研究レポート

民主党内左派の分断と糾合--------イスラエル情勢の影響から

2023-11-17
渡辺将人(慶應義塾大学准教授)
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「米国関連」研究会 FY2023-3号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

「ウクライナが右派を分断する一方で、イスラエルは左派を分断」?

2023 年 10 月 7 日のハマスによる対イスラエルの大規模攻撃とそれに対するイスラエル側の報復攻撃は、アメリカ政治の諸面に様々な影響を与えている。連邦議会専門記者のB・メッツガーは「ウクライナが右派を分断する一方で、イスラエルは左派を分断する可能性」と題した「ビジネス・インサイダー(Business Insider)」の記事で、イスラエル情勢が民主党に深刻な亀裂を入れる可能性を指摘しているi。すなわち共和党側で生じたウクライナ支援をめぐる賛否と同じような分裂線が民主党に生まれるという予測である。メッツガーはウクライナとイスラエルを同じ問題として扱うことを退け、ウクライナの事例が「敵対する外国勢力が小国を従属させ占領する」行為であるのに対して、「ガザ地区を統治するテロ組織」ハマスとイスラエルの複雑な関係性を峻別する。興味深いのは下院共和党の15%から20%がウクライナの支援への打ち切りを望むなどウクライナ政策で見えていた共和党の亀裂が中東情勢で表面的には修復されていることだ(拙稿「2024年予備選挙目前報告③共和党編その1:党内4派トランプ評、対イスラエル攻撃「before」「after」」ii) 。

他方、メッツガーは過去1年半の間、満場一致でウクライナ支援を承認していた」民主党内で進歩派がイスラエルに反旗を翻す可能性を論じている。ただ、民主党がウクライナ政策ではほぼ一致していたわけではない。民主党内では2022年10月末の中間選挙直前にバイデン政権のウクライナ停戦への外交努力を求める嘆願「書簡」が下院進歩派議連(Congressional Progressive Caucus)から出され、ウクライナ政策でも民主党内には分断線が明確に存在したからだiii。同議連には若手女性下院議員のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス、イルハン・オウマール、ラシダ・タリーブら「スクワッド」と称される新世代左派も所属する。「書簡」自体は6月に作成され、議長のパラミラ・ジャヤパル議員を発起人に30名が署名していた。「書簡」はロシアの暴挙を批判し、バイデン政権の軍事および経済面での支援自体は容認しているものの、アメリカにロシアとの直接交渉による早期の停戦模索を訴え、「停戦への現実的枠組み追求」に注力するよう求めるものだった。バイデン政権の方針と合致しないことから、「書簡」は取り下げられるよう民主党内部で圧力がかかった。

その過程で進歩派議連を党内で孤立させたのは、穏健派ではなく古参のリベラル派であった。言い換えれば、リベラル派内のウクライナへの軍事支援の継続派である。いわば「停戦派」と「軍事支援派」に割れる左派内分裂が起きていた。彼ら古参リベラル派は署名拒否でジャヤパルらが「リベラル派」を代弁しない左派内少数派だと党内外に強調したことで、中間選挙への影響を回避することができた。しかし、同じリベラル派に選挙前の党結束を理由に言論を封じ込められたことに進歩派議連は怨念と不満を抱えた。今回のバイデン政権のイスラエル政策をめぐる異論の噴出は、2022年秋にウクライナ政策論を党内で封じ込められたことへのわだかまりが関係しているだけに、選挙前を理由にした結束の掛け声が通用しない可能性もある。

10年越しのユダヤ系左派の胎動:イスラエル政権支持とユダヤ系のニュアンス上の差異

さらに指摘しておくべきは、中東情勢はウクライナ支援では賛否が一部割れていた民主党左派を結束させる要因になっている点だ。2023年10月13日、下院議員55名による署名で嘆願書がバイデン大統領宛に提出された。イスラエルに国際法の遵守を要求し、民間人保護や人道支援策をバイデン政権に求めるもので、イスラエル支持一辺倒との差別化を狙ったものだ。具体的に、以下の5項目を強調したiv。1.ガザにおけるイスラエルの対応は、国際法を遵守し、罪のない市民への危害を制限するためにあらゆる正当な手段を講じなければならないことの伝達、2. 罪なき市民が生存に必要な基本的物質を確保できるよう、ガザへの食糧、水、燃料、電力、その他の必需品の供給、3. 必需品を届けることを可能にし、パレスチナ市民やアメリカ市民を含む外国人がガザの外に安全に避難できるよう、地域のパートナーと協力して人道的回廊を確立すること、4. ハマスがパレスチナ人ではなく、パレスチナ人がハマスではないことをアメリカ人に伝えることを含め、ユダヤ教徒やイスラム教徒を含むあらゆるアメリカ人へのヘイトクライムや攻撃を抑止すること、5. ガザのパレスチナ人とイスラエル人双方への人道支援を議会での追加予算要求に含むこと。

興味深いのは下院民主党でリベラル派ユダヤ人政治家が最左派に合流したことであるv。共同提出者のジャン・シャコウスキーはウクライナ支援派で進歩派議連の署名を拒否し、ウクライナの停戦交渉を求めるジャヤパルの派閥とは決裂状態だった。しかも、ジャヤパルは「イスラエルはレイシストの国」という「反ユダヤ」的と誤解を招いても致し方ない問題発言で物議を醸すトラブルメーカーだったvi。この背後にあるのは、従前からネタニヤフ政権に批判的であった左派ユダヤ系と右派ユダヤ系のユダヤ系内確執が、イスラエル・ハマス戦争で噴出したことだ。背後にある右派のAIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)系への違和感からのJストリート(J-Street)という団体に象徴される左派ユダヤ系の動きだ。イスラエル支持を最優先にしない新しいユダヤ系の胎動を民主党大会の現地調査に基づいて筆者が紹介したのは11年前の2012年である。この流れは10年以上のトレンドで今に始まった事ではない(拙稿「「共和党「最重要州」としてのフロリダ州ユダヤ系票の集票をめぐる動向」vii)。

共和党の支持基盤である福音派キリスト教徒が圧倒的にイスラエル支持なのは聖書においてイスラエルが大切な土地だからだが、これは必ずしもユダヤ人への態度とは関係がない。「イスラエル」「エルサレム」の重要性やイスラエル支持と在米ユダヤ人社会への親和性は必ずしもイコールではない。アメリカのユダヤ系は一枚岩ではない上に、イスラエルの政権を支持するためにロビイングを多方面で支える草の根の力の中には保守系キリスト教徒が多数いる。そのため「イスラエル支持」とユダヤ系を別の次元で考える必要性と同様に、所謂「イスラエル・ロビー」は「ユダヤ・ロビー」ではないことにも再確認が要る。リベラル派ユダヤ系の中にはユダヤ人の離散の歴史からパレスチナへのシンパシーを表明する者までいる。

「ゲーム・チェンジャー」としてのイスラエル:バイデン政権を悩ます3つの党内問題

イスラエル情勢は左派内の分裂を修復させたことで民主党内左派を勢い付かせ、バイデン政権には複雑な問題を持ち込んでいる。

第1に、カトリックの動向である。ウクライナ情勢について特筆すべきことは、平和主義を絶対的な哲学としている民主党系のリベラル派カトリックの活動家らが、ウクライナに関しては「自分たちで防衛できるように武器の供与は必要」として軍事支援を容認していたことだった。カトリックの平和主義をも棚上げさせる力がウクライナ支援の輪にはあった。しかし、バイデン政権はスィングボーターのカトリックを繋ぎ止める上で瀬戸際にいる。党内結束の万能薬であるはずの「反トランプ」がこの問題では必ずしも通用していない。民主党系カトリックはロー対ウェードを覆した点においてはトランプ政権を評価するが、移民やその他のあらゆるマイノリティへの攻撃、ヘイト増幅、議会襲撃など国内混乱や憎悪を増す存在としてのトランプを嫌っている。だが、イスラエル・ハマス戦争で民間人犠牲者が増えることでバイデン政権に微妙な感情を抱きつつある。そもそもカトリックは「カトリック大統領にもかかわらず中絶権利に賛同 した」というバイデン不信を抱える。バイデン政権が人道を最優先にしていないとの誤解を与えることで、リベラル系カトリックは再び民主党に疑念を抱く存在に逆戻りする可能性がある。

第2に、2024年予備選挙への影響である。リベラル派の有権者が集うソーシャルメディアのコミュニティや民主党の地上戦戦略を担う有権者属性別のリーダーシップ会議のメーリングリストなどで、ハマスのテロへの憤りが湧き出したのとほぼ同時に、イスラエルの報復の拡大への懸念から感情的な罵り合いが激しくなったのは10月中旬だった。リベラル派読者に相当程度の影響力を持つコラムニストのトーマス・フリードマンが、10月20日に「イスラエルは、ガザ作戦を「ハマス殲滅作戦」ではなく、「人質救出作戦」と位置づけるべきviiiというイスラエルの作戦への問題提起をしたのに相前後して、バーニー・サンダースが事務所のウェブサイトに10月19日付で「イスラエル・ガザ」と題する声明を出した(20日に配布された支持者向けのメールのタイトルは「イスラエル」が抜けた「ガザ」だった)ix。サンダースは「イスラエルの罪のない男性、女性、子どもたちに対して行った野蛮なテロ行為は、全世界から強く非難されるべき恐ろしい行為」としてハマスを強く批判した上で、「イスラエルの避難命令で、ガザでは何十万人もの罪のない絶望的な人々が、非人道的で生命を脅かす状況に直面している」として、パレスチナ人への人道支援を阻止しようとする共和党議員と闘っていると動画でアピールした。

サンダースを精神的な支柱とする民主党左派は、トランプ再選阻止のためにバイデンとハリスを再選させるために2024年予備選挙で独自候補を立てずにバイデンに協力する姿勢を示してきた。サンダースもカリスマ的な演説で、バイデン=ハリス陣営に水をさすことを避けてきた。しかし、全米の大学で活性化する若者のデモが先鋭化すれば、非バイデン候補の擁立を求める運動に転化しかねない。イラク戦争は民主党にとって、共和党ブッシュ政権とネオコンを悪魔化することで政治レトリックが成立する単純な構図だったが、イスラエル支援をめぐってはバイデン政権が当事者として抱える問題だ。民主党有権者の投票率活性化の最大の梃子として利用したいトランプとの差別化もままならないだけでなく、2024年夏にシカゴで開催される民主党大会までに中東情勢が沈静化しなければ、1968年にデモ隊が乱入した同じくシカゴの民主党大会の再来になりかねない。いわばこの問題はバイデンにとっての「ベトナム反戦運動」になりかねない。

第3に若年層の問題である。「Gen Z」(Z世代)xは新しい政治のアクティビズムの旗手と見なされる一方、国内的な社会正義問題に集中しがちで、国外の人権や不公正への関心が相対的に薄い「リベラル版孤立主義」の傾向が指摘されてきた。ハワイ州選出の元下院議員のコリーン・ハナブサもそれを懸念する一人である。例えば、2019年の香港デモへのシンパシーは左派メディアで強まり、黒人の中には公民権運動で逮捕される親世代と香港の若者の抵抗運動を重ねる発言すらあった。しかし、ミネアポリスでの白人警官による人種差別事件に端を発するデモが吹き荒れたことで報道量は低下し、アメリカの左派内での香港への関心は失われていった。アメリカ議会で超党派の外交政策調整を担当する民主党のある重鎮スタッフは、今回の中東情勢の激変の奇しくも直前(2023年9月)に、次のようにアメリカがかつてのように一枚岩でイスラエルを支持できない時代の到来を筆者との非公式の懇談で指摘していた。「私がこれまでイスラエルの友人に警告してきたことは、民主党が社会正義の政党に変質していること。今から15年後、20年後、イスラエルがアメリカから数十億ドル規模の巨額の対外援助を受けたいとしても、イスラエルがパレスチナ人の権利を否定し続ければ、民主党の上院議員が支持できなくなってしまう」。

背景には前述の新世代のイスラエル観の変質、特にJ-Street的なユダヤ系の若者の変質が存在する。これは、かつては敬虔な黒人キリスト教徒にとってタブーだったLGBTQの解放に前向きなBLM世代の黒人新世代と類似の世代交代である。興味深いことに、イスラエル情勢が左派に与えている衝撃は、「リベラル版孤立主義」に⻭止めをかける効果をもたらしている。また、それは外交エリートへの外交政策の棚上げでもない。国内の社会正義運動を外に延長させていく種類の関心の持ち方である。海外問題と国内問題を分節せず、国際的に対立するルーツを持つ移民の共存やヘイト問題をそのまま外交政策への異議申し立てに持ち込むという点で特徴的であるし、かつてはなかったソーシャルメディアがそれを支援する。無論、それは真偽不明のデジタル情報の流布の拡散も意味するし、アメリカの分極化を短期的にはさらに増幅する要因になりかねない。

いずれにせよ、バイデン大統領はこの荒波の中、2024年大統領選挙での再選の党内固めをしなくてはならなくなった。イスラエル・ハマス戦争は内政と外交を峻別できない時代のバイデンにとっての「ゲーム・チェンジャー」としての性質を強めている。




i Bryan Metzger, "Israel could eventually divide the left -- while Ukraine divides the right", Business Insider, Oct 11, 2023.

https://www.businessinsider.com/israel-divide-democrats-ukraine-republicans-hamas-gaza-2023-10

ii 渡辺将人「2024年予備選挙目前報告③共和党編その1:党内4派トランプ評、対イスラエル攻撃「before」「after」」(笹川平和財団日米関係インサイト[論考シリーズ No.145、2023.11.1])

https://www.spf.org/jpus-insights/spf-america-monitor/spf-america-monitor-document-detail_145.html

iii 渡辺将人「米民主党『ウクライナ支援論争』が露わにした『内部対立』と『リベラル版・非介入主義』」(FORESIGHT、2022年11月2日)

https://www.fsight.jp/articles/-/49284

iv Pramia Jayapal, "Schakowsky, Pocan, Jayapal, McGovern Lead 55 Members in Letter Condemning Hamas Attacks, Urging Protection of Innocent Civilian Lives," October 13, 2023. https://jayapal.house.gov/2023/10/13/schakowsky-pocan-jayapal-mcgovern-lead-55-members-in-letter-condemning-hamas-attacks-urging-protection-of-innocent-civilian-lives/

Jack Forrest and Philip Wang, "Top House Democrats rebuke Jayapal comments that Israel is a 'racist state' as she tries to walk them back," CNN, July 16, 2023.

v Julia Mueller, "Progressive lawmakers put pressure on Biden over Israel's response in Gaza," The Hill, October 13, 2023.

https://thehill.com/homenews/house/4254974-jayapal-biden-progressives-israel-hamas-humanitarian-relief/

vi Jack Forrest and Philip Wang, "Top House Democrats rebuke Jayapal comments that Israel is a 'racist state' as she tries to walk them back," CNN, July 16, 2023.

https://edition.cnn.com/2023/07/16/politics/pramila-jayapal-israel-netroots-nation/index.html

vii 渡辺将人, 「共和党『最重要州』としてのフロリダ州ユダヤ系票の集票をめぐる動向」(Wedge Infinity、2012年11月5日)

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/2336

J-Streetについては以下にも収録:渡辺将人『現代アメリカ選挙の変貌』名古屋大学出版会。

viii Thomas L. Friedman, "Israel Is About to Make a Terrible Mistake", New York Times, Oct. 19, 2023

https://www.nytimes.com/2023/10/19/opinion/biden-speech-israel-gaza.html

ix Bernie Sanders, "Israel-Gaza", バーニー・サンダース議員のウェブサイト, Oct 19, 2023

https://www.sanders.senate.gov/bernie-buzz/israel-gaza/

x Z世代については三牧聖子『Z世代のアメリカ』NHK出版2023年など参照。