国問研戦略コメント

国問研戦略コメント(No.13) 
大阪G20サミット:G20の課題とその将来

2019-08-08
小田部陽一(日本国際問題研究所客員研究員/元シェルパ)
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 今次サミットについては、既に種々の評価が示されているが、サミットは、G7と同様に、その後の参加国の政策実施対応により評価されるべきところ、G20発足後の歩み、大阪での成果に照らしての本件考察は以下の通り。

1. G20の直面する困難

(1) G20は、既に大恐慌再来の危機克服後の2009年のピッツバーグサミット以降より、経済社会の発展段階に基づいての各メンバーの政策決定に当たっての問題意識の異なり及び20を超えるメンバー間での合意形式という困難が内在している(2011年5月の『国際問題』誌の拙稿参照)。(2) また、G7の歩みと同様に、開催を積み重ねる間の各議長国の思惑もあり、取り上げるテーマの拡散、右に関連しての各種会合の大幅増加傾向があり、議長国の運営能力次第では、総花的な放談会ともなりかねない。その活動の範囲及び在り方についての整理が早晩に必要となろう。(3) さらに、冷戦終焉後の国際システムの歴史的な構造変化を受けて、現下のマルチラテラリズムの危機の根本にある脆弱な国際システムがG20での困難な議論の背景にある。

2. G20の将来発展可能性

 上記の通り、種々の課題、困難を有するG20であるが、今次サミットを含め最近のサミットでの議論、成果には、初期のG20には見られなかった新たな動きも出て来ている。

(1) 国際的なルール作り面での役割
 かねてより、国際経済社会面での諸課題への対処のための国際的なルール作りが、急速な技術革新及び右に基づくグローバリゼーションの現状、展望に十分対応出来ていない状況の下で、従来は、OECD、G7がその欠陥を埋める努力を行ってきていた。然したら、新興国の台頭を背景としての現下の世界経済の構造に照らし、右枠組のみでの対応には、金融経済危機の際と同様に、自ら限界がある。
 その状況下で、最近の国際課税にかかわるBEPS(税源侵食と利益移転)を巡るOECD,G7とG20の連携は特筆されるが、今次サミットでも、多くのメンバーの経済界においての最大関心の1つであるデジタル経済にかかわる各般の課題への対応に当り、「大阪トラック」という全体的枠組の打出しに加えて、デジタル課税、AI(人口知能)原則につき、OECDでの作業を受けて、G20としての対応を示した。これらの動きは、かつては、OECD、G7に対し、生理学的抵抗を示していたG20の非先進国メンバーの成長として感慨深い。

(2) 途上国メンバーによる共通課題の認識向上
 サミット事前の福岡での蔵相・中銀総裁会議で合意されていたこともあり、大阪では左程注目は寄せられなかったが、今次サミットプロセスでの大きな成果として、グローバルインバランス(経常収支不均衡)についての基本的考え方の一致、債務透明性・持続可能性への対応も挙げられる。右2つの問題については、G20サミット発足の初期段階でも取上げられたが、前者は、専ら中国が対象として捉えられ、後者は、途上国メンバーが、先進国による援助出し渋りの口実にされかねないとの懸念により、議論は停滞していたが、各メンバーの経済状況、世界経済の情勢変化を受けてのG20全体での意識、認識の進展が見られていると評価される。
 かように、今後も、世界経済の変容に呼応して、G20の場での新たな政策調整、協調が求められ、可能となる分野も出て来よう。

3. 結語

 G20サミットは、その初期段階では、2008年11月のワシントン以降、2010年9月のソウル迄の2年弱の間に5回開催されたが、危機克服後は、年1回開催となり、G7サミットと同様に、サミットの間の準備プロセス、フォローアップがその存在意義を果たすのに重要となっている。(注)昨年12月のブエノスアイレスより大阪迄の間の短期開催は、最近では異例。
 その意味で、G20も、その性格に変遷が見られるが、一部識者の間でのG20不要論を払拭するためには、上記1及び2の諸点を踏まえて、その特性を活かしての在り方につき試行錯誤が必要となっていこう。
(了)