な選挙監視団体の「ゴロス(「声」、あるいは「投票」の意)」の共同議長であるスタニスラフ・アンドレイチュクは、経済危機による選挙キャンペーンに出資する企業の減少と、法執行機関による選挙参加者 (候補者、選挙監視団、有権者) に対する抑圧の増加を指摘する23。特に後者は憂慮すべき大きな問題である。開戦以来、イリヤ・ヤシンやエフゲニー・ロイズマン24など、従来は活動を許容されていた反体制派も、逮捕の憂き目に遭っている。このような抑圧の強化は、潜在的な反対派の選挙への参加への意欲を水面下で削いでいると考えられる。

4. 地方議会選挙の結果

次に地方議会選挙を見ていこう。2023年地方議会選挙は、16の地方で行われた。内訳は、5共和国、1クライ、9州、1自治管区である。今回地方議会選が行われた地方では、前回の選挙は2018年に行われた。

2018年は、プーチン大統領の再選の年でもあるが、年金改革によって大きな抗議運動が起きた年として記憶されている。同年の知事選挙では、3地方(ハカシヤ共和国、ハバロフスククライ、ヴラディミル州)で野党候補が勝利、沿海クライでも選挙不正によって現職の勝利が取り消されるなど、波乱が起こった25。地方議会選挙を見ても、いくつかの地方では過半数を取れておらず、統一ロシアのパフォーマンスは急激に落ちている。体制としては戦時体制を足元で支える地方の議会を、統一ロシアによる盤石の支配で固めたいという思惑は強かっただろう。

その証拠に、今回の選挙では、6地方で小選挙区の議席数が増加した。小選挙区の方が、行政資源の影響で体制側候補が勝利しやすい。また、イヴァノヴォ州の新たな小選挙区区割りは、都市部と農村部を組み合わせた不自然な形となった。行政資源の影響が都市部よりも大きい農村部を選挙区に組み込むことで、体制側候補が勝利しやすくなることが目的だと指摘されている26。このような区割りは、都市から周辺の都市に放射状に選挙区が広がっていくように見えるので、ロシア語で「花弁型区分け(лепестковая нарезка)」と呼ばれる。2016年国家ドゥーマ選挙でも用いられ、批判の対象となった。このような、政治的な意図に基づく恣意的な区割りは、「ゲリマンダリング」と呼ばれる。権威主義体制にとって小選挙区制が有利とされるが、その理由の一つはこのゲリマンダリングを用いて体制側が結果を操作できることにある27。下で詳述するように、小選挙区では統一ロシアの候補が盤石のパフォーマンスを見せ、統一ロシア対象の大きな要因となった。

【図3: 2018 年と 2023 年の議席配分の比較: 民族地方】

図3には、民族地域の地方議会における政党別議席配分を示した。2018年選挙時の結果を右に、2023年選挙時の結果を左に示している。統一ロシアと共産党が拮抗していたハカシヤ共和国でも、統一ロシアが大きく議席数を伸ばした。そのほかの地方でも、統一ロシアが盤石な結果を収めたことがわかる。

【図4: 2018 年と 2023 年の議席配分の比較: ロシア人地方】

次に、図4にはロシア人地方の結果をまとめた。2018年には、ザバイカルクライ、イルクーツク州、ウリヤノフスク州で、統一ロシアの獲得議席は半分を割り込むなど、低調だった。しかし、2023年には全ての地方で3分の2以上の議席を確保しており、こちらも盤石な支配基盤を築いた格好となった。

【図5: 地方議会選挙における統一ロシアの比例得票率と投票率】

図5には、2018年と2023年の統一ロシアの比例得票率と投票率を、地方ごとに示した。知事選挙ほどには顕著ではないものの、カルムィキヤ共和国を除き、全ての地方で統一ロシアの比例得票率が伸びている。最も伸びているザバイカルクライでは、約30\%もの得票率の上昇が観察された。同日で行われた知事選挙で、ロシア共産党のコノヴァロフが勝利したハカシヤ共和国でも、10%程度統一ロシアは得票率を改善した。

反面、投票率は下落傾向にある。大きく改善したのは、ケメロヴォ州(約13%)とスモレンスク州(約10%)のみであり、10地方で投票率は下がった。平均で見ても0.44%の下落と、統一ロシア得票率とは対照的な結果に終わった。特にロシアのように、選挙による正統性に依拠した権威主義体制では、投票率の低さは市民の間での体制の正統性に対して長期的に不利に働く可能性がある。

次に、小選挙区でのパフォーマンスも見ていこう。全436小選挙区のうち、統一ロシアは、ハカシヤ共和国の第24選挙区以外の全ての選挙区に候補者を立てた。また、7候補が登録前後に立候補を取り下げた。残りの428小選挙区のうち、405(94.63%)で勝利した。2018年時には、379小選挙区のうち269(70.98%)しか勝利できなかったことを考えると、大きく躍進したことが分かるだろう。いくつかの地方で小選挙区議席の割合を増大させたことも相まって、統一ロシアの地方議会内のプレゼンスを上げることに大きく貢献したといえよう。

【図6: 小選挙区における統一ロシア候補者の選挙マージンのヴァイオリンプロット】

図6には、2018年と2023年の地方議会選挙結果を用いて描いた、ヴァイオリンプロットを示している。上のパネルの縦軸は、統一ロシア候補者の選挙マージンを表している。選挙マージンとは、自身を除いて最大の得票を得た候補との得票率の差を指す。マージンが0を超えていれば小選挙区の勝者であり、0を下回れば敗者であることを示す。左半分の膨らみは2018年地方議会選挙の、右の膨らみは2023年地方議会選挙の選挙マージンの分布を表している。カルムィキヤのみ2018年は完全比例代表制だったため、小選挙区の結果がない。また、中央近くの白抜き点は中央値、黒線は上位25%から下位25%までの分布を表す。

一見してわかるとおり、2018年に比べて、2023年の統一ロシアの候補者の選挙マージンは大幅に改善されている。特に2018年に過半数を取れなかった地方において、著しい躍進を見せている。2018年は全体的に低調で、ハカシヤ共和国、ザバイカルクライ、イルクーツク州、ウリヤノフスク州など、地方内のマージンの中央値が0前後となっている地方すらあった。対して、2023年選挙では、多くの地方でマージンの中央値が30を超えている。また分散も小さくなっており、少数の選挙区に引っ張られているわけでもない。全体として、統一ロシア候補が大勝していることが分かるだろう。

しかし、投票率の分布(下のパネル)に目を向けると、ほとんど変化していない。また分布を見ても、分散が大きくなっているわけでもなく、全体として投票率が落ちている。大勝とは裏腹に、知事選挙と同様、有権者は熱心に選挙に参加することはなかった。

【表2: 地方議会選挙小選挙区候補者登録の内訳】

最後に、地方議会選挙の小選挙区候補者登録についても比較してみよう。表2には、2018年と2023年の候補者登録について政党別にまとめた。統一ロシア、および主要体制内野党28の候補者は、9割以上が問題なく選挙に参加している。それ以外の野党は、主要体制内野党に比べると劣るが、それでも多くの候補者が選挙に参加できている。

興味深いのは、無所属候補の動向である。政党の発展が遅れたロシアでは、強い影響力を持った候補が無所属として立候補することがままあった。統一ロシアの議会支配が盤石な近年でも、無所属候補が競争的な候補となるケースが報告されている29。しかし、2023年の地方議会選における無所属候補者数は、総立候補者数、および実際に選挙に参加した候補者数のどちらでも、大きく数を減らしている。

登録拒否割合と登録前後に取り消しの割合も、戦争後に知事選挙と同様に変化している。それ以外の野党や無所属候補の登録拒否率が、2023年には顕著に減っている。その代わりに、登録前に立候補を取り下げている候補者が、特に無所属候補の中で大きく増えている。

5. まとめ

選挙結果からわかるとおり、体制側の候補や支配政党たる統一ロシアが、盤石な支配の地盤を固めた。知事人事は硬直化するとともに、自らの支配の正統性を選挙結果で示した格好となった。地方議会選挙でも、特に小選挙区で大勝を収めた統一ロシアは、2018年の年金改革の影響で落ちていた各地方議会内の影響力を取り戻した。

しかし、投票率や候補者数の変化を見ると、有権者や反対派の政治的アパシーが感じられる。統一ロシアの伸びに比べて投票率の伸びは鈍化し、それどころか下がる地方も少なくなかった。また、反対派の立候補数全体が減っていることからも、選挙自体の質が相当落ちていることがわかる。当然、野党候補が数を減らせば、体制側の候補が勝利しやすくなる。しかし同時に、競争性が小さくなった選挙から得られる政治的正統性は、必然的に小さくなる。候補者登録の傾向の変化と戦争の関係は、今後注視に値するだろう30

いくら結果が事前にほぼわかっているとしても、正統な選挙を演出することは、プーチン体制にとって欠かすことのできない重要な任務である。上で示したとおり、野党の活動が開戦後著しく縮小しているため、体制にとってプラスとなるか、マイナスとなるか、中長期的に観察する必要がある。来年の大統領選挙の結果やその影響も含めて、今後も戦争の展開と選挙結果の関係を注視すべきだ。




1 篠原一.1986年『ヨーロッパの政治: 歴史政治学試論』東京大学出版会,208-213頁.

2 本稿では、連邦構成主体と呼ばれる行政単位を、「地方」と呼称する。

3 地方政府の首長の呼称は地方ごとに異なり煩雑なので、本稿では正式な呼称に拘らず「知事」と呼称する。

4 『毎日新聞』2023年9月9日。https://mainichi.jp/articles/20230909/k00/00m/030/006000c なお、本稿で提示したURLは、2023年12月21日現在、一つを除き全てアクセス可能である。ロシア連邦中央選挙委員会のウェブサイトに関しては、註5を参照。

5 http://www.cikrf.ru/ おそらくロシア国外からのアクセスは遮断されているので、VPNを用いてアクセスした。2023年7月から10月にかけて,油本真理氏と共同でデータを収集した。

6 Gulnaz Sharafutdinova.2016."Regional Governors Navigating through Putin's Third Term: On the Wave of Patriotism through the Troubled Waters of the Economy." Russian Politics, 1 (4), 372-397.

7 András Tóth-Czifra."Russia's Costly War Saps its Regions." Center for European Policy Analysis, October 28, 2022.https://cepa.org/article/russias-costly-war-saps-its-regions/

8 Irina Busygina and Mikhail Filippov. 2023. "Regional Governors, Moscow, and the War." Russian Analytical Digest, 295, 2-5.

9 法的には、知事の多くは「自己都合により辞任(отставка по собственному желанию)」している場合が多い。2012年から2021年までに退任した100人の知事の辞任パターンの内訳について詳しく見ると、76人が自己都合辞任、10人が任期満了に伴う辞任、9人が「ロシア連邦大統領の信頼喪失(утрата доверия Президента РФ)」による解任、4人が選挙で敗北、1人が在任中に亡くなっている。しかし、自己都合辞任となっている場合でも、裏でクレムリンの指示があり、勝手に辞任できるわけではない。そのため、本稿では知事の辞任については、「解任」という単語を用いることで、クレムリンによる人事政策という側面を強調する。詳しくは以下の拙稿を参照せよ。Masatomo Torikai.2023."Integrating Governor Posts Into the Federal Bureaucratic Structure: Resignation and Post-Tenure Careers of Governors in Russia," Europe- Asia Studies, 75:10, 1651-1676.

10 2012年の知事公選制復活後の知事の任命と解任の具体的プロセスに関しては、以下の2本の拙稿を参照。

鳥飼将雅.2020年「アウトサイダーの増加とそのペナルティ: ロシアの知事人事の変化とその選挙動員への影響,1991-2019 年」『ロシア・東欧研究』第49号,144-166頁.Masatomo Torikai.2023."Integrating Governor Posts Into the Federal Bureaucratic Structure: Resignation and Post-Tenure Careers of Governors in Russia," Europe- Asia Studies, 75:10, 1651-1676.

12 Коммерсантъ, 17 марта, 2023.https://www.kommersant.ru/doc/5886107

13 そのほか、ヤロスラヴリ州知事のミハイル・エヴラエフはヤブロコに所属していたが、2022年州知事選挙でヤブロコが対抗馬を立てようとしていたことからも、党との関係が良好ではないことは明らかである。ヤブロコ公式サイト上の2022年7月29日付プレスリリース。https://www.yabloko.ru/regnews/yaroslavl/2022/07/29 

15 例えば、2020年の地方選挙で「人民の僕」党(2019年からウクライナ最高会議の最大政党)から出馬した議員が、今回の地方選で統一ロシアから出馬するケースすらあったそうである。Konstantin Skorkin."A New Potemkin Vote in Occupied Ukraine." Carnegie Politika, June 12, 2023.https://carnegieendowment.org/politika/89944

18 Коммерсантъ, 10 сентября, 2023.https://www.kommersant.ru/doc/6209962

19 以前は5年を超えない範囲で各地方の憲法、あるいは憲章によって決められていたが、現在は全地方5年で固定されている。ТАСС, 27 сентября, 2021.https://tass.ru/info/12514329

20 BBC, 8 сентября, 2023.https://www.bbc.com/russian/articles/cn0e8rd39j9o

21 本稿では、2021年下院選挙において比例で議席配分を得た統一ロシア以外の4党、すなわちロシア共産党、ロシア自由民主党、公正ロシア、新しい人々の4党をまとめて、「主要な体制内野党」と呼ぶ。ただし、新しい人々は2020年4月に結成されたので、2018年選挙には参加していない。2020年9月に行われたスモレンスク州知事選にも、候補を擁立していない。

22 David Szakonyi.2022."Candidate Filtering: The Strategic Use of Electoral Manipulations in Russia." British Journal of Political Science, 52 (2).

23 Stanislav Andreychuk. "The Zone of Electoral Silence: The Key Features of the 2023 Regional Elections." Re:Russia, September 7, 2023. https://re-russia.net/en/analytics/094/

24 ロシア中部ウラル地方の大都市、エカチェリンブルクの出身。2013 年に市民プラットフォームから出馬して、エカチェリンブルク市長に当選し、2018 年まで務めた。開戦後すぐに、ウクライナ戦争を批判し、8 月に軍の名誉を毀損したとして逮捕された。RFE/RL, March 16, 2023. https://www.rferl.org/a/russia-yekaterinburg-roizman-detained-/32320982.html

25 知事選挙が復活した2012年以降、クレムリンが推す候補が勝利できなかったのは、この4事例以外には2015年のイルクーツク州知事選挙のみである。

鳥飼将雅「アウトサイダーの増加とそのペナルティ: ロシアの知事人事の変化とその選挙動員への影響,1991-2019 年」『ロシア・東欧研究』第49号,157-159頁.

26 Коммерсантъ, 29 декабря, 2022.https://www.kommersant.ru/doc/5756994 2011年に統一ロシアの支持率が落ち込み、大規模な選挙不正によって、かつてない規模の抗議運動が組織されたことへの反省から、このような選挙区割りが行われ始めた。Коммерсантъ, 2 сентября, 2015.https://www.kommersant.ru/doc/2801209

27 東島雅昌.2023年.『民主主義を装う権威主義: 世界化する選挙独裁とその論理』勁草書房,第5章.

28 ここではロシア共産党、ロシア自由民主党、公正ロシア、新しい人々を主要体制内野党としている。

29 Tatiana Tkacheva, and Mikhail Turchenko.2022."Electoral Success of Independents under Authoritarianism: Evidence from Russia's Local Elections, 2014-2018." Problems of Post-Communism, 69:3, 270-281.

30 著名な専門家のアレクサンドル・クィネフは。従来必要な書類を期日までに提出できなかった場合、登録拒否とカウントされていたが、2022年から登録前に立候補取り下げとカウントされるようになったことを、登録拒否の数が減った理由として指摘した。Коммерсантъ, 12 августа 2022.https://www.kommersant.ru/doc/5504495 しかし、候補者数自体が減ったことは、この理由では説明できない。今後この改正の根拠法も含めて、実態を精査していくことが求められる。