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経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ 第9回「対露制裁の現状と見通し―エネルギー(石油・天然ガス)の観点から―」(原田大輔 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 調査部 調査課長)

2022-10-14
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ロシアによるウクライナ侵略を受けて、日本を含む欧米諸国は前例のない制裁を金融、軍事、エネルギー産業に対して発動し、遂にロシアの財政の本丸である石油禁輸にまで踏み込みました。一方で地政学リスクを受けた資源価格、特に未曽有の天然ガス価格の高騰はロシアの収入を維持するのに寄与しています。はたして、対露制裁は効果を上げているのか、効果を高めるべく検討されているプライスキャップ(石油価格の上限設定)は実装可能なのか。そのような問題意識の下、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)は「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ」第9回会合を2022年10月14日に開催しました。報告者に、原田大輔・石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部 調査課長をお招きし、「対露制裁の現状と見通し―エネルギー(石油・天然ガス)の観点から―」と題して、対露制裁の現状と見通しについてご講演いただきました。

はじめに、2014年のクリミア併合に伴う対露制裁についてご説明いただきました。その中で、ロシアの石油ガス産業の対外依存度が2014年から2021年にかけて13%低下し、制裁がロシアを「鍛えた」と指摘されました。次に、今回のウクライナ侵略に伴う制裁について解説いただきました。2014年の制裁とレベルが異なる点として、①港湾利用禁止、②エネルギー禁輸、③LNG・石油精製機器禁輸、ハイテク(半導体等)禁輸、④海上輸送保険付保禁止が挙げられました。また、対露制裁の効果検証に際して、ロシア産原油が平均29ドルの割引で販売されている点が指摘されました。他方で、ロシアの原油・天然ガス輸出による収入試算に基づき、2019年時点では天然ガスによる収入は石油の35%であったのに対し、2022年では天然ガス価格の高騰により176%となり、収入構成が両者で逆転し、原油価格下落による損失を天然ガスでカバーされている点が指摘されました。

講演の後半では、制裁の効果を高めることを目的とした、プライスキャップの実現可能性についてご解説いただきました。G7で石油価格の上限を設定しても、ロシアがこれを迂回する形で他国に石油を販売することが予想されることから、世界的な石油価格を下げるべくOPECからの協力を得ることが鍵になると論じられました。他方、天然ガスについては、他国に供給余力がないことに加え、ロシアに収入を最大化する閾値を超えて生産させることで逆にロシアの収入を減らすことができるとし、禁輸するのではなく、むしろ購入を進め市場を沈静化させるべき論じられました。また、これまでロシアが欧州に確保していた天然ガス市場をインドと中国だけでは代替することはできないだけでなく、価格面でも中国に譲歩せざるを得ない状況にあると指摘されました。

最後に「カウンター制裁」についてご解説いただきました。ロシアがノルドストリーム1・2経由の天然ガス供給を絞ることで、反比例する形で天然ガス価格を高騰させ、価格調整をしていると指摘されました。その上で、ノルドストリーム1・2におけるガス漏洩事件は欧州の天然ガスの供給に大きな影響を与えており、ノルドストリームによる供給がなくなった場合、試算では2023年1月に欧州のガス貯蔵が底をつくと指摘されました。他方、サハリン1・2に対する大統領令について、外資系企業を追い出すことを目的とするものではなく、逆に外資系企業の撤退を阻むことを狙ったものであり、これは外資系企業への依存の表れであると論じられました。

ご講演を受けて、当センターの髙山嘉顕研究員が、経済安全保障推進法の中の特定重要物資の11分野に液化天然ガス(LNG)が入る予定との報道に言及し、経済安全保障の観点から日本のすべきこと、その上での課題についてコメント・質問を寄せ、さらに議論を深めました。参加者とのQ&Aセッションでは、ロシアがLNG経由の天然ガスの輸出を絞っていく可能性、ヨーロッパ諸国が天然ガスの不足分を補う上での課題、対露制裁の効果が弱まっていることに対して西側諸国が取りうる措置、日本への影響、今後の日本の対露制裁の方向性などについて活発な議論が交わされました。