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経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ 第11回「アメリカの競争力と経済協力の展望」(後藤志保子 ウィルソンセンター 地経学プログラム部長・アジアプログラム副部長)

2022-12-13
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技術・経済と安全保障の絡み合いを見るうえで、米国の動向は重要であり、本ウェビナー・シリーズで取り上げきた様々な問題でも、何らかの形で米国の動向が言及されてきました。そのような問題意識の下、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)は「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ」第11回会合を2022年12月13日に開催しました。報告者に、後藤志保子・ウィルソンセンター地経学プログラム部長・アジアプログラム副部長をお招きし、「アメリカの競争力と経済協力の展望」と題して、バイデン政権の外交理念がどのように産業政策に反映されているか、また中国との技術競争において同盟・協力国への米国の期待と限界についてご講演いただきました。

はじめに、米国の直面する状況が激変しているだけではなく、多角化している点についてご説明いただきました。戦略的競争が激化している背景には中国の技術戦略の進展があり、経済的競争においては中国だけではなく、インド太平洋地域全般が対象として含まれている点を指摘されました。米国の確固たる技術的優位が揺るがされ、自信が低下しているとし、その背景には米国国内の技術革新への投資が不十分である点を言及されました。国際競争の内容が変化し、重要鉱物をはじめとする資源の確保、優秀な人材を引き付ける魅力、市場主義というシステムへの国際的支持を得なければならないと論じられました。

また、「中国に勝つ」という目標が、米国という複雑な国を団結させるメカニズムになっていると論じられました。こうした目標は民主・共和両党だけではなく、国民にも幅広く支持されており、中国に対する「勝利」の定義には、経済指標のみならず、米国の価値観や社会構造が国際的に評価され続けられることも含まれている点を指摘されました。

米国の日本に対する期待として、日本が経済安全保障推進法を制定したことを評価しており、今後経済安全保障のグローバル・スタンダードを構築するパートナー国としての期待が高まっている点に言及されました。そして、米国の優位性を維持するため、自国にとってメリットのある国際ルールの形成が必要になると論じられ、その際に同盟国・友好国との連携を重視していることが指摘されました。

通商においては、米国は自ら立ち上げたインド太平洋経済枠組み(IPEF)に力を入れており、米国における市場アクセスがない故に加盟するメリットがどこまであるかが論点になるだろうと指摘されました。また、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」が米国国内で取り上げられなくなっており、米国議会で中国がCPTPPに加盟しない見解が多数派である点に言及し、仮に中国が加盟したとしても米国がCPTPPに加盟する可能性は低いと論じられました。支持率が低調な中でもバイデン政権が経済政策の柱であるインフラ投資雇用法、インフレ抑制法、CHIPS法(CHIPS and Science Act)を成立させたことは驚異的であり、議会や産業界の中国に対する不信感をうまくまとめた結果であると指摘されました。そして当面は米国の産業競争力強化に資する分野に公的資金を投入していく方針である一方、どの技術を支援するべきかという問題が存在し、既に半導体などで議論が始まっていると述べられました。半導体分野においては、韓国と台湾との連携が重要であるものの、韓国側には半導体分野での協力が米韓関係の親密化や韓国経済の発展につながらないのではないかとの懸念があり、台湾側には自国産の半導体への依存度が低下することで中国の侵攻を抑止する「シリコン・シールド」が脆弱化し、米国の台湾への支援強化にもつながらないとの警戒感があると論じられました。最後に中国の経済的威圧に対抗するために、経済版集団的経済自衛権の模索、IPEFの新たな役割の検討などにおける米国のリーダーシップの必要性について指摘されました。

ご報告を受けて、当センターの髙山嘉顕研究員が、経済安全保障の文脈でフレンド・ショアリング(friend-shoring)が進められているが、そのフレンド間でも競争が起きる可能性に言及し、その中でいかに友好国からの求心力を確保するかについてコメント・質問を寄せ、さらに議論を深めました。参加者とのQ&Aセッションでは、同盟国・友好国との関係において協調と競争、あるいは利益のバランス、経済集団安全保障における多国間の枠組みを利用させるための日本としての役割、米国の政策の継続性、人権外交と経済安全保障との関連性、友好国間においての日本の果たすべき役割、中国の軍事的脅威を低減させるための輸出規制のあり方、米国の先端的技術の圧倒的優位性確保のへの見解、経済のブロック化がもたらしうるリスクへの米国の認識などについて活発な議論が交わされました。