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『ひろしまレポート』ウェビナー:核軍縮・不拡散・核セキュリティをめぐる2022年の動向と2023年の課題・提言

2023-03-28
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ウェビナー要旨

1. 日時:2023年3月28日(火)15:00~17:00

2. テーマ:核軍縮・不拡散・核セキュリティをめぐる2022年の動向と2023年の課題・提言

3. 登壇者:

秋山信将(一橋大学大学院 教授)
川崎 哲(ピースボート 共同代表)
菊地昌廣(きくりん国際政策技術研究所 代表)
黒澤 満(大阪大学 名誉教授)
玉井広史(日本核物質管理学会 メンター部会幹事)
西田 充(長崎大学 教授)
堀部純子(名古屋外国語大学 准教授)
水本和実(広島市立大学 名誉教授)
戸﨑洋史(当研究所 軍縮・科学技術センター 所長)(兼モデレーター)

4. 形式:オンライン(Zoomウェビナー)、日本語のみ、参加無料

『ひろしまレポート』について―『ひろしまレポート-核軍縮・核不拡散・核セキュリティを巡る動向』は、へいわ創造機構ひろしま(令和2年度までは広島県)「ひろしまレポート作成事業」の成果物として、事業を受託した(公財)日本国際問題研究所 軍縮・科学技術センターにより、平成24年度より取りまとめられてきた。広島県が平成23年に策定した「国際平和拠点ひろしま構想」に基づく事業である。『ひろしまレポート2023年版』は、今春刊行予定。

実施報告

2023年3月28日、へいわ創造機構ひろしま(事務局:広島県)委託「ひろしまレポート作成事業」の一環として、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)主催の公開ウェビナーがオンラインで開催されました。

ウェビナーでは、まず、モデレーターも務めた戸﨑洋史・当センター所長が核軍縮・核不拡散を巡る2022年の動向について報告しました。核軍縮については、ロシアによる核恫喝を伴うウクライナ侵略、核兵器の使用可能性に対する懸念の高まり、核保有国及びその同盟国による国家安全保障における核兵器の役割の再認識、中国、ロシア、北朝鮮などによる核戦力近代化の積極的な推進、核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議の開催と合意文書の採択、第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議における最終文書採択へのロシアの反対、などの点について指摘がありました。

核不拡散については、北朝鮮が積極的な核・ミサイル開発を継続し、核兵器の戦略的・戦術的活用政策を打ち出していること、イランによる包括的共同行動計画(JCPOA)に反する行為が拡大を続ける中でJCPOAの再建には至っていないことを指摘しました。

次に、核セキュリティを巡る2022年の動向について、同事業研究会委員の堀部純子・名古屋外国語大学准教授が報告されました。ロシアによるウクライナ侵略下に生じた稼働中の原子力施設に対する攻撃・占拠が、国家主体による武力紛争での核セキュリティの問題を顕在化させ、国際原子力機関(IAEA)をはじめ国際社会が対応を急いでいること、核テロの脅威に対して各国が引き続き核セキュリティの最高水準の維持・向上に向けた取組を進めていること、などについて指摘されました。

両報告に続いて、研究会委員の黒澤満・大阪大学名誉教授、川崎哲・ピースボート共同代表、菊地昌廣・元核物質管理センター理事、西田充・長崎大学教授、水本和実・広島市立大学名誉教授、玉井広史・日本核物質管理学会会員、秋山信将・一橋大学大学院教授が、核問題の今後の課題についてコメントしました。

黒澤委員は第10回NPT運用検討会議について、①前回会議からの核軍縮の進展状況、②会議で示された核軍縮の今後の方向性、③会議における核兵器禁止条約(TPNW)についての議論、④核リスクの低減、⑤消極的安全保証の各論点についてコメントされました。そして、ロシアの反対によって最終文書は採択されなかったものの、会議で議論された内容自体は豊かであり、今後の核軍縮にとって重要な会議になったと述べられました。

川崎委員は、TPNW第1回締約国会議における議論とその後の動向について報告されました。核兵器のいかなる使用や威嚇も国連憲章をはじめとする国際法違反であるとする宣言が出されたこと、会議後も会期間ワーキンググループが設置されるなど活動が継続されていることなどが述べられました。また、第2回締約国会議に向けては、核被害者への援助や、核の傘のもとにある米国の同盟国などの会議への参加などが議論の展開が焦点になると指摘されました。

菊地委員は、核軍縮検証の課題について報告されました。軍縮・不拡散条約には、核兵器の新たな生産禁止、既存の核兵器の削減、不可逆性の保証などに対する取組実施を技術的客観性をもって確認する検証制度の確立と運用が必須であり、NPT・IAEA保障措置制度確立の事例などを紹介されました。そして、TPNWのような核兵器の開発・製造・保有の禁止、完全な廃棄までスコープに入れた条約の検証機能はさらに複雑になると指摘されました。

西田委員は、核軍拡の時代に入ったようにも見える現在にあって、①核兵器不使用・威嚇、②核実験禁止、③核兵器用の核分裂性物質の生産禁止、という3つの規範の維持・強化に取り組むことが重要だと指摘されました。これらの取組はTPNWなどとも協力して並行して進めることができるとも述べられました。

水本委員は、ウクライナ情勢や核兵器禁止条約など核をめぐる主要な論点に対する「広島市民の声」を紹介されたうえで、その新しい傾向として、要求を突きつけることより対話のチャンネルを維持することを重視し、厳しい現実の告発より市民に広がる前向きな価値観を発信することを重視するなど「希望のメッセージ」の発信を重視する特徴を持つ「包括受入型」の運動が見られると指摘されました。

玉井委員は、核セキュリティと原子力安全の主な特徴を紹介され、両者の相違点に起因する課題に対処しつつ、両者の類似性を活用した相補的な施策による効率的・効果的な強化を進めるためのインターフェースが重要であると指摘されました。IAEAも指針の発行や会合等を通じた各国の関係者によるインターフェースの習熟を進めており、ウクライナにおける核セキュリティ・原子力安全の確保に対しても有用であろうと述べられました。

最後に、秋山委員は、安全保障と核を巡る状況の悪化、戦略問題に関係するアクターの多極化、抑止関係に影響を与える通常戦力や新興技術の発展などといった変化のなかで、核軍縮・不拡散をめぐり検討すべき論点として、①NPT運用検討プロセスの改革、③核リスク低減をめぐる国際的な動向、③新戦略兵器削減条約(新START)後の米露(+中国)の軍備管理のあり方、④SDGs後の開発目標と核軍縮との関係などを提起されました。

続いて質疑応答が行われ、ウクライナ情勢に地方自治体や市民が果たすことのできる役割、ウクライナで核兵器が使用された場合に核兵器関連条約に対して与える影響、核兵器を増加させないための検証措置の具体的な方法、核兵器にかかる被害者援助の具体例と実効性、米国の核巡航ミサイル開発打ち切りに対する戦略的安定や抑止関係からの評価、核セキュリティにおける情報秘匿、核軍縮・核不拡散・核セキュリティをめぐる今後のアプローチの方向性、今後日本が果たしていくべき役割などについて活発な議論が交わされました。