国問研戦略コメント(2026-11)ロシアによるウクライナ全面侵攻5年目をむかえて―EUにもたらされた変化と課題

安田 知夏(日本国際問題研究所研究員)

国問研戦略コメント(2026-11)ロシアによるウクライナ全面侵攻5年目をむかえて―EUにもたらされた変化と課題

「国問研戦略コメント」は、日本国際問題研究所の研究員等が執筆し、国際情勢上重要な案件について、コメントや政策と関連付けた分析をわかりやすくタイムリーに発信することを目的としています。

はじめに

ロシアによるウクライナへの全面侵攻開始から4年が経過した2026年2月24日、国連総会が緊急特別会合を開き、「ウクライナにおける永続的な平和への支援(Support for lasting peace in Ukraine)」と題する決議案を賛成多数で採択した。日本やフランス、ドイツ、イギリス、バルト三国といった国々は賛成、ロシアは反対、米国は棄権した。これに見られるように、第2次トランプ政権の発足以降、ウクライナは米国からの支援を得る上で困難に直面している1。米国の仲介による三者間での停戦・和平交渉が続けられているが、戦争の終結は見通せない。2025年11月にトランプ政権がウクライナに提示した28項目の和平案も東部地域の譲歩を含むなどロシア寄りの内容であった。このような状況において、ウクライナ支援における頼みの綱は西側諸国の中でもEUや英国の存在である。全面侵攻開始から4年、ロシア・ウクライナ戦争を受けて、EUとそれを取り巻く環境に様々な変化がもたらされた。

1. 防衛・安全保障面での変化

ロシアの全面侵攻によるEUの安全保障面での最大の変化は、EU加盟国フィンランドとスウェーデンのNATO加盟である2。既にNATOへ加盟していたロシアと国境を接するバルト三国に加え、同じく国境を接するフィンランドと地理的に至近距離にあるスウェーデンの加盟は、ロシアにとっても西側諸国にとっても地殻変動ともいえる大きな変化であった。

さらに、防衛産業面においても構造的な進化を遂げた。2024年に欧州委員会およびEUの外務大臣に相当するEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長(以下 上級代表)によって提案された「欧州防衛産業戦略(European Defence Industrial Strategy)」は、①防衛装備品の少なくとも40%を共同で調達し、②EU域内の防衛関連貿易額がEU防衛市場の少なくとも35%を占めるようにし、③防衛調達予算のEU域内調達比率を50%以上にすることを2030年までにEU各国によって達成されるべき目標として掲げた。さらに、同年、欧州委員会において防衛・宇宙担当の欧州委員のポストが新設された。また、EU上級代表のポストには、ロシアに対する強硬姿勢で知られるエストニアのカラス元首相が任命された。翌2025年には、第2次トランプ政権発足による米国からの防衛コミットメント低下への懸念も相まって、EUとして初の防衛白書を作成し、防衛力を強化する方針をEUの枠組みで強く打ち立てた3。トランプ政権が2026年初頭に公表した国家防衛戦略(NDS)においてロシアを「管理可能な脅威(manageable threat)」と表現しているのに対して、EUの防衛白書においては、同国を「根本的な脅威(fundamental threat)」と記していることは対照的である4

ウクライナは今や支援を受けるだけの国ではない。従来の戦車やミサイルを使用する戦争と比べ、ロシア・ウクライナ戦争では、迎撃・監視・自爆ドローン、無線誘導を遮断されても飛ばせる有線ドローン、無人機、無人機に対応するための電子戦兵器、スプーフィング(なりすまし)といった新たな戦い方が用いられている5。つまり、戦争の仕方が変化している。この新たな戦い方は、イスラエルと米国の攻撃へのイランによる反撃でも大いに活用されている。ウクライナはイランが使用するドローン「シャヘド」に関する豊富な経験を有しており、カタールやサウジアラビア等に対ドローン防空専‌門チームを派遣した。パトリオットミサイルこそ不足しているが、ドローン等の無人機の開発・製造技術に関しては実戦でのフィードバックを経た相当高レベルに達しており、欧州等に対して攻撃型ドローンの探知や迎撃技術の共有を既に実施している。日本にとっても無縁の話ではなく、3月14日、日本がウクライナ製のドローンを自衛隊に導入する検討に入ったことが明らかとなった6。つまりウクライナの経験を通じて、各国はロシアによる攻撃やその対抗方法に関する経験に基づいた知見を獲得することができるのである。加えて、この新たな戦い方の出現は日本を取り巻く安全保障環境にも深く関係する。中国が既に無人機の製造・開発を着々と進めている事実や今後ロシアが技術を北朝鮮に伝授および連携する可能性は日本にとって脅威となる。日本は防衛費を増額し、日米同盟に注力する中で、こういった新しい戦い方へどのように対処していくのかを、産官学の知見を結集して中長期の視点で検討し、早期に対応していく必要がある。日本とEUは日・EU安全保障・防衛パートナーシップを2024年11月に公表し、同分野での協力を進展させている。一方、第2次トランプ政権発足以降、ヨーロッパ各国は中国との、特に経済面における関係強化を図っており、中国への依存度が今後増大していく可能性もある7。伝統的な親交国とのみ手を結んでおけば安心だという時代は終わりを告げている。力による平和が掲げられるようになった時代においては従来接点が少なかった地域共同体や国々とも互いの利益が一致する面における対話や関係構築を模索していかねばならないのではないだろうか。

2. エネルギー面での脱ロシア化

エネルギー面におけるこの4年間での最大の変化は、ロシアからのエネルギー依存を激減させたことである。2022年5月に始動した「REPowerEU」により、EUはロシア産の石油やガス、石炭への依存度を劇的に低下させた(例えば、ガスの依存度は侵攻前の45%から2025年時点で13%に、石炭は侵攻前の50%から2025年時点で0%になった)8。今後についても、2027年末までにロシアのパイプラインと液化天然ガスの輸入をすべて停止し、「影の船団」への対処を講じて石油の輸入も停止するとしている。2026年2月には、ロシアからの天然ガスの輸入を段階的に廃止する規制(EU/2026/261)が施行され、エネルギー面での脱ロシア化は不可逆的な段階に達している。この不足を補うため、米国からの石油や天然ガスの輸入を増やし、ノルウェーやアルジェリアといった国々からもエネルギー資源の調達を行っている。加えて、再生可能エネルギーへの投資を優先し、その導入を加速させている。必要に迫られた代替エネルギーへの段階的な移行により、欧州の二酸化炭素排出量は減少している。一方、ハンガリーとスロバキアは依然としてロシアからの原油を輸入し続けている。経済界からの圧力を受け、昨年末のEU環境相会合で決められた温暖化ガスの排出削減目標は後退したという評価もあるが、エネルギー資源の供給源の分散化は確実に行われている。欧州で実際にグリーンディールが今後後退するかどうかについても中長期のスパンで考察する必要がある。

今般のイラン情勢を受けて、米国がロシア産原油の購入を一時的に認めると発表したのに対して、マクロン仏大統領やコスタEU大統領を筆頭に懸念を表明し、欧州はロシアへの制裁を続ける構えを示している。しかし、イラン情勢の帰趨によっては、制裁緩和といった手段を取らざるを得なくなる、またはそれを希望するEU加盟国が現れる可能性は否定できない。現にEUの本拠地であるベルギーのデウェーフェル首相は3月半ば、ロシアとの関係を正常化させ、安価なエネルギーの調達を再開すべきだと呼びかけた。

EUがエネルギー面での脱ロシア化を進めている一方で、ロシアの天然ガス(LNG)開発事業「サハリン2」には、2022年以降も日本の民間企業が投資を継続し、日本はロシアからLNGを輸入し続けている9。日本のエネルギー事情からはロシアを頼らざるを得ないが、安易にその状況を続けていくのではなく、その他のエネルギー資源の調達も含めて、供給源を分散化することができるような解決策を見出す努力をすべきで、それこそが逆に日本のエネルギー安全保障の強化に繋がるのではないだろうか。急速なAIの普及により電力需要が今後さらに高まることも予想されており、エネルギー安全保障の抜本的強化は日本にとって急務である。

3. EU拡大への再始動

ロシアの全面侵攻を受けて、停滞していたEUの加盟国拡大への動きが再始動し、2024年6月にウクライナおよびモルドバとの加盟交渉が正式に開始された。2021年1月のイギリスの離脱という加盟国の減少を経験して以降、初の加盟申請となった。両国は早期のEU加盟を目指しているが、ウクライナの汚職問題やハンガリーの反対もあり、明確な加盟の目処は立っていない。カラス上級代表も2月のミュンヘン安全保障会議でウクライナの加盟について「具体的な日付を提示する準備は整っていない10」と述べている。しかし、両国、特にウクライナを「欧州」の枠組みに繋ぎ止めることは、ロシアに対する強力な対抗手段になりうる。加えて、加盟の実現の可否は別として、加盟に向けた国内改革の進展は、両国のレジリエンスを強化することにも繋がる。また、EUにとってもその存在意義を改めて国際社会に示す機会となる11

おわりに

全面侵攻から4年が経過し、ウクライナへの支援疲れが影を落としている。一方で、4年もの間、第2次トランプ政権の誕生といった劇的な国際情勢の変化やロシアからの攻撃激化にもかかわらず、ウクライナは抗戦を続け、EUやイギリス、日本といった国々は継続的にウクライナへの支援を行っている。日本も無償資金協力など、軍事力以外の面でのウクライナ支援に力を入れている。直近では、保健・医療、農業、インフラといった分野でのウクライナ支援として62億円の無償資金協力「緊急復旧計画(フェーズ5)」に関する書簡の署名・交換が今年2月に行われた。このような二国間の支援とは別に、国際機関を通じたウクライナへの支援も精力的に実施している。例えば、日本は「国連開発計画(UNDP)ウクライナ」の最大の支援国であり、総額2億4,100万ドルの支援を提供した。UNDPのプロジェクトを通じたエネルギー・インフラ支援として高電圧自動変圧器やポータブル電源、発電機などが送られ、650万人のウクライナ人がより安定して重要なサービスを利用できるようになるなど高い評価を受けている。また、全面侵攻以降、文化遺産や教育分野におけるウクライナ支援のためにユネスコが動員した資金総額の40%近くを日本の拠出が占めている12。ロシアの力による現状変更を達成させない努力は、EUのみならず海を隔てた隣国である日本にとっても重要な意味を持ち続ける。しかし、巨額の支援をしているからには、ロシアへの牽制や人道的意義以外の「日本にとっての」ウクライナ支援の多面的な意義を熟考し、今後の支援方法および額について検討していく必要がある。

一方で、ウクライナ支援についてEUも一枚岩ではない。バルト三国やポーランド、北欧といったロシアと国境を接する国々とそうでない国々では温度差が存在する。昨年末には、ウクライナへの財政支援としてEU域内で凍結中のロシア資産を活用する賠償ローンの実施に向けた合意に失敗した。EU予算を担保に市場から資金を調達し、ウクライナへ900億ユーロを融資することでなんとか合意したものの、実施に必要となる外相会合での承認がハンガリーの反対により得られず、融資開始の見通しがたっていない13。また、ゼレンスキー政権の汚職問題も支援を続けるEU各国からの批判の的である。2025年に明らかとなった国営企業が関わる大規模な汚職事件に見られるように公共部門の汚職は根強い。対策を怠れば、ウクライナへの支援を続ける国々にとって、支援の継続に疑問符が突きつけられることにもなる。

今年は来月のハンガリー総選挙、ドイツの5つの州での議会選挙14、NATO加盟後初の国政選挙となるスウェーデンの総選挙が予定されており、それらの結果次第ではEUのウクライナ支援にプラスともマイナスともなり得る。特に対露制裁に反対の姿勢を示すオルバン首相の続投がかかったハンガリー総選挙の行方は注目に値する。また、昨年11月に実施された世論調査では、来年のフランス大統領選挙における極右政党国民連合(RN)のバルデラ氏への支持が最多であったことなど15、EUの主要国同士の協調においてさらなる試練が予想され、ウクライナ支援におけるEU結束の維持には乗り越えるべき壁が多く存在する。

(2026年3月23日脱稿)


  1. 2025年4月より米国からのウクライナへの支援は停止している。Kiel Institute, https://www.kielinstitut.de/topics/war-against-ukraine/ukraine-support-tracker, (2026/03/19最終閲覧).

  2. それぞれ2023年、2024年にNATO加盟を果たした。

  3. 第2次トランプ政権発足に伴うヨーロッパの安全保障面での変化については、日本国際問題研究所吉田朋之所長による戦略コメント「第62回ミュンヘン安全保障会議」(https://www.jiia.or.jp/jpn/report/2026/03/strategic_comment_2026-10.html)を参照されたい。

  4. 2026年版NSDについては、日本国際問題研究所秋山信将軍縮・科学技術センター所長による戦略コメント「2026年版米国国防戦略(National Defense Strategy)を読む:核政策と抑止を中心に」(https://www.jiia.or.jp/jpn/report/2026/01/strategic_comment_2026-3.html)を参照されたい。

  5. 非対称戦において、戦力格差を補うこの新たな戦い方が実戦で試されているのである。

  6. 関連して、日本がウクライナへ防衛装備品を供与することを想定した「防衛装備品・技術移転協定」を将来的に締結する案が存在することも同日明らかとなった。

  7. 今年2月に英国、フランス、ドイツ、カナダで実施された世論調査では、「中国またはトランプ政権下のアメリカのどちらに頼る方が良いか」という質問に対して、中国と回答した人の割合の方がいずれの国でも多く、カナダに至ってはその割合が約6割に及んだ。Politico, https://www.politico.com/news/2026/03/15/trump-china-europe-closer-ties-00823457, (2026/03/23最終閲覧).

  8. European Commission, https://commission.europa.eu/topics/energy/repowereu_en, (2026/03/23最終閲覧).

  9. 今年6月まで米国による経済制裁の例外措置として認められているが、日本が海上輸送する際の再保険を担う海外企業がロシア産LNGの海上輸送に対する保険提供を段階的に禁止する方針であるなど、日本にとって差し迫った問題もある。

  10. 日本経済新聞、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB160RS0W6A210C2000000/、(2026/03/23最終閲覧)。

  11. アイスランド政府が今月初頭にEU加盟交渉再開の是非を問う国民投票を今年8月に実施すると発表したが、近隣のグリーンランド領有への米国の高い関心が決定打であり、ロシア・ウクライナ戦争が主要な要因ではないと考えられる。

  12. 今年2月に380万ドルを新規拠出し、日本の支援総額は2,910万ドルに達する。

  13. 3月19日に開催された欧州理事会においても、ハンガリーの反対によって融資案の実施がさらに延期され、ドイツのメルツ首相はウクライナ支援継続のための代替案の検討が必要だとの考えを示した。

  14. 5つの議会選挙の内、2つは既に実施された。3月上旬に開催されたドイツ南西部のバーデン・ビュルテンベルク州議会選挙および3月下旬に開催されたラインラント・プファルツ州議会選挙では、ドイツのための選択肢(AfD)が第一党になることはなかったが、前回より約2倍の票を得た。しかし、9月に行われるザクセン・アンハルト州およびメクレンブルク・フォアポンメルン州の東部2州の議会選挙では、AfDが第一党になる可能性が高いと予想されている。大和証券、https://www.dir.co.jp/report/column/20260130_012379.html,(2026/03/23最終閲覧)。

  15. 「もし大統領選挙の第1回投票が来週の日曜日に行われるとしたら、以下の政治家のうち、誰に投票する可能性が最も高いか?」という質問でバルデラ氏を選択した人の割合が最も多かった。決選投票の対立候補によってもその値は変化するが、例えばフィリップ氏が対立候補の場合は、バルデラ氏を選ぶと回答した割合が53%、メランション氏が対立候補の場合は74%に達した。ODOXA, https://www.odoxa.fr/sondage/jordan-bardella-est-la-personnalite-politique-preferee-des-francais-et-remporterait-la-presidentielle-si-elle-avait-lieu-dimanche-prochain/, (2026/03/20最終閲覧).